O plus E VFX映画時評 2026年3月号掲載
■「ウィキッド ふたりの魔女 - オリジナル・サウンドトラック」
■「ウィキッド 永遠の約束 - オリジナル・サウンドトラック」
(Universal Music)
ずっと気になっていたが,Topページの「映画サウンドトラック盤ガイド」は長い間更新していない。最後は2025年2月号であるから,もう1年以上前だ。しかるべきネなかった訳ではない。すぐ翌月の3月号で2作品紹介したかったのだが,同月も翌4月号もメイン記事が多く,サントラ盤ガイドにまで手が回らなかった。その後は,欲張って論評記事を多数取り上げた上に長文になり,メイン記事は多数の画像を使ったVFXメイキング解説を始めてしまい,時間的余裕がなかったのである。
それではまずいと13ヶ月振りに当欄を更新することにした。その対象は1年前に語るはずであった『ウィキッド ふたりの魔女』(25年3月号)とその続編である『ウィキッド 永遠の約束』(26年3月号)のサントラ盤である。勿論,当欄の再開をして語るだけの価値がある対象でありの期を逃すと,またズルズルと「更新なし」が続きそうだからだ。
本編紹介で述べたように,映画2本は大ヒット舞台ミュージカル「Wicked」の映画化作品であり,その第1幕と第2幕に対応している。以下,長くなるので映画名は書かず,「前編」「後編」と呼ぶことにする。過去には,日本国内版/国際版,CD盤/LP盤/ネット配信版,通常版/デラックス版等のバリエーションも詳しく紹介し,どれがお買い得か,買い間違えないための注意も書いた。今回はそれを省略し,シンプルにミュージカル歌曲としての価値を中心に語る。
CD販売もネット配信も,登場人物が劇中で歌う曲だけの「歌曲版」,映画用の劇伴器楽曲だけの「スコア版」に別れている。
前編のスコア版:26曲収録
後編のスコア版:28曲収録
で,歌曲版と両方をCD盤2枚のセットにしてボーナス曲を加えた「デラックス版」は,前編,後編ともに日本でだけ発売されている。世の中はデジタル配信中心であるのに,日本だけがまだCD販売に拘っているようだ。
歌曲版は,国内版と国際版(輸入盤)でボーナス曲数が異なるが,基本構成は前編,後編いずれも11曲である。
●前編 歌曲版のトラックリスト
1. “No One Mourns The Wicked” Ariana Grande feat. Andy Nyman,
Courtney-Mae Briggs, Jeff Goldblum, Sharon D. Clarke & Jenna Boyd
2. “Dear Old Shiz” Shiz University Choir feat. Ariana Grande
3. “The Wizard And I” Cynthia Erivo feat. Michelle Yeoh
4. “What Is This Feeling?” Ariana Grande & Cynthia Erivo
5. “Something Bad” Peter Dinklage feat. Cynthia Erivo
6. “Dancing Through Life”
Jonathan Bailey feat. Ariana Grande, Ethan Slater, Marissa Bode & Cynthia Erivo
7. “Popular” Ariana Grande
8. “I’m Not That Girl” Cynthia Erivo
9. “One Short Day” Cynthia Erivo, Ariana Grande, Kristin Chenoweth
& Idina Menzel feat. Michael McCorry Rose
10. “A Sentimental Man” Jeff Goldblum
11. “Defying Gravity” Cynthia Erivo feat. Ariana Grande
●後編 歌曲版のトラックリスト
1. “Every Day More Wicked”
Wicked Movie Cast & Cynthia Erivo feat. Michelle Yeoh & Ariana Grande
2. “Thank Goodness / I Couldn’t Be Happier”
Ariana Grande & Wicked Movie Cast feat. Michelle Yeoh
3. “No Place Like Home” * Cynthia Erivo
4. “The Wicked Witch Of The East” Marissa Bode, Cynthia Erivo & Ethan Slater
5. “Wonderful” Jeff Goldblum, Ariana Grande & Cynthia Erivo
6. “I’m Not That Girl (Reprise)” Ariana Grande
7. “As Long As You’re Mine” Cynthia Erivo & Jonathan Bailey
8. “No Good Deed” Cynthia Erivo
9. “March Of The Witch Hunters” Wicked Movie Cast & Ethan Slater
