O plus E VFX映画時評 2026年3月号

『ウィキッド 永遠の約束』

(ユニバーサル映画/東宝東和配給)




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[3月6日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]

(C)Universal Studios


2026年1月22日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)](IMAX)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


【概要&感想】 この堂々たる後編の冷遇は理不尽で, 憤りを覚える

 言うまでもなく,『ウィキッド ふたりの魔女』(25年3月号)の後編である。前後編併せて,ブロードウェイミュージカル「ウィキッド」の実写映画化であり,戦前の名作『オズの魔法使』(39)の前日譚であることは前編時に述べた。2本まとめて撮影したことは周知の事実だが,前編の北米公開は2025年11月22日,後編は翌年の11月21日と計算通りの同時期公開であり,日本国内公開も各々年が明けた3月7日,3月6日公開と,見事に符合させている。映画公開のハイシーズンに合わせたこの時期なら,GG賞,アカデミー賞の授賞式にも間に合い,この完結編は賞獲りレースを賑わすことであろうと予想した。

【憤りの原因】
 さて,見出しに書いた「憤りを覚える」である。内容,出来映えに関してではない。前編に比べて,後編は暗めだったが,前編と同様,堂々たるミュージカル映画であり,「西の悪い魔女」のエルファバの着地点も満足できるものであった。前編の2時間41分に対して,この後編は2時間17分になり,少し見やすくなったとも言える。12月前半に発表されたGG賞には,ほぼ予想通り5部門にノミネートされた。受賞は逃したものの,技術部門賞の多いアカデミー賞では,前編よりも多い複数部門の受賞が期待できると考えていた。
 ところが,1月22日(現地時間)のノミネート作発表を見て,目を疑った。何と,何と,どの部門にも名前がない! ノミネートゼロである。3部作の場合は,『ロード・オブ・リング』シリーズのように完結編を待って多数受賞することがある。2部作は前編が高評価を得ると,続編が尻すぼみになりがちだ。本作の場合は結末が予想できたので,新鮮味が薄かったかも知れない。
 そこで興行成績を調べて,観客層の支持を比べることにした。前作も本作も,北米の公開週Box OfficeはNo.1で,むしろ後編の本作の方がやや上である。翌週はそれぞれディズニーアニメの『モアナと伝説の海2』(24年12月号)『ズートピア2』(25年12月号)にトップの座を譲っているが,前後編ともに翌週以降の落ち込みは極端に少なく,全世界で優秀な興行成績を収めている(トータルでは前編の方が少し上)。日本国内では,前編は同日公開の『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』に破れての2位だったが,洋画では断トツのトップである。翌週以降の落ち込みが少ないのも北米と同じで,日本で35.4億円も売り上げている。年間では洋画で第5位という立派な成績だ。この「概要&感想」が遅くなったのは,本作の公開週の成績を確認したかったこともある。結果は,前年と同じく『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』だけに破れた第2位で,洋画のトップである。興収額も前編とほぼ同じであった。
 この興行成績と前哨戦映画祭での実績を考えると,アカデミー賞の全部門での「完全無視」は理不尽としか思えない。全部挙げると,前年は「作品賞」「主演女優賞」「助演女優賞」「美術賞」「衣装デザイン賞」「メイクアップ&ヘアデザイン賞」「音響賞」「作曲賞」「視覚効果賞,の10部門にノミネートされ,「美術賞」「衣装デザイン賞」でオスカーを得た。グリンダ役のアリアナ・グランデは,後編では実質的に主演であり,今年,有力候補のいない「助演女優賞」に入っていれば,最有力候補となっていただろう。実力からすると,技術部門では昨年並みにノミネートされてしかるべきだ。GG賞が2曲ノミネートした「主題歌賞」部門で,1曲も残さずに無視されたのには呆れた。「視覚効果賞」に至っては,『罪人たち』(25年6月号)や『ロスト・バス』(26年1月号)を入れて本作を落とすとは,選考委員の目は節穴か,裏工作で買収されたのかと疑いたくなった。
 この「完全無視」は,ハリウッド業界内で「今年最大級の驚き」「Shocking Snub(衝撃的な冷遇)」と表現されていたという。別項の『しあわせな選択』もノミネートゼロも意外であったが,同作は韓国映画であり,数年前『パラサイト 半地下の家族』(19年Web専用#6)を優遇したので,その反動かも知れない。本作はハリウッド本流のミュージカル映画であるので,この冷遇に対して,筆者は激しい憤りを覚えたのである。ここまで書いて少し気が鎮まったので,本稿では正当な評価を与えたい。

