特別番外編 「はじめてのSIGGRAPH」

〜MM街道を行く:ロサンジェルス編(2)


 残りの紙面は,番外編のタッチでSIGGRAPH 97参加体験をつづってみよう。CG分野最大の夏の祭典SIGGRAPHには,これが初めての参加である。と言うと,行く前からも現地で出会った人達からも,一様に意外という顔をされてしまった。「自分も初めて」という人にまでである。
 このCIFシリーズのテリトリーとして,当然その動向を把握しておくべき重要なイベントであることは承知している。偉そうにSFX映画評などやっているからには,毎年見に行っていたと思われても仕方がない。
 これまで参加しなかったのには,2つ理由がある。1つはSIGGRAPHの情報が結構伝わってきたからである。日経CGやかつてのPIXEL誌が詳細なレポートを載せてくれたし,論文集はもとよりスライドもビデオテープもACMから入手できる。何よりも,数ヶ月遅れで開催されるNICOGRAPHが,サブセットの機能を果たしてくれた。それなら,伝聞情報の少ないSIGCHIやACM Multimediaへ出かけた方が効率が良いと考えていたのである。
 もう1つの理由は,SIGGRAPHの開催期間はいつも勤務先の2週間の夏休みと重なっていたためである。私費と休暇を使ってまで,一人でくそ暑い中を出掛けて行く気になれなかった。ところが,夏休みのうち1週間がフリーバカンス制になり,パートナーのYukoもこれに乗じて,この期間がフリーになってしまった。
 加えて,SIGGRAPHは単なるCG分野に留まらず,ディジタル映像産業全体に影響を及ぼす存在になってしまった。VRもA-LifeもJava 3Dも,もはやSIGGRAPH抜きで語れないのである。Dr. SPIDERもCIFシリーズとともに軟化しつつあるが,それ以上にSIGGRAPHの変貌も著しい。
 かくして,恥ずかしながら遅ればせながらのSIGGRAPH初体験ツアーへと出掛けることになったのである。このSIGGRAPHのもつ意味は,これまでの番外編(特にCOMDEXやユニバーサルスタジオ)を対比して読んでいただきたい。

 もとはお堅い学者さまの会

 SIGGRAPHを製品展示会やCGアニメの発表会のように思っている人が少なくないが,れっきとしたACM(米国計算機械学会)主催の学会である。もう少し厳密にいえば,ACM傘下の40近くあるSIG(Special Interest Group)の1つであり,CGに関する研究専門部会の名称なのである。これはSIGARCH(計算機アーキテクチャ),SIGMOD(データ管理),SIGPLAN(プログラミング言語)といったお固い学者集団と同様の集まりである。その年次総会であるAnnual Conf. on Computer Graphics and Interactive Techniquesは今年で24回目を数えるが,CG分野の発展とともにその意義を増し,単にSIGGRAPHといえばこの総会を指すようになってしまった。
 初めてこの年次総会の論文集を探したのは1976年のことである。キーフレーム・アニメーションの草分けとして名高いNational Research Council Canadaに客員研究員として滞在中だったのですぐ見つかったが,それでも全バックナンバーが揃ってはいなかった。まだCG研究者が一同に介する会議でもなかったのである。競合組織であったNCGA(National Computer Graphics Association)がCAD関係者中心であったのに対して,いつの間にかSIGGRAPHはCGアニメ技術者の主たる活躍の場となった。SIGGRAPHの成長は,ラスターグラフィックスの発展と軌を一にする。単にAnnual Conf.からInternational Conf.に格上げされただけでなく,学術集会よりも付設の機器展示会,CG作品の上映会のウェイトが急速に大きくなって行った。
 日本でSIGGRAPHの名前が広がりだしたのは,1982〜3年頃のことだっただろうか。輸入商社にとっては最新のプロッタやグラフィック専用コンピュータの物色の場であり,国内のグラフィック端末にとっては貴重な米国上陸の機会であった。当時の主役はE&S(Evans & Sutherland)社で,SGI(Silicon Graphics)社はまだ影も形もなかった。
 ACMはどちらかといえばお固い学会で,ソフトウェアの理論的研究者の巣だった。同じコンピュータ分野でも,IEEE Computer Societyの方がずっと商売上手で,学会ビジネスのプロであった。ところが,SIGGRAPHが突出して産業界との距離を縮めるのは,やはりCG分野のもつ発展性のなせる技だろう。また,アーティストとのつながりも深く,技術以上に芸術性を求める風潮も強い。シャバっけとシャレっけをACMの他のSIGにも与えたのは,SIGGRAPHのパワーである。
 学会集会には,本体の論文の発表とパネル討論の他に,前座としてのチュートリアル・コース,併設の機器展示等があるのはごく普通である。SIGGRAPHの場合,学術系の議論の場としてよりも,独立して入場料が取れるほど製品展示会が発展してしまったといえる。