10. “The Girl In The Bubble” * Ariana Grande
11. “For Good” Cynthia Erivo & Ariana Grande
*:映画版への追加曲(新曲)
【舞台ミュージカルと映画との歌唱曲の違い】
物語の基本骨格は映画は舞台で同じであるので,前編の曲は,舞台第1幕の曲をかなり忠実に収録していて,新曲はない。ただし,装飾的なアレンジを加えたり,前奏・間奏を長くする等の編曲をしているようだ。これには明確な理由がある。舞台劇は休憩込みで約2時間45分であるのに対して,映画は前編161分,後編135分,計5時間超の長尺なので時間的余裕があり,歌唱曲もゆったり朗々と歌えるからである。キャラクター心理の掘り下げや物語の補完的な役割も果しているようだ。
第1幕は人気曲が多いのに対して,第2幕は元々曲数が少ないので,かなりテコ入れしたようだ。舞台版の“Thank Goodness”が2曲に分割され,1.“Every Day More Wicked”と2.“Thank Goodness / I Couldn’t Be Happier”に再構成されている。5.“Wonderful”は,魔法使いとエルファバ2人の歌唱だったのが,グリンダが加わり,トリオでの歌唱となっている。そして何よりも注目を集めたのは,*印を付けた新曲2曲,3.“No Place Like Home”と10.“The Girl In The Bubble”が,映画用に追加されたことである。それぞれエルファバとグリンダのソロでの歌唱であり,Cynthia ErivoとAriana Grandeの歌唱力を活かした堂々たるミュージカルナンバーとなっている。
前編はすべて既発表曲であったため,GG賞やアカデミー賞の歌曲賞部門にはノミネートされなかった。1年後,GG賞はこの映画化に敬意を表したのか,この新曲2曲をWノミネートした(受賞は逃した)。アカデミー賞は既に本編紹介でも触れたように,歌曲賞のみならず,全部門で無視の冷遇が重ね重ね腹立たしい。
【人気曲のリストアップ】
元々舞台版でも人気曲は第1幕に集中していて,3.“The Wizard And I”, 6.“Dancing Through Life”, 7.“Popular”, 11.“Defying Gravity”等の人気が高い。“Popular”と“Defying Gravity”の2枚看板という声もあるが,「Wicked」の代表曲と言えば,断トツで“Defying Gravity”だとするのがお決まりのようだ。歌唱曲だけでなくオリジナルスコアの評価も高く,グラミー賞は前編の音楽全体がグラミー賞の「Best Compilation Soundtrack for Visual Media」にノミネートされた。舞台版のアルバムは既に「Best Musical Show Album」を受賞していた。
それに比べると,後編の音楽はやや弱く,人気はエルファバとグリンダが別れを告げる11.“For Good”に集中しているようだ。“Defying Gravity”は7分11秒,“For Good”は6分17秒もあり,曲自体の名曲度だけでなく,舞台も映画もクライマックスでの盛り上げに相応しい楽曲としての評価が高いようだ。今回,舞台版アルバムも入手して聴き比べたが,筆者には2曲とも断然映画版の方が上だと感じた。
【歴代ミュージカル映画との比較】
歴代の舞台ミュージカル,ミュージカル映画の中での評価も調べてみた。舞台ミュージカルに関しては,最近は「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」「キャッツ」が世界3大ミュージカルと呼ばれ,「ミス・サイゴン」を加えて4大ミュージカルとする声もあるようだ。その映画化作品となると,評価は異なる。『オペラ座の怪人』(05年2月号)は大成功の部類,『レ・ミゼラブル』(13年1月号)はまずまずの出来映えだったが,『キャッツ』(20年1・2月号)は大失敗作であった。「ミス・サイゴン」は「25周年記念ロンドン公演」の撮影映像を劇場公開しただけで,純然たる映画化はなされていない。
歴代の舞台ミュージカルの映画化では,古くは『ウエスト・サイド物語』(61)『マイ・フェア・レディ』(64)『サウンド・オブ・ミュージック』(65)が映画史に残る大ヒット作だった。「美女と野獣」「ライオン・キング」は長編アニメ映画が先で,舞台ミュージカル化しても成功した部類なので,順序が逆である。21世紀に入ってからは,『シカゴ』(03年4月号)『マンマ・ミーア』(09年2月号)の評価が高い。本作は,名作『オズの魔法使』(39)の前日譚の舞台ミュージカルが成功し,それをミュージカル映画化したという珍しいケースだが,舞台と映画をセットにした場合は『オペラ座の怪人』『シカゴ』と同等かそれ以上と評価されているようだ。楽曲の素晴らしさと壮大なビジュアルのバランスの良さが大きなセールスポイントである。
強いて難を言えば,前後編に分け,物語的にも音楽的にも少し劣る後編を1年後公開にしたため,印象が少し悪くなった。映画をまとめて5時間強は少し辛いが,サントラ盤2枚は100分で聴ける。是非,音楽性の高さと圧倒的な歌唱力を味わって頂きたい。
(
)