O plus E VFX映画時評 2024年7月号

『デッドプール&ウルヴァリン』

(ウォルト・ディズニー映画)




オフィシャルサイト[日本語]
[7月24日より全国ロードショー公開中]

(C)2024 20th Century Studios / (C) and TM 2024 MARVEL.


2024年7月23日 TOHOシネマズなんば(IMAX)[完成披露試写会(大阪)]

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


笑いと驚き満載の快作だが, 本当にMCUの救世主となるのか?

 過去10数年間,当映画評を支えてくれたMCU (Marvel Cinematic Universe)だったが,この数年間は粗製乱造で食傷気味だった(唯一,例外的に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23年5月号)だけ高評価した)。しばらく劇場公開作がなかった上に,MCUの転機となる新作だという噂で,少し期待した。ところが,題名を見て,驚きかつ呆れた。デッドプールもウルヴァリンも,ディズニーに吸収された「20世紀フォックス映画」時代のフランチャイズ『X-MEN』のスーパーヒーローであり,同シリーズは打ち切りとなったはずではないか。「X- MEN」の正規メンバーではなく,スピンオフ作でしか主役をはれなかった異色ヒーローのデッドプールだけMCUに取り込み,『デッドプール3』として再出発させるなら,まだしも理解できる。それが『LOGAN/ローガン』(17年6月号)で死亡させ,見事な感動の散り際をみせたウルヴァリンを復活させるとは何たるご都合主義だ。しかも,この役からの引退宣言までしたヒュー・ジャックマンが再出演を了承するとは,節操がなさ過ぎる。
 クレジットを見たら「20th Century Studios」が入っている。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22年Web専用#7)や『猿の惑星/キングダム3』(24年5月号)と同様,FOX時代の遺産を継承して,「20世紀スタジオ」名義での公開なのかと思ったら,そうではなかった。本家「ウォルト・ディズニー映画」名義での公開であり,MCUのフェーズ5の1作との位置づけのようだ。MCU不振のせいか,いやディズニー映画自体の不振のせいか,経営陣は新作映画の企画・配給に自信をなくし,相当混乱しているように感じられた。
 そんな思いで完成披露試写を観始めたが,最初の数分でぶっ飛んだ。主人公のデッドプールが,筆者の上記の驚き&呆れをそのまま彼の言葉で語り始め,楽屋ネタをバラし続ける。即ち,ディズニーによるFOXの買収,MCUのテコ入れやウルヴァリンとの共演の要請等々である。さらに,「マーベルではコカインは無理だろう,ディズニーはR指定では撮れないぞ」と言い始め,それが叶えられるとなると「ディズニーに行くぞー!」と声高に叫ぶ。いくらハチャメチャのヒーローで,「第4の壁」を乗り越え,観客を語りかけるのが定番とはいえ,この内輪話は別の意味で驚いた。さらには,『LOGAN/ローガン』で大団円を飾った森の中の彼の墓を掘り起こし,ウルヴァリンの骸骨を取り出し始める……。いやはや,こちらも別の意味で呆れた。
 本格的物語が始まると,息もつかせぬ展開で,会場全体が釘付けになった。もともと前2作『デッドプール』(16年6月号)『デッドプール2』(18年Web専用#3)には高評価を与えていたので,内容的には期待していた。その期待を裏切らない展開であり,型破りの主人公の面目躍如である。ウルヴァリンの復活は,予想通り,マルチバースの解釈によるもの(詳しく後述)だったが,登場人物は多彩,サプライズも多々あり,詰め込み過ぎると思える映画であった。とてもじゃないが,きちんとしたメモは取り切れなかった。
 日本国内の劇場公開は欧州諸国と同じで7月24日で,北米や中国の7月26日よりも2日早かった。時差を考慮すると日本が世界最速で,米国よりも2日半早い。完成披露試写は公開前夜の23日に観たのだが,本稿は米国公開が始まってから書いている。というのは,公式サイトには殆ど情報がなく,プレスシートにも,IMDbやWikipediaにも,重要な登場人物の名前や役割が伏せられていたからだ。それでは正しい内容紹介が書けず,米国公開が始まって,追加情報が出て来るまで待ったからである。以下でその要点と見どころを紹介するが,いくつか不正確な点があれば容赦されたい。

