コンピュータイメージフロンティアIII
電脳映像空間の進化(7)

インターネットの情報経済学

ゲスト:湯川朋彦(電通総研)

 プロローグ

 今月のゲスト湯川朋彦氏を知ったのは,(社)日本印刷産業連合会のマルチメディア委員会の席である。
マルチメディアの進展が業界に与える影響を予測する会で,当方はもっともらしい意見を言う役のヒラ委員,彼は電通総研が受託したこの調査の主担当者であった。ソフトな語り口の中にクールな分析が光っていた。いくつか著作を読むうちに,若いのになかなかの論客だと知った。
 この委員会で謹呈されたのが,4月号(No.209)の書評で取り上げた『情報メディア大予言』であった。日経と電通の視点の違いが気になった。そこで,7月から大蔵省の財政金融研究所に嘱託社員として出向中という,このスマートな若者に来てもらうことにした。本シリーズ最年少のゲストである。
) 

 マルチメディアはお付き合い程度

 Dr. SPIDER 印刷業界のマルチメディア委員会で,事情聴取をする有識者の候補に「A級戦犯」として,私が日経の中島氏を推薦しましたね(笑)。そのご縁もあって,この前このインタビューのゲストとして中島さんに来てもらったのです(6月号参照)。今日は,その中島さんと対比しながら,お話を伺いたいと思います。
 Yuko まず,電通さんとして,マルチメディアやインターネットをいつ頃から意識してお仕事をしてこられたのでしょうか?
 湯川朋彦 基本的に世の中で何が流行っているかに敏感な会社なので,マルチメディアにも手を
出そうとしていたんでしょうが,あまり仕事には結びつきませんでした。強いて言えば,インターネットが話題になる前に,テレビゲーム的なものが先でした。松下電器がやっていた今はなき3DOが騒がれて…。
  何ですかそれは?
  も2代目になると知らないのか。マルチメディアも第2世代に入ったということですね。 アメリカの3DO社が開発したCD-ROMベースのマルチメディア・プレーヤで,その仕様を外にライセンスしたんです。松下電器が最も熱心で,3DO Realというのを大々的に製造・発売しました。三洋電機も追随しました。93〜94年頃のことですね。
 湯川 アメリカで投資家を募った時,博報堂が入ってたんですよ。あの時は社内でも騒ぎました。ウチはこれでいいのかと(笑)。
  電通としては,バスに乗り遅れたんじゃないかということですね。
  いずこもライバル会社の出方は気になりますからね。
  結果はどうなったんですか?
  汎用のマルチメディア・プレーヤというけれど,大したタイトルは揃わなくて,ビデオゲーム機としては高過ぎました。後発のセガ・サターン,さらにソニーのプレイステーションの後塵を介して惨々だったということでしょう。
 湯川 結果としては乗らなくても良かったんですけれど,マルチメディア・コンテンツに関わろうとして,何もできなかったんです。
  博報堂の後を追わなくて幸いだったと(笑)。
 湯川 電通として他に成功したものがあるわけじゃないんですけれど…。
  私のイメージでは,電通さんはもっとマルチメディアに積極的な感じでしたよ。浜野保樹氏の話の中には,電通経由の情報がかなりありました。CD-ROMに広告を入れようという話とかね。その前には,ハイビジョンが世の中を変えるといって「ハイビジョン曼陀羅」なんて図を掲げておられたし…。
 湯川 私は92年入社なのであまり古い話は知らないんです(笑)。日経さんとMMA(マルチメディアソフト振興会)を作ったり,対外的な活動はあったようですが,研究開発や投資の一部ということですね。電通全体の主流ではなくてメーカーさんとのお付き合いの場という感じです。
 ともかく,マルチメディアというのはマッキントッシュにCD-ROMで絵が出てくるものという印象でした。
  情報ハイウェイだ,CATVだ,VODだと騒いだのがその次ですね。
 湯川 テレビ局がマルチメディアの中でどういう対応を迫られるのか,新聞がどうなるのかという観点で見ていました。ディジタルで多チャンネルになるとどうなるかは,今でも興味をもっています。
  広告代理店としては,マスメディアの盛衰は最も気になるところでしょうね。

