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O plus E誌 2013年2月号掲載
 
 
ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』
(東映配給)
      (C) teamWorx2011
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月16日より丸の内TOEIほか全国ロードショー公開予定]   2012年12月26日 東映試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  爆発・炎上シーンは,劇場公開にも十分な品質  
  若い頃に同名の飛行船爆発の映画を観たという記憶がある。予備知識なしに映画館に入り,ハラハラドキドキしながらも,危機一髪で回避されるのだと思っていたので,最後の大爆発で吃驚仰天した。歴史に残る大事件であったことは後日知った。モノクロ映像であったことも鮮明に覚えている。既に総天然色映画の時代だったはずなのに,なぜ白黒だったのか,意図的に戦前のイメージを出すためだったのだろうか。
 今回調べ直してみて,それは1975年製作(日本公開は1976年)のハリウッド映画『ヒンデンブルグ』であり,監督はオスカーを2度受賞している巨匠ロバート・ワイズだと分かった。映画は最初からずっとカラーだったのが,クライマックスの爆発時でモノクロに切り替わり,1937年当時のニュース映像を挿入し,ラジオの実況中継も流すという手法を使っていたようだ。白黒映像の部分だけ覚えていたのだから,印象が強かったのだろう。古い記憶というのはその程度のものだ。40年近く前の映画にCGは使われていないから,大爆発と炎上シーンは古典的な特撮技術で描写していたことになる。
 このドイツ製の大型硬式飛行船LZ129ヒンデンブルグ号の爆発事故は,1912年英国の豪華客船タイタニック号の沈没事故,1986年米国のスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故と併せて,20世紀の3大事故と言われているそうだが,勿論,最近になって言われ始めたことである。この爆発事故以降,浮揚ガスに水素を使うことはなくなり,代わってヘリウムが使われるようになったという。
 さて,同名ながらも副題を付しての本作では,映画の冒頭でいきなりヒンデンブルグが爆発炎上し,地上は阿鼻叫喚と化すシーン(写真1)から始まり,その後,物語はその4日前に戻る。勿論,フルカラーであり,最新のCG/VFX技術を駆使した迫力ある描写である。物語は,旧作と同様,時限爆弾がセットされたという設定を踏襲し,かつヘリウム輸出を目論む企業の思惑やナチス第三帝国の陰謀を絡めたストーリーになっている。
 
   
 
 
 
写真1 本作では,いきなりフルカラーで,爆発・炎上から始まる
 
 
  ドイツ映画であり,監督のフィリップ・カーデルバッハはじめ,設計技師マーテン役を演じるマクシミリアン・ジモニシェックやツェッペリン飛行船会社,ナチス関係者はドイツ人である。一方,米国人のヒロイン,ジェニファー役のローレン・リー・スミスはカナダ生まれの女優である。ちょっと残念なのは,全編英語のセリフであることだ。ドイツ語と英語を混ぜ,想定する場面に応じて言葉を使い分けてこそリアリティが増すのに,勿体ないことだ。特に,ナチス・ドイツに関わる映画なら,あの仰々しいドイツ語の響きが相応しい。この作品は,劇場公開用でなく,2011年にTV番組用に製作されたとのことだが,ドイツ国内での放映時には,当然すべてドイツ語だったのだろう。
 監督や俳優は,なるほどTV界中心の人物だが,映像的には劇場公開に十分なクオリティに仕上がっていた。最初から,劇場用映画として輸出することを意識して作られたに違いない。CG/VFXは,ハリウッド大作級ではないが,その威力を十分に感じさせてくれた。それもそのはず,VFX担当はドイツに本拠を置くPixomondo社だ。同社が同年に手がけた『ヒューゴの不思議な発明』(12年3月号) は,昨年のアカデミー賞の視覚効果部門でオスカーを得ているから,その実力のほどが知れよう。俳優のギャラを抑えてCG/VFXに投じたのだとすれば,当欄にとっては誠に喜ばしい。
 ヒンデンブルグ号は飛行中のシーンだけでなく,離陸前から描かれているが,大陸間移動の旅客用であったことが納得できる威容である(写真2)。アルミ合金製の多角形形状は,まさにCGのポリゴン形状そのものだ。米国ニュージャージー州レイクハースト海軍飛行場への着陸繋留時に,尾翼付近から爆発炎上した模様は史実通りに描写されている(写真3)。旧作のモノクロ映像を覚えている筆者としては,フルカラーの爆発シーンは感動ものである。スペクタクルは,むしろこの爆発後の墜落・崩壊シーンであり,最新CG/VFX技術の賜物である。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 離陸前のヒンデンブルグ号。大きさがよく分かる。
 
 
 
 
 
写真3 こちらは,レイクハースト海軍飛行場への着陸時
(C) teamWorx2011
 
 
  この爆発シーン以外にも,冒頭のグライダーの飛行,悪天候と雷鳴,飛行船内での火炎等の描写も高水準だった。言語問題以外にもう1つ注文をつけるなら,この映画は3Dで描けば効果抜群だったと思う。グライダーの落下も飛行船内の骨組み構造も,まさに3D向きなのに,TV放映用であったことが惜しまれる。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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