O plus E VFX映画時評 2025年24月号

『マインクラフト
/ザ・ムービー』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[4月25日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]

(C)2025 Warner Bros. Ent.


2025年4月9日 大手広告試写室(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


大人気ゲーム初の映画化は年少者向きで, ブロック世界は個性的

 4月号のメイン欄は,大波乱になってしまった。事前告知とは,対象も掲載時期もかなり異なってしまい,当てにしておられた愛読者にはご迷惑をかけてしまった。こんなことは,このWeb掲載方式にしてから初めてのことだ。勿論,そうなったのには,それだけの理由があったからである。
当初は,4月号のメイン記事予定はこの『マインクラフト/ザ・ムービー』1本だけだった。他に重要なCG/VFX多用作が見当たらなかったからである。ところが,試写を観てから,論評欄予定だった2本に対して,画像を掲載しておきたくなった。それで,一旦文字だけの論評欄記事を書いた上で,後日加筆し,メイン欄に格上げして,しかるべき画像を入れることにした(内1本は,格上げ未達成だが)。
 これだけなら本作には影響ないはずだが,こちらは内容が芳しくなかった。全くのお子様映画であり,まともな大人の映画ファンが見る映画ではないと感じた。よって,逆にメイン欄から格下げして,論評欄で言及しようかと考えた。そこに話題のNetflix『新幹線大爆破』が配信開始され,これも急遽メイン記事に格上げすることにした。ヒューマンドラマはお粗末ながら,鉄道映画としては出色だった。大きなスクリーンで劇場公開すべきと思うほどで,そのまま海外に出して恥ずかしくない映画であった。CGやミニチュアの使い方も語るに値したので,多数の画像を使った長文記事にした。
 それを進めつつ,一方の本作は,文字だけの論評を短く書いて一旦はアップロードしたのだが,数時間で削除してしまった。お子様映画なら小学生が,ゲームファンが注目するなら彼らが楽しめば良いのであって,映画評論家がネガティブな記事を書いて掲載する必要はないと考えたからである。ところが,月が変わってから気が変わり,メイン記事として復活させる気になった。興業成績が意外だったのと,元となった人気ゲームへの興味が湧いて来たからである。海外では日本より3週間前に公開されたが,筆者の評価と同様,批評家の評価も低く,酷評と言えるほどだった。その一方,北米興行成績は絶好調で,今年の最高額を更新した。このこと自体は不思議ではない。世界で最も売れたインディーゲームの映画化なら,日頃は映画館に来ないゲームファンが多数来場することは大いにあり得る。驚いたのは,公開週の週末国内興行成績が『名探偵コナン 隻眼の残像』に次ぐ2位であったことだ。邦高洋低の中で,この成績は立派と言えるし,意外でもあった。
 一体どういう観客層,年齢層が支持しているかの興味とともに,「マインクラフト(マイクラ)」の仕組み,ゲームとしての価値,ゲームと映画での画質の違い,欧米と日本での顧客層が同じか違うのかも知りたくなった。名前は約10年前に知っていて,教育分野からも注目を集めるソフトであることも分かっていたが,当時は十分な情報もなく,詳しく調べなかった。ゲームとしてここまで人気を得ている上に,映画化されてヒットし,既に続編の製作も決定しているとあっては,その1作目を非掲載で終る訳には行かない。CG/VFX多用作の同時代評価を標榜する当映画評としては,1作目を観た時点での記録を残しておくことにしたという次第である。
 と言っても,映画本編の評価自体を変えるつもりはない。解説は少なめにし,しかるべき画像を載せるだけに留める。それとは別に,第2部として「マインクラフト」のエッセンスと個人的な視点での調査結果を載せることにした。かなり変則のメイン記事であることを,予め断っておきたい。

【本作の概要とキャスティング】
 監督はジャレッド・ヘス。劇場公開用長編映画はこれが6作目で,コメディが得意な監督のようだ。国内劇場公開作は過去に『ナチョ・リブレ 覆面の神様』(06年11月号)だけで,当欄は低評価で,であった。その監督に,同じジャック・ブラック主演で撮らせたら,本作の出来映えになってしまうのも当然だと思えた。
 主人公の1人,スティーブは少年時代から鉱山が好きだった。大人(J・ブラック)になって,同じ鉱山に戻って来たところから物語は始まる(写真1)。「マインクラフト」の「マイン」は,何となく「I My Me Mine」の「Mine(私のもの)」か,Myのドイツ語形のマインかと思っていたのだが,それは「Mein」であった。ここの「マイン」は,英語の「Mine(鉱山)」だったのだと初めて知った。「Minecraft」は,仮想空間内に存在する岩山,森林,草原,砂漠等から,岩,木,金,銀,鉄などの素材の立方体ブロックを集め,道具や建物を作ることを楽しむ「サンドボックス型」のゲームとのことである。