【本作の概要と登場人物】
 デッドプールことウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)は,『デッドプール2』でタイムマシンを使って過去に戻り,妻ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)の命を救う。その後,引退して中古車販売業に就き,平和な生活を送っていた。仲間達が彼の誕生日を祝ってくれるパーティの最中,TVA(時間変異取締局)が派遣したハンター達に拉致され,TVA本部に運ばれる。そこで,ウェイドは管理人のMr.パラドックスから,彼と仲間が住むユニバース(時間軸)Earth-10005から神聖時間軸のEarth616に移ってヒーローになれと要請される(写真1)。その理由として,Earth-616はアベンジャーズを中心とするMCUのユニバースであるのに対して,Earth-10005はアンカーであるウルヴァリンことローガン(ヒュー・ジャックマン)が落命したことから,まもなく消滅する運命にあるという。


写真1 TVA本部では, 映像監視し, 多数の時間軸を管理している

 驚いたウェイドは,Mr.パラドックスのもつ時間軸移動端末TemPadを奪い,様々なユニバースに存在するローガン変異体に面会し,自分のEarth-10005に移ってアンカーのウルヴァリンとなり,消滅を回避してくれるよう説得する(写真2)。ようやく見つけた1人のウルヴァリンを連れてTVAに戻るが,同意しないMr.パラドックスは2人を虚無空間(Void)へと追いやってしまう(写真3)。どの時間軸からも追放された者が集められた殺伐とした世界で,チャールズ・エグゼビア(プロフェッサーX)の双子の妹で最強ミュータントのカサンドラ・ノヴァ(エマ・コリン)が支配していた。


写真2 デッドプ-ルは, 別世界のウルヴァリンのスカウトに回る

写真3 2人は荒廃した虚無空間に移送される

 この虚無空間で,大喧嘩をしながらも,デッドプールはようやくウルヴァリンとバディ関係になり,カサンドラ軍の兵士と戦う。この世界でも,デッドプールはジョークや下ネタを連発し,他作品のヒーローたちと共闘するサプライズで,観客を熱狂させる。そして何とか,カサンドラの弱点を突き,彼女のパワーを使って,デッドプールはウルヴァリンを連れて元のEarth-10005に戻る,という物語となっている。
 監督は,『ナイト ミュージアム』シリーズのショーン・レヴィ。ライアン・レイノルズ主演作は,既に『フリー・ガイ』(21年Web専用#4)『アダム&アダム』(22年3・4月号)の2本でタッグを組み,ヒュー・ジャックマン主演作は『リアル・スティール』(11年12月号)を撮っている。20世紀フォックス作品の多数に関与したが,MCUには縁のなかった監督というのが,この映画のテーマを象徴している。
 登場人物に移ろう。最も印象が強かったのは,新登場のカサンドラ・ノヴァを演じるエマ・コリンだった。TV畑で活躍していた英国人女優なので馴染みはなく,当欄で紹介するのは初めてだ。プロフェッサーXの妹だけあって,スキンヘッドで登場するが,凛々しく,かなりの美形である(写真4)。一方,見慣れた面々は,ウェイドの誕生パーティに集った仲間達で,妻ヴァネッサを始め,鋼鉄の男コロッサス(ステファン・カピチッチ),原子力パワーを放つネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッド(ブリアナ・ヒルデブランド),その恋人のユキオ(忽那汐里),毒舌老女のブラインド・アル(レスリー・アガムズ),ただのオッサンのピーター(ロブ・ディレイニー)等々,『デッドプール2』のキャストがそのまま演じている。『LOGAN/ローガン』からの継続出演者は,Earth-10005でローガンの最期を看取った少女ミュータントのローラ(ダフネ・キーン)だ。虚無空間ではカサンドラに敵対している。


写真4 恐ろしい老婆と思いきや, 凛々しい美女

 注目に値するのは,予告編に姿を見せず,北米公開日まで役柄も俳優名も伏せられていたサプライズメンバーである。既にあちこちで公表されているが,それらを読まずに,これから本作を観る読者の愉しみのために,1人を除いて,当欄では名前は伏せたままにしておく。内3人は,MCU以前に他社作品で登場していたマーベルヒーロー達で,「えっ,彼や彼女までも出て来るのか!」」とマーベルオタク達を喜ばせるための仕掛けである。このトリオは主役2人,ローラと共闘し,計6人組でカサンドラ軍と戦う。
 もう1人は,事情が少し複雑だ。20世紀FOXの『ファンタスティック・フォー』シリーズとディズニーの『アベンジャーズ』シリーズの両方に出演していた俳優が登場する。本作では,前者としての出演なのだが,デッドプールが後者と勘違いするというのが,お笑いネタとなっている。名前を明かす1人は,サプライズコーナーで後述しよう。他にも数名いるが,重要な役でなく,さほどのサプライズとは思わなかったので割愛する。

