O plus E VFX映画時評 2026年3月号

『私がビーバーになる時』

(ウォルト・ディズニー映画)



オフィシャルサイト [日本語]
[3月13日より全国ロードショー公開中]

(C)2026 Disney/Pixar


2026年2月22日 東映試写室(大阪)


『パリに咲くエトワール』

(松竹映画)




オフィシャルサイト [日本語]
[3月13日より全国ロードショー公開中]

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会


2026年2月18日 東宝関西試写室

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


今回はテーマも舞台も画調も全く異なる春休み公開の2本

 当映画評のメイン欄で取り上げるアニメ作は,2本ペアにして語ることが多い。冬季五輪「りくりゅうペア」の活躍に感激し,あやかりたいと俄かペアを組んだのではない(笑)。フルCGアニメの黎明期は,そのCGの出来映えを比べて論じたかったので,ライバルスタジオの作品を対にしたのだと思う。近年はフルCG作品の比率も増え,CG技法の新規性や分業体制を比較する必要もなくなった。自主開発しなくても商用CGツールも充実してきたので,長い伝統のないスタジオであっても,テーマや脚本の独創性で太刀打ちできる。先月の『スペルマゲドン 精なる大冒険』(26年2月号)はその典型例であった。
 最近のペアリングでは,アニメの画調が2Dか3Dかは気にしていない。比べて語るに足る組み合わせであるかどうかだけである。先月の『アメリと雨の物語』&『ARCO/アルコ』は,いずれもフランス製アニメであり,アカデミー賞長編アニメ部門のノミネート作という大きな共通点があったので,アカデミー賞授賞式前の2月号で取り上げたのである。
 その観点からすると,今月のこのペアリングは意味不明に映ったことだろう。製作国,時代や舞台設定,テーマ,描画法が見事に違っていて,全く共通項がない。どういう意図での組み合わせなのか不思議なはずだ。1本目の『私がビーバーになる時』のピクサーは,フルCGアニメの元祖であるから,メイン欄から外すことはない。問題はペアの相手のなる『パリに咲くエトワール』だ。筆者が余程の理由がない限り取り上げることのない和製2Dアニメであり,しかもアニメ業界ではメジャーな存在でない松竹作品である。春休みのアニメ作品ラッシュの時期に,多数の中からなぜこの映画を選んだかは,当該作品の紹介欄の中で述べる。


