O plus E VFX映画時評 2025年7月号
(注:本映画時評の評点は,上から,
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をつけています)
早いもので,もうシリーズ7作目である。この種のシリーズの新作はほぼ3年おきだろうと思ったら,やはりそうだった。毎回各地の恐竜展とタイアップするので,夏休み公開というのも定着している。第1作『ジュラシック・パーク』が実写映画でのCG利用の効果を定着させたというのは既に何度も書いた。同作以降,恐竜をCGで描画するのは当たり前となり,ゲームでもTV番組でも当たり前にCGで描いている。一方,恐竜展ではアニマトロニクス製の動く恐竜がしばしば展示されている。本家恐竜映画としては,両者を適宜組み合わせ,誰も見たことのない新種の恐竜を高画質で描いてみせることが要求される。
過去6作と言っても,最初の3本は4年おきの公開であったが,その都度の続編で一貫性はなかった。その14年後に名前を「パーク」から「ワールド」に変えた新作は,最初からシリーズ3部作として計画されていた。本作の原題は『Jurassic World: Rebirth』で,第6作の続編ではなく,新しく生まれ変わった新シリーズとして製作されている。何が新しくなったかを考えるのに,まずは過去6作を振り返ることから始めよう。
【シリーズ過去作の一覧】
①『ジュラシック・パーク』 (93)
VFX史に残る記念碑的映画。原作マイケル・クライトン,監督は巨匠スティーヴン・スピルバーグ。CG/VFX担当のILM担当がオスカー受賞。恐竜のCG描画は僅か15%ながら,以後,恐竜はCG製が普通になる。インジェン社が南海の孤島イスラ・ヌブラル島に化石中のDNAから蘇らせた恐竜のテーマパークを開設する。主演は古生物学者グラント博士役のサム・ニール。恐竜はT-Rexとベロキラプトル(ラプター)が主で,他にも数種類(ガリミムス等)が登場した。
②『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(97年8月号)
第1作の途中で姿を消したに天才数学者マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)が主役で,恋人サム役はジュリアン・ムーア。サイトBのイスラ・ソルナ島でパークを再開しようという計画で,物語はお粗末(ラジー賞3部門ノミネート)。当映画評は,恐竜数の増加とCG品質の向上だけを評価した。
③『ジュラシック・パークIII』(01年9月号)
スピルバーグは製作総指揮に退き,監督はルーカス・ファミリーのジョー・ジョンストン。第1作の主役グラント博士と元恋人のエリー(ローラ・ダーン)が再登場。舞台はイスラ・ソルナ島で,恐竜はスピノサウルスが主役。
④『ジュラシック・ワールド』(15年8月号)
14年振りの4作目で,新シリーズが始動し,世界的なメガヒットに。監督・脚本はコリン・トレボロウ。インジェン社を買収したマスラニ社がイスラ・ヌブラル島の旧パークをリニューアルして「ジュラシック・ワールド」に。主演は恐竜の飼育係オーウェン(クリス・プラット),共演はワールドの管理責任者クレア(ブライス・ダラス・ハワード)。遺伝子操作で誕生した大型肉食恐竜インドミナス・レックス(I-Rex)と翼竜の群れが脱走して大混乱に。オーウェンが育てたラプターの「ブルー」が活躍する。
⑤『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(18年7・8月号)
C・トレボロウは脚本担当で,新監督はJ・A・バヨナ。I-Rexの脱走事件でパークは崩壊,従業員は引き上げたが,恐竜たちは島に残る。I-RexのDNA採取で一儲けを企む傭兵軍団と,ブルーを捜索・確保したクレア&オーウェンのチームの攻防に。恐竜の種類と数はシリーズ最多で,④に続いて巨大海生爬虫類の「モササウルス」も登場。