【過去作とウルヴァリンとの関係】
 デッドプールにとっての本作は,素直に過去2作の続編で,矛盾なく,題名は『デッドプール3』でも良かったくらいだ。一方,ウルヴァリン視点で見れば,上述のようにデッドプールが別世界のウルヴァリンを連れてきたのであるから,『LOGAN/ローガン』との間でも矛盾はない。そのウルヴァリンがEarth-10005に居残ってしまっても,あくまで変異体であるから,過去を変えることにはならない。
 過去の,即ちFOX時代の『X-MEN』シリーズでのデッドプールとウルヴァリンの関係はと言えば,存在感がまるで違う。2人の顔を合わせは,2回あっただけだ。同シリーズの整理は,第13作目の『X-MEN:ダーク・フェニックス』(19年Web専用#3)に書いた通りである。ヒュー・ジャクマン演じるウルヴァリンは,自らが主演のスピンオフ3本を含め,11作品に登場している。まさにその時間軸の「アンカー(最も重要な存在)」と呼ばれるに相応しい重用のされ方だ。一方のデッドプールは自らの主演作のスピンオフ2本の他には,『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号)に登場しているだけだ。これが2人の接点の1度目である。ローガンが改造手術で「ウルヴァリン」として復活したのと同様,死亡したウェイド・ウィルソンも再生手術で「デッドプール」として生まれ変わる。ただし,減らず口を叩き過ぎたため,ローガンに口を縫われてしまっていた。2度目は『デッドプール2』の最後のシーンだ。ウルヴァリンの目の前で,かつて彼に口を縫われたウエイドをデッドプールが殺して,タイムマシンを使って過去の自分を消したと口にする。完全にオマケのジョークシーンである。
 さて,そんなかつての身分違いも何のその,本作のデッドプールは,自分が別世界から連れてきたローガン(ウルヴァリン)に自分の要求を突きつける。このローガンは,トラウマを抱える存在というのが,これまでの精悍なウルヴァリン像とは異なる。自らの過ちで,X-MEN集団を全滅させてしまったというから,思い悩むのも無理はない。黄色いヒーロースーツ姿で通すのは,自らの過ちの戒めとのことだ。デッドプールは,そんな彼に罪の意識を払拭させ,他人の役に立つことを約束して,ようやく共闘できるバディ関係を構築する。ここだけはおふざけでなく,妙にシリアスだ。
 そんなウルヴァリンを再度演じたヒュー・ジャックマンだが,演技力はあるが,さすがにルックス的に少し老けたなと感じた(写真5)。旧作の颯爽としたシーンが再三登場するゆえに,余計にそう感じられた。ご自慢の鉤爪は健在だったが(写真6),それを縦横に駆使する痛快なシーンは登場しなかった。ズバリ言って,本作はデッドプールの映画である。ウルヴァリンは興行戦略のための引き立て役に過ぎない。これまでのアベンジャーズ・メンバーが1人も登場しないので,まだ本格的MCU作品になっていない。むしろ,FOX時代のマーベル映画の功績を偲ぶ鎮魂歌なのである。その名場面やメイキング映像が,本作のエンドロールの右側に流れる。MCU以降しか知らないマーベルファンは,『X-MEN』シリーズや『ファンタスティック・フォー』シリーズを観たくなることだろう。ディズニー傘下に入ったことで有り難いのは,いずれもDisney+の月額料金だけでそれらを視聴できることだ。筆者も過去作を再点検するのに役立っている。今回のウルヴァリン再降臨の主目的は,MCUのテコ入れよりも,Disney+加入者増だったのかも知れない。


写真5 前作から7年, さすがに老けたなと感じる

写真6 鋭い鉤爪はほれぼれするが, その活躍の場は少なかった

【デッド・プールの過激発言,おふざけ,サプライズ】
 デッドプール映画としては,やはりこれらを愉しみたいのがファンの本音だろう。冒頭の過激発言以降も,しっかり笑わせ,驚かせてくれる。1回観ただけなので,見逃した箇所も多々あると思うが,気がついたパロディシーンも列挙しておく。
 ■ 虚無空間は荒廃した世界だが,まだ打ち解けないデッドブールとウルヴァリンの大バトルが始まる。2人のスーパーパワーはほぼ互角なので,アクションシーンとしては見応えがある。その背景にある大きな瓦礫に笑ってしまう(写真7)。これは,「20世紀フォックス映画のオープニングロゴ」の残骸なのである(写真8)。ディズニーが買収したのは映画部門だけであり,ルパート・マードック率いるFox Corporation(Fox News等を運営)は含まれなかったので,混同を避けるため,現在は「20世紀スタジオ」を名乗っている。引き続き,類似したロゴを使用しているが,写真8の残骸にはしっかり「FOX」の部分が入っている。