 他人には勧めても,自分では…

  インターネットについては,湯川さんの近辺はいかがでしたか。
 湯川 インターネット自体は大学時代から使っていました。
  ということは,まだWWWじゃないですね。
 湯川 電子メールとせいぜいFTPですね。4年生になって研究室に入ると電子メールのアドレスがもらえて「そうか,アメリカにも出したりできるんだ」と感激したんです。東工大は割と早かったと思うんですよ。
  そりゃそうですよ。村井純さんが,まだ東工大の助手の頃に始めたのがJUNETですから,日本のインターネットの発祥地ですよ。私も,繋いでもらうお願いにウチのメンバーを東工大まで行かせました。菓子折持参でね(笑)。1986年のことです。
 湯川 そんなことで,電子メールが世界中に送れて,これって誰がお金を払っているのかと不思議に思っていたんです。どうやら情報工学科の予算でやってたみたいですね。
  私は,東工大の情報の出身なんです。
  それも修士出ですよ。そうは見えませんか?
 湯川 いや,あまり女性がいない大学なんで…。
  いても,色気のないのばかりだったとか(笑)。
  情報工学科は,女性はかなり増えています。最近はオシャレな子も多いですよ(笑)。それはともかく,WWWが広まったのは会社に入られてからですよね。
 湯川 最初のうちはgopherでしたね。それから,WWWがものすごい話題になりました。最初は半信半疑だったけれど,やっぱりすごいなということになり,自然に電通総研のウェブマスターになってしまいました。
 会社としてホームページを立ち上げたのは,結構遅くて95年だったかな。電通本社はもっと遅かったですね。dentsu.co.jpとやると,‘under construction’と出てきたりして(笑)。
  意外ですね。そういう流行には特に目ざといように見えますが…。
 湯川 自分のホームページはないくせに,サーバーは2つももっていて,クライアントのホームページを立ち上げるサービスはやっていたんです。
  ここでいうクライアントはお客さんのことですよね。ブラウザのわけないから…。
 湯川 そうです。WWWだと言葉が紛わしいですね。そもそも広告会社というのは,一般の人に広く知ってもらう必要はなくて,クライアント企業にだけ知ってもらえばいいと思っているんです。だから自分自身のホームページは後廻しになってしまう(笑)。
 ただし,バブルがはじけて以来,企業に企画を出してもなかなか予算が取れない時期でしたから,「マルチメディア」はマジック・キーワードでした。日経さんの主催されるイベントでもマルチメディアだと人は集まりましたから,お金を引き出すのに,我々自身も盛り上げていました。
  中島さんのキャンペーンに便乗した訳だ(笑)。インターネットが爆発的に広まって,電通総研内での評価は変わってきましたか?
 湯川 ブームの頃に「マスコミはつぶれる」とか「テレビ広告はなくなる」とかセンセーショナルに報道されたので,電通の中でも役員が「おい,本当に広告,大丈夫なのか?」と気にし始めまして(笑)。やがて,そう急にマスコミにとって代わるものではないということになり,95年後半くらいから,「驚いてばかりいないでもっと積極的にやっていこうか」というムードになりました。
 でも,まだその上でお金が動くものではないという感覚ですね。クライアントにはプランを出すかも知れないけれど,中では「だからどうなるものでもないだろう」と結構冷静なんですよ。
  じゃあ「B級戦犯」くらいですね(笑)。

 インターネットはTVに近づく

  マルチメディアもインターネットも,電通の本業であるマスメディア広告に影響を及ぼす存在にはなっていないということですね。それでいて『情報メディア大予言』なんて本を出されていて,メディア産業の行末はしっかり監視しておられるようですね。
 私は,インターネットは,従来の物差しでは測れないメディアだと思っているんです。これは雑誌なのか,それとも新聞なのかテレビなのか,あるいは同好会の場なのか,見ず知らずの人達が集まる広場なのか。あらゆる要素があって,まだどちらへ向かうのか見えていないと思います。
  湯川さんの解釈はいかがですか?
 湯川 可能性としては世界最大のマスメディアになり得る,と本には書きました。テレビで全世界に同じ放送をすることはほとんどないけれど,インターネットだと,それができちゃうわけでしょう。同じCNNのサイトを見るならば,それはテレビ以上のマスメディアですね。O. J. シンプソンの逃亡映像とか,この前の火星の映像とか,全世界が同じものをほぼ同じタイミングで見るというのは,すごいメディアだと思います。
 スケーラビリティがあることが,インターネットの最大の特長だと考えています。
  ここでおっしゃっているスケーラビリティって何ですか?
 湯川 すごく狭い範囲の趣味のページがあるかと思えば,世界中の人が見るニュースまである。パーソナルからマスまで同じ土俵に乗っているというか,すべてを包含していることですね。
  ミニコミからマスコミまで,あらゆるサイズのメディアだということでしょう。
 湯川 テレビだとそのスケーラビリティは限られていた。インターネットだと誰にでも発信できて,あとは見る人の自由ということです。でも,どちらかというと,だんだんマスの方向に動きつつある気がします。皆が見たがる情報をインターネットでも流そうという傾向が出てきましたね。出す側が何を出せば一番見てもらえるかと考えると,マスの方に動いて行くのは必然的だと思います。
  それは比率の問題で,インターネット本来のユーザーであった学者世界での利用も増える一方です。国際会議のプログラムはいちいち取り寄せなくてもウェブ上で見られるし,論文の別刷も請求せずにすぐダウンロードできます。インターネットが商用化され,いいブラウザがタダ同然で手に入るようになり,学者世界も労せずしてその恩恵を受けていますね。
 湯川 そちらが減ったというわけじゃないんですが,普通の人が見るページは有名なサイトに集中しつつあると思います。昔は色々なサイトを探るネットサーフィンが流行っていたけど,今は個人のページを見る比率は減っているんじゃないでしょうか。新聞社が社をあげて情報をドカンと投入すれば,そちらを見る比率は増えますね。
  情報の価値からすると当然ですね。
 湯川 この図(図1)は,その動向を表わしたものです。音楽をライブで流したり,映像をリアルタイムで流すサイトも増えてきたので,インターネットはラジオやテレビも取り込んだ複合的なマスメディアへと進化していると言えると思います。
 電通総研が96年11月にホームページ上で実施したアンケート調査によると,インターネットの利用により最も接触時間が減ったメディアがテレビなんです。逆に最も影響を受けなかったのが新聞という結果が出ているんです。
  インターネットでニュースが流れても,新聞本体に影響は及んでないんですね。
 湯川 一方,現在のパソコン利用者,インターネット・ユーザーはまだかなり限られた人々であり,知的水準は高く情報摂取欲旺盛な層です。この人たちはもともとテレビをあまり見ないし,インターネットによって一層テレビ離れが進んだと考えられるのです。
 逆に言えば,テレビの主たる視聴者層はまだインターネットを使っていない。この層にまでユーザーが広がるには,インターネットもその嗜好に合わせて変化して行くだろうし,そうでなければユーザーも増えない。その意味で,インターネットが今のテレビ的なマスメディアに向って行くと思うんです。

