O plus E VFX映画時評 2026年4月号掲載

映画サウンドトラック盤ガイド


■「Song Sung Blue (Music from the Motion Picture)」
(Rambling RECORDS)



 音楽伝記映画として最高点評価し,主演男女優の歌唱力も絶賛した以上,サントラ盤も紹介しない訳には行かない。「本編紹介」よりかなり後になったが,サントラ盤の構成を述べた上で,Neil Diamondに関しても触れておくことにした。
 最近の音楽販売は,圧倒的にネット経由での音源データ入手か定額のストリーミング視聴が主流である。少し遅れて海外ではマニアのためにカラフルなアナログLPレコードが発売され,日本のマニアはそれを輸入している。今でもCDに拘っているのは,日本くらいだと何度も書いてきた。
 ところが,本作に関しては,その常識を大きく外れていた。何と,日本国内ではデジタル配信がない。配信サイトで「ソング・サング・ブルー」と入力すると,このサントラ盤ではなく,Neil Diamondの原曲が出て来てしまう。AmazonやHMV等で入手できるのは,輸入盤CDか輸入盤アナログLPなのである。ということは,米国でCD製作されている訳で,その上,驚いたことにカセットテープまで発売されているのである。国内ではNeil Diamondの知名度が低く,映画もさほどヒットせず,輸入盤だけで十分とのことなのだろう。それに対して,米国では,デジタルデータが扱えず,いまだにCDかカセットでしか音楽を聴かない年齢層にNeil Diamondファンが多いということなのだろうか。Neil Diamond本人の過去のアルバムを調べると,カセットが発売されていて,現在でもAmazonから入手できる中古輸入品がいくつかある。かつて,長距離輸送のトラック運転手がカセットで聴いていたのかも知れない。
 それだけ様々なフォーマットがあっても,アルバムジャケットは上の1種類だけであり,収録曲もすべて下記の16曲である。

  1. “Cherry, Cherry”☆★  Hugh Jackman feat. Kate Hudson
  2. “I’m a Believer”☆★  Hugh Jackman feat. Kate Hudson
  3. “Oh Boy!”  Michael Imperioli
  4. “Walkin’ After Midnight”  Kate Hudson
  5. “Get On Up”  The Ton3s
  6. “Forever In Blue Jeans”☆  Hugh Jackman & Kate Hudson
  7. “Sweet Caroline”☆★  Hugh Jackman & Kate Hudson
  8. “Play Me”☆★  Hugh Jackman & Kate Hudson
  9. “Crunchy Granola Suite”☆★  Hugh Jackman & Kate Hudson
 10. “Holly Holy”☆★ Hugh Jackman & Kate Hudson
 11. “Everyday”  Michael Imperioli
 12. “Sweet Dream”  Kate Hudson
 13. “I Am…I Said”☆★  Hugh Jackman
 14. “I’ve Been This Way Before”☆  Kate Hudson
 15. “Soolaimon/Brother Love’s Traveling Salvation Show”☆★
                  Hugh Jackman & Kate Hudson
 16. “Song Sung Blue”☆★  Hugh Jackman & Kate Hudson

 ☆:下記のアルバムAの収録曲
 ★:下記のアルバムBの収録曲

 いずれも劇中かエンドロールで流れていた曲であり,この映画のために作られ曲はない。そもそも映画が「ジュークボックス型伝記映画(既存楽曲を並べるタイプ)」である上に,登場人物は歌真似歌手かトリビュートバンドなのだから,既発表のヒット曲しか歌わないので,新曲は必要ない。曲順も劇中での登場順ではなく,かなり組み替えられている。劇中では1コーラスしか流れないのに,サントラ盤ではフルコーラスを収録しているのはよくあるパターンだ。本作は,ほぼすべて別途しっかりスタジオ録音された音源のようだ。劇中で2人の掛け合いは自在で,途中からクレアが絡んで歌うシーンもあったが,サントラ盤ではきちんとしてデッエットであり,きれいなハーモニーを付けている。7.“Sweet Caroline”で,聴衆が「パン,パン,パン」と間の手を入れる音は,残念ながらサントラ盤には入っていない。
 Hugh Jackmanがソロで歌う13.“I Am…I Said”も,Kate Hudsonと2人で歌う9曲は,すべてNeil Diamondの持ち歌であり,かつ彼自身が作詞・作曲して曲であろ。2人の歌唱力はまさにプロ級であり,本物の「Lightning & Thunder」の2人よりも上手いことは,本編解説でも述べた通りだ。
 3.“Oh Boy!”と11.“Everyday”のMichael Imperioliは,Buddy Hollyの物真似歌手役で登場していた俳優であり,曲もBuddy Holly自身が作った曲である。声質はさほど似ていないが,歌い方やアレンジは,いかにも1950年代の生前のBuddy Hollyを思い出させてくれる。どうせなら,最大のヒット曲“Peggy Sue”を映画でも使い,このサントラ盤に入れて欲しかったところだ。  Kate Hudson がソロで歌う4.“Walkin’ After Midnight”と12.“Sweet Dream”は,同じく1950年代に活躍したカントリー歌手Patsy Clineのレパートリーである。劇中で,クレアはマイクとコンビを組む前,このPatsy Clineの歌真似歌手としてステージに出ていた。残るソロ曲14.“I’ve Been This Way Before”だけは,Hugh Jackmanの持ち歌である。「Lightning & Thunder」としてカバーしていたが,夫の死により,その葬儀の席でクレアが1人で歌い,参列者の涙を誘った。自己の存在や孤独を歌う内省的な歌詞であり,「夫の死を受け止められない妻の心情」とマッチしていて,見事なクライマックスであった。
 5.“Get On Up”は,よく分からなかった。The Ton3sは実在のソウル系のコーラスグループのようだが,さほどメジャーな存在ではない。おそらく劇中ではBGM的に流していた曲を,1960年代初期の雰囲気を表わす曲として,このサントラ盤にも入れたのだろう。