⑥『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22年7・8月号)
コロナ禍で1年遅れ,⑤の4年後に公開。解放された恐竜は世界中に散り,人間と共生する生活に。監督・脚本にC・トレボロウが復帰。ライバル企業バイオシン社がイタリアに恐竜の保護施設を設け,オーウェンとクレアは同社の悪人たちと戦う。①の3人も再登場する。史上最大の肉食恐竜「ギガノトサウルス」,最大の翼竜「ケツァルコアトルス」も登場するが,巨大イナゴの大量発生対策が新たな課題となっていた。
【本作の概要と新シリーズの印象】
創始者S・スピルバーグは思い入れがあるようで,製作総指揮として実質的にも「ジュラシック」シリーズに関与している。本作は④〜⑥の3部作とは別の新シリーズの1作目として企画され,監督にはギャレット・エドワードが起用された。VFXアーティスト出身で,『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(17年1月号)『ザ・クリエイター/創造者』(23年10月号)の監督であるから,最新CG/VFXの使い方を熟知していることは言うまでもない。脚本は①②のデヴィッド・コープが28年ぶりの再登板で,これも御大スピルバークの指名での復帰のようだ。スピルバーグ監督作品では他に『宇宙戦争』(05年8月号)『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08年7月号)を,他監督の話題作『ミッション:インポッシブル』(96)『パニック・ルーム』(02年5月号)『スパイダーマン』(同6月号)『天使と悪魔』(09年6月号)『インフェルノ』(16年11月号)等の脚本を担当しているので,脚本家として輝かしい実績がある(駄作も結構あるが…)。
物語の冒頭は2008年で,南米フランス領ギアナの北東にある北大西洋の孤島サン・ユベール島にインジェン社が設けていた恐竜研究室施設内から始まる(写真1)。同社のサイトCとして,遺伝子組換えにより様々な突然変異種を生み出していた。ある職員が捨てた袋が原因で異常事態が発生し,巨大な肉食恐竜ディストータス・レックス(D-Rex)が脱走し,逃げ遅れた職員が死亡した。犠牲者が出たことから,施設は閉鎖され,島も立ち入り禁止となったが,約20種類の恐竜たちも島の各種設備もそのまま放置された。
10数年を経て,物語は⑥の5年後のNYから始まる。一旦は世界に解き放たれて,人間社会と共存した恐竜たちも飽きられ,動物園飼育や博物館展示も人気をなくしていた(写真2)。加えて,気候変動で生きづらくなり,棲息地は赤道近くの熱帯地区に限られ,立入り禁止になっていた。北米大陸で最後まで生き残っていた竜脚類草食恐竜の「アパトサウルス」が療養施設から脱走して交通渋滞を引き起こしたが,市民は関心も示さず,迷惑としか感じていなかった。
本作の主人公は元特殊部隊の女性秘密工作員のゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)で,製薬会社パーカー・ジェニングス社の幹部マーティン・クレブス(ルパート・フレンド)から危険な任務遂行を依頼される。心臓病の新たな特効薬開発には巨大恐竜の遺伝子利用が効果的と判明したため,サン・ユベール島とその周辺に向かい,DNAサンプルを採取するという極秘任務であった。母が心臓病で他界していたことから,彼女はこの任務を引き受ける。
さらにそのチームの1人として勧誘されたのは古生物者のヘンリー・ルーミス博士(ジョナサン・ベイリー)で,①③⑥に登場したアラン・グラント博士の教え子である。世間の恐竜への関心が薄れたことから,彼が勤務する恐竜博物館は閉館に追い込まれていた。高額の謝金と野性の恐竜を見たいという興味から,彼は対象となる恐竜の監修に同行することを諒承する。