 同志達へのアンケート

  一般的なユーザーの意識はそうだとして,情報発信側の意識はどうなんでしょう?shockwaveVRML,さらにはライブ映像配信など,ウェブサイトも賑やかになってきていますが,どんどんこのままページ作りも派手になって行くのでしょうか。
 湯川 それについては,今年(97年)の5〜7月に行なった調査結果をもとにお話しましょう。企業とユーザーの意識の違いやWWWでの有料サービス等の可能性を探るための調査です。
 ウェブマスターに対するアンケートとユーザー・アンケートの2本立てで,さらに情報発信をしている企業やホームページの制作者へのヒアリングもやったんです。
  「日経マルチメディア」が定期的にユーザー・アンケートをやっていますが,ウェブマスターを対象にしたのは面白い発想ですね。
 湯川 私自身がボランティアとしてウェブマスターを務めていたので,他の会社ではどんな人がやっているのか,どんな部門に属しているのか,個人的興味もあったんです。
  同志たちの声が聞きたかったんですね(笑)。
  どうやってウェブマスターに当たったんですか?
 湯川 webmaster@….co.jpに電子メールで「アンケートお願いします」と書いて送ったんです(表1)。日経BP社のCompany Directory,これは50音順に会社名が並んでいるので,5つおきに企業名をピックアップして,1つずつホームページを開いて行ったんです。724通出すのに2週間かかりました。
 有効回答222通,30.1%はかなり高い回答率だと思います。丁寧で熱心なお返事が多かったですね。ウェブマスターという存在の実態があまり知られていないという現実から,調査に対する共感と熱心な回答につながったんだと思っているんです。

表1 ウェブマスター・アンケート項目
プロフィール
  年齢,出身学部
  コンピュータ歴(インターネット,パソコン,汎用機,UNIX使用歴)
問 1 御社でホームページを管轄する部署はどこですか?(複数回答可)
問 2 御社のウェブマスターは何人ですか?
問 3 ウェブマスターの役割を下記からお選びください。(複数回答可)
問 4 現在御社のホームページでは以下の技術に対応(もしくは対応したコンテンツを提供)していますか?(複数回答可)
問 5 御社のホームページ上では下記のコンテンツに必要を感じますか?(複数回答可)
問 6 一日に平均して何時間くらいウェブマスターとしての業務を行っていますか?
問 7 ウェブマスターの仕事は好きですか?
問 8 あなたはウェブマスターとしての業務以外に,インターネットを1日に平均何時間使っていますか?
問 9 よく使われるサイトはどういう種類のサイトですか?(複数回答可)
問10 あなたは,個人的に有料のサイトを利用していますか?
問11 個人的に興味のあるサイトを教えてください。
問12 2000年における日本のインターネットユーザー数はどの程度と思われますか?
問13 インターネット広告の今後についてどのようにお考えですか?
問14 インターネット上での有料情報サイトに関してどのようにお考えですか?
問15 インターネットについて,お考えのことをなんでもお答えください。

