O plus E VFX映画時評 2025年2月号掲載
■「モアナと伝説の海2(オリジナル・サウンドトラック)」
(Walt Disney Records)
12月上旬公開の映画であったのに,このサントラ盤ガイドはすっかり遅れてしまった。少し言い訳をするなら,日本語歌唱の国内盤の発売が映画公開の1週間後であり,その音源を配給会社から入手するに時間がかかった。それでも,通常なら同月の内に本稿を書き終えるのだが,昨年12月はまだメイン記事3本があり,年明け早々もメイン2本が待ち受けていたので,サントラ盤ガイドに回せる時間が皆無だった。かくなる上は,賞獲りレースでライバルである下記の「野性の島のロズ」と対にしてサントラ盤も語ろうと考え,2月になるのを待ったのである。
予想に反して,この目論みは少し的外れになってしまった。映画自体は『モアナと伝説の海2』に☆☆☆を与えたものの,物語は『野性の島のロズ』の方が上だと評価していた。ただし,音楽は本格的ミュージカル仕立ての本作の方がかなり上だと考えていた。後述のように,「Hollywood Music in Media Award」等で「Best Original Song in an Animated Film」に2曲もノミネートされていたからである。GG賞では両作とも「アニメ映画賞」部門にノミネートされたものの,共に受賞は逃した。同賞の音楽関連部門では,『野性の……』は作曲賞,主題歌賞にノミネートされたが,本作『モアナ2』はノミネートすら果たせなかった。アカデミー賞では『野性の……』は長編アニメ賞,音響賞,作曲賞にノミネートされているのに,こちらは長編アニメ賞にも残れなかった。
ところが面白いもので,一般観客の評価は異なり,興行成績では『モアナ2』の圧勝である。批評家からは「前作と同じ印象で,新鮮味がない」とされたのに,北米では3週連続トップの上に,世界中でのアニメ作品のオープニング記録を更新した。それに比例してサントラ盤売れ行きも好調で,ビルボード誌の2位になっている。
リリースフォーマットとしては,下記の3種類が発売されている。
①英語版(通常版) 16曲収録(CD, LP, 配信)
②英語版Deluxe Edition 51曲収録[①+スコア35曲](配信のみ)
③国内版 17曲収録[日本語歌唱8曲](CD, 配信)
当初,日本語でのデラックス版(即ち,③+スコア35曲)も発売予定とされていたが,本日現在まで,それは見当たらない。結果的に「リトル・マーメイド」(23年6月号)や「ウィッシュ」(24年12月号)に比べるとフォーマット数は減ったが,国内外ともCD販売があるのは,さすがディズニーアニメだ。しかも世界10数カ国語でリリースされている。なお,英語版に限られるが,アナログLP盤には,Vibrant VioletとSea Blueの2色が用意されている。マニア向けとはいえ,それだけの需要があるということだ。なお,収録曲数とアルバムジャケットとで,きちんと対応がとれていないので,ネット注文する際には間違えないよう注意されたい。
③の収録曲は,以下の通りである。
1. “Tulou Tagaloa (Sei e Va'ai Mai)” Olivia Foa'i, Te Vaka
2. “帰ってきた,本当のわたしに” 屋比久知奈,Villagers Of Motunui
3. “Tuputupu (The Feast)” Te Vaka
4. “ビヨンド ~越えてゆこう~” 屋比久知奈 with 夏木マリ
5. “My Wish For You (Innocent Warrior)”
Olivia Foa'i, Sutata Foai-Amiatu, Matatia Foa'i, Matthew Ineleo, Opetaia Foa'i
6. “Finding The Way” Olivia Foa'i, Te Vaka
7. “最高の世界” 屋比久知奈, 小関裕太, 鈴木梨央, 山路和弘
8. “迷え!” ソニン
9. “できるさ!チーフー!” 尾上松也
10. “Mana Vavau” Dwayne Johnson, Opetaia Foa'i, Rachel House
11. “ビヨンド ~越えてゆこう~ (リプライズ)” 屋比久知奈
12. “Nuku O Kaiga” Te Vaka
13. “Finding The Way (Reprise)” Te Vaka
14. “もっと遠くへ (Te Fenua te Malie)” 屋比久知奈, Olivia Foa'i, Opetaia Foa'i, Te Vaka
15. “Beyond (End Credit Version)” Auli'i Cravalho feat. Te Vaka
16. “ビヨンド ~越えてゆこう~ (日本版エンドソング)” ME:I feat. Te Vaka
17. “We're Back (Te Vaka Version)” Olivia Foa'i, Sulata Foai-Amiatu, Te Vaka
この中では,1.“Tulou Tagaloa (Sei e Va'ai Mai)”と14.“もっと遠くへ (Te Fenua te Malie)”の2曲が前作からの継承である。歌詞は同じだが,新しく録音し直している。どれが日本語歌唱曲であるかは,一目瞭然だろう。前作「モアナと伝説の海
