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O plus E誌 2015年6月号掲載
 
 
チャッピー』
(コロンビア映画 /SPE配給 )
      (C) Chappie - Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月23日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2015年4月7日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  感情や意識をもったロボットをどう描写するかが鍵  
  今月のメイン欄はSF映画が3本だが,それぞれかなり毛色が違う。まずは話題のロボットもので,ロボット映画史上,間違いなく記憶に残る作品である。
 監督は,南アフリカ共和国出身のニール・ブロムカンプ。ヨハネスブルグの貧民地区が舞台のSF『第9地区』(10年3月号)のヒットで躍り出た若手有望株である。同作は,エイリアン到来ものながら,エビなる異星人の描き方がユニークで,「新しい才能」を感じた。次作『エリジウム』(13年10月号)の時代設定は2154年で,衛星軌道上のスペースコロニーが主たる舞台となっていた。ビジュアル面は素晴らしかったものの,ちょっと肩に力が入り過ぎだと感じた。
 その分,本作でどこまで評価を上げられるか注目の的であったが,「チャッピー」なるロボットの描き方は印象的であり,これなら合格点を与えられる。設定は,近未来の2016年,またまたヨハネスブルグが舞台である。最新の人工知能(AI)により,自ら感じ,考え,成長するロボットという設定で,それに相応しい,綿密なデザインが施されたという。本当にそうか? 予告編を見る限り,『エリジウム』に登場したロボット兵士と殆ど同じではないか。その疑問は,本編ですぐに氷解した。
 本作の設定を,もう少し詳しく紹介しておこう。ヨハネスブルグの町には,兵器産業テトラバールが開発した警官ロボット(写真1)が配備され,犯罪者の摘発に当たっている。既にこの時点で,ある種の自動ロボットは実用化されている訳だ。同社の科学者ディオン(デーヴ・パテル)は,知能に加えて,感情をもち,成長するという,進化したAIを開発するが,女性上司(シガニー・ウィーヴァー)に却下されたため,秘かにこのAIソフトを旧式の警官ロボットに搭載する。なるほど,それなら外観よりも,エッセンスはソフトだと主張したい気持ちも理解できる。止むなく,この画期的なロボットを自宅に持ち帰ろうとする設定は,『猿の惑星:創世記』(11年10月号)のシーザー誕生に酷似している。ところが,その移送中にストリートギャングに襲われ,自らもロボットも誘拐されてしまう。かくして,生まれたばかりのAIロボットはチャッピーと名付けられ,ギャングとともに生活し,彼らの行動と価値観を学習してしまう……。
 
 
 
 
 
写真1 チャッピーの原形は町を守る警官ロボット
 
 
  チャッピー役(声とMoCap演技)には,『第9地区』の主役ヴィカスと『エリジウム』の悪役クルーガーを演じたシャールト・コプリーだ。『第9地区』の終盤も異星人姿だったから,MoCap演技も経験済みだ。助演で印象的なのは,ディオンの同僚の科学者で敵役ヴィンセントを演じるヒュー・ジャックマンだ。『X-Men』のウルヴァリンを敵役に使うとは贅沢なキャスティングだが,憎悪に満ちた形相は凄まじく,悪役も似合っている(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 本作では正義のミュータントでなく,迫力ある敵役
 
 
  最大の見どころは,ギャングの紅一点ヨーランディが怯えるチャッピーに注ぐ母性的な愛情であり,彼女を母と慕うチャッピーとの会話である。観客の大半は,彼女か生みの親のディオンに感情移入し,鋼鉄製のチャッピーを愛らしく,守りたくなるはずである。『E.T.』(82)で,最初気味の悪かった異星人が,やがて可愛く見えるようになるのと同じような現象だ。本作で描かれているAIによる感情や意識には,賛否両論が戦わされることだろう。以下は,当欄の視点から観たオピニオンである。
 ■ ロボットの外観は前作に似てはいるが,改めて想定する機能に応じて,部品の大きさや材質まで選択され,実機が作られている。チャッピーの実物大骨格は3体あり,物語の進展と共に8段階の躯体を表現できるようにしたという(写真3)。勿論,それに応じたCGモデルが作成され,レンダリング結果は実物かCGか全く見分けがつかない。本作のCG/VFXの主担当は,Image Engine DesignとWeta Workshopだが,両社の連携も良好だ。
 
 
 
 
 
写真3 これは実機のカメラテスト風景
 
 
  ■ チャッピーや他のロボットの動きは,勿論俳優の動きをMoCap装置で収録している。それも専用スタジオでなく,撮影現場での演技がベースだ。極めて自然な動きのため,生身の人間かと感じてしまう(写真4)。強いて難を言えば,動きが滑らか過ぎることだ。歩く後姿などは全く人間のそれであり,筋肉のない二足歩行ロボットがそんな風に歩ける訳がない。むしろ,これは嘘だと感じてしまう。さらに言うなら,生まれたばかりのチャッピーの声はぎこちない合成音声であるべきで,しばらくして人間らしい声になる方が自然だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 動きの滑らかさは,ロボット映画史上随一
 
 
  ■ ママとの会話だけでなく,チャッピーが感情を持っていると思わせるシーンが随所に配されている(写真5)。犬が寄ってくるシーンなどはその典型だ(写真6)。その一方で,遠隔操縦の大型ロボット,ムースとの対決シーン(写真7)ではチャッピーも再びマシンと化す。緩急の使い分けが見事で,この監督は絵作りが上手い。その反面,この映画で描かれるチャッピーの「意識」は,プログラム+経験値データの実行結果として複製できるはずであり(それを「意識」と呼ぶかどうかは別問題だが),特殊な転送を必要とするのは,論理的にはおかしい。そんな野暮を言わなければ,本作はいかにもSFらしいエンディングで,ハッピーな気分にさせてくれる。  
 
 
 
 
写真5 ギャング仲間とフィストバンプで挨拶
 
 
 
 
 
写真6 思わず感情移入してしまう名場面
 
 
 
 
 
写真7 終盤は大型ロボットのムース(左)との戦い
(C) Chappie - Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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