  どんな人たちなんですか?
 湯川 20代〜30代が6割以上で,これは予想通りです。役割の重要な割には若いと言えますね。圧倒的に男性で,女性は数%です。
 業務内容は,コンテンツの更新,質問への回答や関係部署への転送が主ですね。平均使用時間は2時間36分で,4時間以上が1/4を占めます。10時間以上も3%もいました。
  それはウェブマスター専従ということですね。
 湯川 8割以上の人がウェブマスターの仕事が好きだと答えています。所属部署としては,広報・宣伝と調査・企画の合計で約半数を占めます。新商品や販売店の紹介といった,新しい広報・宣伝メディアとしてWWWを使っているところですね。
 一方,その他の回答の中には,情報システム部やマルチメディア推進室といった名称も少なくなく,企業内情報化や新規事業担当部署が担当しているわけです。
  草の根的にボランティアがやっていたのが,だんだん役目として確立してきたということですね。
 湯川 大企業ほどオーソライズされた形で担当がいますね。ボランティアの比率は減っているものの,やはり相対的にインターネットの先進ユーザーでしょう。さすがにコンピュータ歴は長く,汎用機歴20年以上,UNIX歴10年以上という人も少なくありません。それにつれてインターネット歴も長いようです。
  ご意見番で一家言ある連中が多いんですよ。
 湯川 その彼らの意識で意外だったのは,「個人的に有料のサイトを利用しているか?」に対して82%が使っていないと答えたことです。66.8%が何らかの形で有料情報サイトが普及すると答えておきながら,自分たちはほとんど使っていないのです。
  有料に値する情報がないということでしょうか?
 湯川 それもあるでしょうが,UNIX畑出身の人達には,「情報はタダ」という意識が強いのかも知れません。ユーザー・アンケートでは課金に対する不安がかなり上がっていましたから,この点が解消されれば有料サイトを使う人は増えると思います。いまのところ,有料情報の大部分はアダルト系ですが…(笑)。
  それじゃウェブマスターの役目の間は利用しませんよ。真っ昼間に会社でそんなの見ているわけには行かないでしょう(笑)。

 企業側が及び腰

  ホームページに彩りを添える装飾についてはいかがでしたか?
 湯川 企業側も取り組みに積極的だし,ユーザー側も約9割は基本的に好ましいと見ていますね。今回のユーザー・アンケートは,ホームページで呼びかけるのではなく,こちらも電子メールによる送付にしました。有効回答数338通,10.2%です。
 設問がやや高度だったので,回答してくれたのは意識の高いパワーユーザー層と考えられるんですが,やはり過度の装飾によって表示に時間がかかるのは困るという答が67%でした。プラグイン・ソフトのダウンロードも大抵が経験済ですし,プッシュ型メディアの利用率も約7割です。
  えっ!? 7割もですか。それはちょっと驚きですね。
 湯川 私もそう感じました。要するに,これはダイレクト・メールなのです。新しくて古い情報提供の形です。
  無料で配信してくれるならとりあえずもらっておくか,というところなんですかね。
 湯川 報道系のニュース配信やコンピュータ関連の商品情報の人気は高いんですが,その他の商品情報や官公庁の情報となると,ぐっと差がつきます。日ごとに激しく変化する情報性の高い情報へのニーズが高いようです。
  無駄な情報までどんどん送ってくるという感じがするんですよ。
 湯川 ジャンク・メールも増えていますね。プッシュ型サービスが通信の混乱の原因になるだけとの声も聞かれます。マイクロソフトは,ブラウザからこの機能をはずすという自主規制に乗り出すという話もあります。
  映像の配信はどうなんですか?
 湯川 これについては,企業側とユーザー側でかなり意識のズレがあるんです。企業側は蓄積系の動画像にはある程度必要性を感じるけれど,ライブ映像については躊躇しています(図2)。一方,ユーザー側では約8割がライブを見たがっているし,49%は何らかのアクションを起こしているんです(図3)。
  企業側がどんどん進んでいて,ユーザーは冷ややかに見ているのかと思ったら,その逆なんですね。
 湯川 いま一番普及している28.8kbpsのモデムでは,まだ動画を見せられる環境にはないと認識しているんです。もっとISDNや56kbpsの回線が増えれば,動画コンテンツ作りにも前向きな姿勢になってくると思います。
  見たがられても,企業宣伝だとライブで見せたいものはそうないし,コストも合わないんでしょう。
 湯川 ライブ映像へのニーズについては,プッシュ型サービスとは全く違った反応が出ているんです(図4)。エンターテイメントやレジャー関連のニーズが多くて,ビジネス関連は少ないですね。技術的な問題が解決して多人数が同時に見られるようになれば,ビジネスツールとしての新しい使い方もアイデアも出てくるでしょう。
  企業としての情報発信よりも,ライブ映像は有料サービスや,企業内でのイントラネット向きだと思いますよ。防犯や工場内の作業管理にも使えますからね。