 盛り沢山で良心的価格

 今年は本気で行こうと考えてAdvance Programを見たら,この案内ブックレットだけで44ページもある。参加登録の種類と方法,ホテル予約等を理解するだけで半日近くかかった。
 1993年アナハイム,94年オーランド,95年ロサンジェルス(LA),96年ニューオリンズ,そして今年またまたLAと,1年おきにLA地区で開催されている。ハリウッドとディズニーランドを後に控えたLAだと盛り上がるのは目に見えていて,アチコチからその熱気が伝わってきた。一昨年COMDEXが急浮上したように,今年はSIGGRAPHなのである。 
 会議は8月3〜8日,展示会は5〜7日に対して,事前割引登録には6月27日までだというので5月中に早々と申し込んだのだが,最後まで申込確認書は来なかった(注.本稿執筆中の8月21日にやっと届いた)。そのくせクレジット口座から参加料はしっかり引き落とされていた。ホテル予約も相手の事務手続きミスだらけで確保できず,一般の旅行代理店経由でとらざるを得なかった。日本からの業界関係者の視察団約100名のツアーは,SIGGRAPH指定ホテル(シャトルバスが発着する)がキープできず,郊外のTorrance市に陣取ることになったという。もうこの時点でかなりの混雑が予想された。
 同じ初体験するならフルに見てやろうと,我々は前日の2日からLA入りした。LAX(LA空港)で乗り継ぐことは少なくないが,LAのダウンタウンは21年ぶりである。高層化は進んだが相変わらず殺風景な街だ。クルマがないと何もできない。時間つぶしにMOCA(Museum of Contemporary Art:現代美術館)に行ってみたが,ガイドブックが薦めるほどではない。ポップアートは好きな方だがここは期待外れだった。連れのYukoは退屈そうな顔をしている。
 午後8時前にレジストレーションに出掛けたが,外はまだ明るい。新装なって前回から使用されているLACC(Los Angeles Convention Center)とやらは,なかなかの偉容だ(写真9)。飾りつけも華やかでSIGGRAPHにはよく似合う。早速,筑波大のI先生,東工大N研究室の学生諸君,視察団団長のS氏に出くわした。この分だと何人の日本人に出会うことだろう。
 手続きを終えて手渡された論文集セットはずしりと重い。全行事に参加できるFull Conference登録だと,論文集,Visual Proceedings,CD-ROM3枚とビデオテープ1本がついている。この他にチュートリアル・コースのテキスト3冊と,追加のビデオセット(3本)を買ったので両手がふさがってしまった。SIGGRAPH歴14年目のS団長は,ポロシャツ,Tシャツ,マグカップから,ビーチタオルまで買い込んでいる。毎年こんなに買ってどうするんだろう?
 最終プログラム(Program & Buyer's Guide)は厚さ1cm,160ページもある。各出展会社の概要以外でも80ページあり,催しの項目だけでも26に及ぶ。一読して,どこで何をやっているのかを理解し,いつどれに出ようかとラフプランを決めるだけでも数時間かかってしまった。
 改めて眺めても,このボリュームはすごい。まるでイベント・コンプレックスだ。この種の会議&展示会で付随してやれることすべてを楽しんでやっているようだ。これで,このFull Conference参加費$480(正会員,事前登録割引価格)は安い。さすがACMは良心的だ。

