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O plus E誌 2008年6月号掲載
 
 
 
purasu
隠し砦の三悪人
THE LAST PRINCESS』
(東宝配給)
 
      (C) 2008「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」
製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [5月10日より日劇PLEXほか全国東宝系にて公開中]   2008年4月21日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  黒澤作品に捕われず,娯楽に徹した現代風リメイク作  
 

 開口一番「やっぱりやな。これじゃアカンわ。黒澤が泣くわ」「しかし,東宝は商売が上手いな。気になって映画は観たくなるし,旧作のDVDは売れるし」であった。マスコミ用試写会の終了後のエレベーターの中,スポーツ紙か雑誌記者らしき初老男性2人組の会話である。そうか,そんなにひどかったか? 筆者も大きな期待をもって観た訳ではないが,結構面白かった。最近の若者向け娯楽映画としては,良作の部類に入る。いやむしろ,『ローレライ』(05年3月号)『日本沈没』(06年7月号)で監督としての力量を怪しんだ樋口真嗣監督を,このスケールの大きな娯楽作で見直したくらいだ。
 オリジナルは黒澤明監督作品として1958年に公開された冒険活劇である。映画の冒頭で,百姓の太平(千秋実)と又七(藤原釜足)がトボトボと歩くシーンは,ジョージ・ルーカス監督が『スター・ウォーズ』(77)にそっくりコピーして,あの名コンビC-3POとR2-D2を生み出したことでも知られている。
 何年もの禁を破ったかのように,最近黒澤作品のリメイクが相次いでいる。まず『天国と地獄』(63)と『生きる』(52)が,現代を舞台にリメイクされ,連続してテレビのスペシャルドラマとして登場した。続いて,『椿三十郎』(62)が森田芳光監督,織田裕二主演で正月映画として年末に公開されたことが記憶に新しい。そして本作が4本目のリメイクに当たるが,かなりのハイペースだ。どうしても黒澤作品と比べてみたくなるから,DVDの売り上げも増すわけだ。ただし,日頃多少は予習をして試写会に臨む筆者は,本作に関しては事前に旧作に関する話題はシャットアウトし,試写を見終わってから改めて旧作を熟視する方法を選んだ。
 時は戦国の世で,国境を接する早川・秋月・山名の三国のうち,山名軍に攻め入られた小国の秋月城は陥落する。隠し砦に生き延びた重臣は,秋月家の再興を期し,侍大将の真壁六郎太(阿部寛;旧作では三船敏郎)を生き残った雪姫(長澤まさみ;旧作では上原美佐)の護衛につけ,薪に仕込んだ大量の軍資金を持って同盟国の早川領まで逃げ込ませる計画を立てる。隠してあった軍資金を偶然見つけた山の民の武蔵(松本潤)と新八(宮川大輔)の二人組から,直接早川領へ向かわず,敵国の山名領を経由する秘策を提案され,彼らを巻き込んだ四人組の旅が始まる……。
 前半から中盤にかけては,黒澤作品をかなり忠実にトレースしている。3人が大量の薪を背負うシーンは見覚えがあるし,馬上で刀を構えた六郎太が敵を追うシーンもしっかり再現されている(写真1)。三船敏郎ほどの馬術の腕はないが,三船を意識した阿部寛の六郎太役も結構ハマっている。大きく違うのは,太平・又七の中年の百姓二人組を若い山の民に変え,しかもその1人武蔵を雪姫の恋の相手役にしてしまったことだ。このため,終盤の展開や結末は全く別の物語になっている。松本潤と長澤まさみは格別好演でもないが,悪くもない。邦画のラブロマンスとしては十分水準以上の出来映えだ。
 という風に,筆者は好印象をもったのだが,辛口評,酷評も少なくない。その多くは,黒澤作品を崇めるあまり,本作を褒めてはいけないかのような筆致である。ベテラン映画批評家やオールドファンが名作扱いする映画の大半は,彼らがその作品を観た当時の印象による評価だ。新しい映画ファンにとっては,間延びし,色褪せた凡庸な作品と感じることもしばしばである。筆者は,この映画の旧作自体が,黒澤作品としては平均以下の凡作だと思っている。太平・又七の登場シーンがやたらと多く,殺風景な瓦礫の山で2人が騒々しかった印象しかない。改めて全編を見直しても,前半1時間が長く,退屈な映画だ(後半の展開は,それなりに面白いが)。
 この映画の真骨頂は,黒澤作品に捕われず,現代風アレンジで大作らしいスケール感を出したことだと思う。旧作にもある火祭りのシーン(写真2)は大迫力だし,雪姫が軟禁される「山名の砦」の内部はかなり気合いが入った大型セットである(写真3)。音響効果も,技術進歩を考えれば当然の差である。その一方で『スター・ウォーズ』への逆オマージュの遊びも随所に見られる。旧作にはない鷹山刑部という敵役の黒い甲冑姿は誰が見てもダース・ベーダーだし(写真4),山名軍の兜は帝国軍のヘルメットそっくりだ。ずんぐりした新八の挙動はR2-D2を彷彿とさせ,武蔵の雪姫救出シーンはルーク・スカイウォーカーとレイア姫を思い出す……といった具合である。

 
   
 
写真1 三船を意識した阿部寛の六郎太も悪くない  
写真2 旧作にあった火祭りシーンもぐっとパワーアップ
 
   
 
写真3 山名の砦の内部は斬新で大掛かりなセット   写真4 敵役は,どう見てもダース・ベーダー
 
     
 

 樋口真嗣監督お得意のSFX/VFXはと言えば,これが思ったほど多くなかった。CGやデジタル技術に頼り過ぎなかったことが,全体の質感を高め,好結果を生んでいるように感じられた。それでも,秋月城の炎上や爆発シーン(写真5),遠景の山々の描写(写真6),クライマックスの砦からの脱出シーンなどは,VFXの使い方も上手く,さすがといえる出来映えだ。
 強いて疑問点を上げれば,この映画はなぜシネスコ・サイズで撮らなかったのだろう? 半世紀前の旧作は黒澤明初のシネマスコープ作品で,ワイド画面を活かした演出だったというから,それを超える使い方を見せて欲しかったところだ。ビスタ・サイズでもそれを凌駕できるだけの迫力に仕上げたということだろうか?

 
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写真5 城の炎上・爆発シーンは,さすがの出来映え   写真6 この山の表現にもVFXの威力が
 
 
(C)2008「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」製作委員会
 
   
  (O plus E誌掲載分から画像の一部を差し替えています)  
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