O plus E VFX映画時評 2026年7月号
(注:本映画時評の評点は,上から![]()
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トム・ホランド主演の第3シリーズの4作目,過去2つの実写シリーズ,CGアニメシリーズを含めると通算11作目,マーベル・スタジオが関与するMCUとしては38作目に当たる。過去作は,通し番号を付けた上で,その一覧を前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22年Web専用#1)の紹介記事中に記したので,そちらを参照して頂きたい。第3シリーズ以降はMCU扱いされたとはいえ,ディズニー配給作品ではなく,第1シリーズ以来,一貫してソニーピクチャーズ製作&配給であったので,少し自由度が高いのか,他のMCU作品とは別系列の趣きもあった。当欄では,第3シリーズは3作とも☆☆☆評価している。
上記の前作は,第3シリーズの最終章で完結編と公言されていたのだが,筆者は「当初から3部作の契約なら仕方がないが,彼は歴代のスパイダーマンの中でも,ピーター・パーカー役に似合っていた。現在25歳で,そろそろ男子高生は苦しい年齢だが,小柄で童顔なため,今でも若々しく見える」と書いた。その声が届いた訳ではないだろうが,嬉しいことに公言を翻し,トム・ホランド主演の第4作が製作された。先日の『トイ・ストーリー5』(本号)で,「ハリウッドは3部作で区切るのが好きらしい」と書いたばかりだが,本シリーズもその慣例を破って,4作目に突入したのである。万歳三唱したい思いであった。
前評判が高かったので,この映画はマスコミ試写を申し込まず,公開後に映画館で観ることにした。大きなスクリーンで観た上に,会場の反応を肌で感じたかったからである。では,その出来映えはと言えば,期待を遥かに上回る大傑作であった。エンドクレジットの終わりで席を立つ観客はなく,スパイダーマン人形を抱えた若者は感涙に震えている様子だった。「文句なく,サイコーだな」の声も聞こえた。嬉しさからの贔屓目を割り引いても,シリーズ最高傑作である。前作時には「『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)が別格のオールスター映画だとすれば,MCUの中でも単独ヒーロー映画のBest 1だ」と書いてしまったので,今回は「最高傑作の更新」だと言わざるを得ない。
この[概要と感想]は急いで着手せずに,月曜日に週末興行成績の結果が出るのを待ってから書いている。国内興行は今夏最大のヒットとされる『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を抜いて第1位を飾り,北米Box Officeもメガヒットで,『…/エンドゲーム』に継ぐ映画史上第2位だという。単なる人気だけでなく,当欄の主題であるCG/VFXの見どころ満載であり,技術的にもレベルが高い。デスティン・ダニエル・クレットン監督が語るメイキング映像も公開されているので,当欄としては,それを細部まで吟味した上で,充実したCG/VFX解説を書いて記録として残したい。それには,通常の完成版以上の時間がかかると思われるので,その掲載まで数週間以上お待ち願いたい。本作を絶賛する記事は既に多数出回っているので,ざっとした物語内容や見どころは,それで事足りると思う。
【本作の概要と物語展開】
前作で制御不能となったマルチバースの危険性から人々を救うため,ピーター・パーカー(トム・ホランド)はDr.ストレンジに,魔法で世界中の人々から自分の記憶を消すことを依頼した。それから4年間,叔母メイを亡くしたピーターは1人暮しをしながら,NYの町で英雄スパイダーマンとして市民の安全を守る活動を続けていた。市長から表彰され,名誉ある金の鍵を渡されたが,恋人MJ(ゼンデイヤ)や親友ネッド(ジェイコブ・バタロン)と会えない淋しさが紛れることはなかった。
ある日,ピーターは市中を暴走する戦車を食い止めようとしたが,ダメージ・コントロール局(DODC)の施設に突入してしまった。戦車の運転手は,念力(サイコキネシス)で他人を操ることができるミュータントに,心を乗っ取られていたことが判明する。このミュータントは次々とDODC関係者に憑依し,DODCに収監されていた殺人鬼スコーピオン(マイケル・マンド)も脱走させてしまった。スパーダーマンにこの念力は通じなかったが,ピーターは身体に異常を感じ始め,驚くほど暴力的になり,再会したスコーピオンを叩きのめした挙句,駆けつけた警官を誤って傷つけてしまった。
ピーターは,ブラック・ウィドウことエレーナ・ベロワ(フローレンス・ピュー)に接触して,DODCを執拗に襲撃する超能力者の存在を知り,パニッシャーことフランク・キャッスル(ジョン・バーンサル)の力を借りて,この人物の正体も知る。この時点で,ミュータントの名前は判明していたが,配給元が公開時まで機密にしていたので,ここでは伏せておこう(完成版では明らかにする)。
ピーターは,制御しきれない自分の変異を抑制するため,そうした抑制装置の開発に成功していた大学教授ブルース・バナー博士(マーク・ラファロ)を訪ねて,教えを乞う。ところが,ミュータントが博士に乗り移ったため,バナー博士は自らを抑制できず巨大な超人ハルクに変身してしまった。スパイダーマンは彼と戦うことになり,ようやくハルクを制圧して,ピーターは体内からミュータントを引きずり出し,DODAに引き渡した……。
ここまでで,約1時間半だった。それまでの激しいアクションシーンにも,さらなるパワーを得たスパイダーマンの躍動感にも満喫できたので,ここで終わりでも十分だった。時計を見ると,まだ残り約1時間もあった。その後何が起こるかは,観てのお愉しみとしておこう。ただし,観賞の参考となるように,いくつか要点だけを述べておく。