【私がビーバー…の概要&感想】
30作目もピクサー・テイストたっぷり。とにかく, ビーバーが可愛い。

 ピクサー製も長編CGアニメこれが30作目で。最近はオリジナル作品とヒット作の続編がほぼ半々だ。当初は1作品作るのに2〜3年かかったが,『カーズ』(06年7月号)以降はほぼ年1本のペースである。例年,米国では6月に新作公開,それを日本では7〜8月公開が定番パターンだが,時々年2本公開の年に,3月公開作品が登場する。4年前の『私ときどきレッサーパンダ』(22年3・4月号)の年がそうだった。今年は夏に『トイ・ストーリー5』が控えているので,本作が米国から1週間遅れで春休みシーンの公開となった。
 題名がオリジナル作品『私ときどき…』に似ているが,続編やスピンオフではなく,こちらもオリジナル作品であ,り,原題は『Hoppers』である。今度は突然少女が突如ビーバーに変身するのじゃないのかと問われたら,当たらずとも遠からずだ。『私ときどき…』の主人公メイは,13歳の中国系カナダ人だったが,本作の少女はメイベル・タナカは既に大学生だが,アジア系という点でも,モフモフ感も大切な森を守るという点も似ている。ただし,メイベル自身がビーバー姿になるのではなく,動物型ロボットに意識を転送し,動物たちの世界に入り込むのである。このロボットは「ホッパー」と呼ばれているが,ほぼ『アバター』(10年2月号)と同じコンセプトである。主人公のジェイクはパンドラ星に住むナヴィー姿の「アバター」に意識を結合させ,パンドラ星に移り住んだ。
 本作の舞台は,米国オレゴン州のビーバートン。メイベルは幼い頃から祖母と一緒に美しい森に棲む野生動物たちを眺めて暮らしていた。ところが,ジェリー市長がこの森を破壊し,ビーバートン環状道路を通す開発計画を発表した。大学生のメイベルは,生物学教授のサム・フェアファックス博士の研究チームが,動物型ロボットに人間の意識を転送(ホップ)する「ホッパーズ計画」を開発していることを知った。メイベルは自らがビーバーロボットとして森に入ることにし,博士の制止を振り切って意識転送し,研究所から飛び出してしまう。森に入って,本物のビーバーと間違えられたメイベルは「哺乳類の王」と呼ばれるビーバーのキング・ジョージと親しくなり,他の動物に森を守ろうと呼びかけ,市長の環状道路計画を阻止する行動を起こすが,メイベルが人間に戻るタイムリミットが近づいていた……。
 途中,市長側からの邪魔が入ったり,他の動物たちも参加する「動物大評議会」が開催されたり,昆虫の王はサム博士の研究所を襲撃したり等々の冒険物語となっている。動物の種類や描写は特段に珍しくもなかったが,ピクサー流のファンタジーらしい楽しさで溢れていた。動物たちの中でもビーバーが,とりわけメイベルを格別に可愛く描いている。CG的には,他のフルCGアニメが写実性は追求せず,背景の景観描写も絵画風に留めているのに対して,本作は森の描写は決めてリアルであったことも特筆に値する。可愛く描いた動物がいなければ,実写映像かと思うリアリティであった。
 ペアリングに関して言えば,当初は同日公開でフルCGの『ギャビーのドールハウス ザ・ムービー』(26)を想定していた。長年のライバル「ドリームワークス・アニメーション」の作品であったが,米国製TVアニメの映画化であり,余りにも低年齢層向きであったため,ペアリングは断念した。それがどうして『パリに咲く…』とのペア結成となったかの理由は,そちらの中で明らかにする。
(後日,画像を大幅追加し,本文も加筆した「完成版」を掲載します)


(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

日本人女性2人のパリ奮戦記。絵画調のパリ風景が満喫できる。

 まず,『パリに咲くエトワール』をペアリングに対象にした背景から語ろう。実は「ビーバー」と組み合わせるつもりはなく,当初予定は『アメリと雨の物語』(26年2月号)とのペアリングを考えていた。片やフランス製アニメで,ベルギー人幼女の日本生活を描いていて,こちらは日本人少女たちのパリ滞在記である。それぞれの文化と美しい風景を情緒豊かに描いている。全くの裏返しだが,比較して論じる対象にはピッタリでないか。公開日も1週間しか違わなかった。ところが,本作に対しては,配給会社からどれだけの画像入手が可能か分からず,目処が立たなかった。それでは画像入りのメイン記事にできない。そのため,先行してアカデミー賞候補作同士を組み合わせることになり,このカップリングが破談になってしまった。そこで止むなく,相手がいなくなった者同士を組み合わせることになったという次第である。