写真1 少年時代と大人になってのスティーブ。いつも青いセーターを着ている。

 閑話休題。スティーブは夢だった鉱山に侵入し,そこで見つけたオーブとアースクリスタルを組み合わせたところ(写真2),異世界の「オーバーワールド」に転送されてしまった。そこは地形を容易に操作できる立方体から構成された楽園で,スティーブはこの世界の生活を満喫する(写真3)。ところが,「ネザー」と呼ばれる地獄の世界に隣接していて,金の亡者のピグリン族が住んでいた(写真4)。スティーブはネザーの支配者の魔女マルゴシャ(写真5)に捕らえられ,投獄されてしまう。マルゴシャがオーブを手に入れるとオーバーワールドまで支配してしまうため,スティーブは愛犬デニスを脱出させ,現実世界のベッドの下にオーブとクリスタルを隠させた。


写真2 オーブとアースクリスタルを組み合わせると不思議なパワーが生まれる

写真3 転送先のオーバーワールドは夢のような世界

写真4 ネザーは溶岩でできた地獄のような世界。左下の紫の扉が他世界へのポータル。

写真5 ネザーの支配者のマルゴシャ。これでも女性。

 もう1人の主人公はギャレット・ギャリソン(ジェイソン・モモア)で,アイダホ州チュグラスでビデオゲーム店を経営していた。彼は倉庫オークションで,スティーブの古い家財道具一式を落札する。その中にはデニスが隠したオーブとクリスタルも含まれていた。一方,ナタリー(エマ・マイヤーズ)とヘンリー(セバスチャン・ハンセン)の姉弟は,母の死後,チュグラスに移り住んできた。ヘンリーは自ら起こした事件で,ギャレットが叔父だと嘘の証言をしたため,ギャレットのゲーム店に連れて行かれる。店でヘンリーはオーブとクリスタルを見つけ,操作すると2人はスティーブの鉱山に送られてしまった。姉ナタリーは不動産屋ドーン(ダニエル・ブルックス)の助けを借りて,ヘンリーの居場所を突き止め合流する。ヘンリーが再度クリスタルを操作すると,今度はこの4人がオーバーワールドに転送されてしまった(写真6)


写真6 (上)オーバーワールドの入口,(下)現実世界の姿のままやって来た4人組

 オーブが戻って来たことを知ったマルゴシャは,スティーブを牢獄から解放し,オーブを取り戻そうとする。モンスターに襲われた4人組を助けたのはスティーブで,ギャレットと意気投合し,先住転送民として彼らを導く(写真7)。その後,マルゴシャが派遣したピグミン侵略軍(写真8)と戦う冒険物語が延々と続くが,詳細は省略する。最終的には,ギャレットらはオーバーワールドを救い,現実世界に戻って平和で幸せな生活に戻ることは容易に想像できるだろう。


写真7 オーブとアースクリスタルを組み合わせると不思議なパワーが生まれる

写真8 チャンガス将軍率いるピグリン侵略軍(獰猛なブタの集団)

 キャスティングに触れておこう。ジャック・ブラックは元々ロック・シンガーで,当欄が最初に彼を紹介したのは,出世作『スクール・オブ・ロック』(04年4月号)であった。破天荒なニセ教師が織りなす音楽映画が心地よかった。ところが,前述の『ナチョ・リブレ…』以降,異色俳優なのはいいとして,騒々しく,ウザイことが多い。『カンフー・パンダ』シリーズの主役ポー,『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(23年4月号)のクッパ役等,アニメの声優だとそう違和感はないのに,実写映画だと過剰な演技が煩わしく感じる。本作のスティーブもただただ騒々しく,不快感すら感じた。マイクラ世界の主人公/案内役には似合わないという声も少なくない。
 実質の主演であるジェイソン・モモアは,言うまでもなく,DCEUで6度「アクアマン」を演じた男優だ。『DUNE/デューン 砂の惑星』(21年9・10月号)の武術教師ダンカンも印象に残る役柄だった,『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(23年5月号)の敵役ダンテに至っては,完全に主役のドム一家を食ってしまう存在で,次作も登場するようだ。もはや大作に欠かせない売れっ子で,本作のようなお子様映画に起用するのは勿体ない。
 残る3人の内,ドーン役のダニエル・ブルックスは中堅の黒人女優である。『カラーパープル』(24年1月号)で,主人公セリーに影響を与えた気が強くパワフルな女性ソフィアを演じていたのが記憶に残っている。ナタリー役のエマ・マイヤーズはNetflix配信のドラマシリーズ『ウェンズデー』でブレイクした注目の若手女優のようだが,日本国内で劇場公開作での出演は本作が初めてである。本作で重要な役割を果たすヘンリー役のセバスチャン・ハンセンは,本作の出演以外の情報がなかった。

