head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
titletitle
 
O plus E誌 2022年Webページ専用記事#4
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「ELVIS (Original Motion Picture Soundtrack)
(RCA Records)

   
 
 
 
  発売までの過程も変則だったが,内容もユニークで,ヒット中の伝記映画の雰囲気を見事に伝える話題性の高いサントラ盤(OST)だ。
 かつては,映画公開の数週間前にはサントラ盤CDが発売され,少し遅れてデジタル配信も始まるのが定番であったが,最近はデジタル配信だけのケースも増えた。本作の場合,早い時期から映画の予告編は流れていたが,OSTの情報が殆ど流れてこなかった。気になって数日おきにAmazonの米国のページを眺めていたのだが,発売予定の案内すらない。ようやく,Doja Cat が歌う“Vegas”なる曲だけのデジタル配信が始まったが,映画の中での位置づけが全く分からない。結果的には(下記リストの)3, 5, 20, 4, 11, 9が,シングルカットの形で小出しに配信されたが,アルバム全体の全容はなかなか掴めなかった。
 映画公開の少し前になって,ようやく下記トラックリスト全36曲が公開されたが,米国公開日(6月24日)までダウンロードできなかった。CDはないのかと探したが,何と1ヶ月以上先の7月29日発売になっている。しかも22曲しか収録されていない上に,デジタル配信よりも高価だ。音楽市場は完全にデジタル配信が中心のようだ。(Vinylと表記される)LP盤はマニア向きであり,その発売がずっと後になるのは納得できるが,もはやCDまでがマイナー商品の扱いになってしまったようだ。

  1. “Suspicious Minds” (Vocal Intro)☆  Elvis Presley
  2. “Also Sprach Zarathustra / An American Trilogy”  Elvis Presley
  3. “Vegas”☆  Doja Cat
  4. “The King And I”☆  Eminem & CeeLo Green
  5. “Tupelo Shuffle”☆  Swae Lee & Diplo
  6. “I Got A Feelin' In My Body”☆  Elvis Presley & Stuart Price
  7. “Craw-Fever”☆  Elvis Presley
  8. “Don't Fly Away” (PNAU Remix)☆  Elvis Presley & PNAU
  9. “Can't Help Falling In Love”☆  Kacey Musgraves
 10. “Product Of The Ghetto”  Elvis Presley & Nardo Wick
 11. “If I Can Dream”☆  Måneskin
 12. “Cotton Candy Land”☆  Stevie Nicks & Chris Isaak
 13. “Baby Let's Play House”☆  Austin Butler
 14. “I'm Comin' Home” (Film Mix)  Elvis Presley
 15. “Hound Dog”  Shonka Dukureh
 16. “Tutti Frutti”  Les Greene
 17. “Strange Things Happening Every Day”☆  Yola
 18. “Hound Dog”  Austin Butler
 19. “Let It All Hang Out”  Denzel Curry feat. PlayThatBoiZay
 20. “Trouble”☆  Austin Butler
 21. “I Got A Feelin' In My Body”☆  Lenesha Randolph
 22. “Edge Of Reality” (Tame Impala Remix)☆  Elvis Presley & Tame Impala
 23. “Summer Kisses / In My Body”  Elvis Presley
 24. “'68 Comeback Special” (Medley)  Elvis Presley
 25. “Sometimes I Feel Like A Motherless Child”☆  Jazmine Sullivan
 26. “If I Can Dream”  Elvis Presley
 27. “Any Day Now”  Elvis Presley
 28. “Power Of My Love”☆  Elvis Presley & Jack White
 29. “Vegas Rehearsal / That's All Right”  Austin Butler & Elvis Presley
 30. “Suspicious Minds” (Film Edit)☆  Elvis Presley
 31. “Polk Salad Annie” (Film Mix)☆  Elvis Presley
 32. “Burning Love” (Film Mix)☆  Elvis Presley
 33. “It's Only Love”  Elvis Presley
 34. “Suspicious Minds”☆  Paravi
 35. “In The Ghetto” (World Turns Remix)☆  Elvis Presley & Nardo Wick
 36. “Unchained Melody”  Elvis Presley

 ☆:CD(7月29日発売)への収録曲(22曲)。ただし,曲順は異なる。

 36曲の演奏時間合計は1時間55分もある。CDを22曲に絞ったのは,ディスク1枚に収めるためなのだろう。映画の上映時間は2時間39分だが,その7割の時間,上記リストの曲が流れていた訳ではない。劇中での使用は曲の一部でも,OSTアルバムとしてはフルコーラスを収録しているので,この長さになってしまう。それでも約2時間というのは,相当聴き応えのあるアルバムと言える。
 曲順はほぼ映画の中での登場順だが,完全ではない。映画本編のラストの絶唱「36」をエンドロールで流れる「35」「34」よりも後にしたのは,このOSTのトータルアルバムとしての完成度を高めるためだろう。
 音楽総指揮には若干のオリジナルスコアを書いたElliot Wheelerがクレジットされているが,選曲や編曲についての方針は,バズ・ラーマン監督自身と『華麗なるギャツビー』(13年7月号)でも音楽スーパバイザーを務めたAnton Monsteadが担当したようだ。YouTubeには,ラーマン監督がOSTの全体方針と上記リスト中の12曲に対して解説している映像がアップされているので,かなり思い入れがあることが分かる。
 全体としてのトーンは,これはエルヴィスの音楽ではあるが,ファンが慣れ親しんだエルヴィスの歌唱ではない。オリジナル音源から彼のヴォーカルトラックだけを抽出し,全曲で別のサウンドを付加している。ポリシーとしては,「21世紀の音楽ファンに届けるエルヴィス」とのことだ。ポップス,ロック,ジャズ,R&B,ヒップホップ等のジャンルをクロスオーバーさせた新しいRemixとのことだが,印象としてはヒップホップのビートが大半を支配している。この種のRemix盤としては,DJのSpankoxが製作した数枚(「Re: Versions」「Re: Loaded」「Re: Volution」等)や,ラスベガスでのシルク・ドゥ・ソレイユの公演「Viva Elvis」で使用されたRemix曲があるが,そのいずれよりも新しく感じた。
 このOSTで特徴的なのは,以下のような選曲とアレンジである。
①「3」「4」「5」はヒップホップやダンスミュージックだが,そのバックにエルヴィスのヒット曲“Hound Dog” “Jailhouse Rock” “That’s All Right”の歌詞が使われている。「6」「8」「10」「22」「28」「35」は,エルヴィスの歌唱に現代のアーティスト達がコラボしている。
②「9」「11」「15」「16」「21」「34」はコラボではなく,エルヴィスのヒット曲の現代風カバーだ。言わば「21世紀からのTribute to Elvis」である。筆者には「15」「34」が印象的だった。
③エルヴィス自身の歌唱曲も,旧アルバムと同じものはない。「7」「23」は大胆にアレンジして,それぞれ2曲を繋いでいる。「30」「31」「32」「34」は,ライヴアルバム収録音源に近いが,Film Edit, Film Mixとあるように,観客の声やバックコーラスのミキシングをこの映画用に変えている。
 既発表曲に関しては,原アルバムの音源を寄せ集めただけという安直なサントラ盤が多い中で,かなり手の込んだOSTであると言えるだろう。
 
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next