写真7 虚無空間には, こんな残骸が転がっていた

写真8 ディズニーに買収され, 幕を閉じたFOX入りのロゴ

 ■ 虚無空間の荒野を奇妙なクルマやバイクが疾走する(写真9)。これは,どう見ても『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年7月号)や『マッドマックス:フュリオサ』(24年5月号)のパロディだろう。いずれもワーナー・ブラザース作品であり,ディズニーに縁もゆかりもないが,こういうことをやってのけるのが,デッドプール映画だ。


写真9 この光景は, 誰もが想像できるバイオレンス映画のパロディ

 ■ 冒頭の誕生日パーティ・シーンで。ウェイドの髪はフサフサしている(写真10)。あれっ,マスクを外した醜い顔はハゲではなかったかと思うが,すぐに「かつら」であることがバレる。さして面白いジョークと思えなかったが,隣席の女性は,この程度で大笑いしていた。


写真10 誕生祝い会での主人公の髪はフサフサ。ん?

 ■ デッドプールが様々な別世界を巡り,身代わりのウルヴァリンを探していた時,1人だけヒュー・ジャックマンではない,見慣れない立派な体格の人物が登場する。これが1人だけ名前を明かすと言ったサプライズ俳優であり,ヘンリー・カヴィルであった。セリフに名前まで出しているので,顔だけでは分からない観客も多いと考えての配慮のようだ。なぜ彼がここにいたかと言うと,ヒュー・ジャックマンがウルヴァリン役を降板した後,H・カヴィルが2代目ウルヴァリン役として内定していたからである。結局,ディズニーの買収によって,『X-MEN』シリーズは打ち切りとなり,当然,彼の起用はご破算になる。それを逆手にとって,デッドプールは身代わりウルヴァリンに口説いている訳だ。これだけでも辛辣な皮肉であるが,「あんな会社のようなことはしないから…」の口説き文句はもっと笑える。MCUのライバルのDCEUで,H・カヴィルは「スーパーマン」を演じる俳優だったが,DCEUからDCUへの方針変更により,彼はスーパーマン役をクビになったからだ。こういうライバル会社の楽屋ネタにまで言及するとは,やはりデッドプール映画はすごい。
 ■ 光のトンネルをくぐり抜け,Earth-10005に戻ったデッドプールたちを追って,カサンドラだけでなく,デッドプール軍団も虚無空間からやっている。子供のベビープールから,女性のデッドプールまでも含む,多数のデッドプール変異体の集団である。いずれもウェイドのデッドプールを襲うが,1人だけ戦わない人物がいた。マスクを取ると,ライアン・レイノルズが素顔で登場する「ナイスプール」である。醜い顔の方が見慣れているとはいえ,これをR・レイノルズだと分からないようでは,デッドプール映画を観る資格はない。もっとも,ここに『フリー・ガイ』のモブキャラ主人公を登場させたと誤解するようなら。むしろ褒められるかも知れない。
 ■ デッドプール軍団の先頭は女性の「レディ・デッドプール」で,彼女が軍団を率いている(写真11)。ジャンヌ・ダルクのパロディだそうだ。彼女はマスクをとって素顔を見せることはないが,エンドクレジットから,ブレイク・ライヴリーが演じていたことが分かる。調べてみると,当欄の紹介作品では,何と『旅するジーンズと16歳の夏』(05年11月号) 『50歳の恋愛白書』(10年2月号)『ニューヨーク,アイラブユー』(同3月号)『ザ・タウン』(11年2月号)『グリーン・ランタン』(同9月号)の5本に出演している。いずれも助演であったので,全く記憶になく,マスクを外していても気付かなかっただろう。そんな脇役俳優の彼女が,なぜこんな姿でカメオ出演していたかと言えば,現在の夫の名前を知って納得する。これなどは,各自調べて楽しんで下さいというメッセージあるから,そのまま伝えておく。


写真11 変異体集団の先頭で登場したのはレディ・デッドプール

 ■ デッドプールの過激発言で,最も驚いたのは,「(『エンドゲーム』以降の)マルチバースは失敗だった」と公言したことである。当映画評としては,H・カヴィルのスーパーマン役も,MCUのフェーズ4以降のマルチバース偏重を酷評して来たので,まさに我が意を得たりであった。それでも,内部批判と思える爆弾発言には驚きを隠せなかった。これは,不振のMCUが本気で路線変更する気の表われなのか,それともデッドプール特有の楽屋ネタのジョークに過ぎないのか? 既に本作は大ヒットの兆しありと伝わって来ている。このお調子者がMCUの救世主になるのか,今後の推移をウォッチしたい。

