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O plus E誌 2004年12月号掲載
 
 
『スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー』
(ブルックリン・フィルムズ/ギャガ-ヒューマックス共同配給)
 
      (c)2004 UNIVERSAL STUDIOS.  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年10月13日 リサイタル・ホール[完成披露試写会(大阪)]  
  [11月27日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  VFXは満点,演出は今イチ  
   時は1936年ニューヨーク万国博覧会の年,NYの街に雪が降り,雷鳴が鳴り響き,科学者連続失踪事件が起こる。そして,突如巨大なロボット軍団が飛来し,ビルを押し倒し,車を踏みつぶし,人々は逃げ惑う(写真1)。世界の主要都市がパニックになっている時,この危機を救ったのは空軍のエースパイロットのスカイキャプテンことジョー・サリバン(ジュード・ロウ)だ。彼は超一流の飛行技術で,天才的ドイツ人科学者トーテンコフ博士が企てた「明日の世界計画」に立ち向かう…。そう聞いただけでも,本欄が取り上げざるを得ないVFX満載のアドベンチャー・アクションだと分かるではないか。
     
 
 

写真1 前半のVFXの見どころは,このロボットの質感と動き

 
     
   ヒロインの敏腕新聞記者ポリー・パーキンスにグウィネス・パルトロウ。ちょっと『スーパーマン』の恋人ロイス・レインを彷彿とさせる役柄だ。そして,ナチス風のミリタリー・ルックで颯爽と登場する謎の女艦長クック役にアンジェリーナ・ジョリーというから,3人ともオスカー・ウィナーの豪華トリオだ。  これだけのキャストをディレクトするのは,さぞかし名のある監督かと思えば,監督・脚本のケリー・コンランも主製作会社のブルックリン・フィルムズも聞いたことがない名前だった。どうやら,この監督の経歴とこの作品が生まれるきっかけ自体が,この映画のセールスポイントのようだ。
 何でも,ミシガン州育ち,カリフォルニア美術工芸大学に入学したK・コンランは,コンピュータ・アニメの超オタクとなり,自宅のアパートにブルースクリーンを持ち込んで,1994年から4年間かけて6分間の短編映画を作ったという。その短編『The World of Tomorrow 』が,ブルックリン生まれの映画監督ジョン・アヴィネットの目に止まり,本作品の誕生に繋がったというわけだ。この6分の短編がどんな映像なのか,Web上を探しているが,まだお目にかかってはいない。DVDにはきっと収録されるだろうから,それを待つことにしよう。
 監督未経験の彼にこうした大作を任せるというのは,いかにもアメリカ的だ。それでハリウッド級の大作が出来るのかと心配だが,その分はがっちりと回りのスタッフがカバーできる体制が整っているのだろう。
 映画の前半は徹底したレトロ調の映像に仕上げてある。もちろん意図的だ。空中戦も相当に見どころがある(写真2)。特に市街地部分が映るシーンは,かなりの多重合成の賜物である。勿論,飛行船も戦闘機も基本的にCG製だが,目を見張るのは翼を鳥のように自在に動かせる機種の斬新さだ。このパタパタは面白い。水陸両用車あたりはそう珍しくなくが,空中滑走路となる空飛ぶ空母には驚ろかされた。その他,小道具,大道具いろいろな仕掛けがあり(写真3),この監督のアイデア,ビジュアル・センスには感心させられる。特に,後半の圧倒的な迫力,新感覚の映像作りは質・量ともに圧巻だ。
   
写真2 ヒンディンブルグIII号の存在感もなかなか,鳥のように羽ばたく戦闘機は出色だ
 
 
     
   
写真3 この輪はご愛嬌のアイデア賞もの
 
 
     
   何しろ,この映画はまともなロケは行なわず,ほぼ全編ブルーバックのスタジオで撮影したという(写真4)。演技する方も大変だが,待ち受けるVFXスタジオもそれを管理するスタッフの数も尋常でない。VFX担当社の中にはILMの名前もあったが,主担当はThe Orphanage社のようだ。その他,Hybride Technologies, Cafe FX, Stan Winston Digital, Pixel Liberation Front, Pacific Title Digital, Luma Pictures, Gray Matter FX, Rising Sun Pictures, R!OT, EFilm等々メモし切れないほど多くのスタジオが関係していた。まさにVFX界上げての一大プロジェクトであったことが分かる。
   
写真4 大半がブルーバックでの撮影だと俳優も疲れる
 
 
   では,褒めることばかりかというと,折角の3大スターを揃えておきながら,彼らの演技は単調で,オスカー俳優とは思えなかった。この映画に登場してたのは『コールド マウンテン』(03)でなく『イグジステンズ』(99)のジュード・ロウ,『恋に落ちたシェークスピア』(98)でなく『オースティン・パワーズ ゴールドメンバーズ』(02)のグウィネス・パルトロウ,『17歳のカルテ』(99)ではなく『60セカンズ』(00)のアンジェリーナ・ジョリーだった。これは,もったいない。
 オール・ブルーバックで今一つ乗り切れなかったとも考えられるが,これは監督の演出力のせいだろう。チャレンジ精神はいいが,冒険は非常識に繋がる。カット割りや間の取り方など,この監督が映画作りの基本文法をもう少し知っていたならば,この映画はずっと面白い作品になっていただろう。
 
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