 絞り込んでレベルをキープ

 テクニカル・セッションとしては,前半2.5日間がチュートリアル,後半3日間が論文発表とパネル討論である。チュートリアル・コースだけで35講座もあって,これがすべて無料(Full Conference登録の場合)なのである。「VRプログラミング」「Java 3D入門」から「モーションキャプチャの実際」「ビジュアル・アーツ」といったものまである。このテーマ分布を分析するだけでも,CG界の最近動向が語れるだろう。我々はVR関連2つと「人工生命」を受講した。
 「申込みなしで,席は早い者勝ち」というから少し早めに行ったが,どの会場も十分広かった。LACC内はいずこもSIGGRAPH97のイメージカラーで飾られていて,雰囲気も明るい(写真10)。休憩場所やトイレがいたるところにあるのも好ましい。コーヒーブレーク時のドリンク類もドッサリだ。展示会だけを見に来る一般客から入場料($50)を稼ぎ,これを1割強のFull Conference参加者に還元しているという感じだ。一見商業主義に犯されているように見えて,学会としての見識をしっかりと保っている。
 4日目からの論文発表は,ほとんどシングル・セッションだ。すべての講演にビデオかコンピュータデモがついて,どれもこれも凝りまくっている。おそらく現在で最高のレベルのプレゼン力を要求される。画期的なアイディアはそうそうないものの,スマートな研究例は増えている。コンピュータが速くなり映像操作の実演ができるようになったので,イマジネーションも膨らむんだなと感じる。
 論文集に載るペーパーは全部で48件しかない。おそらく数百件の投稿があったと思われる。ハイレベルをキープして権威をもたせたいという方針なのだろうが,それにしても絞りすぎだ。CG分野だけとはいえ,これだけ研究の母集団も増えてきているのだから,もうちょっと緩めてもいいんじゃないかと思う。古株のビックネーム達のプライドらしい。もったいのつけ過ぎだ。
 パネル・セッションは16もあって,そのすべてに日本語の同時通訳がついていた。初めての試みだというが,確かにこれは海外の学会では珍しい。西海岸での開催ということで,随分日本人にサービスしているようだ。その割には利用者は多くなかった。日本の放送業界やゲーム業界からの参加者の大半は,展示とElectronic Theater(CGアニメーションの上映会;以下Eシアターと略)の見物が目当てで,テクニカル・セッションには興味を示さないようだ。パネル討論には当たり外れも少なくないが,もったいないなと思う。

 アカデミー賞なみの権威づけ

 アート系の催しでは,まず,‘Ongoings’と名づけられたコンピュータアートのギャラリーだ。13人の作家で51点が展示されている。なるほど,これはかなりの出来ばえだ。MOCAの展示品よりもこちらの方がずっと上だ。良い紙質のVisual ProceedingsとCD-ROMで世界にその名が知れ渡るのだから,このイベントへの出展がもはや1つのステータスになっていることだろう。
 もう一方のCGアニメーションのEシアターは,最大の盛り上がりを見せるイベントである。計6回の上映会はすべて予約制だ。このチケットを単独で買うと$40もする。NICOGRAPHでもフィルムショウと称して同様な催しがあるが,会場の熱気がまるで違う。開演前から風船やレーザ光線が飛び交って,異様な興奮状態だ。素晴らしい作品への拍手の大きさも,日本とは10デシベルくらいは違う。年に一度このEシアターだけを見る人もいるというのも理解できる。
 2時間で59作品の上映があっという間に終わってしまった。確かに作品の質は上がっている。5〜6年前は,フルCGで気の利いたCMなら採択されたが,今はもう一ひねりも二ひねりもしないと通らない。目立ったのは,ディジタル処理した映画が何本も登場したことだ。既に紹介した『スターウォーズ《特別篇》』『ロスト・ワールド』から目下公開中の『Men In Black』,そして『The Ghost And The Darkness』『Titanic』…と続くと,このSIGGRAPHとハリウッドの蜜月関係が見えてくる。
 このEシアターの会場はLACCではなく,南カリフォルニア大学の近くにある「Shrine Auditorium」だった。由緒ありそうな古ぼけた劇場だと思ったら,ここでアカデミー賞授賞式をやるそうだ。Eシアターでの上映作品にも,もうこれだけのステータスを与える演出をしているのである。ナムコが3作品も選ばれるなど,日本からの投稿もかなりのウェイトを占め,健闘ぶりが感じられた。この選に漏れた作品も会期中LACC内の4つの小劇場(Festival Screening Rooms)で上映され,どこもかなりの混雑であった。

