O plus E VFX映画時評 2024年6月号

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』

(コロンビア映画/SPE配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[6月21日より全国ロードショー公開中]



2024年6月21日 TOHOシネマズ二条

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


シリーズ4作目は, 前作とほぼ同じメンバーで

 マイアミ市警所属の黒人刑事2人の活躍を描いたシリーズの4作目で,3作目『バッドボーイズ フォー・ライフ』(20)から4年以上経っている。副題の「Rise or Die」は,「一蓮托生,死なばもろとも」の意味とのことだ。改めてそう断るまでもなく,元々典型的なバディもののポリス映画であり,マシンガントークがウリのアクションコメディである。当欄では,2作目『バッドボーイズ2バッド』(03年11月号)はしっかりメイン記事で紹介したのだが,諸般の事情で3作目はスキップしてしまった。それを補うことも含めて,この4作目は是非語りたかった訳だ。
 もう1つの関心事は,主演のウィル・スミスの扱いであった。彼が2022年3月のアカデミー賞授賞式の壇上でビンタ事件を起こしてしまったことは,まだ記憶に新しい。同年のアカデミー賞では,『ドリームプラン』(22年Web専用#1)で主演男優賞に輝いたのだが,そんな栄誉は世界中からの非難で吹っ飛んでしまった。事を重く見た映画芸術アカデミーの首脳部は,すべてのアカデミー公式行事への彼の参加を10年間禁じることにした。本作は,それ以降初めて彼が出演する劇場用映画である。それゆえ,一体,どんな描き方をしているのか興味津々であった。
 そう考えて,6月号での掲載を予告したのだが,実際はさほどのVFX大作ではなかった。CG/VFXシーンはそこそこあるのだが,他のメイン欄記事の半分以下であり,特に斬新な使われ方がある訳でもない。とはいえ,既に予告したのであるから,今更メイン記事から格下げすることはせず,そのままの扱いにした。それでは,分量的に淋しいので,この機会に当映画評でのメイン記事の現在の選択方法を述べ,ウィル・スミスの扱いに関する私見も語ることにした。それらに興味のない読者は,いきなり本作の内容紹介にジャンプして頂きたい。

【当欄のメイン記事の取捨選択と掲載予告】
 ■ SWシリーズやMCU,邦画では山崎貴監督作品なら,CG/VFX多用作であることは確実だ。その他の単発作品でのVFXの質と量は,映画本編を観終るまで分からない。O plus Eの雑誌時代は,まとめて入稿していたので,何をメイン記事にするかは校了時までに決めればよかった。原則は,雑誌発行日以降の公開作品であることだったが,重要作品は公開後1週間〜10日程度過ぎていても掲載していた。
 ■ ところが,ハリウッドメジャー大作は日米同時公開が増え,そのマスコミ試写は公開直前までなく,O plus E誌掲載に間に合わない場合も頻出した。さらに同誌が隔月刊となるに至っては,1ヶ月以上も空白期間が生じてしまう。止むを得ず,Web専用記事扱いにして,隔月刊の狭間を埋めることにした。この場合,明確な締切日はないので,試写を観終ってから公開日までに書けば良く,公開日に映画館で再点検してから執筆する自由度も得た。そして,紙媒体の雑誌は休刊となってからは,当Webサイトを中心に継続し,現在に至っている。その際に,月単位の号数表示にし,映画公開サイクルに合わせ,ほぼ週単位での内容更新にした。そこで,映画館での観賞予定を立てる読者の便宜を考えて,メイン記事は掲載予定を予告することにしたのだが,本作はそれが徒になってしまった。
 ■ メイン記事の取捨選択で最も参考にしていたのは,Cinefex誌であった。1980年に季刊誌として発刊され,その後,隔月刊発行となったSFX&VFXの専門誌であり,この業界のバイブル的存在であった。基本的には米国での映画公開後の掲載であったので,大半は当欄の記事執筆には間に合わなかったが,Webサイトでの次号予告は大いに役にたった(現在の当欄の掲載予告はこれに習っている)。ところが,コロナ渦中での相次ぐ公開延期で経営が成り立たなくなり,遂に2021年に41年の歴史を閉じ,Cinefex誌は廃刊となってしまった(3年分前払いしていた購読料は返って来なかった)。
 ■ Cinefexの次号予告に代わり得る存在として,現在は「VFXmovies Upcomings」なるWebサイトを参考にしている。技術解説はなく,公開予定カレンダー上に映画名を配置し,担当するVFXスタジオ名を列挙しているだけだが,当欄のメイン記事予定を立てるのには有難い存在である。同サイトが本作をリストアップしていたので,それを鵜呑みにして,当欄の掲載予定にも入れてしまった次第である。

