O plus E VFX映画時評 2025年1月号

『ボーダーランズ』

(ライオンズゲート・フィルムズ
/Amazon Prime Video配信)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[2025年1月24日よりAmazon Prime Videoにて独占配信中]

(R), TM & (C) 2024 Lions Gate Ent. Inc. Borderlands is a trademark of Gearbox


2025年1月24日 Amazon Prime Videoを視聴

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


当欄史上最低ランクのSF映画だが, VFXは多少救いあり

 失敗であった。早々とこの映画を1月号のメイン記事候補とし,Topページで「掲載予定」と宣言してしまったことである。元々紙媒体時代から,1月号や2月号はメイン記事の閑散期であった。大作は正月興行に出尽くしていたからである。一方,当初低予算映画が大半だったネットでの独占配信映画にもCG/VFX多用作が登場するようになった。おそらく,コロナ禍時期の契約者増により,1本当たりに製作費が増えたためだろう。映画館での上映期限を気にすることもないので,当欄でもこの種の映画を,閑散期用に当てにするようになった。『ミッドナイト・スカイ』(21年1・2月号)や『雪山の絆』(24年1月号)は,そのやり方での成功例である。
 本作の場合は,少し事情が違う。純粋なネット配信映画ではなく,海外ではLionsgate Films作品として昨年夏に劇場公開されていた。ところが,日本ではAmazon Prime Videoの独占配信だというので,素直にその配信開始日を待ったのである。CG/VFXを多用したSFアクション映画だというので期待したのだが,内容は惨憺たるものであった。この10年間のメイン記事としては最低レベルである。Rotten TomatoesのTomatometerは,何と10%だ。こんな低い数値は見たこともない。先にそれを知っていれば「掲載予定」にはしなかったのだが,自ら観終わるまでは他の評点は見ないという大原則に従ったのが仇となった。
 偶然にも,同日公開の『ナイトビッチ』は,女性主人公が次第に犬に変身して行くという。変身過程の描写が充実していて,最終的なCG製の犬がハイレベルなら,メイン欄と差し替えようかと考えた。『動物界』(24年11月号)では獸化する主人公の他に「鳥人間」も登場したので,こちらも他にも動物への変身が登場するのではとの期待もあった。ところが,実際には全くCG/VFXの出番はなく,どうやら主人公の妄想であったようだ。かくして代替案も消滅し,今更「掲載予定」をなかったことにするのも恥ずかしい。そこで,この『ナイトビッチ』と当初予定になかったPart 2での論評2本を先に書くという回り道をした後で,渋々本作の紹介記事を書き始めた次第である。
 幸いにも,CG/VFX多用のSFアドベンチャーという点は偽りではなかった。よって,概要紹介や感想はほどほどに留め,CG/VFX解説のみを平均的なメイン記事扱いで語ることにする。

【本作の概要と原作との関係】
 かつて銀河系はエリディアン星人に支配されていたが,彼らは絶滅し,彼らの高度な科学技術と機密が惑星パンドラの遺跡「ヴォルト」に隠された。その中には膨大な財宝があるという噂が流れ,大企業や犯罪者たちが「ヴォルト・ハンター」として惑星パンドラに押し寄せていた。
 映画は,そのパンドラ星内の収容所から少女タイニー・ティナ(アリアナ・グリーンブラット)が傭兵ローランド(ケヴィン・ハート)に誘拐されるシーンから始まる。殺し屋集団サイコの1人クリーグ(フロリアン・ムンテアヌ)の協力を得て,所内からの脱出には成功した。一方,本作の主人公リリス・カシュリン(ケイト・ブランシェット)(写真1)は50光年離れた惑星プロメティアの酒場にいたが,富豪のデュカリアン・アトラスから,娘ティナを連れ戻す依頼を受ける。彼女は凄腕の賞金稼ぎで,故郷のパンドラ星の地理を熟知していることを見込まれたのであった。


写真1 主人公のリリス。ゲーム内に似せたルックス。

 パンドラ星でリリスは瓦礫の下から見つけたAIロボットCL4P-TP(愛称:クラップトップ)の探知機能を利用して,ようやくティナら3人の居場所を突き止めたが,アトラス社から別途派遣されたクリムゾン軍との銃撃戦となり,誘拐犯のローランドらと行動を共にする。ティナ(写真2)はトンでもないお転婆娘であったが,アトラスの実の娘ではなく,遺伝子工学で生成されたクローンであり,ヴォルトを開ける3つの鍵の1つを持っていることから,狙われていたのであった。それが判明してからは5人組として行動し(写真3),さらにはリリスの母の友人のパトリシア・タニス博士(ジェイミー・リー・カーティス)(写真4)も加わる。彼らは惑星上の怪獣やクリムゾン軍と戦いながら,ヴォルトの在り処を探しあて,鍵を開けることができるのか……。