ゾーラたちはまず南米スリナム共和国のパラマリボに向かい,ゾーラは長年の傭兵仲間であったダンカン・キンケイド(マハーシャラ・アリ)に参加を求める。ダンカンは自分の船エセックス号の操縦士ルクレール,傭兵のニーナ,警備主任のボビーの3人を連れて来たので,計7人の採取チームでサン・ユベール島に向かうことになった(写真3)。マーティンが求めていたのは,陸・空・海の3大恐竜のDNA採取であった。即ち,陸のティタノサウルス,空のケツァルコアトルス,海のモササウルスである。
サン・ユベール島に向かう途中,民間人のルーベン・デルガドのボートからのSOS信号を受信する。彼らはモササウルスに襲われてボートは転覆するが,ダンカンは一家を救出してエセックス号に同乗させた。父親ルーベンの他に,娘のテレサとイザベラ,テレサの恋人のザビエルがいて,計4人であった。それを機にモササウルスを追跡し,最初のDNAサンプル採取に成功する。サン・ユベール島に近づいたとところで,4頭のスピノサウルスの襲撃に遭う。デルガド一家は船から投げ出されてしまい,ゾーラたちのエセックス号が岩礁に座礁して浜辺に上陸する。この時点で既に2名が落命した。
その後,残る2匹のDNA採取を試みるが,その間に上陸したデルガド一家がT-Rexに川で襲われる模様や,インジェン社の研究施設で生まれた新型の肉食恐竜に襲われる等々の出来事が描かれる。そして,大方の観客が予想するように,終盤で冒頭のD-Rexが再登場する。果たして,何人が生き残り,採取したサンプルを持って帰還できるのか……。
冒頭の出来事は,時代的には④より前で,まだインジェン社は存在していた。サイトAのイスラ・ヌブラル島,サイトBのイスラ・ソルナ島のあった南太平洋でなく,本作では北大西洋の島にしたという設定が心憎い。地理的には大きく異なるので,過去作には影響されない。島はそのまま放置されたというので,いかようにも新シリーズを展開できる。グラント博士への言及があるだけで,登場人物は一新されている。一旦世界に広めたので,恐竜はお馴染みのT-Rexやラプターを始め,過去作の恐竜を適宜登場させても不自然に感じない。サイトCでは突然変異種も作っていたので,新種も登場させることができる。なかなか上手い手口だ。モササウルスもケツァルコアトルスも厳密には「恐竜」ではないのだが,いずれも過去作に登場しているのだから,それは不問でいいだろう。
では,この映画の出来映えと評価はといえば,当欄の評点は過去作よりもやや低い。恐竜が新種であっても,既に一昔前のCG技術でも高画質で描くことはでき,その点では新規性を感じなかったからである。前シリーズは,物語としてオーウェンとブルーの関係が好ましかったし,CGで描く事物ではジャイロスフィアが斬新だった。
ストーリーは単純で,次々と襲って来る恐竜にどう対処するかだけなのだが,恐竜映画はそれで良いのである。実績あるシリーズゆえ,固定ファンがいて,安定した収益はあると思ったが,予想以上だった。北米では大作『スーパーマン』(25年7月号)に退けを取らない興収で,国内ではむしろ勝っている。批評家の評点は低くても,シリーズファンには見て損はないレベルであり,娯楽映画としては十分楽しめる。
【主要登場人物のキャスティング】
シリーズ初の女性主人公であるが,S・ヨハンソンとは随分大物を起用したものだ。もはや紹介の必要もないだろうが,過去にスピルバーグ作品への出演はない。演技力があり,アクションもこなせる貴重な人気女優ゆえ,どんな役柄にするか製作陣も迷ったことだろう。元特殊部隊の傭兵というからには,MCUの「アベンジャーズ」メンバーの「ブラックウィドウ」並みの切れのよいアクションを期待してしまう。一応,しかるべき銃を構えたり,ロープで崖を降りたる等のアクションをこなしているが,筆者には物足りなかった(写真4)。既に四十路で熟女の域に入ったが,タイトなタンクトップ姿で肉感的に見せる演出である。その意味ではどっちつかずだと感じた。では,イケメンのルーミス博士との熱愛シーンはないのかと言えば,(逆ネタバレになるが)本作でそれを期待しない方がいいとだけ言っておこう。それは,次作以降に取ってあるのかも知れないが…。
