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O plus E誌 2004年9月号掲載
 
 
『サンダーバード』
(ユニバーサル映画
&スタジオ・カナル
/UIP配給)
 
      (c)2004 UNIVERSAL STUDIOS  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年7月16日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
  [8月7日より全国東宝洋画系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大人も楽しめる豪華お子様ランチの味  
   去る6月に,とあるセミナーで米国西海岸在住の日本人映画ジャーナリストの講演「米国映画最新VFX事情」を聴く機会があった。夏から秋にかけて公開される話題作を,現地LAでの前評判,噂話を交えての講演だったが,予告編だけでメイキング映像はなかった。
 その中でも,英国がVFX界が威信をかけたこのリメイク映画の前評判がことさら悪いと言う。言うまでもなく,原作はかつてテレビで絶大な人気を博したSF人形劇で,これはその実写映画化である。不人気の理由は,最近の青少年には馴染みがなく,かつてファンであった大人たちには許せない,違和感を感じる作りだからとのことだった。いかに業界通とはいえ,まだ未公開の映画を,そこまで言えるものなのかと思った。
 実を言うと,筆者はこのテレビ放映シリーズをほとんど観ていない。確か日曜の夜NHKでやっていたなと記憶している程度だ。調べてみると,英国で第1回が製作されたのは1965年のことで,日本ではその翌年から放映されていたとのことである。70年代に再放送されていたらしい。既に大学生だったから,こんなお子様番組は観ていない。当時毎週観ていたのは,人気を博していたのは『逃亡者』『ナポレオン・ソロ』『スパイ大作戦』だった。
 設定は,元宇宙飛行士で大富豪のジェフ・トレーシー(ビル・パクストン)が私的に創設した国際救助隊=サンダーバードが,南太平洋に浮かぶ孤島を秘密基地として,宇宙ステーションから観察した情報をもとに,地球全域の災害を未然に防ぐというもの。超高速ジェット,宇宙ロケット,小型潜水艇などのサンダーバード1〜5号に登場するメンバーは,トレーシー・ボーイズと呼ばれるジェフの5人の息子たちだ。なるほど「ゴレンジャー」をはじめ,この手のチームは国際的にも5人組が相場なのか。もっとも,その日本語吹替えをアイドル・グループのV6が担当するという。1人余るのでは心配したが,親父の声もやるらしい。合わないと思うが……。
 製作は,『ノッティング・ヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ラブ・アクチュアリー』等のスマッシュ・ヒットを飛ばして英国一のスタジオとなったワーキング・タイトル・フィルムズ社だ。監督は,『スタートレック』シリーズに監督兼出演したジョナサン・フレイクス。そして,約700カットに及ぶCG/VFXを1社で担当したのは,フレームストアCFC社。『トロイ』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』でも存在感を示した急上昇のスタジオだ。彼らが心血を注いだ映画が面白くない訳がない。以下,この映画の見どころである。
 ■ 原作の想定する時代は2065年。100年後の未来を描いていた訳だ。それが,この映画では45年も現代に近づいて2020年だ。原作の味を残しつつ,現在から考え得る未来を想定したメカや小道具を登場させている。
 ■ 伝統あるミニチュアも結構使っているのかと思ったが,サンダーバード各号もトレーシー・アイランドもすべてフルCGだという。どことなくオモチャっぽさが残っているのはCGが稚拙なのではなく,もちろん意図的に原作の味を残そうとしているからだ(写真1)だ。ロンドンの国会議事堂,テムズ河などのシーンも,わざと合成らしく見せて,どことなくレトロな感じを出そうとしているのが見て取れる(写真2)。
   
写真1 サンダーバード3号の発進。いかにもプラモ風の味つけだが,実はCG製。
(c)2004 UNIVERSAL STUDIOS
 
写真2 頻出するロンドン市内との合成シーンの安っぽさも意図的演出か
 
     
   ■ デザインはお子様向きではあるが,小道具が多彩で,よくできている。この映画の対抗作品は『スター・ウォーズ』ではなく『スパイキッズ』シリーズだ。そう考えれば,企画もデザインも脚本もずっと上だ。某ジャーナリストが言うほど悪くない。むしろ,センスの良さを感じて,大人も結構楽しめる。
 ■ 女科学者のとぼけた味が実にいい。滑稽でマンガ的なキャラだ。それでいて,彼女もからむ2 2のアクションは本格的だ。CGの腕も,ロケット打上げ後の航跡,水中の泡,炎,サソリ等,かなり秀逸で,最新のVFX技術を縦横に発揮している。違いの分かる人間には分かるというのが,この映画の真骨頂だろう。
 ■ 宇宙船内での父と兄たちの絶体絶命の危機を,地上に末弟のアラン(ブラディ・コルベット)が救おうとするのがクライマックスだ。結末は分かっていても,アポロ13号ばりの緊迫感には結構感情移入してしまう。完成披露会では,上映後思わず大きな拍手が起こった。大人しい日本の観客には珍しいことだ。いい大人が皆で手に汗握って楽しんだということなる。
 ■ 米国では,公開後のこの映画の興行収入は,前評判通り惨憺たるものだった。『スパイキッズ』をあれだけ楽しんでおきながら,なぜアメリカ人はこの映画の楽しさを理解できないのだろう? まさかイギリス映画界のセンスの良さに,ジェラシーを感じているのでもあるまいし,単に好みの問題だけなのだろうか。
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