【ウィル・スミス復帰映画としての本作について】
 主役が薬物使用や傷害事件等で逮捕されたとなると,しばらく出演作は見送られるだろうし,日本でなら不倫やDVが発覚しただけで,収録済みの番組やCMの放映も中止になることが多い。ビンタ程度であり,被害者のクリス・ロックが告訴しなかったので刑事罰にはならなかったものの,業界最大のイベントの生中継でのあの行動はさすがにまずかった。好感度が一気に下落したことは確実で,主演作への影響は必至と考えるのが普通だ。ただし,ハリウッド作品ともなると,俳優や脚本の権利関係は複雑に絡み合っているので,進行中の計画は簡単には中止できない。なかなか映画を撮らないことに対して,共演者や脚本家が製作会社や事の張本人に損害賠償訴訟を起こす可能性もあるからである。
 実は,本作より前に1本主演作品が公開されていた。本稿を書くに当たり,出演履歴を調べて初めて知った。2022年12月にApple TV+から配信された『自由への道 (原題:Emancipation)』である。事件前に撮影済であった作品であり,ネット配信前の劇場公開は1週間限定の小規模であったため,見切り発車したようだ。ネット配信が主目的であったので,広告宣伝は殆どなく,興行成績が話題になることもなく,無難な後始末であった訳だ。
 おそらく,彼の過去の実績からすれば,複数の出演計画が進行中で,2023年中の公開予定作品があったはずだが,計画は中断されているに違いない。事実上の復帰作が本作になったのは,ビンタ事件による不人気要因の影響を受けにくい作品を選択し,巧みなキャスティングと悪影響を緩和させていると感じた。詳しく述べよう。
 最大の要因は,人気シリーズの4作目であり,過去の実績の延長線上の興行収入が見込め,マイナス要素も最小限に抑えられそうなことである。特に,17年ぶりの第3作がかなりヒットしたので,同じ路線の踏襲が安全策なのである。本作は監督も同じで,前作の出演者の多数がそのままの役で登場する。特に,前作のラストシーンでは,主人公マイクが実の息子と判明したアルマンドと次のミッションに関する会話を交わしていた。当然,次作には彼が再登場することを当てにしていたファンもいたことだろう。
 これが『幸せのちから』(07年2月号)や『7つの贈り物』(09年2月号)のようなヒューマンドラマであったなら,何を白々しいと思うところだ。本シリーズは,そもそもがルール無視の荒くれ刑事たちのアクションコメディであるから,スカッとするエンタメ映画であればいい。加えて,相棒のいるバディ映画であるから,単独主演作よりも,主演男優の好感度ダウンの影響は受けにくい。気のせいか,過去作よりも相棒のマーカス(マーティン・ローレンス)の出番が多く,存在感も大きいように感じた。奇をてらった演出はなく,ごく当り前の,外れのない定番のアクション映画である。おそらく,そこまで綿密に計算した脚本とキャスティングで,本作にゴーサインを出したものと思われる。果たせるかな,日本より2週間早い北米での公開では,前作よりはやや金額が落ちたものの,Box Officeの興収1位を確保した。2週目はメガヒットの『インサイドヘッド2』(8月号掲載予定)に首位は譲り渡したものの,まだしっかりと2位をキープしている。
 本作には,次作を予告するポストクレジットシーンはなかった。本作の評価を見定まるまで,シリーズの継続を決められなかったのだろう。本作の軟着陸の成功により,中断していたウィル・スミス主演作の再開は加速し,新しい企画も持ち上がるに違いない。筆者は,『ドリームプラン』での彼の演技をあまり評価せず,ビンタ事件前から,好きな俳優の中には入れていなかった。それでも,VFX多用の意欲作が出て来るなら,変わらずに見続けて紹介記事を書くことになると思う。