【映画としての評価】
 異世界に入り込んでの冒険物語は,『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)やその続編『同/時間の旅』(16年7月号)を始め,多数を数える。地下空間が対象の『センター・オブ・ジ・アース』シリーズや『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(22年Web専用#7)は,ジュール・ヴェルヌの「地底旅行」の影響を受けていた。宇宙空間の惑星を舞台とするSF映画やタイムトリップして別時代で過ごす映画も,同工異曲と言える。本作の印象は『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(18年3・4月号)に最も近かった。4人が異世界(ゲーム世界)に入り込んで,案内人に出会うというのがそっくりだ。(案内人ではないが)奇妙なオベロン教授役でJ・ブラックが出演していて,彼が煩わしかったことまで共通している。
 本作の異世界は,オーバーワールドやネザーであり,ビジュアル的に特異な世界である。普通の人間の姿なのはスティーブと4人組だけで,他は人も動物も四角い顔や体で登場する(写真9)。一見奇妙だが,慣れると結構味がある。この世界の中で作られた武器もブロックで構成されていた(写真10)。マイクラは建築分野での利用が活発というだけあって,劇中で登場する建物(写真11)も,かなりセンスの好いデザインだ。マイクラの大きな特徴が何かを作り上げる便利なツ-ルであるので,それが強調されていた。特にヘンリーは,その創造力がある少年として描かれていた。商品としてのゲームソフトの利用価値を入れようするのは分かるが,わざとらしく,それが冒険物語としての流れを悪くしていると感じた。


写真9 (上)4人組が最初に出会うピンクの羊。シンボル的存在。
(中)パンダの親子,(下)スティーブの愛犬デニス(実は狼?)。

写真10 (上)ヘンリーが作り上げたブロック製の刀剣
(下)ギャレットが作ったバケチャク(バケツをつないでヌンチャクのように使う)
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写真11 オーバーワールドにある雄大な建物。良いデザインだ。

 ピグリン侵略軍との戦いは,アクション映画としての一定水準を満たしていた(写真12)。ネザー内をトロッコで逃げるシーン(写真13)は,『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)を彷彿とさせるし,『白雪姫』(25年3月号)にも似たシーンがあった。いかにも映画的ではあるが,ただそれだけのことであり,映画全体の面白さには繋がっていなかった。


写真12 ピグリン(ブタのモンスター),クラゲのモンスター,ソンビたちと戦う

写真13 ネザーの洞窟内をトロッコで逃げる。冒険映画の定番シーン。

 建築物のブロックの各面は平坦だが,CGレンダリングの画質が低い訳ではない。ゲーム画面よりも遥かに上質であることは確実だ。CG/VFXの主担当はWeta FXでSony Pictures Imageworks, Digital Domainも参加し,ほぼ3社体制である。こうした一流スタジオを揃えておきながら,少し驚いたのは,CGで十分描ける素材ブロック(岩,木,草,花等)を実物の立方体して準備し,配置していたことである(写真14)。映画ならではのクオリティを見せたかったのかと考えられる。


写真14 CGでも表現できるのに, 岩,木,花などが実物立方体として配置されていた

 以上を考えると,かなりの製作費をかけた大作のはずなのに,その個々が生きていない。ビジュアル面に拘った半面,物語が余りにもプアだった。ワクワクする冒険物語になるか,陳腐な子供騙し映画で終るかは,紙一重の差だと思う。その証拠に,本作の予告編を観た時には,かなり魅力的な映画に思えた。それが本編を観終えてがっかりしたということは,素材の良さを生かし切っていないということである。言い換えれば,ほんの少し脚本を書き替えるだけで,大人も楽しめる冒険ファンタジーになっていた可能性が高い。この脚本でゴーサインを出した製作陣トップの責任とも言えるし,監督の演出力のせいだとも言える。続編が作られ,さらにシリーズ化するならば,物語としての充実・改善を期待したいが,現状でもヒットしたので,反省の色はないかも知れない。


