O plus E VFX映画時評 2025年10月号

『ファイナル・デッドブラッド』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[10月10日より109シネマズプレミアム新宿他全国ロードショー公開中]

(C)2025 Warner Bros. Entertainment


2025年10月11日 テアトル梅田

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


14年ぶりのシリーズ6作目は, 見どころ十分の最高傑作

 まず評点と短い感想のみ先に発表しておいて,後でじっくりメイン記事として掲載すると宣言したのだが,予定以上に遅くなってしまった。メイキング映像が多数公開されていたので,それを整理&選択するのに手間取ってしまった。その間に毎週公開される論評欄の一般作品の紹介を優先させてしまったことも遅延の原因である。
 そもそも,この10月号のメイン記事での掲載を予定していなかったので,情報収集の開始が遅れた。マスコミ試写の案内がなく,14年ぶりのシリーズ最新作が作られていたことを知らなかった。配給会社も日本国内での劇場公開なしの予定だったのに,ファンの容貌により9月後半になって急遽予定変更して劇場公開を決めたようだ。かなり異例のことである。そのため,メジャーのワーナー作品であるのに,全国でたった9館でしか上映されていない。それを知ったのは公開数日前のことで,慌てて映画館を探して,本編を観に行った。出来映えは,まさに思わぬ拾い物であった。なるほど,これなら劇場公開しておこうと思うのも無理はない。
 さて,当欄がずっと追いかけて来た『ファイナル・デスティネーション・シリーズ』の最新作であり,シリーズの6作目である。次項で列挙するように,1作目から5作目まで11年しかかかっていなかった。しばらく音沙汰がなかったので,もう終了かと思ったのに,まさか14年後に再開するとは想像できなかった。何が原因なのかは明らかでないが,結果的にシリーズ最大のヒットとなった。それで気を良くしてか,既に7作目の製作が決定している。
 まず,過去作から共通項目を整理しておこう。下記を遵守しているのが,本シリーズの最大の特徴と言える。
(a) 徹底したB級ホラー路線であり,芸術性や文学的香りはない。格調は高くないが,面白さ,怖さには定評がある。
(b) 原作小説はなく,毎回オリジナル脚本である。
(c) 死神の仕業で人が死ぬが,悪霊や悪魔は登場しない。よって,ホラーであるが,交霊術や宗教的な悪魔祓いは登場しない。
(d) 主人公が最低1回予知夢を見て,その警告から何名か死を免れるが,彼らを除いて事故は予知夢通りに起こり,他の人物たちは全員死亡する。
(e) 危機を免れた生存者も,死の運命から逃れられず,次々と死んで行く。その死に方が残虐で目を覆いたくなる。凶器が奇抜で,単純な銃撃や首吊りによる死亡は殆どない。
(f) 些細な出来事の連鎖反応で死に至る描写がしばしば登場し,人気の的となっている。ある種の「バタフライ・イフェクト」であり,「死のピタゴラスイッチ」とも呼ばれている。
(g) 人気俳優は登場せず,ほぼ無名の若手俳優が起用され,監督も同様である。

【シリーズ過去作の概観】
ファイナル・デスティネーション(01年2月号)
[原題]Final Destination,[監督]ジェームズ・ウォン
[主人公]アレックス・ブラウニング(デヴォン・サワ)
[予知夢]修学旅行で乗るパリ行き180便の飛行機が爆発炎上する。
[備考]予知夢により主人公が機内で騒いだため,数名が飛行機から降ろされるが,離陸した飛行機は予知夢通りに爆発する。計7名が生き残ったが,「死の運命」が避けられないと知った生存者の恐怖心や5名が次々と死んで行く描写が話題を呼んだ。主人公のアレックスと彼を信じた女子生徒クレアは最後まで生き残る。1996年のTWA800便墜落事故の報道映像が利用され,墜落時刻や目的地も同じであった。また,飛行機事故で死んだカントリー歌手ジョン・デンバーの曲が劇中で流れていたことから,彼のヒット曲がしばらくは忌避されたが,その後,逆にリバイバルヒットする要因ともなった。