そのルーミス博士役のJ・ベイリーは英国人で,子役出身のシェイクスピア劇の舞台俳優である。多数のTV番組出演歴があり,映画で名前を知ったのは『ウィキッド ふたりの魔女』(25年3月号)の軽薄な王子のフィエロ役であった。遊び人であり,小粋な衣装で楽しませてくれた。本作の学者役は地味で,戦闘能力はないが,知的で彼には似合っていた(写真5)。続編の『ウィキッド 永遠の約束』(日本では26年3月公開予定)や本シリーズの次回作等での出演が続くことだろう。彼よりも俳優として格が上なのは,ダンカン役のM・アリだ(写真6)。『ムーンライト』(17年4月号)『グリーンブック』(19年Web専用#1)で2度アカデミー賞助演男優賞を受賞している。『スワン・ソング』(22年Web専用#2)での主人公とクローンの一人二役も印象的だった。ゾーラ役のS・ヨハンソンとこの2人は主演トリオとして,新シリーズに登場するものと思われる。
他の助演陣では,悪人マーティン役のR・フレンド,デルカド一家の父親役のマヌエル・ガルシア=ルルフォの2人が,少し存在感のある役だった。出演歴を見ると,前者は『プライドと偏見』(05年12月号)『永遠の門 ゴッホの見た未来』(19年9・10月号)『アステロイド・シティ』(23年9月号),後者は『マグニフィセント・セブン』(17年2月号)『オリエント急行殺人事件』(18年1月号)『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(同11・12月号)『グレイハウンド』(20年9・10月号)に出ていたようだが,殆ど記憶にない。典型的な脇役男優である。本シリーズの敵は恐竜であるので,人間の悪役は誰が演じても大差がない。そういえば,過去作で誰が悪役であったかは覚えていない。
【恐竜の登場シーン順でのVFX解説】
いつもとはスタイルを変え,登場順にVFXシーンを,その撮影方法も含めて分析・解説する。
●デルカド一家の遭難,ボート転覆
本作では海や川のシーンが多い。前3部作のすべてに登場しながら,少ししか姿を見せなかったモササウルスが本格的に登場する。まず,デルカド一家の4人が乗ったボート(マリポーサ号)がモサに襲われ,ボートが転覆する。彼らの遭難信号を受け取ったダンカンは,自分の利益しか考えないマーシャルの反対を振り切って彼らの救助に向う。
この間の海上シーン,ボートの下をモサがくぐるシーンは絶品だ(写真7)。この部分のモサはアニマトロニクスではなく,すべてCGだろう。メイキング映像を見る限り,ブルーバックの壁で囲われたエリアで撮影している(写真8)。島の海岸近くを囲った撮影専用の水槽のようだ。屋内の大型プールではないので,自然の太陽光を利用できるメリットがある。ここでの撮影を,広い洋上でモサがボートの下を移動したように見せる水面処理は見事と言える。
●モササウルスからのDNAサンプル採取
続いては,目的とするモササウルス(体長30m超,体重30t以上)からのDNAサンプル採取で,これは前半のクライマックスであった。エセックス号の傍でモサが咆哮する姿(写真9)だけで,身構える観客もいるに違いない。逃げるモサを追跡し,ゾーラが船の先端部で逆さになりながら針を命中させるシーンは圧巻だった(写真10)。モサの体液を吸い上げると,円筒状のカプセルが自動的に離脱して空中に発射され,それが落ちてくるのを乗員がキャッチするという設定で,これはアイデア賞もので面白かった。宙を舞うカプセルは,当然CG描画であると考えられる。