 プロ,アマ入り乱れての文化祭

 もう1つ日本勢の健闘が目立ったのが,Electric Gardenだ。技術系と芸術系の中間的な位置づけで,インタラクティブ作品の展示会である。地下の展示ルームをわざと暗くした会場に,大小44ものブースが所狭しと並んでいる。東大,東工大,筑波大,ATR,日立,松下,ソニー等が参加していた。
 前回のDigital Bayouと称した催しとほぼ同じ趣旨だが,会場の広さも出展数も倍増だそうだ。魅惑的で未来を感じさせるテーマということだが,バーチャルリアリティやインタラクティブ・アートのアピールの場となっている。そのほとんどは手作りで,夜店の屋台か高校の文化祭の雰囲気である(写真11)。
 そんな中で本格的なショーアップで目を引いたのが日立の「サイバー文楽」とソニーの複数の展示だ。日立は本物の文楽師を1週間滞在させる力の入れようだし,ソニーはこのイベントのスポンサーであり,飾り付けにもSony Americaが全面協力したという。「プロが出てきちゃ,折角の手作りの伝統が失われてしまう」と嘆く大学教授もおられたが,既にSIGGRAPHは,ボランティアと大資本が混在し,学者も起業家もアーティストもすべて巻き込んだモンスターになりつつあるのだ。

 SIGGRAPHのCOMDEX化

 こんな雰囲気のLACCでは,ネクタイ姿は100人に1人も見かけない。そんなLACCも3日目の展示会が始まる頃からだいぶ様子が変わってきた。ノーネクタイのポロシャツ姿であってもビジネス目的らしい人種が増えてきた。展示会場は思ったよりも大きく派手である。95年280社,96年321社に対して,今年は359社の出展だ。
 規模よりも内容が派手になったとの声が多かった。新製品発表や技術アピールから,大企業中心の大げさなショウ化が目立つという。「そうかな?どこもこんなものだと思う」と言ってから気がついた。SIGGRAPH展示会のCOMDEX化が進んでいるのである。そして,そのCOMDEXが日本のビジネスショウやデータショウ(それも全盛期の)に似てきたことは既に書いたから,平均的日本のビジネスマンにとって違和感がないだけだ。
 確かに大企業の大きな看板とライトアップが目立つ。ただし主役は少し違っていて,SGIを筆頭にサン,HP,アップル等が続く。IBM,DEC等はそう目立たない。エリアス/ウェーブフロント,ソフトイマージュ,ビューポイント等が大きなブースを構え,アドビ,ポヒマス,サイバーウェアといったところに存在感があるのはSIGGRAPHならではだ。
 一方,これまでCGとは縁のうすかったインテルやコンパックがギラギラした賑やかなブースを出している。それでいて何をアピールしたいのかよく分からなかった。マイクロソフトは,ブースは大きいが,ここの展示会ではやや大人しい演出だった。MSは,CG界のビックネームMichael Cohen,Jim BlinnらをMicrosoft Researchにスカウトしたことにより,むしろ学術部門でいまやSIGGRAPHの主役なのである。
 日本勢では,三菱,日立,富士通が出展し,NEC,東芝,シャープの姿はなかった。ここでもソニーの勢いが際立っていた。旧コロンビア映画のSFX部門が独立したSony Pictures Imageworksも,SIGGRAPH97のあちこちで目立った存在であった。出井社長からSIGGRAPHのawardを取れとの檄も飛んだとか。SIGGRAPHのもつステータスが,アメリカのショウビジネス界にもたらす効果をソニーは計算し尽くしているのだろう。
 展示内容の中心は,3D・CG用のボードやツール,映像編集システム,そしてモーション・キャプチャ装置であった。数社が出していた顔面の動きまでも捉えるモーションキャプチャは,今回の展示で最も目立った製品である。