【シリーズの過去作を振り返る】
①『バッドボーイズ』 (95)
 80年代に『トップガン』(86)や『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズを大ヒットさせた製作者コンビ,ドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーが生み出したシリーズの第1作だ。低予算ながらスマッシュヒットとなったので,これが監督デビュー作となった当時30歳のマイケル・ベイは,その後,売れっ子監督となった。ただし,日本ではヒットせず,興収はたった2億円に過ぎなかった。
 犯罪都市マイアミが舞台で,警察は押収した1億ドル相当のヘロインが盗まれたことから,麻薬取締班所属の2人の刑事マーカス(マーティン・ローレンス)とマイク(ウィル・スミス)が捜査を命じられ,内部協力者を突き止め,ヘロインを取り戻すという物語だった。刑事映画のバディものとしては,『48時間』『リーサル・ウェポン』の両シリーズを始め,「白人+黒人」のコンビが定番であったので,むしろ黒人2人組というのが珍しかった。当時の2人は30歳と26歳,改めて映画を見直すと,2人ともスリムで若々しい。それまでの実績はM・ローレンスの方が上で,先にクレジットされている。ラッパー活動が主だったW・スミスはこの映画で注目され,その後の『インデペンデンス・デイ』(96) 『メン・イン・ブラック』(98年1月号)で人気スターの地位を確立する。
 この映画をアクションコメディにしたのは,『ビバリーヒルズ…』の成功体験から,2匹目の泥鰌を狙ったものと思われる。舞台をLAからマイアミに移し,エディ・マーフィー同様のマシンガントークができるコメディアンのM・ローレンスを主役に据えたが,まだ若く,1人では心もとないのでバディものにしたと考えられている。有り得る話だ。
 マイアミが舞台ということで,80年代にヒットしたTVドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の影響があったのではという声があるが,直接の関係はないものの,間違いなく影響を受けていた。同シリーズのクロケット刑事が押収品のフェラーリを乗り回していたのに対して,本シリーズのマイクは一貫して自前のポルシェに乗っている。大きな違いは,製作総指揮のマイケル・マンは社会派映画が得意で,リアリティ重視だったのに対して,こちらマイケル・ベイは掛け合い漫才のようなコメディに徹していた(名前も似ていて紛らわしい!)。マイケル・マン監督は,後にコリン・ファレルとジェイミー・フォックスの白黒コンビで劇場用のリメイク作『マイアミ・バイス』(06年9月号)を撮っているが,これはさほどヒットとしなかった。
 余談になるが,マイケル・マン監督はモハメド・アリの伝記映画『ALI アリ』(01)の主演にW・スミスを起用し,アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたものの,オスカーは逃した。一方,同作でアリのトレーナー役を演じたJ・フォックスは,テイラー・ハックフォード監督の『Ray/レイ』(04)の主演に抜擢されてレイ・チャールスを演じ,こちらは見事オスカーを獲得した。先を越されたW・スミスは,3度目の正直の『ドリームプラン』で念願のオスカーを獲たのだが,その授賞式でビンタ事件を起こしたのであるから,かなり皮肉な出来事であったと言える。