」(17年3月号)と同様,劇中での英語歌唱曲を日本語版に置き換えた上に,エンドロールで流れる英語曲15.も加えてあるので,①よりも③が1曲多い。では,その他の英語題名の曲は何かと言えば,(筆者には)何語だか分からなかったが,歌詞はポリネシア諸言語の1つに思えた。音楽担当の1人Opetaia Foa'iは,ニュージーランド在住のサモア人のシンガー・ソングライターで,ポリネシアン・バンドTe Vakaの創設者であるから,サモア語なのかもしれない。ちなみに,字幕版の映画中では,英語歌唱の部分には日本語字幕がつくが,この現地語歌唱シーンには訳詩は出て来ない。楽器かスキャットと同じ感じで意味不明の現地語が聴こえる感じである。2, 4, 15, 16では,英語や日本語のメインヴォーカルのバックにこの現地語のコーラスが流れる。しっかりチャンネルを分けて収録してある訳だ。このバックコーラスがあるだけで,モアナ映画の曲だなと分かる。
筆者の全体的評価としては,ミュージカル仕立てになった分,映画本編との一体感も大きくなり,音楽的にもハイレベルになったと感じた。制作陣も自信があったようで,映画本編の記事中でも書いたように,2.“帰ってきた,本当のわたしに”, 4.“ビヨンド ~越えてゆこう~”, 8.“迷え!”, 9.“できるさ!チーフー!”等は本編映像付きで,16.“ビヨンド ~越えてゆこう~ (日本版エンドソング)”はミュージックビデオとして,YouTubeにアップロードされている。9.と16.は前述の「Hollywood Music in Media Award」にノミネートされ,主題歌の16.は米国作曲作詞協会賞の「コメディ/ミュージカル映画」部門にノミネートされている(結果発表はまもなく)。前作のエンドソング“どこまでも ~How Far I’ll Go〜”はアカデミー賞主題歌賞部門にノミネートされていた。筆者は,本作の16.はそれ以上の出来映えだと思ったのだが,残念ながらそれには届かなかった。
■「The Wild Robot (Original Motion Picture Soundtrack)」
(Back Lot Music)
対にして紹介すると決めたものの,もう一方の「野性の島のロズ」のフォーマットは充実していない。映画本編はDMA (DreamWork Animation)の最高傑作と書いたように,文句のつけようがない抜群の良作であった。ところがサントラ・アルバムとなると,国内外共にCD盤発売もアナログLP盤発売もなかった。先行発売された主題歌1曲と映画公開された41曲収録のフルアルバムのデジタル配信だけなのである。いかにも,ディズニーとDWAの市場での知名度の差を感じる扱いである。
アルバム収録曲41曲のうち,39曲は歌なしの劇伴曲(オリジナルスコア)であるから,曲名の大半は省略する。
1. “Kiss The Sky” Maren Morris
2. “Even When I’m Not” Maren Morris
3. “The Island” Kris Bowers
4. “Activating Learning Mode” Kris Bowers
(中略)
40. “Roz’s Story” Kris Bowers
41. “Roz’s Startup Music” Kris Bowers
アルバムの最初に入っている歌唱曲2曲の内,主題歌の1.“Kiss The Sky”は,この曲を歌うシンガー・ソングライターMaren Morrisと彼女の仲間のソングライター集団「The Monsters & Strangerz」の数名が参加して生まれた曲である。一方,エンドソングの2.“Even When I’m Not”は,この集団とこの映画の音楽担当のKris Bowersの共作となっている。
“Kiss The Sky”は,飛べるようになったキラリが雁の群れに加わって飛び立つシーンで歌われている。それを見上げるロズに1枚の羽根が落ちてくる中盤の感動シーンである。上記「Hollywood Music in Media Award」では,『モアナと伝説の海2』の2曲に競り勝って,「Best Original Song – Animated Film」を受賞している。その他の映画賞,音楽賞にも多数ノミネートされ,計5回受賞しているので,名曲であることは間違いない。
音楽担当のKris Bowersは,作曲家,ジャズ・ピアニストでありながら,短編ドキュメンタリー『The Last Repair Shop』(23)の共同監督で,オスカーを得たという経歴がある。長編映画では,『グリーンブック』(19年Web専用#1)『ドリームプラン』(22年Web専用#1)『カラーパープル』(24年1月号)等の音楽担当を務め,いずれもGG賞やアカデミー賞で様々な部門のノミネートを果たしている。ところが皮肉にも,音楽関連部門での受賞はなく,受賞部門は作品賞,主演男優賞,助演男優賞等であった。それだけ劇伴曲が見事で,作品全体のクオリティを高め,演技も見事に感じることに貢献しているのだと受け取れる。本作では,ロボットや動物しか登場しないため,台詞の量が少ないが,心が通い合う瞬間や,好奇心,孤独,喜び感じる場面での音楽の使い分けが巧みであったと感じた。2年間かけて作曲したものを,ストーリーに合わせても何度も手直ししたというだけのことはある。
上述のように,本作はGG賞ではアニメ映画賞,作曲賞,主題歌賞にノミネートされ,アカデミー賞では長編アニメ賞,音響賞,作曲賞にノミネートされている。後者の主題歌賞部門のshortlistには入ったものの,“Kiss The Sky”が最終ノミネートに残らなかったのは意外だった。ということは,主題歌賞部門のオスカー争いは相当な激戦区だということになる。今から結果が楽しみだ。
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