創造力を高めるツールとしてのマインクラフト

 先に断ったように,この第2部は個人的視点でのMinecraftに関する調査結果の記録である。映画としての紹介・評価は前節で終っている。以下は,当映画評の愛読者であり,世界で最も売れたビデオゲームのことを気になりながら,調べる余裕がなかった方だけが読んで頂ければ十分である。
 
【個人的ゲーム体験とMinecraftとの接点】
 筆者は俗に言うゲーマーではない。それどころか,ビデオゲームを自らプレイしたのは,30年以上前が最後である。現状は,この映画評のために,実写映画化される元のゲームが少し気にしている程度である。
 半世紀以上前には,画像/映像分野の研究者として,ビデオゲームの登場が気になっていた。黎明期に,Atari社の「Pong」は間違いなくプレイした覚えがある。同社の「Breakout」をライセンス生産したタイトー社の「ブロックくずし」はかなり熱心にプレイした。1978年から翌年にかけて,同社の「スペースインベーダー」は熱中以上のハマり方で,昼食時は勤務先近くの喫茶店で,都心の勤務先から郊外の自宅への帰宅途中も,乗換駅のゲーセンに立ち寄り,かなりの時間と金額を投じてプレイした。裏技もマスターして,3万点達成の認定証を得た。
 1980年代に入り,家庭でプレイできる任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)は,発売後そう遅くない時期に入手した。小学生の娘と「スーパーマリオブラザーズ」を楽しんだ記憶がある。いつでもできるとなると,さほど興味はなくなり,数ゲームを購入しただけで,RPGには全く興味が湧かなかった。1992年のスーパーファミコンになると,ゲーム機は完全に息子の部屋に移り,たまに「スーパーマリオカート」のお相手をしただけで,それが自らプレイした最後である。なぜビデオゲームに興味をなくしたかと言えば,年々複雑になり,そんなことで長時間を使う意義を感じなかったからである。
 別途,仕事上での興味をもったのは,ゲームがいつ2Dスプライト方式から3D-CGに移行するかであった。50年に一度の映像メディア革命であるマルチメディアブームの取材の一環として,セガ本社を訪問した。その後,伝説の人物扱いされる鈴木裕氏に直接インタビューし,最新のアーケードゲームをプレイした。「デイトナUSA」に興味があったのに,ご当人はまだ発売前の「バーチャファイター」を自慢げに披露してくれた。それらが家庭用のセガサターンに移植されて大ヒットするのは後年のことである。
 PlayStaion 2はもっと熱心に取材し,開発チームとも交流した。発売前から,単なるゲーム機ではなく,マルチメディアのプラットフォームとしての標準になるとの噂で,SCEもそれを否定しなかったからである。ただし,VRは産業として成立するのか,VODがいつ本格的普及するのかと同じ程度の興味しかなかった。当時,AR/MR技術の,国策プロジェクトを率いていて,その成果は広く公表していた。PlayStaion 2に脅威を感じた競合複数社から,差別要素として我々のAR/MR技術を搭載できないかという打診があったが,当時の家庭用ゲーム機のレンダリング能力はお粗末であり,AR/MRを実装できる余地はなかった。
 本業の傍ら,余技としてこの映画評を始めたのは同じ頃(1999年)である。映像メディア革命を俯瞰してルポしている内,O plus E誌掲載を映画のCG利用だけに絞るようになってしまった。3D-CGの高度利用は,映画>ゲーム>Webの順であったからだ。当欄で『ファイナルファンタジー』(01年9月号)が取り上げたのは,いよいよ日本を代表するRPGもフルCG映画化する気になったのかの興味でからであり,元のゲームをプレイしたことも,他人がプレイしているのを眺めたこともない。
 もう1つの理由は,研究開発者としての専門がVR,とりわけAR/MRであったからである。現実と仮想の実時間融合を達成するのに,時間をかけて実写とCGを合成している映画のVFX技法を参考にしていた。このため,海外のVFXスタジオとも精力的に交流した。毎年夏に参加していたSIGGRAPHでは,VFX大作のメイキング解説は多数あったが,ゲームが話題になることは殆どなかった。大学に転じてからは,CG,VR,映像メディア論の講義を担当したので,その授業中にゲームの画質の変遷を見せるために,学生に依頼して最新ゲームの画面例を撮ってもらっていた。映画とゲームではまだまだ大きな差があることを示すことも目的であった。それをしたのも,2000年代後半までのことである。
 研究室の卒論,修論のテーマは,AR/MRの先端技術であったが,その1つとしてLEGOの利用があった。現実空間にLEGOブロックで組んだ造形物を配し,その間を仮想空間のLEGOブロックで違和感なく接続する技術である。単に楽しむだけでなく,それを組み上げるツール開発し,付属高校の生徒の教育に利用することを目的としていた。
 この研究を進めている中で,欧米の教育分野が注目するMinecraftの噂が伝わって来た。2015〜6年頃だったと思う。日本での問い合わせ先が見つからなかった。Minecraftはオープンソースではなく,商品としてのMinecraftは閉じた独自の世界であり,我々のMR空間と接合する術がなさそうだったので,それ以上,調査しなかった。その後,Minecraftの名前を聞いたのが,今回の映画であった。3億本も売れるゲームに成長していたのかというのが,素直な驚きであった。