②『バッドボーイズ2バッド』 (03)
 D・シンプソンはヒット作『ザ・ロック』(96)を最後に他界したので,本作は製作J・ブラッカイマー,監督M・ベイのコンビでの続編となった。ブラッカイマーは1人になってからも,『コン・エアー』(97) 『アルマゲドン』(00年1月号)『パール・ハーバー』(01年7月号)『ブラックホーク・ダウン』(02年3月号)『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(03年9月号)等々の話題作を生み出していた。まさに彼のヒットメーカーとしての絶頂期で,製作者の名前で客を呼べる稀有な存在であった。
 1作目から8年以上経ってからの続編だったが,この間にW・スミスも押しも押されぬ大スターになっていた。日本国内でも製作者と主演男優の2人の名前を連ねた広報宣伝がなされていたのを,今でも覚えている。ハリウッドでの製作費は1作目の5倍になっていたが,日本での興行成績は10倍の20億円のヒット作となった。
 映画内容は前作に引き続き麻薬捜査であり,2人が所属する組織は戦術麻薬捜査部隊「TNT」と名付けられ,メンバーも増えていた。合成麻薬の密輸シンジケート潰滅を目指して出動するが,大金を横取りしようとするハイチ人ギャング団との戦いとなる。ここで囮捜査を行っていた連邦麻薬取締局(DEA)の潜入捜査官シドの正体が麻薬王にバレ,彼女はキューバに拉致される。このシドがマーカスの妹であり,マイクの恋人であるというのが物語のポイントとなっていた。
 凄まじいカーチェイスがウリで,多数の車を壊しまくっていることを,当時の当欄の紹介記事でも強調している。カーアクション映画としては,『ワイルド・スピード』(01年10月号)を意識して,それを超えようとする意欲が感じられた(今比べると,後の「ワイスピ」シリーズの方が圧倒的に進化しているが)。相棒マーカスの妹がマイクの恋人という設定も,同シリーズを皮肉ったパロディのようにも思えた。逆に,同シリーズの2作目『ワイルド・スピードX2』(03年9月号)は,同じ年に本作より少し早く公開され,舞台をLAからマイアミに移している。これは偶然なのか,互いに意識し合っていたのか,よく分からない。
 さらに言うならば,同シリーズの原題は,1作目の『The Fast and The Furious』から2作目で洒落っ気のある『2 Fast 2 Furious』(2はTooをもじったもの)だったが,邦題は「X2」を付した素っ気ないものだった。それに対して,本シリーズの2作目は,原題は『Bad Boys II』に過ぎないのに,邦題を『バッドボーイズ2バッド』としている。国内の配給会社が意識し合っていたのかもしれない。
 話題を戻すと,マーカスの妹シド(ガブリエル・ユニオン)は1作目には登場せず,2作目で突然登場し,3作目以降は姿を見せない。一方,マーカスの妻テレサは,シリーズ4作のすべてに登場する(俳優は4作目から入れ替わっている)。娘ミーガンとその彼氏レジーは,この2作目以降の3作品で姿を見せる。市警の上司ハワード警部は全4作で同じ俳優が演じている。

③『バッドボーイズ フォー・ライフ』(20)
 前作から16年半も経って,殆ど忘れた頃の3作目公開であった。この間に「ワイスピ」シリーズは6作も作られている。ポリスアクション映画は,『ダーティ・ハリー』『ダイ・ハード』『ラッシュ・アワー』等のヒットシリーズが姿を消して久しく,本シリーズ以外は思い出せない現状だ。元CIA工作員の『ジェイソン・ボーン』『96時間』シリーズや殺し屋の『イコライザー』『ジョン・ウィック』シリーズが健闘していたが,アクション映画はスーパーヒーローものに席巻されていたとも言える。
 そうした傾向を意識してか,ハリウッドでの製作費は2作目から3割カットされた(物価を考慮すれば,半減に近い)のに,北米での興行成績は前述のように上々で,3週連続1位をキープした。一方,既にコロナ騒動の初期だったためか,日本での広報宣伝は控え目で,興行収入は3億6千万円と急降下している。筆者も見逃してしまった。製作に全盛期を過ぎたJ・ブラッカイマーの名前は残っていたが,W・スミスが製作に加わっていた。主演俳優名も,本作からW・スミスとM・ローレンスの順序が逆転している。監督は,M・ベイからベルギー出身のアディル・エル・アルビ&ビラル・ファラーのコンビに交替した。監督としても製作者としても『トランスフォーマー』シリーズのような能天気な映画しか作れなくなったM・ベイに勢いはなく,彼が退いたのは本リリーズにとって幸いだったと思える。
 本作でもマーカスとマイクはTNTに所属しているが,勤続25年を迎え,すっかり家庭第一になったマーカスに対して,マイクは相変わらずポルシェを乗り回す,お気楽な独身男だった。娘メーガンに息子が生まれ,初孫の誕生を喜んだマーカスが誕生パーティを開いたところ,その宴席でマイクが銃撃されたが,幸いにも一命をとりとめた。この映画は麻薬捜査とは無関係で,かつてマイクに逮捕され,メキシコの刑務所で服役中の女囚イサベルが個人的恨みを晴らすための復讐譚であった。彼女は脱獄後,息子アルマンドに命じて,逮捕時の関係者(地方検事,判事等)を次々に殺害し,マイクに苦しみを味わわせた上,最後にマイクを殺すという計画であった。止むなくマーカスも捜査に加わり,新設されたマイアミ・ハイテク捜査班(AMMO)も加わって,マイアミ市中を震撼させる大騒動が展開する……。
 ここで,第4作のために覚えておきたい要点が3つある。まず,AMMOのリーダーのリタはかなり魅力的な女性で,マイクの元恋人という設定である。ケリーやドーンはそれぞれ武器や情報機器操作のエキスパートで,『M:I』チームを彷彿とさせる。2番目はTNTとAMMOを仕切る上司のハワード警部が,市中で敵に狙撃され,落命してしまうことだ。最後に,イサベルの息子アルマンドは,実はイザベルとマイクの間にできた子供だったが,マイクもアルマンドもそれを知らされていなかったということだ。この3つを前提に第4作が作られているので,できれば第3作をビデオやネット配信で観終えておくことをオススメしたい。