デッドコースター(03年7月号)
[原題]Final Destination 2,[監督]デヴィッド・R・エリス
[主人公]キンバリー・コールマン(A・J・クック)
[予知夢]高速道路上での玉突き事故
[備考]①の航空機事故の1年後の設定。主人公の警告で計9名が生き残るが,内7名がその後次々と死亡する。①で生き残ったアレックスはその後の事故で死亡していたことが判明。もう1人のクレアは本作に登場するが,結局は爆発事故に巻き込まれて死亡する。主人公キンバリーも落命する運命だったが,トーマス保安官に助けられて生き残る。なぜこんな邦題になったのかは不明であったが,次の第3作でジェットコースターの事故が登場したことから,後日,担当者に未来予知能力があったのかと話題になった。

『ファイナル・デッドコースター』(06年9月号公開)
[原題]Final Destination 3,[監督]ジェームズ・ウォン(再登板)
[主人公]ウェンディ・クリステンセン(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)
[予知夢]高校卒業記念で訪れた遊園地のジェットコースターの大事故と地下鉄の脱線事故 [備考]②の玉突き事故から5年後。前作の2人の生存者は既に死亡したことが新聞記事で判明。最初の予知夢では10名が死を免れる。主人公は大学進学後に第2の予知夢を見て列車から脱出するが,対向車両に轢かれて結局は全員が死亡する。この列車脱線事故が前年のJR福知山線脱線事故を連想させるとして,日本国内の公開が延期された。それが再開されたことを筆者は予知できなかったため,止むなく劇場公開後に観た。雑誌掲載時代であったので,当映画評では紹介できなかった。

ファイナル・デッドサーキット 3D (09年10月号)
[原題]The Final Destination[監督]デヴィッド・エリス(再登板)
[主人公]ニック・オバノン(ボビー・カンポ)
[予知夢]カーレース・サーキットでのクラッシュ連鎖が観客席を巻き込む大惨事に
[備考]③のジェットコースター事故から数年後の設定。シリーズ初の3D上映で,3D実写映画として興行的には成功した。サーキットの予知夢では10名が生存する。主人公はその後,ショッピングモール内の映画館爆発事故を予知して3人を救うが,結局は全員死亡してしまう。

ファイナル・デッドブリッジ(11年10月号)
[原題]Final Destination 5,[監督]スティーヴン・クォーレ
[主人公]サム・ロートン(ニコラス・ダゴスト)
[予知夢]会社の研修旅行中,巨大な吊り橋が崩れ落ち,多数の走行車が巻き込まれる大惨事
[備考]①の少し前の設定。本作も3D上映。主人公の予知夢による対処で8人が生き残る。その後の死の連鎖の中で,同僚のピーターを殺害したことで。彼の寿命を得てサムは生き延びるが,恋人のモリーと共に①の飛行機に搭乗して死亡する。予知夢の事故と無関係であった人物数名も,生存者と関わったことから巻き添えで死亡する。

 上記の5作の内,①〜④の4作は何らかの因果関係がある設定となっている。過去の5作と今回の第6作の監督や主要製作陣,登場人物を整理した「Wikipediaの紹介記事」が存在するので参考にされたい。①と②の監督が,それぞれ③と④で再登板している。製作陣では多数の名前が連なるが,唯一クレイグ・ペリーが全6作に関与している。
 特筆すべきは,①②⑤に登場する「ウィリアム・ブラッドワース」なる人物で,黒人男優のトニー・トッドが演じていた。検死官や葬儀屋とし登場し,主人公たちに死神の存在,生存者に訪れる死亡順位のリストを語り,死を欺くための方法を助言する役目を担っている。即ち,本シリーズのシンボル的存在である。以下の第6作でも,重要な役柄として再登場する。
 もう1点言及しておきたいのは,ほぼ同じ時期に始まった人気シリーズとして,2度『ワイルド・スピード』シリーズと対にして紹介したことである。上記④⑤も『ワイスピ』側も,ともに4作目,5作目で同期していたのに,その後は大差がついてしまった。『ワイスピ』側は,メインストリームだけで10作,スピンオフを入れると11作の一大ファランチャイズとなり,製作費でもハリウッド映画の最高水準に達している。もっとも原題の『Fast & Furious』とは異なる安直な邦題を付けてしまったため,その後も軌道修正できない点でも本シリーズと似たような状況にある。そろそろ最終作のはずなのだが,一度味わった密の味が忘れ慣れないのか,ダラダラと引き伸ばしている。一方,本シリーズはようやく6作目と遅れをとったが,ここから巻き返して欲しいものだ。