【他の人気ゲームの実写映画化との比較】
 本作の試写を観た時点で気になったのは,他の人気ゲームの劇場映画化との違いで,任天堂の「スーパーマリオブラザーズ」「ポケットモンスター」,セガの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の人気キャラクターが映画内でどう表現されていたかであった。
「マリオ」の場合,最初は任天堂のアーケードゲーム用の「マリオブラザーズ」で,配管工のマリオと弟のルイージだけだった。それが「スーパー」を冠したファミコン用の2Dスプライト利用&横移動のアクションゲームになった時点で,「ピーチ姫」「キノピオ」「クッパ」等のキャラが加わった。ゲームソフトは様々な拡張版が開発され,ゲーム機の変遷とともに3D-CG化もなされ,TVアニメも人気を集めたが,主要キャラはほぼ同じであった。大ヒットした『ザ・スーパーマリオ…』はフルCGアニメであったので,登場キャラのルックスも性格もほぼゲームソフトと同じで,ファンには全く違和感がなかった。その分,映画としてのクオリティを上げやすかったと言える。とりわけ,「マリオカート」シリーズ」のファンには嬉しくなる演出であった。
「ポケモン」は,任天堂ゲームボーイ用に開発された初心者用RPGである。当初から様々なモンスターの「収集,育成,交換」を目的とし,アニメ,カードゲーム,キャラクター商品化のメディアミックスを予定していた。TVアニメの他に「劇場版ポケットモンスター」も作られ,何百種類のモンスターの中から,ピカチュウ,ミュウツー,ベロリンガ,フシギダネ等の人気キャラも定着化して行く。当欄で紹介した『名探偵ピカチュウ』(19年Web専用#2)は,実写の劇映画だが,いきなりピカチュウが探偵になったのではなく,既にあったゲームソフト「名探偵ピカチュウ」の実写映画版だったのである。数種類のモンスターのみをCGで描き,ゲームソフトに登場する人間は俳優が演じていた。よって,ゲームファンにとって,映画での違和感はほぼなかった。
「ソニック」は,セガが任天堂のマリオに対抗すべく導入した青いハリネズミのキャラクターで,海外で高い人気を得ていることは,既に『ソニック・ザ・ムービー』(20年3・4月号)紹介時に述べた。マリオやピカチュウよりも早い時点で3D-CG化されていたので,実写映画内でCGで描くのに何の苦労もなかっただろうが,得意の高速移動を強調するのに,CGアニメよりも実写映画の方が好都合だったと思われる。最も特徴的なのは,ゲーム中での最大の敵「ドクター・エッグマン」(映画では,本名の「ドクター・イーヴォ・ロボトニック」)を,個性派俳優のジム・キャリーに演じさせていることだ。おそらく,ゲームと映画でかなり印象が違うと思われる。それがむしろ成功要因となって,映画もヒットし,既にシリーズ化されている。
 さて,本作のマイクラはと言えば,ゲームとしての性格が違う上に,目立った人気キャラクターがいない。マイクラはユーザー自身が物語を作るゲームであるため,ストーリー性のあるゲームキャラクターが殆ど存在しない。それでも,アイコン的な存在の「クリーパー」の他,敵キャラクターとして,「スケルトン」「ゾンビ」「エンダ-マン」「チキンジョッキー」等は,よく選ばれる定番キャラのようで,これらはしっかり映画に登場していた。映画内とゲームメニューでの描画を整理すると(写真15)のようになった。スケルトン以外は区別がつきにくいが,写真9の動物たちと同様,映画では少し見分けやすいデザインにしている。

