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O plus E誌 2006年2月号掲載
 
 
エミリー・ローズ』
(スクリーン・ジェムス /SPE配給)
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2006年1月13日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
  [2006年3月より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ホラーと法廷劇をミックスさせたバランスが絶妙  
 

 この映画も堂々北米興行成績1位の話題作である。題名に主人公の名前をもって来るのは,洋画にはよくあるパターンだが,原題は少し違っていて『The Exorcism of Emily Rose(エミリー・ローズの悪魔祓い)』だった。可愛い名前とは裏腹に,スチル写真での女性の恐怖の表情を観ると,『エクソシスト』 (73) や『オーメン』 (76) 路線のオカルト・ホラーだ。完成披露試写会は,何と「13日の金曜日」の夜の開催だった。こりゃ,怖そうだ。
 キャッチコピーは「この映画はホラーではない,実話である」「その裁判は,悪魔の存在を初めて認めた」というので,実在の裁判を元にしていることは分かっていた。それでも実際に観て,いい意味で裏切られたのは,良質の法廷劇映画だったという点だ。
 映画が始まった段階で悪魔に取り憑かれたエミリー・ローズは既に死んでいる。被告人は悪魔祓いの儀式を行なったムーア神父で,罪状は過失致死罪。この裁判でどういう判決が下されたのか,判決文ではどのように悪魔の存在を認めたのか,キリスト教信者ならずとも興味がそそられる。いや,信者でないからこそ,現代の文明国の法廷がどういう判決を下したのか,不思議であった。
 監督は脚本家のスコット・デリクソン。日頃から共同で脚本を執筆するポール・ハリス・ポートマンと彼が,悪魔祓いの様子を収めた実在のカセットテープを NY 市警で聞かせてもらったことから,この映画が生まれた。主演の敏腕女性弁護士エリンを演じるのは,『愛についてのキンゼイ・レポート』 (04) のローラ・リニー。法廷ものとしては,『真実の行方』 (96) で弁護士役のリチャード・ギアと渡り合った女性検事役を思い出す。被告人ムーア神父は,『イン・ザ・ベッドルーム』 (01) 等の名脇役トム・ウィルキンソンが演じている。
 悪魔に憑かれたエミリー(ジェニファー・カーペンター)の様子(写真 1)は,裁判中の回想シーンで登場する。彼女の恐怖の表情や狂態は迫真の演技だが,『エクソシスト』に慣れた人には,そう大きな驚きではない。VFX 専門誌Cinefexには,目から黒い涙を出すクラスメイト,表情が悪魔と化す通行人,身体が折れ曲がったエミリーの様子など,デジタル視覚効果ならではのシーンが紹介されている。VFX担当はKeith Vanderlaan's Captive Audience Productionsで,特殊メイクではなく,VFXで処理したという。メイクアップとVFXスーパバイザを同一人物が兼ねているから実現できる産物だ。結構いい出来だったのでもっと観たかったが,このシーンはわずか10秒以下で終ってしまった。

 
     
 
写真1 これは悪魔祓い儀式途中の様子  
 
 
     
 

 となると興味の的は,裁判の行方とその結末だ。弁護士エリンの陪審員席に向かっての最終弁論では,映画の中も場内も,咳払い一つなく静まり返り,皆固唾を呑んでいた。実話とはいえ,この結末の付け方は見事だった。これなら十分納得できる判決だ。
 では,この映画では誰に感情移入できるだろうか。通常のハッピー・エンディングの法廷劇では,弁護士か被告人,時には陪審員の時もある。この映画では,大方の観客はもっと客観的に,一般傍聴人の視点で観るだろうと思う。本作品は,ただのホラーでも裁判劇映画でもなく,そのバランスが絶妙だった。  
 ホラータッチは悪くないが,最近の強烈なホラー映画と比べるとそう怖くはない。それでも,この映画を観た後,夜中目が覚め,時計が3時を指していたら……。とてもトイレに行く気にはなれないだろう。 

 
          
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