【本作の概要】
 映画はまず1968年から始まる。アイリス・キャンベル(ブレック・バッシンジャー)はボーイフレンドのポールに誘われ,新規開店の高層レストラン「スカイビュー」に着いた。高い塔の上に高級レストランフロアがあり,さらにその上に展望台があった(写真1)。ここで近未来予知能力のあるアイリスは予知夢を見てしまう。展望台から少年が投げたコインが風で戻されて通気孔に入り,そこからの連鎖反応で火事や床の崩落が起きて,レストラン客全員が死亡するという悲惨な出来事であった(写真2)。アイリスが警告を発したお陰で,事故は未然に防げて誰も死亡しなかった。ところが,これは死神の計画を妨害したことになってしまった。


写真1 (上)スカイビュー・レストランのエントランス部分
(中)低層階の外観(実は, バンクーバー博物館そのもの)
(下)タワーの上の高層部にレストランと展望台がある

写真2 予知夢では高層部が崩れ落ち, 全員が死亡する

 55年後,孫娘で大学生のステファニー・レイエス(ケイトリン・サンタ・フアナ)はしばしば悪夢に悩まされた。回避されたはずの事故の夢であった。悪夢の原因を探るため,アイリスは実家に戻って父マーティと弟チャーリーに会い,さらに弟と2人で伯父(母の兄)ハワードの家を訪れ,従兄妹弟のエリック,ジュリア,ボビーとも再会した。彼らから祖母アイリスが末期癌で森の中の要塞小屋に住んでいると聞き,小屋を訪れると,祖母はスカイビュー事件の顛末を語り,死神は生存者とその子孫の命を死ぬべき順に奪い続けているが,多人数であるため,50年以上もかかっていることを説明した。ステファニーらが祖母の言葉を信じずに立ち去ろうとしたところ,祖母は警告を伝えるため,風向計が突き刺さって死んでしまった。
 ステファニーは祖母が残した死亡原因の克明なノートと死亡順序の系図を精査して,死神の所業を理解した(写真3)。祖母アイリスが死亡したため,順番通り,彼女の長男の伯父ハワードが電動芝刈り機で事故死し,その娘ジュリアがゴミ収集車の圧縮機に押し潰されて悲惨な死を遂げる。なぜか順番に反して,長男のエリックは無事であった(結局は,別の理由で死亡するが)。残った家族は祖母のノートに記されていた「死神から生き残った男」のJBを(トニー・トッド)を見つけ出し,彼を訪問した。彼はシリーズのシンボルである「ウィリアム・ジョン・ブラッドワース」であり,レストランでアイリスに救われた少年の大人になった姿であった(写真4)。彼はステファニーらに「死の運命」を回避する方法は2つあると教える。1つは自分の身代わりに別人の命を奪うこと,もう1つは,一旦絶命した後で蘇生することであった。果して,こうした方法を使って,ステファニーらは生き延びることができるのか……。


写真3 (上)祖母が残した多数のノートには, 死神の手口が克明に記されていた
(下)子孫まで含めた死亡順序のリストを図示したもの

写真4 JBはレストランにいた黒人少年の55年後の姿。
演じるT・トッドは末期癌でかなり痩せている。

 本作の監督はアダム・スタインとザック・リポフスキーだが,過去作と同様,ほぼ無名の監督コンビである。出演俳優も同様で,準レギュラーのJB役のT・トッド以外は無名俳優ばかりである。ただし,皮肉にも劇中で生き残ったはずの彼は,末期癌状態で出演していたため,本作の出番終了後の2024年11月6日に死亡している。