 とらばーゆのお世話もします

 以上のような学会発表と展示を表層的に見ていただけでは,SIGGRAPHものつ意味を捉え切れないだろう。むしろその他のイベントの厚みにこそ,この祭典の特色がある。
 例えば,CAL(Creative Application Lab)。SGI,HP,サン,アップル等が提供した約100台のマシンがCAL会場に備わっていた。自己の開発したシステムや作品をこのコーナーを予約して実演してアピールしてもよいし,CG教育者の育成コースではここが実習の場となるのである。教育目的にも求職活動にも等しく可能な限りの機会を与えるという姿勢である。
 求職といえば,Career Centerは,求人側にも求職側にも開かれた雇用機会の場である。求職者は「Film/Video/Animator」「Graphic/Fine Artist」「Multimedia」等8つのカテゴリーに区分されたボードに自分の履歴書を貼って行く(写真12)。自分の作品を添付している者も少なくない。会期中,参加者なら誰でもこれを眺めることができ,出展企業は会期後でもこの求職者リストを入手できる。さらに,Job Fairの日の面接予約の世話までやってくれる。2〜3度覗いたが,いつもこの予約受付に列ができていた。こんなサポートまで学会がするというのが,いかにもアメリカ的ではないか。
 ダウンタウンのホテルでは,ユーザー向けのセミナーや,ディベロッパー向けの説明会がギッシリと組まれていた。このSIGGRAPHウィークのLAに,ありとあらゆる関連アクティビティが集結しているのである。

 ディジタル・アメリカン・ドリーム

 SIGGRAPHの華やかさは,LAの地にとても良く似合う。プログラムのカバーやビデオパッケージのタイトル部にはサーファーの姿があったが,LACC会場にビーチ・ボーイズの唄が流れていたとしても何の不思議もなかっただろう。カラッと晴れたカリフォルニアの夏である。
 最終日の8月8日(金)だけは曇っていて,上着を着て丁度よいくらいだった。登録総入場者数は約48,700人だったという。「最新のデジタルテクノロジーを模索しに,世界中から4万人以上が集まる」と呼びかけた主催者の予想を大きくクリアしている。95年38,661人,96年28,500人と比べると,注目度が今年一気にスケールアップしたことが数字に如実に表れている。
 PC界の耳目が集中するCOMDEX/Fallの22万人と比べると少ないが,その一部をも惹きつける力をもってきたのである。PCのパワーが上がり,ディジタル映像をまともに扱えるようになってきた。となると,次なるターゲットはビデオコンファレンスや3D・CGの世界である。そこに待ち受けていたのは,輝くSIGGRAPHの映像エリート達である。
 「シリウッド」という言葉が作られたように,ハリウッド映画界はいまディジタル処理に傾倒している。ILMに続く,デジタル・ドメイン,リズム&ヒューズ,ボス・フィルム,VIFXといった視覚効果プロダクションは時代の寵児であり,強いアメリカが世界に誇る夢が託されている(と信じられている)。SGIとILMが,ディズニーとPixarが作ってきた映像のBest & Brightest達の世界に,マイクロソフトやソニーも入りたいと願っている。その時代の流れを嗅ぎつけて,世界中から人が集まった。
 彼の地に人材を求めて,日本のゲーム業界もこぞって参入してきた。いまや,ビデオゲームに3D・CGクリエーターは不可欠の存在なのである。この殴り込みによって,現地の人件費は急騰したという。SIGGRAPHは,彼らにとっての主戦場であり,晴れの祭典なのである。
 そんな中で,ディジタル・バブルの崩壊を懸念する声もある。急成長を遂げてきたディジタルプロダクションの中で,老舗デジタル・ドメイン社はレイオフを始めたと聞く。SIGGRAPH97のパネル「Educating the Digital Artist for the Entertainment Industry」の中で,Pixar社のE.カットマル氏は「専門学校で安易なCG教育を受けただけで,CGアーチストになれると考えるのは甘い。希望の職種に就けるのは1%もいない」と語っていた。憧れの職業を目指す若者が多いことは成長産業の証しではあるが,過熱気味のブームの中では,一時期軽い反動があることは避けられない。
 COMDEXへの注目は,万博やオリンピックのような短期集中型のマスヒステリーで,この種の興奮は醒めやすい。これに対して,SIGGRAPHの権威と人材の集中は,大都市への一局集中と同じように,多岐にわたる経済活動や文化啓蒙活動が不可分となり相乗効果をもたらすのと似ている。アートとテクノロジーのクロスオーバー,産学の接近が底流にあるので,この夢を売るコミュニティはそう簡単には崩れないだろう。
 来年25回目のSIGGRAPH98は,一年早く25周年を迎えたディズニーワールドのあるオーランド市で開催される。LAとは,また違った夢を見せてくれることだろう。
Dr. SPIDER) 

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