①前作から4年も経っているので,MJもネッドもMITを卒業し,NYに戻って来ていた。偶然,ピーターは街で彼らに遭遇するが,2人ともピーターの記憶は皆無で,ましてや彼がスパイダーマンであることは知るよしもない。MJには新たな恋人がいて,ピーターは落ち込む…。この3人の関係が最終的にどうなるかは,想像にお任せする。
②なぜこのミュータントがDODAに恨みを抱いているかについて,ピーターがDODA局長のビル・メッツガー(トラメル・ティルマン)に尋ねたが,彼は心当たりはないと答えた。これが嘘であることが明らかになる。その後の展開が後半の見どころの中心である。
③念力,テレパシーをフル活用するミュータントについて,少しだけヒントを書いておこう。本シリーズにもMCUにも初登場で,旧『X-MEN』シリーズの主要メンバーであった(ただし,俳優は異なる)。この俳優の名前は,来たる『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(12月号掲載予定)の出演者の中にあった。即ち,同作で再登場することはほぼ確実で,ここで『アベンジャー』シリーズと『X-MEN』シリーズがようやく繋がることになる。
【監督と主要キャスト】
第3シリーズの前3作の監督はジョン・ワッツであったが,本作からD・D・クレットンに交替となった。彼は日本人のようにも見える顔だと思ったら,ハワイ・マウイ島の生まれで,母親が日系米国人であった。長編映画の監督はこれで6作目だが,過去5作では脚本も担当している。前作は,MCU25作目の『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21年Web専用#4)であった。『…/エンドゲーム』以降のMCUの駄作揃いの1つで,中国系の主人公もヒロインもおよそ魅力に欠ける俳優で,当欄も高評価を与えなかった。ただし,酷評したのは企画とキャスティングであり,アクション演出やCG/VFXに関しては褒めている。お粗末な企画で本領発揮できなかったクレットン監督の実力は,本作でようやく陽の目を見ることになったのである。
主要キャストの内,ピーター,MJ,ネッドのトリオはこれで4作目であり,改めて各俳優の経歴を紹介するまでもないだろう。いずれも,少し老けたなと感じるが,既に高校生役ではなく,大学卒業後の設定であるから,何とか許せる。3人の中では,トム・ホランドが一番若く見えた。同年齢のゼンテイヤは大人の顔立ちになり過ぎで,あまり魅力的でなくなった。元々T・ホランドよりも7cmも高身長だったが,益々デカく見え,全く1作目のような初々しい可愛さはない。女優としての曲がり角で,もはや恋人MJには相応しくない。と思っていたが,私生活を聞いて驚いた。2人は既に結婚していて,本作の公開の前月にそのことを公表したようだ。
この3人以外で,上記で名前を出した各俳優の経歴は,完成版時に紹介する。その他では,常にスパイダーマンの味方をしてくれるNY市警のジーン・デウォルフ刑事役の女優ライザ・コロン=ザヤスが印象的だった。また,前作で落命したメイ叔母さん(マリサ・トメイ)が回想シーンの中で再登場するのが嬉しかった。
【素直な感想〜何がそんなに凄いのか】
興行的な大成功だけでなく,批評家,観客の両方からの評価も極めて高い。以下,何がそんなに凄いのか,筆者の素直な個人的感想を披露しておこう。
■ 4作目が作られたこと喜んだが,もう1つ予想が的中したことがある。前作は第1,第2シリーズのピーター・パーカー役俳優の他に,ヴィランも登場させる同窓会というべき楽しさだった。当時は,別の並行世界から彼らを呼び寄せる「マルチバース」の使い方が新鮮に感じた。前作の記事中では,「実写で懐かしい主演俳優の再登場はファンにとって嬉しい限りだから,同じ手口が今後も使われることだろう(やがて,飽きられるが)」と書いている。果せるから,「マルチバース」を金看板にしようとしたMCUは,見事にファン離れを起こし,やがて看板を下ろした。本シリーズはさっさと使い逃げにした成功例と言える。
■ CG/VFX多用作であることは第1シリーズから明らかだが,その使い方が進化していて,躍動感に溢れている。ピーターのビルの上からの落下も,それに続く,お馴染み「スパイダースウィング」も惚れ惚れする。アクションシーンも,スパイダーウエブを縦横に駆使した本シリーズならではのアクションデザインが絶品であった。技術的にはこれまでと大差はないはずだが,VFX演出力の進歩だと感じた。
■ 市民を守る活躍にウキウキするというのは,スーパーヒーロー映画の原点であり,この原点回帰が嬉しい。それでいて,悩めるピーターの描き方も心を揺さぶられる。アクション映画であり,かつ青春映画であることの両立のバランスが見事だった。
■ 上記のテレパシー能力のあるミュータントが『…/ドゥームズデイ』で再登場するということは,この敵役がスパイダーマンに滅ぼされて死ぬことはないことを保証している。その他,この映画の結末で不幸になる人間はいない。ヒーローたちのメンタリティを真剣に描くことと暗い映画にすることは同義語ではない。ある時期,それを取り違えた映画が多かった。多少能天気な明るさくらいで丁度良い。ひたすら暗く,心が寒くなるアメコミ映画など見たくもない。
■ ハルクやパニッシャーの登場を始め,マーベルコミック内のクロスオーバーは元より,他作品や原作コミックへのオマージュやパロディも満載に思えた。様々な小ネタを見つけたと得意げに投稿しているオタクファンも,既に何名も登場している。それを喚起する映画作りもファンサービスの大事な要素である。
【CG/VFXの見どころ】
まだ画像データの整理がついていないが,完成版で解説したいVFXシーンはいくつもある。ざっと上げただけでも,以下が挙げられる。
・市民を守る行動,マーベル・ヴィラン退治
・市中での戦車相手の一大アクション
・邪悪なスコルピオンとの戦い
・巨大化したハルクを宥め,高層ビルからの落下
・忍者集団「ハンド」との跳んだり撥ねたりのバトル
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