【過去作との違いや関連】
 最も大きな違いは,予知夢を見たアイリスの対処により,レストラン客全員が落命することなく,その後,夢通りの高層レストランの崩壊事故も起こらないことである。また,映画の主人公は予知夢を見た本人ではなく,孫娘のステファニーであることも大きな違いである。アイリスは祖母して55年後に登場するが,自分の意思で死を選ぶ点も特徴的である。脚本的には,運命として死に至る理屈付けが斬新で,事故死すべき運命であった人物だけでなく,それが回避されたことで生まれて来てしまった子孫にまで家系図通りの順番で落命させていることも新しい試みである。
前述のように,JBは予知夢の対象となった少年であり,彼が「ウィリアム・ジョン・ブラッドワース」であることが物語を面白くしている。キャッチコピーの「すべての“死の連鎖”はここから始まった」の意味も,彼の存在から説明できる。彼はレストランで歌っていた黒人女性歌手の息子であり,母に連れられて会場にいた。大惨事の中,アイリスは彼を見つけて助けようとするが,予知夢の中では最後にアイリスと一緒に落下して行く。即ち,その後の現実世界でも死亡順序の最後になる運命であり,その間に彼は常にアイリスと連絡を取り合っていて,死神との対峙の仕方を学んでいた。本作では病院勤務の人物として描かれているが,まだ生きていられる彼の人生の中で,①②⑤で検死官や葬儀屋として登場して「死の運命」を説くことができたのは,アイリスと共に死神研究を行っていたからである。
アイリスとその一族がすべて死に絶えた後,ようやく彼の番になるのか,それともアイリスと同様,要塞小屋に籠っていれば生き続けることができるのかは,7作目以降に描くことができる。実際には,俳優T・トッドが死亡してしまったので,彼は出演できないが,別の黒人男優を起用してJBを名乗らせることはできる。あるいは,本作の中で彼の家族のことは言及されなかったが,JBに子供がいたなら,その役で物語を続けることができる。筆者の予想では,7作目の冒頭で,T・トッドの写真付きでJBの死亡記事がネットニュースに流れ,彼の息子が2代目JBジュニアとして死神と対峙して行く物語になるのではないかと思う。
 本作の製作費はシリーズ最高額の50万ドルであるが,米国のインフレを考えると16年前の前々作や14年前の前作の40万ドルに比べて高額とは言えない。ハリウッド大作の平均額よりもかなり少ない。それがなぜシリーズ最高のヒット作となったかと言えば,従来の枠組みを継承しつつも,連鎖反応の規模が大きく,脚本が優れていたからであろう。シリーズの再開に当たり,製作陣も気合いが入っていて,上映時間はシリーズ最長の109分である。本作の原題を『Final Destination 6』とせずに,『Final Destination: Bloodlines』としたのにも,意欲のほどが伺える。「Bloodline」は「血筋」「家系」を意味する言葉であり,子孫にまで累が及ぶことを暗示している。邦題はそこまでの意図を汲んだとは思えず,定番の『ファイナル・デッド…』に安直に「ブラッド」を挿入しただけである。これが単なる「血まみれ」のように受け取られているのが残念であった。
 ともあれ,シリーズ再開作品に相応しいスマッシュヒットとなった。従来のB級ホラー路線のテイストを維持しているので格調は高くないが,とにかく面白い。初めて観る観客にはレベルに思えるだろうが,シリーズ内での相対評価としてを与えることにした。結末がどうなるかは観てのお愉しみであるが,本シリーズのファンならば容易に想像がつくはずである。

【CG/VFXの見どころ】
 国内での劇場公開を知らなかっただけでなく,VFX業界内のカレンダーでもVFX大作扱いされていなかった。映画を見終わってから,そこそこ,これはメイン欄で紹介するに値すると感じた。とりわけ,過去作と比べると予知夢のシーンが長く,約6分半もあり,その中ではCG/VFXは多用されている。技術的にはさほど斬新ではないが,自信があるのかメイキング映像もしっかり公開されている。
 ■ まずは高層レストランはタワーから上がCG製である。本作のロケ地はカナダのバンクーバーであり,市内のビルや公園,住宅地の景観をほぼそのまま利用している。スカイビュー・レストランのビルの低層階は「バンクーバー博物館」そのものである(写真1参照)。上部のレストランフロアの外観,展望台,そこに至るタワー部分をCGで描いている(写真5)。ただし,上部のレストラン内部は実際にセットを組んでいて,それをVFX加工している(写真6)。背景は流行のLEDスクリーンへの映像投影であり,ブルーやグリーンのスクリーンでのクロマキー合成ではない。