【物語展開の概要と感想】
 本作の時代設定は20世紀の初頭で,画家になることを夢見るフジコと,バレエダンサーに心惹かれる千鶴がパリで邂逅し,励まし合いながら,互いの夢を掴むため奮闘する物語である。この時代,余程裕福な家庭でないと,子女の欧州滞在を許すことなどなかった。加えて女性は,見合い結婚で日本人伴侶を見つけ,夫を支える良き妻となることを求められていて,独自の職業をもつことは稀であった。
 物語は,横浜での裕福な家系の継田家一族の交流の場から始まる。その中で,幼いフジコ(声:當真あみ)は大きくなったら画家になると夢を語っていた。彼らは少女バレエ団の公演を観るが,舞台が終わっても,1人ステージ上で踊りの練習を続けている少女がいた。それが園井千鶴(声:嵐莉菜)だった。フジコを思わず声をかけた。
 1912年になり,フジコは心配する両親を説得し,念願のパリ生活を初めていた(写真2-1)。お調子者の叔父・若林忠(声:尾上松也)が身元引受人だった。同じアパルトマンに住む作曲家志望の青年ルスラン(声:早乙女太一)とも親しくなった(写真2-2)。ある日,フジコはパリの街中で暴漢たちに絡まれたが,薙刀をもった日本人女性に助けられた(写真2-3)。かつて横浜で出会った千鶴であり,2人は異国の地で運命の再会を果した。千鶴は武家の家系である園井家の娘で,両親共に園井新巴流の薙刀を広めるためにパリに滞在していた。


写真2-1 画家になる夢を抱いて憧れのパリにやって来たフジコ

写真2-2 パリ音楽院に通う青年ルフラン。当然,2人は恋仲に。

写真2-3 コンコルド広場で助けてくれたのは, 横浜で出会った千鶴だった

 千鶴はバレリーナになる夢を捨てられずいた。フジコはルスランの母・オルガ(声:門脇麦)がロシア出身の元高名なバレリーナであることを知り,個人レッスンを依頼する。オルガの厳しいレッスンに堪えた千鶴は,現地のバレエ団の中で,東洋人であるハンデを克服し,重要な役を与えられるようになる(写真2-4)。第一次世界大戦の戦禍が押し寄せる中,一度きりのバレエ公演が伝統あるパリ・オペラ座で開催されることになった(写真2-5)。薙刀の名手の母の制止を振り切り,千鶴はオペラ座に駆けつけるが……。


写真2-4 オルガの厳しいレッスンを受ける千鶴

写真2-5 パリ・オペラ座はバレエの殿堂

 夢をもつ女性への応援歌であり,まるで現代風女性を100年前の世界にタイプスリップさせたかのような女性映画である。周囲の人々を巻き込みながら奮闘する主人公の姿は,ほぼそのままNHK朝ドラの世界だ。即ち,根っからの悪人は登場せず,演技は稚拙,物語も単純なのである。ドタバタ系でも,アクション系でもなく,松竹らしいほのぼの系のヒューマンドラマであったが,和製アニメの平均レベルに過ぎない。それでも是非取り上げたくなったのは,美しいパリの風景を見事なアニメ画で描いていたからである。物語として残念だったのは,千鶴のバレエに偏り過ぎていて,画家を目指すフジコの活躍が殆どなかったことだ。もっと画家として成長&活躍する姿が欲しかった。

【バレエの作画と美しいパリ風景の描画】
 監督は『ONE PIECE FILM RED』(22)の谷口悟朗,キャラクター原案は『魔女の宅急便』(89)『崖の上のポニョ』(08)の近藤勝也,脚本がキャラクター原案を手がけた。脚本は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の吉田玲子という布陣である。和製アニメを殆ど見ない筆者であるので,この名前を出すのも初めてだが,それぞれアニメ業界では名のある制作者なのだろう。とりわけ,キャラクターは典型的なジャパンアニメの定番ルックスであり,見慣れたファンには何の違和感もないはずだ。そんな和製2Dアニメで,しっかりバレエの振付けがなされていると感じた。練習風景も本番舞台も,多数のバレエ映画を当映画評の視点から見ても真っ当な2Dアニメ化であった(写真2-6)