【本作の概要と物語展開】
 前後編まとめて製作されたので,監督のジョン・M・チュウ,エルファバ役のシンシア・エリヴォ,グリンダ役のアリアナ・ グランデら主要キャストは続投で,基本的に新しい登場人物はない。ここでは,物語展開はごく簡単に紹介し,完全版でもう少し詳しく語る。
 前編は,マダム・モリブルによって「西の悪い魔女」の烙印を押されたエルファバ・スロップが塔の窓から大空に飛び立ち,エメラルド・シティから去って終わっていた。彼女は森の隠れ家に住み,魔法の力で言葉を奪われた動物たちの自由を求めて戦うことになる。一方「善い魔女」扱いをされたグリンダは,希望の象徴として名声と人気を手にし,エルファバ追討の隊長となったフィエロと婚約する。ところが,自らの実像との乖離に悩むグリンダの心には,エルファバとの訣別が深い影を落としていた。
 物語は,グリンダが和解を求めるが,2人の溝がさらに深まって行く様子が描かれる。前編の冒頭で,グリンダがピンクの透明球(グリンダ・バブル)に乗ってマンチキン国にやって来て,「西の悪い魔女は死んだ」と告げているので,結末がそうなることは変えられない。前日譚がこの前提を改変してしまっては,「オズの魔法使い」の物語自体が成立しないから,問題はどうやってそれを巧妙に避けた落とし所を描いているかである。とりわけ,グリンダがエルファバをどう扱うか,水をかけられてエルファバが本当に消滅してしまうか,である。
 新たな登場人物はないと書いたが,思いがけない展開であった。前編のレビュー記事では,「(冒頭の)この数秒のシーン以外に本作にドロシーは登場しない。後編『Wicked: For Good』にサブライズ登場する可能性もないではないが,「舞台版」にその配役はなかったので,多分出て来ないだろう」と書いてしまったのだが,予想を裏切って,しっかり姿を見せる。ただし,徹底してドロシーの顔は描かれていない。その一方で,かかし,ブリキ男,臆病なライオンは,ドロシーと共に行動するようになった経緯が盛り込まれ,表情も克明に描かれていた。これは観てのお愉しみだ。その他,エルファバの妹のネッサローズとその召使いのボック,空飛ぶ猿たちを率いるチステリーの出番は増えていると言っておこう。
 正直なところ,前編に比べるとこの後編の物語は暗く,ワクワク感はなかった。その分,評点は少し下げた。これは元のミュージカルの第2部がそうであったから,止むを得ない。その分,歌って踊るミュージカルとしては華やかに描いていた。前編の曲はミュージカルでの使用曲を継承していたが,後編の本作はむしろほぼオリジナル曲中心に構成されていた。クライマックスは2人が歌う “For Good”で,正に絶品であった。シンシア・エリヴォ,アリアナ・ グランデの歌唱力,音域の広さに改めて感激する。舞台ミュージカルでは,これほどのパフォーマーは期待できない。ただし,この続編の題名になっているように,舞台ミュージカル自体のテーマ曲であるので,この曲がアカデミー賞にノミネートされないのは仕方がない。原作のある脚本に「脚色賞」があるなら,主題歌には「編曲賞」を設けるか,オリジナルでない曲の歌唱も対象にすべきだと感じた。

【CG描写の見どころ】
 CG/VFX担当のFramestoreやoutpost VFXから,「Behind the Scene」映像が公開されていて,VFX 的には後編の方が充実していると感じた。1年余分に時間的猶予があったから,より洗練されたVFXシーンを生み出せたのだろう。ただし,前編でかなり多くのシーンを紹介したので,類似シーン割けて選別するのに少し時間がかかる。完成版作成を待機させている作品が数本あるので,しばしお待ち願いたい。


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