写真5 建物に近づくと高層のタワーが見えた(恰も博物館ビルの上にあるように見せている)

写真6 (上)レストランのセットはこの大きさ, (中上)背面に大型LEDスクリーンを設置
(中下)背景映像を表示し人を配置した構図, (下)CG製の高層部に嵌め込むとこんな感じ

 ■ アイリスとポールを含む客たちを乗せたエレベーターがレストラン階に着くまでの映像から,かなりの高層階だと分かる(写真7)。すべてCGかと思ったのだが,メイキング映像(写真8)を観ると,人を乗せる箱状の室内部分(業界用語は「かご」)だけ実物を作って俳優を収容し,これをCG製の昇降路にブルーバック合成している。CGオブジェクトは単純,簡単なVFX合成に過ぎないが,背景画像や構図選択が巧みで,スカイビューをハイグレードなレストランと感じさせるのに成功している。


写真7 レストラン客を乗せ上昇中のエレベーター

写真8 乗客と円筒形の収納部だけ本物でスタジオ内撮影

 ■ レストランの上にある展望台の描写も同様だ。展望台の実物セットをスタジオ内に作って俳優を配置し,その映像をレストラン上部に合成している(写真9)。周辺の景観は,おそらくバンクーバー博物館周辺の実景の流用だろう。遠くに見える山々もしかりだ。こんな高層レストランから下界が眺められればいいなと思わせる。この展望台から少年が投げるコインは勿論CGで(写真10),劇中では何度もこのコインが登場して,有難くない連鎖反応を引き起こす。極め付きは,このコインが少し傾いたピアノの上に落下するシーンだ。1セント硬貨が乗っただけでバランスが崩れ,ピアノが壇上から落下し,それがさらに床を滑り落ち,レストランの床半分が崩落する原因となってしまう(写真11)。エンドロールでは,本作の負の連鎖のキーアイテムとして,CG製コインがずっと赤い線上を転がっていた。


写真9 展望台部分の完成映像。VFX合成でそれらしく描いている。

写真10 少年が投げたコインが通気孔に入ってしまう。コインはすべてCG描写。

写真11 たった1枚のコインの重みでバランスが崩れ, ピアノが落ちてしまう

  いよいよ予知夢である。コインが通気孔から建物内に入り,階段を転がり落ち,支柱にぶつかってナットが外れる等々の連鎖反応が起こる。やがて,ダンスを踊っている部分の床のガラスが割れ,何人もが墜落する(写真12)。柱に捕まったり,地上まで落下するのはCG/VFX処理の産物だ(写真13)。この種のシーンの人物はCG描写かと思ったのだが,メイキング映像を見ると,ワイヤー吊りやクレーンを導入して,俳優に実演させている(写真14)。割れたガラスに捕まってぶら下がる男性をアイリスが気遣うシーンも実演であるが,さすがにガラスで体重を支えるのは無理であり,ワイヤー吊りで支える等のトリック撮影に違いない(写真15)。地上までの落下はCG製の人物に差し替えていると思われる。


写真12 ダンスをしていた部分の床面ガラス割れ, 多数の人々が落下する

写真13 途中の柱に捕まれなかった人々は落下してしまう

写真14 落下シーンの撮影風景。ワイヤー吊りとはいえ, 俳優も大変だ。

写真15 割れたガラスに捕まっていたが, とうとう落下してしまう

 ■ 料理人のフライパンにコインが当たったことから,料理の火が飛び火して,女性客が火だるまになる。この女性が走るシーンは実際の炎を使ったスタント演技であり,後半の大きくなった炎はCGで描き加えている(写真16)。やがてレストラン内のあちこちに火が燃え移る(写真17)。VFXとしてはさほど高度な処理ではないが,墜落や火災のシーンを織り交ぜ,その間をコインが引き起こす連鎖反応で繋いでいる演出が心憎い出来映えである。