  





写真15 上からクリーパー, スケルトン, ソンビ, エンダーマン, チキンジョッキー(左:映画, 右:ゲーム)
(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 ちなみに,ゲーム世界でのスティーブは「主人公枠」のようだ。ゲームプレーヤーが最初に使うアバターであり,ユーザー自身が操作する。基本的に無個性のはずだが,映画でJ・ブラック演じるスティーブは真逆で,極端に個性的であり,目立ち過ぎる。後からオーバーワールドに入る4人組に対応するキャラクターは存在せず,それゆえ現実世界の姿のまま異世界で過ごしている。この点では,『ジュマンジ…』に全く似ていない。

【Minecraftの現行商品とプラットフォーム】
 Minecraftは,スウェーデン在住のゲームクリエーター,マルクス・ペルソンが開発した採掘ビデオゲームで,2009年にαバージョンが公開されている。与えられたシナリオ通りにゲームを進める直線的なゲームに対して,プレイヤーが提供された空間内で自由に素材を選び,自ら物語を創造できる機能を有するものは,「サンドボックスゲーム」や「オープンワールドゲーム」と呼ばれている。Minecraftは最初からその思想で設計され,3Dブロックを用いてアイテムや建物を作り上げるのに適していたため,教育分野や建築分野からの注目を集めた。βバージョンを経て,2011年に公式Ver.1.0リリース前に,既に1,600万人の登録ユーザがいたという。
 当初はPC中心であったが,その後,様々なプラットフォームに移植され,マルチプレイヤー対応,ネット対応,Mobの導入等々の他の通常のゲームにある機能も取り入れて進化した。2014年に米国Microsoftが知的所有権を買い取って以来,Windows PCやXbox中心にますますこの傾向が強まった。いま思えば,筆者がMinecraftの名前を知ったのは,Microsoftが2015年に「Minecraft: Education Edition」の提供を発表し,話題になった頃だったのだろう。2023年末までに世界中で3億本を売上げ,世界で最も売れたインディーゲームと認定されている。
 現状の基本商品構成は,公式ページよると写真16の4種類である。プラットフォームとしては,PCでは, Windows, MacOS,Linuxで,ゲーム機はXbox, PlayStation, Nintendo Switch,携帯はAndroid, iOS,Windows Mobile等のメジャーな環境で利用できる。これだけのユーザがいれば,初の映画化作品が,内容の善し悪しに関わらず,多数の観客を集めるのは当然と言える。


写真16 現在のMinecraftの基本商品構成

【Minecraftにおける描画機能】
 次に気になったのは,MinecraftのCGモデリング&レンダリング機能である。3Dブロック(キューブ)と予め用意されているテクスチャを組み合わせて,キャラモデルや道具や建物を作り上げるのが基本であり,自分で幾何モデラーを利用してデータを準備する必要はない(してもいいが)。木を切って木材を取り出すか,鉱山から鉱物を採掘して,それを使って何かを組み上げる作業をサポートするツールが完備しているようだ。公式トレイラーの動画には,写真17のようなシーンが含まれていた。これがユーザが作り上げる代表的シーンなのだろうが,キャラクターは随分粗っぽい。夜の森のシーンもブロック主体で,写実性を追求している訳ではない。建築物の例写真18も写真11には劣るが,このレベルは初心者ユーザでも簡単に作成できますというアピールなのだろう。


写真17 Minecraft Official Trailerより

写真18 Minecraftで組み上げた建築物の例

 レンダリングは,機能強化すれば映画並みのクオリティが出せるのかが気になるところだ。レンダリング速度がプラットフォームの計算能力に依存することは自明なので,高性能PCほどデザインの自由度も高くなる。Windows 10版マインクラフト(Bedrock Edition)+NVIDIA RTX GPUを利用すれば,リアルタイム・レイトレーシングは保証されている。ところが,Minecraftの基本的な描画エンジンは内蔵のCGレンダラーなので,外部の高機能のシェーダーに差し替えることはできない。ライティングや影表現はできても,重力や風,流体等の物理レンダリングは苦手で,アニメーション作成にも不向きである。道具や建築物のような剛体のデザイン向きと考えた方がいいだろう。