 音楽を流すなら今のうち

 湯川 もう1つ企業とユーザーの意識の乖離としては,企業側はWWWを広告メディアだと思っているのに,見る側のユーザーには広告という意識はうすいことです。自分の欲しいカタログだけをもらいに行く感覚です。
 企業側はひたすら見てもらいたいので,見てもらいやすいページ作りのためのガイドラインを設けるところが増えています。商品カタログや広告に各社ともガイドラインがあるように,ホームページ作りにも基準を設けようという動きです。
  どんなことを決めているのですか?
 湯川 基本的なレイアウトから,ロゴの大きさ・色,言葉の使い方などです。日本の代表的なウェブサイトであるS社の場合は,かなりしっかりしたガイドラインを定めています。画像の大きさも規定されていて,各ページを小さく軽くしてロードしやすくしてあります。「最小の情報量で最大の効果を」という感じですね。残念ながら,仕様そのものは社外秘で見せてもらえませんでしたが。
  ユーザーの身になって考えてくれているんですね。
 湯川 そうでもないんですよ。情報開示に伴う法的なチェックの意味合いもあるようです。「ホームページを見て,不利益を蒙った」という訴訟に備える防御的な色彩もあるのです。これからどんどんその傾向が強まるでしょう。皆同じ問題をかかえているから,こうしたガイドライン自体も,ホームページの作り方の新しい商売になっていくんじゃないかと思います。
  ウェブ上での著作権については如何ですか?
 湯川 これからもっと話題になってくる問題だと思います。ホームページ上で商品紹介する際に,テレビのCMや雑誌の広告で使っているタレントさんをそのまま使ってしまいたくなるんです。写真など素材がそのまま残っていますからね。インターネットでも露出するかどうか予め契約条項に入れるよう,包括契約もディジタルメディアを意識せざるを得なくなってくるでしょう。
  でも,いったんウェブ上で公開したら,いくらでも使われてしまいますね。
  湯川さんがおっしゃっているのは情報発信側の権利の話で,ユーザーが再利用してしまうのは,また別の問題ですね。いくらゥマークをつけておいても,勝手に使われちゃ仕方がないですよ。いまのWWWの仕組みなら,ディジタル・データとしてコピーできてしまうのは覚悟しなければならない。
 湯川 モデルやタレントを扱っているあるプロダクションでは,ホームページ上に写真を載せるかどうかでだいぶ議論があったようです。でも,画像が256色だと,ダウンロードされて印刷されても,さほどきれいなものにならないということで掲載に踏み切ったそうです。問題が起こることを恐れているより,多少のリスクは覚悟で新しいメディアの活用にトライしようということです。
  それはいつの場合にも言えることで,事例を重ねているうちに社会のルールが整ってくるんですよ。
  音楽の場合は管理がしっかりしていますね。
 湯川 それが,まだそうでもないんです。JASRACはまだインターネットへの対応をしていないので,問い合わせでもタライ回しにされたそうです。
  へぇーっ,あのしたたかなJASRACが!
 湯川 通信カラオケで手がいっぱいみたいです(笑)。
  じゃあ,今ならウェブ上で音楽は流し放題なんだ(笑)。
 湯川 基本的にはサーバが設置されている国のルールに従うので,J-Waveはアメリカにサーバーを置いてASCAPBMIと契約しているそうです。イギリスは音楽の規制がゆるいみたいですが…。
  ネットワーク環境がよくなれば,音楽や映像の利用はどんどん進みそうですね。
 湯川 流したいもの,コンテンツを持っている企業にとっては,WWWというのは非常にやりやすい面白い仕組みですね。直接ユーザーの声を聞きやすいという点では,情報提供側には画期的なメディアでしょう。

 湯川の10の予言

  では,ここでインターネットの意義のまとめとして,中島さんと比べてみましょう。
  メトカーフの予言に対してのご意見を予めお願いしておいたんですが…。
 湯川 これ(表2)が私のコメントですね。1番は,企業はもっともっと無駄をしているので大して気にしませんね。2番は,すぐには無理でも,整備されれば成立するでしょう。3番は,ネットサーファーはある程度テレビに戻るとしても,広告も増えるでしょう。4番は意味がよく分からなかったのですが…。情報はどんどん増えるでしょうから,むしろ回線が窒息しかねませんね。
 あと,標準化はどんどん進むでしょうし,技術的問題は何とか解決して行くんじゃないですか。この点に関してはかなり楽観的なんですが…。

表2 メトカーフの予言に対するコメント
(1) 巨額投資の割に見返りがない。
→ もっと無駄な投資を今までしてきたのではないか?
(2) デジタルマネーによる電子取引は成立しない。
→ VISA,MASTER,NTTデータ通信がほっておかない。他社に取られるくらいなら,自らが進んで促進させるだろう。
(3) インターネット上では広告市場が形成されない(ネットサーファーは消える)。
→ 成立する。日本には広告を受け入れる環境がある。
(4) 高速通信回線は電話会社が独占し,価格低下を阻害し,WWWは窒息する。
→ 回線を独占していると,電話会社の方が先に窒息する。
(5) ネットワークの安全性には欠陥があり,イントラネットが拡大する。
→ 基本的にはYes。ただし,人々はネットワークの呪縛から逃れられない。
(6) 標準化の争いにより,Internetworkingの価値は低下する。
→ デファクト・スタンダードに乗らないリスクを企業は痛感している。
(7) TCP/IPは過度に増大する利用に堪えられない。
→ 一時的なバーストはあり得る。がIPv6等で順次対応。
(8) プライバシー問題の煽動化により,Internetに対する反動がおこる。
→ 反動は既に起こっている。Digital Enclosure。
(9) Internetは動画処理に失敗する。
→ フラクタル・イメージャーなど強力な圧縮アルゴリズムが開発されている。
(10) ポルノ論議により,ポルノページが減少し,Internetの崩壊を促進する。
→ ポルノは重要なコンテンツだが,1つのフックに過ぎない。