写真16 (上2枚)本物の炎を使ったスタント演技, (下)手前の炎はCG合成

写真17 このシーンの炎はすべてCG表現だろう

 ■ 何人かが階段を利用して逃げようとするが,側面の壁が崩壊して,ここでも何人もが墜落する(写真18)。その後,レストランの床の約半分が折れ曲がって傾き,前述のピアノが当たって窓ガラスが割れ,多数が落下する(写真19)。さらに高層部全体が崩落するという大惨事となる(写真20)。この部分もスタジオ内に大掛かりな傾斜床を作り,角度を変えながら俳優が実演している(写真21)。こんなに簡単に支柱や壁・床が壊れるのかと思うが,このタワーは予定より5ヶ月早く完成したとオーナーも従業員も自慢していた。先に,手抜き工事で欠陥建築物だという伏線が張られていたのである。


写真18 塔の外壁が壊れ, 階段を降りていた人々が落下。いかに手抜き工事だったかが判る。

写真19 床の半分が傾き始め, 滑って来たピアノがぶつかって,窓ガラスが割れる

写真20 傾いた床半分に引き摺られ,高層部全体が崩落してしまう大惨事に

写真21 傾いた床を使ってのスタジオ内撮影風景

 ■ 始まってすぐの予知夢ほどではないが,死神の報復による落命シーンにも,SFXやCG/VFXシーンはそこそこ使われている。まず,要塞から一歩外へ出ると死ぬと分かっていながら自ら死を選んだ祖母アイリスの死に方は,風向計が突き刺さっての絶命である(写真22)。古典的な特撮技法であるが,本シリーズ定番の衝撃的な見せ方であった。続いて,倒れた伯父ハワードに電動芝刈り機が乗り上げて轢死させるシーンは,タイミングを身計らって遠隔操作で予め用意した袋から血色に液体を放出させているに過ぎない(写真23)


写真22 祖母アイリスの覚悟の上での死亡シーン

写真23 伯父ハワードは電動芝刈り機に轢かれて落命する

 ■ 最も凄惨な死は,コミ収集車の中に落ち,圧縮機のエッジで頭部を潰されるジュリアの最期である(写真24)。メイキング映像を観るまでは,これはCG映像だと思っていた。種明かしは,予め顔の大きさ分だけ半円状にえぐれた板を用意してジュリア役の女優の頭部に近づけ,顔には血糊を塗り,腕は造形物で引っ張れば外れるようにしていることである(写真25)。同様な物理的トリックはエリックの死のシーンでも使われていた。故障したMRI装置から強力な磁場が発生してエリックのピアスを引きちぎり,車椅子ごと彼の身体を吸い込み,身体を二つ折りにして死亡させてしまう(写真26)。この種明かしは,身体の上半身はエリック役の俳優だが,穴から飛び出している下半身は別の俳優を使うという単純な置き換えで,その間をVFX処理で繋いでいる。一旦命拾いしたエリックがなぜ死亡したかは,観てのお愉しみとしておこう。


写真24 ゴミ収集車内に放り込まれたジュリアは, 圧縮機に頭部を挟まれて凄惨な死を遂げる

写真25 上記のトリック撮影風景。頭部は挟まれないよう工夫してあり, 腕は偽物を引っ張る。

写真26 壊れたMRIスキャナの強烈な磁場に吸い込まれ,2つ折になったエリックは死亡する

 ■ 最後は,ステファニーとチャーリーの姉弟だけが生き残ってからの出来事である。列車が線路から脱線して市中の道路を暴走し,2人に迫るシーンである(写真27)。この背景はバンクーバーの住宅地であり,線路も本物であるが,列車もなぎ倒した事物もCG描写だろう。本作のCG/VFXの主担当はPixomondoで,同社が大半を処理し,Folks VFXとOutlanders VFXがごく一部を担当した。


写真26 列車が線路から脱線し, 並行して走る道路上を暴走しで姉弟に迫る
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