写真2-6 練習風景も公演本番も, プロの振付師の指導で描いた

 それもそのはず,ウクライナ国立パレエ・オペラ劇場とパリ・オペラ座の元バレエダンサーを雇用し,彼女らの振り付けでのバレエ演技をMoCapでデータ化し,一旦3D-CG化した後,2D化したという。クライマックスのパリ・オペラ座でのバレエ公演のシーンは約5分間も続いた。同じように薙刀の演技も道場で演技指導し,殺陣作画監督をアサインしている。
 そして何と言っても,本作の最大のセールスポイントはパリの素晴らしい光景である。以下に挙げた画像だけでなく,パリの名所が多数登場する(写真2-7)。名の知れた名所以外にも,いかにもパリらしい街角や建物の外観も随所に登場する(写真2-8)。屋外だけでなく,叔父の事務所,千鶴,フジコ,ルスランの室内や調度類の描写も見事だった。日本のアニメーターの腕からすれば,1枚1枚は特筆すべきレベルとは言えないが,一体何百枚描いたのだろうと思わせる数であった。


写真2-7 パリの名所風景:(上から順に)エッフェル塔, シャイヨ宮,
サンレ・クール寺院, パサージュシ・ジュフロウ,シテ島ノートルダム寺院付近の俯瞰

2-8 約1世紀前のパリの市中風景を絵画風に描写
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

 それらは,実景の写真を手作業でトレスしてマット画にしたのか,それとも一旦3D-CG化した後にトゥーンシェイディングで半自動化したのかは不明だが,和風アニメっぽい絵画になっている。もっと写実的に描くことは出来たであろうが,キャラクターとの整合性を考えるとこの絵画調の方が適している。この点では,上記『私がビーバーになる時』のリアルな背景描写とは基本スタンスが異なる。
 一方,アニメーションとして残念だったのは,カメラワークがほぼ徹底して古風な和製2Dアニメであったことだ。即ち,パン,ティルト,ズームではなく,カメラ固定の他は,最も単純な左右もしくは上下の並行移動と拡大だけである。勿論,カメラの回り込みは導入できない。見かけは2D絵画であっても,やはり映画的なカメラワークは欲しい。そのためには3D-CGである必要がある。屋内外風景の画像数を減らしてでも,カメラワークを導入した方が高級感が増す。唯一例外的にクライマックスのパリ・オペラ座でのバレエシーンは3D-CGベースであった。オペラ座の系ヤンだけでなく,バレエの演技自体も3D-CGベースゆえにバレエの美しさが表現できていた。一部の劇場用アニメはもっと積極的に3Dモデルを活用しているが,もっとそれを押し進めるべきである。
 映画本編の描き方とは別に,絵を学ぶフジコへ目にする絵画として,印象派風の画像が何度か登場する。またエンドソングからエンドロール全体に登場する絵画が,芸術作品として通用する魅力的なビジュアルであった。


[付録]2026年春休み対象の劇場版アニメの一覧
(2月27日公開)
『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』
『劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編』
(3月6日公開)
『花緑青が明ける日に』
『人狼 JIN-ROH』
劇場先行版『NEEDY GIRL OVERDOSE OVERTURE』
『ガールズ&パンツァー もっとらぶらぶ作戦です! 第3幕』
(3月13日公開)
『パリに咲くエトワール』
『私がビーバーになる時』
『映画ひみつのアイプリ まんかいバズリウムライブ!』
『ギャビーのドールハウス ザ・ムービー』
『ムー×ベルジネピクチャーズ 未確認アニメ夜話』
(3月20日公開)
『アメリと雨の物語』
『劇場版「暗殺教室」みんなの時間』
『おしり前マン 復活のおしり前帝国』
『マクロスプラス MOVIE EDITION』
『劇場版 エスカフローネ』
『魔法の姉妹ルルットリリィ(イオンシネマ先行上映)』
(3月27日公開)
『映画 えんとつ町のプペル 約束の時計台』
『キング・オブ・キングス』
『映画 きかんしゃトーマス いっしょに歌おう!ドレミファ♪ソドー島』
『左ききのエレン(3話先行上映)』
(4月1日公開) 『劇場版スポンジ・ボブ 呪われた海賊と大冒険だワワワワワ!』

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