【CG/VFXの見どころ】
 さすがMCUを名乗るだけあって,全編でCG/VFXシーンは多岐に渡る。ただし,これぞといった大きな見せ場シーンはない。デッドプ-ルが絶え間なく小ネタのスーパーパワー(例えば,写真12)を発揮すれば,敵方も同じように応酬するからだ。さらに言えば,今回はサプライズ重視で登場人物の一部を秘匿していたので,所謂「Behind the Scenes」映像の公開がなく,公開されている予告編でも姿を隠していた。このため,その限られた予告編映像を頼りに,以下,僅かなCG/VFXネタを解説する。


写真12 こんな小ネタは,あちこちに転がっていたが…

 ■ 強いて言えば,中盤のカサンドラ・ノヴァの登場シーンとその前後のバトル,終盤のデッドブール軍との戦いの2箇所がやや長めのVFXシーンと言える。カサンドラは,虚無空間ではジャイアントマン(アントマンが巨大化した姿)の遺体を住み処にしていて,そこから姿を表わすシーンがハイライトである(写真13)。事前には,単に本作のヴィランとの触れ込みだけだった。プロフェッサーXの双子の妹と分かると,一体どんな女性なのか興味津々だった。結構,意地悪婆さんを想像したのに,見事な外れで,若い美女だった。どうせざら,CGでいいから,パトリック・スチュワート演じるチャールズ・エグゼビアも登場させて欲しかったところだ。カサンドラは,テレキネシスやテレパシーの高い能力をもつが,相手の顔面に指を入れて思考を読む(写真14)。横からも後からも指を突き入れるシーンが出て来るが,もちろんVFX合成だ。少し野蛮かつ下品で,美意識を疑ったが,原作コミックで何度も出て来るシーンのようだ。


写真13 (上)住み処はジャイアントマンの遺体, (中)口が開き, 誰かが出て来る気配
(中下)観客をじらせ, なかなか顔を見せない, (下)支配者は凛々しい女性だった

写真14 顔面に指を突き入れ, 思考を読むカサンドラ

 ■ 虚無空間は,はぐれ者や異端児を集めた荒廃した世界であるから,それらしき造形物が配置されている(写真15)。敵味方でユニークな武器も見受けられたが,逐一メモする余裕はなかった(写真16)。巨人間を捕食する巨大生物アライオスもこの空間に登場する(写真17)。目と口が赤く光り,黒煙のような外観であるから,CG的には描くのが容易な造形物である。この虚無空間からEarth-10005への移動は,ドクター・ストレンジ変異体が作り出した光の輪(写真18)へのジャンプで達成されるが,これまたCG描写は入門レベルだ。また,短時間であるが,本作の身代わりウルヴァリンが自らの過去を振り返るシーンがある。写真19で立ち並ぶ石の建造物が何なのか,特に説明はなかったが,勿論CGの産物である。


写真15 荒廃した空間には, 様々なCG物体が配されている
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写真16 ユニークだが, これが何なのか分からなかった

写真17 黒い雲のような巨大生物アライオス

写真18 ドクター・ストレンジの光の輪にジャンプする

写真19 本作のウルヴァリンが元いた時間軸の光景

 ■ 終盤で目を惹いたのはドッグプールを演じるワンちゃんである(写真20)。こんな犬種を見たことはなく,極端に舌が長いので,これはCG描写なのかと思ったが,どう見ても実物の犬である。「パグ」と「チャイニーズ・クレステッド・ドッグ」の混血らしい。デッドブールが「可愛い,可愛い」と,ひたすら可愛がっていたが,「英国で最も醜い犬」なる賞を受賞した犬で,名前はペギーだそうだ。演技するには難しい動きのシーンもあったので,一部はCG描写かも知れない。


写真20 ウェイドにはすっかりなついたドッグプール

 ■ 残るは,タイムリッパー(時間剪定装置)くらいだろうか(写真21)。Earth-10005は消滅確実だったが,それには数千年かかかるというので,TVAのMr. パラドックスはそれを待てず,この装置を使って72時間で消滅させようとしていた。本作のCG/VFXの主担当はILM,副担当はFramestoreで,他にはWeta FX,Rising Sun Pictures, Lola FX,Raynault VFX, SDFX Studios,Clear Angel Studio, Barnstorm VFX等が参加していた。Framestoreは,プレビズも担当している。


写真21 これがタイムリッパー。操作しているのはカサンドラ。
(C)2024 20th Century Studios / (C) and TM 2024 MARVEL.

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