【本作の物語展開と主要登場人物】
 イザベルの死から4年後の時代設定で,前作の監督コンビが引き続きメガホンを取っている。主人公は勿論お馴染みの2人の刑事「バッドボーイズ」(写真1)だが,遂に独身男のマイクも年貢を納め,理学療法士のクリスティーン(メラニー・リバード)との結婚を決意する。てっきりAMMOのリーダーのリタ・セカダ(パオラ・ヌニェス)とよりを戻すのかと想像していたが,これは外れた。そのリタは,地方検事で次期市長を目指すアダム・ロックウッド(ヨアン・グリフィズ)と恋人関係にあった。


写真1 一蓮托生の相棒同士。マイクの愛車はいつものポルシェ。

 マイクとクリスティーンの結婚式の席上で,マーカスは心臓発作を起こし,意識不明の仮死状態に陥る。臨死体験中に亡きハワード警部(ジョー・パントリアーノ)の霊が現われ,マーカスにメッセージを残す。マーカスは目覚め,元気になったが,ハワード警部は長年麻薬カルテルに関与していたという事実が明るみに出て,彼は死後に犯罪者扱いされてしまった。ところが,暗殺されることを覚悟していた警部はビデオメッセージを遺していて,警察内部に大きな陰謀があり,真の黒幕を突き止める必要があることを告げる(写真2)


写真2 故ハワード警部は遺したビデオで再登場

 警部を射殺したのがイザベルに命じられたアルマンド(ジェイコブ・スキピオ)でないことを知ったマーカスとマイクは,警部の無実を証明するため,射殺犯を見たという服役中のアルマンド(写真3)をマイアミに移送するが,途中でカルテル一味に襲われる。さらに,警官殺しの容疑者扱いされ,彼らは懸賞金付きで指名手配されてしまう……。


写真3 獄中の息子アルマンドが物語の鍵を握る

 いくら常連のハワード警部でも,今更生き返らせる訳には行かず,こんな形で継続出演させたのは驚きだったが,味のある出番の作り方だ。ポリスアクション映画を見慣れている観客なら,真の黒幕が誰かはすぐに想像がついてしまう。終盤のクライマックスにはしっかり派手なアクションが入り,無事黒幕を倒すのは当然だが,その殺し方も一捻りあって楽しい。ポリスアクション映画としては,ごく平均的な出来映えで,名作として残るレベルではないが,大きな不満もなく,アメリカ人家庭が週末に映画館で観るエンタメ映画してはこれで十分である。
 マーカスとマイクの以外のキャスティングでは,リタ役のパオラ・ヌニェスはメキシコの女優で,第3作で抜擢されるまでは完全にローカルの俳優だったようだ。なかなかの美形でアクションもこなせるので,本作での再登場は嬉しい。AMMOメンバーのケリー役はヴァネッサ・ハジェンズで,13歳でデビューした俳優兼歌手,同じくドーン役のアレクサンダー・ルドウィグは8歳で子役デビューした俳優兼歌手で,2人ともハリウッド映画での出演経験はかなりあるようだ。本シリーズが今後も続くなら,この3人組は「バッドボーイズ・ファミリー」としてずっと継続出演しそうだ(写真4)


