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O plus E誌 2019年Webページ専用記事#1
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「グリーンブック 〜オリジナル・サウンドトラック」
(ワーナーミュージック・ジャパン)

   
 
 
 
  今年のアカデミー賞では5部門にノミネートされ,作品賞,助演男優賞,脚本賞に輝いたが,音楽・音響部門には全くノミネートすらされなかった。それでも,筆者にはお気に入りの映画音楽であり,「作品賞」をしっかり支える役割を果たしていると感じたので,当欄で触れておきたい。
 サントラ盤CDはしっかり国内盤が発売されているが,日本独自のボーナストラックはなく,全31曲は輸入盤と全く同じである。大別して,(a) 音楽的な黄金時代1960年代前半を感じさせる挿入歌,(b) 劇中での天才ピアニストのドク(Dr. Don Shirley)の演奏場面で登場する曲,(c) 音楽担当のKris Bowersが本作のために書いたオリジナルスコアの3種からなるが,CDでも劇中での登場順に並んでいる。
 1曲目は,映画の冒頭のナイトクラブ「コパカバーナ」で流れていた曲“That Old Black Magic”だ。当時の人気歌手ボビー・ライデルの1961年のヒット曲で,彼がビッグバンドをバックに歌うシーンだったが,筆者はその名前を聞いただけで感涙ものだった。当時,ボビー・ダーリン,ボビー・ヴィーと併せて「ボビー御三家」とか,ボビー・ヴィントンまで入れて「4人ボビー」などと呼ばれていた。この曲の邦題は「恋の魔術師」だったが,歌手も曲も,よほどの洋楽ファンしか知らないマニアックな存在だった。きっと,米国のベビーブーマーたちも,この冒頭シーンで,頭の中が一気に半世紀以上にタイムワープしたことだろう。B・ライデル役を演じた男優フォン・ルイスは,確かにティーン・アイドルだった頃のボビーに似ている。サントラ盤では,アーティスト名は「The Green Book Copacabana Orchestra」とクレジットされているが,この映画のために録音されたものが劇中でも使われていた。
 その他の(a)に属する懐メロ曲は10曲あり,いずれも原盤が挿入歌となっている。ジャズを中心に,ドゥーワップ,ロカビリー,R & B,モータウン・サウンド等の曲で,モノラル録音が半数以上だ。ヒット曲ではなく,米国人でも大半は知らないレアもの揃いだという。いや,ヒットしていないだけでなく,Timmy Shaw,Jack's Four,The Blackwells等,聞いたこともない歌手名やグループ名が並んでいる。曲そのものは知らないが,親しみのある曲調で時代を感じさせる仕掛けである。
 (b)に属すものは5曲あり,劇中でドク役のマハーシャラ・アリが「The Don Shirley Trio」として,もしくはピアノ・ソロで演奏するシーンで使われていた曲で,いずれも新録盤である。M・アリの指使い演技も中々のものだったが,録音時にピアノを弾いているのは,音楽担当のKris Bowers自身だ。ジュリアード音楽院出身でクラッシックの基盤をもち,かつ一流のジャズ・ピアニストであり,作曲能力も高く,最近は何本かの映画やTVドラマの音楽も手がけている人物である。Don Shirleyのピアノ・タッチを再現すべく,本作の音楽監督に抜擢された訳である。劇中で使われた5曲は,本当にDon Shirleyが弾いていたのか綿密に調査して選ばれたが,Don Shirleyの個性を残しつつも,少し現代風にアレンジしたという。
 残る(c)の彼のオリジナルスコアが14曲ある。勿論,その大半で彼のピアノ演奏がフィーチャーされている。もの悲しいシーンや壮大な光景では典型的な映画音楽のスコアを配しているが,軽快なジャズの香りがする曲の出来がいい。
 以上で30曲,最後の31曲目にはDon Shirley自身が演奏したピアノ曲 “The Lonesome Road”がボーナストラックとして収録されている。これと比べると,Kris Bowersが弾いた26番目の同曲は,なるほど現代風の香りがする。
 
   
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