  それじゃ,中島さんと変わらないじゃないですか(笑)。最近,つくづく自然発生的に広まったもののイナーシャの大きさを感じるんですよ。当初のHTMLやhttpの枠組を急には崩せなくて,技術者が苦労して苦労して,動画対応をしているんです。それを,楽観的に何とかなるだろうと言われるとねぇ。
 湯川 私は技術系の「はしくれ」として,標準化という枠組みの中での進歩を信じているんです。そういう意味での楽観ですから…。
  確信の度合いは違うにせよ,大局的に考えてそうなってしまうから癪なんですけれどね(笑)。
 湯川 メトカーフに対抗して,「湯川の10の予言」(表3)というものを作ったんです。

表3 インターネットに関する湯川氏の10の予言
(1) インターネットは,世界最大のマスメディアになる。
(2) 人々は,インターネット広告を受け入れる。
(3) 電子メールが,コミュニケーションの重要なツールとなる。
(4) ウェブサイトに貴重な情報は載らなくなる。
(5) インターネットは,情報格差を助長する。
(6) 人々はネットワークの呪縛から逃れられない。
(7) ジャンク・電子メールが社会問題になる。
(8) エレクトリック・コマースの成功の鍵は,技術でも資金でもなく人である。
(9) インターネットは紙の使用料を増加させる。
(10) いかに優秀なエージェントを創るかが,成功の秘訣である。

  どれどれ…。
  何となく感覚的には分かるんですが,もうちょっと説明して下さい。4番や6番はどういう理由からですか?
 湯川 かつては,インターネットにしかない貴重な,すばやい情報がありましたね。今では,ウェブ上でもメジャーな情報は,マスメディアが提供することが多くなり,インターネット独自の情報が欠如しつつあるというか…。それが4番の意味です。
  ゲリラ的なサイトもなくなりはしませんが,マスコミに押されて目立たなくなっているんでしょう。
  相対的に見て,インターネットの個性がなくなりつつあるということですね。
 湯川 6番は,ネットワークの便利さを一度味わってしまったら,その魅力から逃れられないという意味です。電子メールのない生活には,もう逆戻りできないでしょう?
  ウェブより,電子メールのもつ麻薬性をおっしゃっているんですね。
 湯川 逆に受け取る側の身になると,携帯端末ができたおかげで,出張中でも休暇中でもお構いなしに追いかけてきます。
  私は出張中も携帯電話で電子メールを音声化して聞いています。週末もついついメールボックスを覗いてしまいますね。
 湯川 いま,大蔵省にいて,1時間おきに電通総研から転送されてくるメールをチェックしています。
  中毒症状,禁断症状ですね(笑)。10番のエージェントは,何をやってくれるエージェントですか?
 湯川 自分に必要な情報,有益な情報だけを取捨選択してくれる代理人です。自分の感覚に近く,判断処理に優れたエージェントを作れるかが,これからの鍵だと思うんです。
  これは予言というより,課題であり目標ですね。

 インターネット広告市場は未成熟

  では,広告とかディジタル・マネーとかについてもう少し詳しく伺いましょうか。人々はインターネット広告を受け入れるということですが…。
 湯川 まだ料金設定や評価の方法など,未成熟な部分も多いんです。検索サイトや新聞社のサイトなど,ごく限られた人気サイトにアクセスが集中するので,バナー広告はこうしたサイトの料金が参考値となっています。1ヶ月で60〜70万円くらいですね。
 Yahoo! Japanのアクセス数が100万ページビュー(PV),新聞社で20〜50万PVくらいですね。広告媒体としての利用価値は10万PVだと言われていて,かなりサイトが限られるので,広告代理店としては,まだ本格的に事業として考えるほどの市場規模ではありません。
  電通では扱っていないのですか?
 湯川 ソフトバンクと共同出資して作った(株)サイバーコミュニケーションズが,Yahoo! JapanやNikkei Netの広告を扱っています。一番組織だってやっている方でしょう。NTTもトランスコスモスと一緒にダブルクリックを設立しましたね。他はもっと小規模で,合計しても10数社じゃないかと思います。どこもバナー広告だけではやって行けないでしょう。
  じゃ,どうやって企業として成り立っているのですか?
 湯川 広告取扱い専業ではなく,ホームページ制作の請け負いなどもやっているようです。まだこの市場が未成熟だと感じるのは,バナー広告の出稿企業を眺めてみると,コンピュータ・メーカー,ソフトウェア・メーカーに並んで,検索サイトの出稿額も大きいことです(表4)。広報を載せる媒体と出稿主がオーバーラップしているというのは,蛸が自らの足を食べているようなものです(笑)。
  インターネットのユーザー層は限られているからでしょう。
 湯川 一般の消費財の企業が広告を出してこないうちは本物とは言えません。インターネットがテレビ化して,マスの方向に向かえばそれも期待できるでしょう。
  新しいメディアが増えても,見る人は有限なので,広告料の合計額は一定じゃないですか。
 湯川 今までのところ増え続けてますね。バブルの崩壊直後は別として,常に右肩上がりです。経済全体も成長していますが,広告費を削ると売り上げも落ちるというはっきりとした調査結果が出ているので,企業としては削れないんです。
 あと,我々が掴んでいない広告の実態としては,アダルトのサイトです。新宿の歌舞伎町あたりの公衆電話に張ってあるチラシ,あの感覚での広告だらけのサイトがたくさんあるようです。完全に個人的な取り引きでやっているので,広告代理店には分からない。アンダーグランドな世界で,いくらくらいでどういう取引なのか,数字が上がって来ないんです。でも,結構バカにできないんじゃないかという話もあって…(笑)。
  まともに有料サイトとしてやっているのも,まだこの世界だけですね。
 湯川 CD-ROMに対してもそうだったし,相変わらず新しいメディアにとっての起爆剤です。

