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O plus E誌 非掲載
 
 
 
 
『カーズ2』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
 
 
      (C) Disney / Pixar

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [7月30日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー公開中]   2011年7月15日 TOHOシネマズ 梅田[完成披露試写会(大阪)]   
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  遂に始まったか,ピクサーの宮崎化現象  
   どうにもこうにも,評価に困った映画だ。この映画の試写を観たのは7月15日の夕で,既に8月号の締切は同日午前中で過ぎていたから,Webページだけの掲載にならざるを得ないことは分かっていた。3D上映だが,日本語吹替版だった。別にそれが不満だった訳ではない。前週から平日の夜は連続9日間の完成披露試写続きで,その内,7本は3D作品だったから,3Dメガネにも慣れていた。その観点から評価するなら,この映画の3Dは上出来の部類に入る。吹替版であったので,字幕位置に気にすることもなく,その点でも内容をじっくり堪能できた。
 では,何故ここまでこの映画の紹介を書き渋ったのか……。当欄の愛読者ならよくご存知のように,筆者はとびきりのピクサー・ファンである。これじゃマズイかなと思いつつも,理屈をこねながら,毎度最高点をつけてきたのは衆知の事実だ。ところが,昨年の『トイ・ストーリー3』(10年8月号)では,世評の高さほどには感激せず,評価を下げてしまった。ならば,次回作は文句なく最高点をつけられる佳作を見せてくれと大きな期待を込めていたのに,見事に裏切られたというか,ここまで酷い内容とは……。
 何とか別の視点から再評価できないかと,海外のCG関係雑誌を読みあさっている内に,日本での公開日(7月30日)も過ぎてしまった。とうとうバンクーバーで開催のSIGGRAPH 2011まで持ち越してしまって,何とかここで語られるメイキング映像解説から何かを見つけようと悪あがきした。現地では,何人かの知人&愛読者から,「まだ,工事中ですよ。どうなっているんですか?」と督促されてしまった。やっぱり,援護すべきファクターが無い! いつもは参考にしない他人の評判を取り入れようとしたが,そもそも北米でも評判が余り良くなかった。そのSIGGRAPHも終わってしまい,止むなく(工事中)を外すべく,MacBookの画面に向かっている次第である。こうして楽屋裏のネタを長々と書いているのも,なるべく中身に触れたくないからである。
 前作『カーズ』(06年7月号)は,キャラクター化した世界を描いた物語で,天才レーサーの主人公マックィーンの他に,おんぼろレッカー車のメーターという人気脇役を産み出した。『トイ・ストーリー』シリーズでの,ウッディに対するバズ・ライトイヤーの存在と相似形である(写真1)。そのメーターを主役にした短編『メーターの東京レース』(08)も製作され,これは楽しい作品であった。
 
   
 
写真1 ウッディとバズに続く名コンビは健在
 
   
   前作で注目すべきは,ピクサーのクリエイティブ面での総帥ジョン・ラセター自身が,久々に自ら脚本・監督を担当した作品だったことだ。彼自身が昔から暖めていたアイディアだったという。この映画は他のピクサー作品に比べて,興行面でも評価面でも芳しくなかったが,筆者は大好きな作品で,☆☆☆を与えている。カー・レースの部分よりも,ラジエーター・スプリングスなるアメリカの田舎町を描いた部分が秀逸で,古き良き時代のアメリカを思い出させる描写が大いに気に入っていた。
 その続編で,5年ぶりに御大ジョン・ラセターが再度自ら監督を務める(共同監督は,ブラッド・ルイス)というから,期待しない訳がない。続編では,「ワールド・グランプリ」なる国際レースにマックィーンが招待されて世界各国を転戦し,同行したメーターがスパイ事件に巻き込まれるというオマケまでつくという。
 では,その期待作品の何が気に食わないかと言えば,ただただ騒々しかったことだ。大仰な表現も,怒声と騒音だらけの音響にも辟易する。これじゃ,ウォシャウスキー兄弟の大失敗作『スピード・レーサー』(08年7月号)といい勝負だ。カー・レースが嫌いな訳ではない。むしろ好きな部類で,かつてF1レースは欠かさず観ていたほどだ(セナが亡くなり,M・シューマッハーの時代になってつまらなくなり,観なくなったが)。
 本作の欠点は,このカー・レースの部分に,かつての名車や,日・伊・仏・英各国の風景・風俗を入れ,様々なパロディまで盛り込んだことだ。その上,メーターが巨大な陰謀と戦う物語まで加えている。これじゃ,詰め込み過ぎで,観ている方は消化不良を起してしまう。脇役のメーターをこんなに登場させてはいけない。陽気ではあっても,ほのぼのとした持ち味のキャラを,猥雑なだけの映画の中で消費してしまっている。
 褒めるべきは,褒めておこう。個々のシーンの描写は悪くない。波の表現は一段と向上しているし,工業プラントの描写も見事だ。パリの石畳の表現にはうっとりする。グランプリ・レースそのものの描写も良質で,ピットの光景などはマニアックだ。カジノがあるポルト・コルサなる架空の町(写真2)が登場するが,勿論,モナコがモデルであり,F1ファンならニヤリとしてしまう。
 
   
 
写真2 ポルト・コルサのイメージイラスト
 
   
   パリ(写真3)とロンドン(写真4)の町の描写も素晴らしい。それぞれの町をよく知るクリエーター達が愛情を込めて描いたのだろう。とりわけ,パリの光景は絶品で,モンマルトルの丘からカメラを移動させ,セーヌ河畔にいたるシーンは芸術的とさえ言える。3Dの効果を生かしたショットでもある。それに対して,日本の印象は,夜の下品なネオン輝く街だけなのかとがっくりくる(写真5)  
   
 
写真3 愛情込めて描かれたのどかなパリ
 
   
 
写真4 対するロンドンは,凛々しく機能的
 
   
 
 
 
 
 
写真5 これが外人から見た東京なのか…
(C) Disney / Pixar
 
   
   前作で優れていると思った表現方法も,本作では嫌みに映った。クルマのフロントウィンドウを目,フロントグリルを口と見立てた描写は,本作ではただただ煩く感じた。過ぎたるは及ばざるがごとしである。
 あのCGアニメ史を作ったピクサーは一体どうしてしまったのだろう? 前作の後も,『レミーのおいしいレストラン』(07年8月号) 『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)『カールじいさんの空飛ぶ家』(09年12月号)の3連発は凄かった。よくぞあれだけのアイディアとストーリーテリングと,それにマッチした映像表現を生み出したものだと感心する。あのホノボノとしたピクサーらしいタッチと,挑戦心はどこに行ってしまったのだろう? これでは,9月号で紹介する『カンフー・パンダ2』が数段上であり,今ではドリームワークス・アニメーションの方に勢いとバランスの良さを感じる。
 素晴らしい才能のクリエーター達を多数抱えていながら,駄作と分かっていても,御大が偉大過ぎると,その方針に誰も口を挟まないのだろうか? それじゃ,ジブリと同じじゃないか。いくら尊敬しているとはいえ,ジョン・ラセターに宮崎化現象はまだ早い。しばらくは自ら監督をせず,若手の育成だけに専念して欲しい。
 
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