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O plus E誌 2004年1月号掲載
 
 
『ミシェル・ヴァイヨン』
(ヨーロッパコープ作品/アスミック・エース配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][仏語]   2003年11月27日 東宝関西支社試写室  
  [12月20日より全国東宝洋画系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  スピード感あふれる映像は,ベッソンならではの傑作  
   アメコミの映画化作品を何本も紹介してきたが,この映画はフランス製で欧州圏最大のコミックが原作だ。作者はジャン・グラトン,世界のカーレースを総なめにするレーサーが主人公で,1957年の第1作以来,65作品で2,000万部を売り上げているという。少し眺めただけでも,コマ割りが巧み,スピード感は抜群で,リアリズムを大切にしているのが分かる。何と,今は鬼籍に入ったアイルトン・セナ,本田宗一郎,スティーブ・マックィーン,ジェームス・ディーンも登場したらしい。今回はル・マン24時間レースが舞台のオリジナル脚本で,それを逆にコミック化して66作目にするという。
 そんな人気作品を映画化できるのは,この人しかないと思っていたが,やっぱりそうだった。『グラン・ブルー』(88)『レオン』(94)『ジャンヌ・ダルク』(99)のリュック・ベッソンが脚本を書いている。監督・製作に彼の名前はないが,事実上ベッソン作品と言っていいだろう。『TAXi』シリーズで名をはせた彼が,ル・マンのレースをどんなスピード感で描くかと想像するだけでも楽しいではないか。
 レーシング・チーム一家のヴァイヨン家は,長兄がチーム監督を,次男のミシェル(サガモール・ステヴナン)がトップ・レーサーを努めて今年も順調に勝ち進んでいる。一方,宿敵の"リーダー"・チームは5年前に監督を事故で亡くすが,娘のルース・ウォン(リサ・バルブシャ)率いるチームが5年ぶりに復活し,ル・マン24時間レースに参戦して因縁の対決が再現する。積年の恨みを晴らそうと,リーダー・チームはヴァイヨン・チームにあらゆる妨害工作を仕掛けて来る。彼らの卑劣な罠で夫デイヴィッドを失った美しい妻ジュリー・ウッド(ディアーヌ・クルージェ)もレーサーとなってヴァイヨン・チームに合流するが,ルースはミシェルの父アンリ(ジャン=ピエール・カッセル)を誘拐し,ミシェルを脅迫してまでル・マンの勝利を手にしようとする……。
 敵チームは赤,ヴァイヨンは青というチーム・カラーの色分けは,単純だが混線レースの中で見分けるのに分かりやすく,かつカッコイイ(写真1)。この映画には,レースものの手に汗握る迫力と市街地で繰り広げる爆走カー・アクションの両方が盛り込まれているが,そのバランスも絶妙だ。特に,妨害をくぐり抜け,レーシング・カーが一般のハイウェイをたどってレース会場に駆けつける下りは,荒唐無稽だが実に痛快だ。
 
     
 
写真1 ミシェルが操る青のマシンがカッコイイ
 
     
   さて,VFXに関しては,配給会社はCGを使っていないことを強調していたが,かなりの部分でデジタル処理を駆使していると見受けられた。湖上のラリーで氷がひび割れするシーン,デイヴィッドの葬儀を行われる水辺の光景,レース直前に舞う蝶々はどう見てもCGかデジタル合成の産物だ。空の色や雲の動きもデジタル技術あっての加工処理だろう。陰翳を強調したコントラストの強いベッソン流の絵作りも,今やコンピュータ処理で簡単に生み出すことができる。
 なるほど,レースのリアリズムを醸し出すため,クルマに関してはほとんどが本物だ。写真2の大観衆をエキストラで埋めるのは不可能に近いし,これはどう観ても合成ではない。一体どうやって撮影したのだろうと不思議だったが,レース・チームDAMSの全面協力を得て,実際に赤と青のチームをル・マンに参戦させ,10数台のスタンドカメラや車載カメラで本物のレースを撮りだめしたという。なるほど,ピットの騒々しさやレース場全体の雰囲気も,それなら納得が行く。やるなぁ。
 写真3,写真4は宣伝媒体用のスチル写真なので,相当加工されていると思われるが,本編の中でも,ライバル車の接触による火花や激突してクルマが宙に浮くシーンは圧巻だった。かなりのデジタル処理が施されているが,もとは実写がベースの画像であることは間違いない。
 特筆すべきはカメラワークだろう。思いっきり上からのアングルで狙ったり,どアップで迫ったり,変幻自在だ。まるでミュージック・ビデオのようだと思ったら,クウレア監督はリュック・ベッソンのお気に入りで,CM畑の出身だった。これも妙に納得が行く。後半テンポの良さが小気味よく,一気に面白くなり,クライマックスまで怒濤のごとく畳みかける。このレースの結末は面白かった。ネタバレになるのでこれ以上書けないが,楽しみに取っておく方がいいだろう。
 
     
 
写真2 スタンド埋めるこの観客はCGでは無理
 
 
写真3 接触で飛び散る火花は本物?
写真4 圧巻は夢にも現実にも登場するこのシーン
 
     
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