【Neil Diamondの履歴とベストアルバム】
 日本での知名度が低いようなのでNeil Diamondの略歴を紹介しておこう。彼は1941年1月24日NYブルックリン生まれのシンガーソングライターで,現在85歳である。現在も現役であり,少なくとも5年前まではライヴ公演を行っていたし,来たる5月にはニューアルバムをリリースするという。
 ユダヤ系移民の家庭に生まれ,Barbra Streisandは高校時代の同級生で共に合唱部だったという。 1960年代初期に友人と音楽活動を始め,60年代中期には作曲家として頭角を現わした。当時人気グループであったThe Monkeesに数曲を提供している。“I’m A Believer”がヒットチャートのトップを走り,1966年の「Popular Music Song of the Year」とことから注目を集める。やがて,ソロシンガーとして“Cherry, Cherry” “Solitary Man” “Sweet Caroline”のヒット曲を生み出し,人気歌手の仲間入りをした。Elvis Presley, Cliff Richard, Deep Purple等の大物が,彼の曲をカバーするようになった。
 とはいえ,No.1ヒットを連発するような派手で,アイドル的な歌手ではなく,豊かな声量で朗々と歌う正統派のポピュラー歌手である。強いて言えば,ジャンルは大人の観賞に堪える「アダルトコンテンポラリー」である。カントリーやソウル系ではなく,男臭さを前面に出した歌唱であり,ルックスもそれに合っている。強いて言えば,ジャンル的は大人の観賞に堪える「アダルトコンテンポラリー」だと言える。全盛期は1970年代初期から80年代中期頃で,毎年確実のプラチナ・アルバムを生み出した。スタジオ・アルバムは計32枚,ライヴ・アルバムは8枚で,キャリア全体で1 億 3000 万枚以上のアルバムを売り上げている。1984年に「ソングライターの殿堂」,2011年に「ロックの殿堂」入りを果した。
 着実に中規模のヒット曲を積み重ねたので,それを柱としたライヴ公演も1970年代から勢力的にこなしていた。米国以外ではカナダやオーストラリアでも知名度は高い。それゆえ「Lightning & Thunder」のようなトリビュートバンドが登場し,彼らもそれで生活が成り立っていたと言える。  過去も現在も,最も人気のある曲は1969年にリリースした“Sweet Caroline”であり,彼の代名詞的存在である。ヒットチャートの最高位は4位であったが,多くの歌手がカバーしたことから,今ではスタンダートナンバー扱いである。メジャーリーグのボストン・レッドソックスはテーマ曲として採用し,本拠地試合の8回表終了時に必ずこの曲を流すという。
 筆者がNeil Diamondの存在を知ったのは,Elvis Presleyがこの曲をカバーしたことからである。Elvisは1969年からラスベガスでの定期公演を始め,そのライヴステージでは,自分の曲に拘らず,他の歌手のレパートリーからお気に入りの曲を選び,それを披露した。“Release Me” “Polk Salad Annie” “Proud Mary” “I Just Can't Help Believing”等と並んで“Sweet Caroline”も採用され,映画『エルヴィス・オン・ステージ』(70)の中でも歌われていた。このことから,原曲の歌手の名前も一気に知られるようになった。筆者もそれでNeil Diamondの名前を知った1人である。早速,彼のベスト盤とライヴ盤を購入し,その後も数枚ニューアルバムのLPレコードを買い求めた。
 現在,筆者の音楽ライブラリーにあるNeil Diamondのアルバムは,計13点ある。その中から入門編として,ベスト盤とライヴ盤各1枚を紹介しておこう。購入しなくても,YouTubeで聴くことはできる。Neil Diamond本人の歌唱を聴けば,いかにHugh Jackmanが巧みにNeilらしくカバーしていたかが分かる。


All-Time Greatest Hits
Hot August Night

A. 「All-Time Greatest Hits」
 ベスト盤は30枚近くも発売されたが,これが現時点での決定版だ。2014年発売の通常版は21曲入り,2015年発売の「Deluxe Edition」はCD2枚組で計42曲である。

B.「Hot August Night」 (Live At The Greek Theatre, Los Angeles/1972)
 同じタイトルで何度もライヴ公演しているが,最もエネルギッシュで好評だったのが,1972年のライヴだ。当初のLP盤は22曲だったが,CD化された2000年版は3曲増えて計25曲,2012年の「40th Anniversary Deluxe Edition」は29曲になり,これがお買い得だ。

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