写真4 AMMOの3人組。右からリタ,ケリー,ドーン。

 もう1つのトリオ,マーカスの妻テレサ役はタシャ・スミス,娘メーガン役はビアンカ・ベスーン,その夫レジー役はデニス・グリーンで,いずれも名のある俳優ではないが,この3人もずっと登場しそうだ。この点でも「ワイスピ」シリーズを意識していて,ファミリー形成を強固にしようとしているように感じられる。いかにも米国の映画観客が喜びそうな設定だ。本作で一気に焦点を当てたのはレジーだった。第2作ではデートを誘いに来る彼氏だったが,第3作では出来ちゃった婚でメーガンと結ばれ,本作では海兵隊の将校となっている。驚くべき戦闘能力で,マーカス家を襲って来た敵を,あっという間に15人も倒してしまった。映画のラストでは,狂言回しの役で使われていて,笑いを誘う。今後もマーカスとどんな掛け合いを見せてくれるかが楽しみだ。

【CG/VFXの使われ方】
 既に述べたように,CG/VFXの使用量は他のメイン記事の半分程度で,斬新ではないが,質的に劣っている訳ではない。元々VFX多用シリーズではないが,それでも製作費が増えた分,第3作よりは増えている。折角メイン記事扱いしてしまったので,この時代には,こんな箇所にも使い始めたという意味で,記録に留めておく。
 ■ 最大の使いどころは,マーカスとマイクがアルマンドをメキシコからマイアミに移送する大型ヘリでの危機だった。機内でのアクションにも,錐揉み状態で落下し,川に軟着陸するまでの描写にも使われている(写真5)。この輸送ヘリがCG描写であることは言うまでもない。


写真5 輸送ヘリは煙を上げ,回転しながら急降下し,川に軟着陸

 ■ 終盤,バッドボーイズが拉致されたクリスティーンたちの救出に向かうのには,赤白ツートンカラーの水陸両用機が使われている(写真6)。さすがにこの程度は実機を用意し,湖面で離着陸させている。この機体を屋内に突っ込ませ,中で飛行させるシーンは,さすがにCGだろう(写真7)。実機でもやれなくはないが,コストやカメラワークの自由度を考えると,今やCGの方が圧倒的に有利だ。ドローンも多用されているが,こちらも実機とCGをシーンによって使い分けている。アクロバット飛行する部分はCGと考えてよい。


写真6 後に見えるのが水陸両用機の機体

写真7 屋内に突入した機体は, さすがにCG描画だろう

 ■ 21年前の2作目では驚くほどの数の車を破壊していたが,めっきりそれも減った。もはや実車を使おうとCGで描こうと,さほどセールスポイントにならないからである。CG描写のコストも激減しているので,本作でも使い分けていると思われる。写真8などはどちらでも簡単に描ける。このシーンの前にマーカスの乗った車中でも派手に炎を描いていたが,安全性を考えれば,炎はCG利用の比率が増えてくる。数々の爆発炎上シーンもしかりだ。爆発もリアリティ高く,簡単にCGで描けるので,安全性とコストを考慮して使い分けているのが普通だ(写真9)


写真8 車体は実物で, CG製の炎を追加が最も現実的な方策

写真9 一番上はCG利用, 他は安全性とコストを考えて選ぶのが妥当

 ■ フロリダらしく,終盤にワニを登場させ,バッドボーイズたちを襲わせている。閉鎖したワニ園に生き残っていたという想定だが,こちらは間違いなくCG利用だ。どうせならと,珍しい白ワニを描いている(写真10)。些細な事例だが,マイクがマーカスに放り投げるシーンの拳銃もCG描写だろう(写真11)。よく見ると,画面内の拳銃の位置は固定で,照明による光の表面反射だけを変化させ,背景を移動させている。かつて実物物体を吊り下げ,背面投影した背景だけを動かす時に使ったテクニックだ。CG/VFXなら,拳銃も背景も自由に配置できるのにこういう固定アングルを踏襲しているのは,その方が見やすく,観客の注意を引きやすいからだろう。ヘリが市街地を飛行するシーンでも同じ手法を使っていた。本作のCG/VFXの主担当はFramestoreで,その他Folks VFX, Fin Design+Effects, Studio Blackbird, Crafty Apes, Zero VFX, Spin VFX等が参加していた。プレビズはDay for NiteとThe Third Floorの2社が担当している


写真10 (上)ワニ園の展示室にあったハリボテのワニ
(下)マーカスが白ワニに襲われる。勿論これはCG製

写真11 拳銃の位置は固定で, 背景を移動させている

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