写真2 すぐに爆弾を投げつける危険な少女のティナ

写真3 この5人組(4人+1台)で危機脱出する

写真4 考古学者のタニス博士。手にしているのは終盤登場する3つの鍵の集合体。

 要するに,主人公チーム(写真5)と敵軍との戦いであり,最後に真の黒幕が登場するが,最終的に目的は達成するという在り来たりのアクション映画である。その設定自体は娯楽映画として平均とも言えるが,脚本が酷い。SFとしての面白さは全くない駄作であった。監督・脚本は『ルイスと不思議の時計』(18年Web専用#5)のイーライ・ロスである。題名は『ヒューゴの不思議な発明』(12年3月号)をもじっていたものの,同作は全くのB級映画だった。その他の監督/製作作品もすべてB級映画で,俳優としての出演も脇役ばかりである。この監督を起用した時点で,期待作でないことが明らかで,失敗が見えていたとも言える。


写真5 結局は, この5人+1台が敵と戦う主人公チーム

 後で知ったのだが,本作の原点は米国のGearbox Software社が開発した同名のコンピュータゲームであった(写真6)。FPS(第1人称視点シューティング)ゲームであり,RPGの要素の含まれているという。PCだけでなく,Xbox, PlayStaion, Nintendo Switchにも対応していて,国内でもかなり人気があるようだ。パンドラ星が舞台のヴォルト探しは,このゲームの基本仕様であり,リリス,ローランド,クリーグは,ゲーム内でプレイヤーが操作する主要キャラクターである。一方,タニス博士,CL4P-TPや,武器商人のマーカス,その元妻でコロシアムの主催者モクシー,クルマ供給業者のスクーター等々はノンプレーヤーキャラクターとのことだ。このゲーム世界を比較的忠実に描くことで,ゲーマーたちを映画館に呼び込むことが主目的で,映画としての出来映えは二の次であったと考えられる。所詮,ゲームと映画では作り方が全く違うので,安易な企画が失敗したのも当然と言える。


写真6 FPSゲームのパッケージデザインと画面例

【見事,ラジー賞に多数ノミネート】
 本作を観ながら,オスカー主演女優のC・ブランシェットや一昨年『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23年3月号)で同助演女優賞を受賞したJ・L・カーティスに,こんな映画のこんな役をやらせるのかと感じた。ルックスも役柄も,ゲーム内の設定に忠実なのだから仕方がない。
 そうこうする内に今年のラジー賞(正式名:第45回ゴールデンラズベリー賞)のノミネート作品の発表があった。当映画評で酷評した『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024年10月号)や掲載すらしなかった『マダム・ウェブ』(24)と並んで,本作は「最低作品賞」にも「最低監督賞」にも堂々と(?)ノミネートされている。その上「最低主演女優賞」にはリリス役のC・ブランシェット,「最低助演男優賞」には,CL4P-TPの声の出演のジャック・ブラックとローランド役のK・ハートがWノミネートされ,さらにこの2人が「不愉快な2人組」として「最低スクリーンコンボ賞」にもノミネートされている。5部門6ノミネートは,『ジョーカー…』の最多7部門に負けているが,『マダム・ウェブ』やデニス・クエイド主演尾の『Reagan(原題)』と並ぶ2位タイである。
 全く迂闊であった。今考えると,海外での劇場公開の興行成績は惨憺たる結果だったので,日本国内の配給会社が劇場公開を断念し。それをAmazon Prime Videoが格安でネット配信引き受けたのだろうと想像できる。それをAmazon スタジオの過去の実績に惑わされて,メイン記事の候補にしてしまったのは不徳の致すところだ。  ラジー賞の結果の発表は,例年と同様,アカデミー賞の前日という粋な配慮だが,逆説的な意味で結果が愉しみになって来た。Amazon Primeの会員は無料で観られるので,こういう映画であることを知った上で,どれほど酷いかを観るのも一興かと思う。

【小道具のデザイン,CG&VFXの出来映え】
 ラジー有力候補の本作を敢えて紹介するのは,当映画評の愛読者には,国内外のVFXスタジオのCGアーティスト,VFXエンジニアは少なくないことも理由の1つである。脚本に比べると,CG/VFXはまだ少し救いあるが,企画が企画なので,斬新なデザインや最新描画技術は期待できない。CG/VFXは分量的には平均以上だが,画質的にはほぼ平均レベル,デザイン的には中の下以下である。こんなレベルの映画制作には,なるべく参加しないようにとの警鐘の意味を込めている。
 ■ 宇宙らしさを感じるのは,冒頭の1シーン(写真7)だけだった。後はせいぜい惑星内でのヴォルトの位置を特定する写真8の画像程度である。惑星パンドラの光景は荒地や砂漠ばかりで,何の面白味もない(写真9)。フルCGの『トトランスフォーマー/ONE 』(24年9月号)の地上の禁断の地はもう少し工夫があったし,『デューン 砂の惑星 PART2』(24年3月号)には砂漠以外に巨大建築物があったが,それらには遠く及ばない。何とかCGならではの光景と感じたのは,夜の都市部の光景くらいだ(写真10)