【英国での大騒動の原因は? 欧米との普及率の差】
 本作の海外での大ヒットを知った後,さらに仰天するニュースが伝わって来た。英国では,この映画の上映中に,若い観客が絶叫して走り回り,ポップコーンは乱れ飛び,飲み物をかけ合う騒ぎになったという。この迷惑行為の報道がSNSで拡散したことにより,それを真似る観客も多数出現した。映画館側はそうした観客に退場を命じ,警察へ通報するとの警告を出したようだ。米国では,10代の観客には保護者同伴でなければ入場させない映画館も出て来た。それを好機と捉えたのか,配給元のワーナーブラザース映画は,観客が「一緒に歌って叫べる参加型上映」を5月から導入すると発表した。そう言えば,『アナと雪の女王』(14年3月号)がヒットした折,観客が声を合わせて主題歌「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」を歌ってよい上映回があった。さすがに,ポップコーンの投げ合いはなかったが…。
 筆者の興味は,この騒動の発端は「知っているキャラが登場したことへの歓喜」だったのか,それとも「物を作り上げる工程に感情移入し,それが出来上がったことへの歓び」だったのか,であった。どうやら,後者のような知的な歓びではなく,J・ブラックが「俺はスティーブだ」と名乗るシーン,ギャレットと鶏の格闘技の試合中にスティーブが「チキンジョッキー!」と叫ぶシーンが刺激的だったからのようだ。随分低レベルの歓喜だが,マナー違反と知りながら,一緒に騒ぐことがイベント化するのは,若者に有りがちな出来事である。同じゲームを楽しんでいるという同好の士の意識も強かったのだろう。
 このニュースが流れても,日本で同じマナー違反は起らなかった。それには,欧米(特に英米)と日本でのMinecraftの普及率の差も影響しているのではと考え,それを調べた。残念ながら,国別のプレイヤー数や売上は公表されていなかったので,正確な「普及率(人口あたりのプレイヤー数)」の比較はできなかった。それでも,欧米での普及率が高いことは明らかであり,表1のような参考情報が得られた。

  
表1 Minecraft利用状況の違い(2023〜24年頃)
  

 また,以上の根拠として,以下のような状況にあると考えられる。
①公式情報・動画が英語中心で発信されている
②PC文化の違い:欧米ではPCゲームが一般的。日本はゲーム専用機やモバイル中心。
③教育分野での導入の差:欧米ではSTEM(科学/工学/数学)教育の一環として早期からMinecraftを使用。日本では,まだ公教育で正式に利用されていない。
④「創造的プレイ」を好む文化:欧米には,カードゲーム,ボードゲームに対しても,創造・表現を重視する大人が多い

【LEGOとMinecraftとの違い】
 若年層が創造性を高めるクラフト作業用で,LEGOには歴史がある。筆者が初めてMinecraftの名前を知ったのもLEGOとの絡みであったので,改めてLEGOとMinecraftの利用価値や用途の違いを調査し,考えてみた。その結果,表2のような知見を得た。


表2 LEGOとMinecraftの比較
  

 また,両者の教育的価値に関しては,以下のように整理できる。

(a) LEGOの教育的価値
・手を使って考える=「ハンズオン」の典型
・素材や重力,バランスを身体感覚で学べる
・組立て説明書の読解や順序づけで,論理的思考力が鍛えられる
・「現実の制約の中で創造する力」を育てるのに役立つ

(b) Minecraftの価値
・無限の試行錯誤が可能(壊してもすぐ直せる)
・レッドストーン回路やコマンドブロックで,プログラミング的思考が育つ
・教育版(Minecraft Education)では科学・歴史・数学などと連携した教材が多数用意されている
・「制約のない世界で試行錯誤を繰り返す力」を育てるのに役立つ

 上記の各第4項目は相反する利用目的に思えるが,両者は二者択一すべきものではなく,補完的な関係にあると言える。教育分野では,両方を併用するのが理想的との意見もある。実際,LEGO社では「レゴ®マインクラフト」なる商品を発売している。

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