勿論,巨大なモサはCG製であり,出演者らには何も見えないが,この危険なシーンは写真8のような囲われたエリアでの水上撮影ではない。マリポーサ号とエセックス号は実物の船の他に,原寸大レプリカが存在する。パーツは3Dプリンタで制作され,ロケ現場で組み立てられたという。特にエセックス号のレプリカは,撮影専用のセットと呼ぶべき代物で,45度左右に傾けることも太陽光の向きに応じて全体を回転させることもできる。水槽内で利用できるように設計されたが,安全上の理由から,実際は水なしの槽内で撮影し,外洋で撮影した海の映像と合成したという。一方,写真11のようなメイキング画像があるので,沖を航行する船を撮影クルーが乗る随伴船から撮影したシーンもあったはずだ。映画全体での海上シーンは約600カットあるが,実際の水を使ったのは15%以下だという。
●カラフルなスピノサウルスの出現
早々と1本目の採取に成功し,計11名を乗せた船がサン・ユベール島に近づいた時に,モサと共存しているスピノサウルスが出現する。③の主役であったスピノサウルスよりもかなりカラフルで,見入ってしまう(写真12)。この恐竜が船上にいた少女たちを襲うが,イザベラはかろうじて父親が引き上げた(写真13)。姉テレサが無線で助けを呼ぼうとしたため,機密が漏れることを恐れたマーシャルは彼女を海に突き落とす。恋人ザビエルは彼女を助けようと海に飛び込み,続いて父ルーベンやイザベルも後を追う。ザビエルの機転でスピノサウルスによる難を逃れ,一家は島に辿り着く。このシーケンスも見応えがあった。一方,戻って来たモサに体当たりされ,エセックス号は島に座礁し,船は壊れてしまった(写真14)。
●ティタノサウルスのDNAサンプル採取
島に上陸した採取チームの生き残り5名は,沼地や草地を辿って(写真15),ティタノサウルス(体長20m以上,体重13t以上)の棲息地を見つける(写真16)。①ではブラキオサウルスの大きさに驚いたが,この草食恐竜もかなり大きい。化石からは色も肌の模様も特定できないはずだが,長い首の部分は縞模様,尾は極端に長くして,見栄え重視で描いている。本シリーズでこの恐竜が登場するのは初めてだ。牡牝のカップルが鼻面を寄せ合う求愛シーンは微笑ましく感じた(写真17)。この草食恐竜からのサンプル採取は簡単に終わった。
●デルカド一家がT-Rexに追われての川下り
先に島に上陸したデルカド一家の4人は別行動になり,様々な恐竜に遭遇する。川の側でテレサが遭遇する「ディロフォサウルス」は,①⑥に登場した人気恐竜である。頭骨上部にエリマキトカゲ風の一対の鶏冠をもつが,過去作よりも一層鮮やかな色で描かれていた(写真18)。ファン・サービスでの顔見せのような登場の仕方である。
続いて登場するのが,定番のT-Rexである。ただし,過去作に登場した個体とは少し違っていて,この島で作られた縞模様のある灰色の胴体だという。劇中では全く気付かなかったが,静止画で見るとそれらしい新デザインだ(写真19)。テレサが急ぎゴムボートを膨らませて家族を乗せ,川下りするのを執拗に追う(写真20)。長めのシーケンスで,これは中盤の見どころである。T-Rexが水に潜って泳げるというのは初めて知った。狭い岩の間を通り抜けられず,そこで断念するというのがご愛嬌であった(写真21)。
写真22のようなメイキング映像があり,このゴムボートは劇中での注意通り,瞬時に膨らんでいる。ということは,この景観はロケ現場の実風景であり,これに続く川下りの急流も現地の川でT-Rexだけを合成したのだと思ったのだが,それは動き始めだけだという(写真23)。急流になる下流部分は水槽での撮影かCG製の水のようだ。