写真7 宇宙らしきシーンは,たったこれだけ

写真8 スクリーンに投影されているのが惑星上でのヴォルトの探索画面

写真9 パンドラ星は殺伐とした光景ばかり。まだしもゲーム画面(下)の方が高級に見える。

写真10 中央左の高層ビルがヴォルトを狙う大企業のアトラス社

 ■ ゲームでは,プレイヤーは「Catch-A-Ride」なるスタンドから自分が乗るクルマを選択できるというので,様々なユニークな形状のクルマが登場すると思われるだろうが,こちらも陳腐そのものだった。せいぜいユニークなのは,後部に檻にある黄色の輸送車(写真11)だけだった。この程度はCGで描く必要もなく,実物車輌も簡単に作れる。後はごく普通の車輌ばかりで,これがSFなのかと呆れる(写真12)。元が劇場公開映画なら,せめて『マッドマックス』シリーズの1/3程度の努力が欲しかった。一方の飛行艇は,さすがにCG利用しか手段がなく,多少の工夫でお茶を濁していた。リリスをパンドラ星まで運んだアトラス航空の輸送機はシンプル過ぎて驚く(写真13)。クリムゾン軍の空飛ぶバイク(写真14)や戦闘機(写真15)は,何とかぎりぎり合格点レベルだ。これらのシーンの背景も面白みはないが,ロケではなく,CG/VFXの産物だろう。


写真11 後部に檻がある輸送車。これが唯一ユニークなデザイン。

  

写真12 (上)写真3の5人組が乗るオフロードカー
(中)クリムゾン軍の車輌, (下)武器業者マーカスが運行するバス

写真13 この赤い箱が他の惑星から到着したアトラス航空運行の宇宙飛行機

写真14 クリムゾン軍の空飛ぶバイク。下の車輌よりはマシなデザインだか。

写真15 終盤に登場し, すぐに撃墜されるクリムゾン軍の戦闘機

 ■ ゲーム中でプレイヤーが選べる武器は,ピストル,ライフル,マシンガン,ロケットランチャー等の7種類があり,4種類の属性や様々な効果も付与でき,数万種類ものバリエーションがあるそうだ。なるほど,映画中でも登場人物はそれぞれ異なる銃を使っていた(写真16)。きっとゲームプレーヤーたちは,自分が日頃愛用している銃が映画に登場するのは嬉しかったことだろう。上記の飛行艇に備わっている銃器のデザインは悪くなかった(写真17)。ゲームに幾何モデルがある銃なのか,映画独自のデザインなのかは不明である。

   
  

写真16 (上)ローランドの銃, (中)ティナのロケット砲, (下)クリムゾン軍兵士のライフル

写真17 (上)司令官の空飛ぶバイク。後部に3連銃が装備されている。
(下)写真15の戦闘機に搭載の狙撃銃。好いデザインだ。

 ■ アニマトロニクスも有り得るが,CGで描いた方が簡単なのは怪獣やロボットだ。元来がシューティングゲームであるから,怪獣は倒してポイントを稼ぐ対象で(写真18)あるが,この映画の中では,恐竜系の怪獣が数種類登場している過ぎない(写真19)(写真20)。もう少し種類も出番も多くして欲しかったところだ。ロボットは,敵軍のロボット戦士も見受けたが,何と言っても出番が多いのは,小型AIロボットの「クラップトラップ」だった。単眼,一本足,細い腕2本に角型のボディで動き回る(写真21)。SWシリーズのR2D2が丸みのある円筒型なので,こちらは直方体に近い角型にし,C3PO以上の会話能力を持たせたのだろう。このゲームのマスコットキャラであり,グッズ販売でも人気があるそうだ。映画では,何しろジャック・ブラックの声が騒々しかった。ラジー賞の最低助演男優賞の最有力候補だろう。

   
写真18 ゲームでは, こんな怪物を撃ち殺す。

写真19 映画に登場するのは廃棄物あさりの怪獣や翼竜程度

写真20 恐竜に襲われ,写真3の5人組は口の中に飛び込み,体内から破壊して難を逃れる

  

写真21 マスコット的存在のクラップクラップだが,口数が多過ぎて騒々しい
(下)声を担当したジャック・ブラックと実物大模型

 ■ SWシリーズのパロディとしては,ホログラム投影のシーンは頻出する(写真22)。防具としての半透明の顔面シールドも何度も登場し,当然CG/VFXの出番だ。そうしたシーンは多々あるので,全体としてのCG/VFXシーン数はかなり多い。終盤のヴォルトの鍵を開け,地下に眠る財宝の在り処のシーンに至る描写が最も優れていた(写真23)。本作のCG/VFXの主担当はFramestoreで,副担当はDNEGとReDefine,その他Method Studios, Pixomondo, Clear Angel Studios, Rodeo FX, Crafty Apes, OPSIS, FotoKem, Axis Studios等の多数社が参加している。当映画評でもお馴染みのVFXスタジオをこれだけ揃えていたのなら,もっと充実したVFX大作にできたはずだ。CG描画,VFX加工以前に,映画の企画とビジュアルデザインのお粗末さが全てだったと思う。


写真22 リリスの母の亡霊はホログラム投影で登場

写真23 (この画像は見にくいが)地下にあったのヴォルト遺跡は雰囲気があった
(R), TM & (C) 2024 Lions Gate Ent. Inc. Borderlands is a trademark of Gearbox. All Rights Reserved.

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