 サイバードルで通貨統合?

  電子商取引やディジタル・マネーについては,どういう見通しを持っておられますか?
 湯川 仮にインターネット上で統一通貨が発行されると為替にどういう影響があるかを研究しようと考えているんです。サイバードルが流通して何でも買えるのであれば,サイバードルを円に変えなくなるでしょう。よく海外に出かける人が,いちいちドルを円に戻さないのと同じです。
  そうですね。TCでもキャッシュでも,私もずっともっていますね。
 湯川 円からサイバードルにお金が流れていく,同じようにフランから,ドルからもサイバードルに流れていく。いまECで通貨統合をしようとしていますが,インターネット上でこそ通貨統合があるのかなと。そうなると国別のマネーサプライのコントロールは効かなくなります。
  インターネット・ビックバンですか。新しいサイバー経済学が必要になってきますね。 
 湯川 ものすごい仮定の世界ですけれど…。
  コマースがサイバースペース上で盛んになるという前提でのことですね。
 湯川 ディジタル・マネーとコマースは,鶏が先か卵が先かという話でしょう。日本でもビットキャッシュがコンビニで売っていると聞いていますが,あまり買っているのも見ないですね。まだ,手の届くところにないということでしょう。
 NTTがダイヤルQ2でお金を回収できるシステムを登場させて,有料サービスもどんと増えた。あれと同じで,「これで行けます」というのが出てきた段階で一気に行くのではと。そう期待しているのですけれど。
  電通総研の広報誌に,メディア・ビジネスとしてのインターネットの有望ジャンルを考えるのに,既存の専門雑誌を分析して市場規模を予測してありましたね。ファッションとか,クルマとか,旅行とか。あれは,なかなか面白い着眼点だと思うんですよ。結局,個人が興味をもってお金を落としてくれる領域というのは,こうしたものに尽きますね。有望なコンテンツのジャンルは,という分析でしたが,コマースの対象としてもこの分類はそのまま行けるんじゃないかと。
  ウェブにそういった雑誌がどんどん創刊されてくるかもしれませんね。
 湯川 新聞は入ってきたけど,雑誌の情報はまだインターネット上にはありませんね。
  同好会的な趣味のページは個人が開いていますね。雑誌社は小さいところが多いから,それに対抗して情報を流すほどの体力がないんでしょう。
 湯川 「週刊ポスト」や「週刊現代」的なサイトもありませんね。テレビのワイドショー的なものが出てくると,能動的に情報にアクセスする意志のない平均的なテレビの視聴者層も,インターネットに入ってくるかも知れません。
 今回のユーザー調査でも,WWWの利用による他のメディア接触度の変化はテレビ離れが顕著でした(図5)。これまでテレビの果たしてきた情報収集,時間消費の役割を徐々にインターネットが担っていくことは確実でしょう。
  じゃあ,テレビ・ショッピングやカタログ通販が盛んということは,間違いなくワイドショーを見ている奥様族はサイバーショッピングに向かうというわけですね(笑)。

