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O plus E誌 2007年12月号掲載
 
 
 
『魍魎の匣』
(ショウゲート配給)
 
      (C) 2007 「魍魎の匣」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [12月22日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年10月11日 松竹試写室  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  熱狂的ファンをもつ妖怪ミステリーの見事な映画化  
 

 すばり力作である。京極夏彦のあのとてつもなく厚い怪奇小説を2時間半にまとめ,それでいて独特のフレーバーを残し,ビジュアル的にも見せ場がある映像作品に仕上げるのだから,相当なパワーをかけないと実現できる訳がない。この題は「もうりょうのはこ」と読む。デビュー作「姑獲鳥(うぶめ)の夏」に続く2作目にして,日本推理作家協会賞を受賞した代表作である。
 それにしても,この人の本は部厚い。今手元にある原作の文庫本は,厚さ4.4cm,1060ページもある。これでも薄い方で,「絡新婦の理(じょろうぐものことわり」は1359ページ,鉄鼠の檻(てっそのおり)は1389ページで,ともに5.8cmだ。サイコロ本と言われる所以である。ここまで来ると,3時間や3時間半あっても正確には描き切れないから,2時間半で妥協せざるを得なかったのも納得できる。
 監督は『金融腐蝕列島 呪縛』(99)『突入せよ!「あさま山荘」事件』(02)の原田眞人。『ラスト サムライ』(04年12月号)に出演するなど,俳優としても個性的な活躍をしているエネルギッシュな人物だ。本作に入れ込んで映画化を熱望したというだけあって,自ら脚本も書いている。一体,何度この厚い原作を読んだのだろう。主要キャストは,陰陽師の京極堂(中禅寺秋彦)役に堤真一,その妹で記者の中禅寺敦子役に田中麗奈,京極堂の同級生連中では,探偵・榎木津礼二郎役に阿部寛,刑事・木場修太郎役に宮迫博之という布陣だ。なかなか息が合ったチームだと感じたが,これは京極堂シリーズの第1作『姑獲鳥の夏』(05)と同じキャスティングだった。ただし,作家・関口巽役は永瀬正敏から椎名桔平に変わっている。その他,本作のヒロイン・元女優の柚木陽子役に黒木瞳, 助演陣に柄本明,笹野高史,宮藤官九郎,篠原涼子など,なかなか豪華な出演者たちだ。
 1945年太平洋戦争末期の戦場から映画は始まるが,7年後の1952年が主たる舞台だ。まだ戦後の混乱が残る時代に起きた美少女連続殺人事件,不幸をハコに閉じこめるという奇妙な新興宗教,そして奇妙なハコ形の建築物に秘められた謎……。3つの事件が複雑に絡み合って登場人物が出揃ったところから,次第に京極堂チームの謎解きが進行する。人物関係をあまり詳しく書いてはこの映画の愉しみが半減するから,これくらいにしておこう。京極夏彦自身は,小説と映画は本質的に別の著作物と割り切っているというが,京極ワールドをうまく原田流に映像化していると思う。気になる作家であるが,なかなか時間がなくてサイコロ本を手にできない筆者のような人々には,映画で京極堂(百鬼夜行)シリーズを堪能できるのは嬉しいことだ。
 この映画はVFX駆使もウリにしている。レベルも分量も驚くほどではないが,効果的な使い方ではあった。物言わない主役である「匣館」の立地にはこだわって,表から観た光景と裏からの光景で別のロケ地(千葉県と茨城県)が選ばれているが,その丘の上に立つ館はCGで建てられている。なるほど,これなら炎上させるのも壊すのも自由自在である(写真1)。館の中は勿論セットだが,結構CGで装飾されたと思しきシーンもあった(写真2)
 50年以上前の1952年の光景もVFXの出番である(写真3)。全部CGで装飾している訳ではないが,巧みにこの時代の雰囲気を醸し出していたのは,上海ロケを行った賜物だ。大商業地都市・上海といえども,場末や郊外には昔の日本を彷彿とさせる場所があるようだ。およそ日本とは思えないシーン(写真4)も出てくるが,それはそれでちょっとエキゾチックなミステリー世界を効果的に演出している。
 強いて難を言えば,スピーディーな展開過ぎて恐怖感をゆっくり感じている暇がなかったことだ。また,クライマックスで美馬坂博士が狂気の沙汰を演じる下りは,もう少しスケールが大きな仕掛けにできなかったのかと惜しまれる。日本映画の製作予算の限界なのだろう。
 ハリウッド資本でリメイクしたら,ぐっと迫力あるスケールで描くことができ,この脚本はもっと生きてくるだろう。監督は原田監督のままでいい。『ザ・リング』(02)や『THE JUON/呪恩』(04)とはまた違ったジャパニーズ・ホラーとして受け入れられると思う。そんな企画を,一瀬隆重氏はプロデュースしてみませんかね?

 
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写真1 綿密に選んだロケ地の上にCG製の匣の館が建つ。燃やすも壊すも自由自在だ。
 
     
 
写真2 匣館の中もちょっと変わった光景   写真3 1952年の光景は,無論デジタルVFXの産物
 
 
 
 
写真4 戦後を描くのに中国ロケを敢行。好い選択だ。
(C) 2007 「魍魎の匣」製作委員会
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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