採取チームの最後のターゲットは大型翼竜ケツァルコアツルス(翼開長は10m以上)のDNAであった。滝がある崖の中腹に古代神殿の遺跡があり,ここに翼竜が巣を作っていていることが判明した。ヘンリーたちはロープを使った懸垂下降でこの巣の中に入り,卵からDNAサンプルを抽出することにした(写真24)。ところが,途中で親が戻って来たため,この翼竜との激しい戦いとなり,ここで1名が落命する(写真25)。崖の中腹での攻防は珍しく,あの手この手で楽しませようという娯楽映画の真骨頂である。ただし,ロケ地でこんな撮影をするはずはなく,こちらもすべてVFX合成の産物である(写真26)。
●終盤の突然変異種とのラストファイト
ゾーラらが元インジェン社の研究施設に到着すると,培養中の研究標本(写真27)もインジェン社の四輪駆動車も残されていた。採取チームとデルカド一家はここで合流した。島は地熱発電によって今も電気が通じていて,ガソリンスタンドの照明もついていたので,そこに向かったところ,付設のコンビニ店内から突然変異種のミュータドンが現われた(写真28)。ラプターと翼竜の遺伝子融合種の肉食恐竜で,前足は翼,俊足はラプター譲りである(写真29))。ここまでくると恐竜の感じがせず,もはやただの怪獣である。
●終盤の突然変異種とのラストファイト
ゾーラらは地下トンネルに逃げ込み,何とかミュータドンの追撃を退けたが,次に待っていたのは,真打ちのボスキャラだ。映画の冒頭で少しだけ姿を見せたお待ちかねのD-Rexの再登場である(写真30)。こちらも突然変異種であるが,T-Rexのゲノムに様々な生物のDNAが取り込まれて生まれた奇形で,体高9m,全長15m,重さ9tで,手が4本もあるという。この怪物から逃れるのに誰が活躍し,誰が生還できたかは観てのお愉しみとしておこう。
●本作に登場するその他の恐竜たち
ヘンリーが勤務する博物館の展示やダンカンの拠点のバーにあった籠にも何種類かの恐竜がいたそうだが,そこまで眺めていて,種類まで分かるのはよほどのマニアだけだろう。お馴染みのラプターはどこかで登場したはずかだが,筆者は気付かなかった。上記のカラフルなディロフォサウルスの近くにあった死骸は「パラサウロロフス」だったようだ。また,岩山近くの空を飛ぶ翼竜がいたが,これが採取対象のケツァルコアツルスかどうかは識別できなかった(写真31)。
本作の目玉は,少女イザベラがペットして可愛がる小型草食角竜の「アクイロプス」である(写真32)。イザベラは「ドロシー」と名付け,リュックに入れてずっと持ち歩く(写真33)。これはCGでなく,体長約45cmのアニマトロニクスを3体制作し,遠隔制御で目が口を動かしている(写真34)。
●サン・ユベール島のロケ地とVFX加工
映画の大半の舞台となるサン・ユベール島のロケ地には,ドミニカ,モーリシャス,パナマ,コスタリカが候補になったが,エドワーズ監督が『ザ・クリエイター/創造者』で利用したタイ南部を強く推薦したため,同国のクラビー県,トラン県,パンガー県が利用された。ダンカンが暮らす南米スリナムも,タイの漁村にセットを組んで撮影している。一方,海上シーンのための水槽は地中海のマルタの映画スタジオ内に設けられた。洋上での撮影は周辺の地中海を使ったという。
島の内部の沼地や草地は,写真35のようなメイキング映像があるので,写真15は実際にタイ南部のロケ地の自然の中で撮影したのだと分かる。では,写真36の美しい浜辺や個性的な形の岩山もタイの自然風景かと言えば,そのものではなく,大半のシーンはVFX加工で誇張されているとのことである。印象に残る数条の滝もタイには実在せず,インドで撮影した滝を大幅にVFX加工して, 写真37の形にしたという。本作のCG/VFXは技術的新規性はないが,海の描写はハイレベルだった。担当はILMで,1社でほぼ全体を処理している。プレビスはProof,3D変換はDNEGが担当した。
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