 情報経済学緒論

 湯川 WWWのもつ効果をマクロな視点から捉えて,こんな図(図6)を書いたんです。最も公的な情報というのは,天気予報とか地震とかで,新聞,テレビ,雑誌の順で,私的な方に寄ってきます。
  インターネットによって,私的な情報へのアクセスが便利になるということですね(図6a)。
 湯川 一方,ウェブに情報を入れるのは,通常のマスコミを利用するより安いので,情報の入手コストも下がります(図6b)。
  アクセス数は公的から私的まで全部上がるんですか?時間が有限なら,テレビが減ってインターネットが増えるから,もっと凹凸が生じてもおかしくないですね。
 湯川 厳密に時間ではなく,頻度と考えると単純に上がると見てもいいんじゃないかと…。経済学の先生達とも議論したのですが,大体はこの方向で正しそうだということになりました。
 コストは,下がり幅が色々なので何とも言えない部分がありますが,一般的には下がる傾向に動くでしょう。理論的にはアクセス数とコストを掛け算すると市場のボリュームが出て,山ができるはずなんです。インターネットですぐにマスコミの性格が変わらないまでも,その山の位置が少し右寄りになるんじゃないかと予想しています。
  湯川さんは,「情報経済学」が専門と称しておられますが,ご自分の造語ですか?
 湯川 いや,経済学の方が少し使っておられます。中身が何かとなるとまだ本格的には誰もやっていませんね。
 10年以上前に経済企画庁が情報化指数というのを作ったんです。企業がどれくらい情報化しているかと国際比較しようとしたんですけれど,この時だけでその後は使われていません。
その頃に「情報経済学」という言葉も聞こえてきたんです。情報を受けることによって,人にどういう効用があるのか,モノ以上によくわからないので,「情報経済学」もはっきりしたものはないのです。
  情報工学だって最初はそんなものでしたよ。
  情報産業論と情報経済学は一体ですか?
 湯川 分野的には近いです。1996年の『情報メディア白書』(電通総研)に「情報産業」とは何ぞやという話を書いたのです。日本標準産業分類,政府の行う統計調査に用いる分類に「情報産業」という項目はないんです。「工業統計調査」「商業統計調査」「サービス業基本調査」などが関連深いと思われるんですが,何しろ「情報産業」という分類がないので,産業の規模を論じる基盤がないんです。
  「情報」という言葉が出てきて以来,ずっとそうですよ。かつて「知識産業」という言い方もありました。
 湯川 そこで,「情報を扱う産業」を「情報を創る・集める・流す」という3つの形態に分けて考え方を述べたのです。
 「創る」ということでは,プロダクションはコアの情報産業だし,ゲーム・ソフトの開発や放送番組の制作などが該当します。「集める」産業としては,新聞や雑誌,さらにデータベース業などが当てはまります。「流す」産業では,通信産業や放送産業がこれに該当します。
  ホームページの制作は「創る」,インターネット・プロバイダは「流す」産業ですね。
 湯川 そして,「創る・集める・流す」を支える関連産業,支援産業という考え方ができると思うんです。放送ソフトを作る映像機器やコンピュータは,情報関連の製造業です。
  印刷業は何ですか?
 湯川 情報支援産業と考えています。そうやって情報産業を広く捉えて21世紀における市場規模予測をやっています。
  郵政省の言った「2010年にマルチメディア産業は123兆円」と比べてどうですか?
 湯川 1995年の約64兆円をベースに考えて2000年で88.7兆円,2010年には139.9兆円になるという結果になりました。これは昨年の予測ですが…。
  インターネットで,まだこれからも新しい情報産業が増えることは間違いないでしょうからね。
 湯川 インターネットの利用者は,日本では2000年に1,500万人程度になると予想されます。情報の絶対量が増え,その流通のコストが安くなると,ますます「情報の質」が問われる時代になるでしょう。
  21世紀になったら,また改めて湯川流の情報経済学の講義を受けますよ。
  楽しみにしています。本日はどうも有り難うございました。
(1997年8月21日収録) 

 エピローグ

  我々が日頃付き合う研究者・技術屋とは一味違ったインターネット論も面白かったでしょう。
  中島さんとも全然違いますね。ブームを冷めた目で見ておられます。
  「団塊の世代」のアジテータと違って,クールですな。
  とても同じ大学の先輩で,たった4つ違いとは思えません。すごい耳年増ですね。電気や機械出身の先輩とは一味も二味も違います。
  技術バカと言いたいんでしょ(笑)。彼のキャラクタもあるけど,メーカーでもマスコミでも役所でもない視点に立てる電通という組織の強味でもありますね。
  電通内は,マルチメディアに冷静だったというのも意外でした。
  日経が囃し立てる手の内が見えているからでしょう。もっとも「広告がなくなる」と言われて,慌てたというのは面白かった(笑)。
  クライアントには提案するけど,自分達はすぐに動かないというのもしっかりしてますね。今回聞かせていただいたのは,日本の企業や一般ユーザーの調査結果でしたが,大学や研究所のウェブマスターや,アメリカだったらかなり結果は違ったんでしょうか。
  アメリカでも産業界なら少し先を進んでいるだけで,そんなには違わないでしょう。大学のUNIX族の意識は違うでしょうが,彼らは技術の先導役であっても,「情報経済学」の視点からするとメジャーな調査対象ではないですね。
 インターネットのような複雑系の行末を論じるには,湯川氏のような分析力をもったマクロな視点が,これからますます必要とされるでしょう。
← 前の回へ↑ 目次へ→ 次の回へ