この映画も堂々北米興行成績1位の話題作である。題名に主人公の名前をもって来るのは,洋画にはよくあるパターンだが,原題は少し違っていて『The
Exorcism of Emily Rose(エミリー・ローズの悪魔祓い)』だった。可愛い名前とは裏腹に,スチル写真での女性の恐怖の表情を観ると,『エクソシスト』
(73) や『オーメン』 (76) 路線のオカルト・ホラーだ。完成披露試写会は,何と「13日の金曜日」の夜の開催だった。こりゃ,怖そうだ。
キャッチコピーは「この映画はホラーではない,実話である」「その裁判は,悪魔の存在を初めて認めた」というので,実在の裁判を元にしていることは分かっていた。それでも実際に観て,いい意味で裏切られたのは,良質の法廷劇映画だったという点だ。
映画が始まった段階で悪魔に取り憑かれたエミリー・ローズは既に死んでいる。被告人は悪魔祓いの儀式を行なったムーア神父で,罪状は過失致死罪。この裁判でどういう判決が下されたのか,判決文ではどのように悪魔の存在を認めたのか,キリスト教信者ならずとも興味がそそられる。いや,信者でないからこそ,現代の文明国の法廷がどういう判決を下したのか,不思議であった。
監督は脚本家のスコット・デリクソン。日頃から共同で脚本を執筆するポール・ハリス・ポートマンと彼が,悪魔祓いの様子を収めた実在のカセットテープを NY 市警で聞かせてもらったことから,この映画が生まれた。主演の敏腕女性弁護士エリンを演じるのは,『愛についてのキンゼイ・レポート』 (04) のローラ・リニー。法廷ものとしては,『真実の行方』 (96) で弁護士役のリチャード・ギアと渡り合った女性検事役を思い出す。被告人ムーア神父は,『イン・ザ・ベッドルーム』 (01) 等の名脇役トム・ウィルキンソンが演じている。
悪魔に憑かれたエミリー(ジェニファー・カーペンター)の様子(写真 1)は,裁判中の回想シーンで登場する。彼女の恐怖の表情や狂態は迫真の演技だが,『エクソシスト』に慣れた人には,そう大きな驚きではない。VFX
専門誌Cinefexには,目から黒い涙を出すクラスメイト,表情が悪魔と化す通行人,身体が折れ曲がったエミリーの様子など,デジタル視覚効果ならではのシーンが紹介されている。VFX担当はKeith
Vanderlaan's Captive Audience Productionsで,特殊メイクではなく,VFXで処理したという。メイクアップとVFXスーパバイザを同一人物が兼ねているから実現できる産物だ。結構いい出来だったのでもっと観たかったが,このシーンはわずか10秒以下で終ってしまった。
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