O plus E VFX映画時評 2026年5月号掲載

映画サウンドトラック盤ガイド


■「EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート (オリジナル・サウンドトラック)」
(ソニー・ミュージックレーベルズ)



 月が変わってしまったが,ようやく映画本編紹介の最後に予告したサントラ盤解説を書ける時間を確保できた。たった1枚のサントラ盤ながら各曲の成り立ちが複雑で,それを調べるのに時間がかかった。さらに,書き始めてから考えを整理するのに,1週間以上も要してしまったためである。
 改めて言うまでもないが,4年前にバズ・ラーマン監督はオースティン・バトラー主演で伝記劇映画『エルヴィス』(22年Web専用#4)を製作したので,当欄では,その解説記事もサントラ盤紹介もかなり気合いを入れて書いた。是非それらも読み直して頂きたい。以下では,それらを「前作」「前OST」と呼び,こちらは「本OST」と記すことにする。
 アルバム名をカタカナで書いたように,CDは国内盤があり,アナログ盤LPは国内で輸入盤を購入できる。勿論,デジタル配信でMP3データも入手できる。国内盤CDは,例によって日本語のライナーノーツが付いているのがウリだが,ボーナストラックはない。ジャケットは上の1種類だけだ。前作OSTと本作OSTの最も大きな違いは曲数である。前作OSTは,デジタル配信版は36曲,115分であったのに対して,CDは22曲,標準的な75分弱に削減されていた。さらにデジタル版は,翌年に52曲,158分のDeluxe Editionも発売された。一方,本OSTはCDとデジタル配信は全く同じで,下記の27曲,収録時間74:15で統一している。ただし,2枚組のLP盤のみ最後の27曲目が収録されていない。CDには目一杯詰め込んだものの,LP2枚目のB面に最後の1曲を入れると20分を超えてしまうからカットしたのだろう。もっとも,この“Don't Fly Away (PNAU Remix)”は前OSTに収録されていたものと同じなので,あまり問題はない。
 以上の理由から,本OSTは聴くだけであれば,なるべく安価なものを入手されることをお勧めしたい。後日,今回もDeluxe Editionが出て来る可能性はあるが,かなりのマニア以外は必要ないだろう。

  1. “Can't Help Falling In Love (EPiC Intro)”  Elvis Presley
  2. “Also Sprach Zarathustra/An American Trilogy (EPiC Version)”
                  Elvis Presley & The Royal Philharmonic Orchestra
  3. “That's All Right (EPiC Version)”  Elvis Presley
  4. “Tiger Man (EPiC Version)”  Elvis Presley
  5. “Wearin' That Night Life Look”  Elvis Presley & Jamieson Shaw
  6. “Hound Dog (EPiC Version)”  Elvis Presley
  7. “Polk Salad Annie (EPiC Version)”  Elvis Presley
  8. “You've Lost That Loving Feeling (EPiC Version)”  Elvis Presley
  9. “Little Sister/Get Back (EPiC Version)”  Elvis Presley
 10. “Burning Love (EPiC Version)”  Elvis Presley & The Royal Philharmonic Orchestra
 11. “Never Been To Spain (EPiC Version)”  Elvis Presley
 12. “Love Me (Jamieson Shaw Remix)”  Elvis Presley & Jamieson Shaw
 13. “I Can't Stop Loving You (EPiC Version)”  Elvis Presley
 14. “Are You Lonesome Tonight? (EPiC Version)”  Elvis Presley
 15. “Always On My Mind (EPiC Version)”  Elvis Presley
 16. “How Great Thou Art (EPiC Version)”  Elvis Presley
 17. “Oh Happy Day (EPiC Version)”  Elvis Presley & Jamieson Shaw
 18. “A Big Hunk O' Love (EPiC Version)”  Elvis Presley
 19. “Bridge Over Troubled Water (EPiC Version)”  Elvis Presley
 20. “In The Ghetto (Jamieson Shaw Remix)”  Elvis Presley & Jamieson Shaw
 21. “Walk A Mile In My Shoes (EPiC Version)”   Elvis Presley
 22. “Suspicious Minds (EPiC Version)”   Elvis Presley
 23. “Bring The Curtain Down (EPiC Outro)”   Elvis Presley
 24. “Can't Help Falling In Love (EPiC Version)”   Elvis Presley
 25. “American David (EPiC Version)”   Bono & Elliott Wheeler
 26. “A Change Of Reality (Do You Miss Me?)”   Elvis Presley & Jamieson Shaw
 27. “Don't Fly Away (PNAU Remix)”   Elvis Presley & PNAU

 映画本編の解説と同様,1ファンとしての個人的感想を強く打ち出した解説になっているかと思う。時間の許す限り,海外サイトも調べたが,もの凄い数があり,結構矛盾したことが書かれている。ChatGPTの助けも借りたが,今回は余り信用できる回答や整理ではなかった。公式発表に頼り過ぎていて,それ以上の情報は殆どなかった。

【まず,最初の印象は…】
 本OSTは,今年の2月20日(米国時間)にリリースされた。ほぼ映画本編の北米公開と同時期である。国内盤CDの販売開始は4月22日,映画の公開はIMAX先上映が5月15日であったので,待ち切れず3月上旬に国際版を入手した。映画のマスコミ試写を観たのは5月1日,その後,映画館でIMAX先行上映を観ているが,その前にも後にも何度も本OSTを聴き直した。勿論,音質的にはIMAX上映がベストであるが,OST音源を映像なしで聴いても,格別の味わいがある。  第一印象は,間違いなくElvisのライヴステージであるが,過去のどのライブ盤CDよりも素晴らしいと感じた。適した形容詞が思い浮かばなかったが,強いて言えば,「斬新で豪華」「躍動感に溢れている」であろうか。「豪華」という意味では,アルバム「If I Can Dream: Elvis Presley with the Royal Philharmonic Orchestra」はフルオーケストラを後で被せた分,豪華さは増したものの,綺麗に作り過ぎた分,ライヴ感は減り,「作り物」感があった。「斬新さ」では,前OST記事でも触れた「Viva Elvis」が抜群だ。これはシルク・ドゥ・ソレイユのラスベガスでのショー現場で聴くべき音楽であり,CDで聴くと「外連味」が強過ぎる。前OSTはその弱点を軽減していたものの,ラーマン監督が「21世紀からElvisへのトリビュート」と語ったように,現在音楽風のアレンジが目立ち,少し騒々しかった。具体的に言えば,Elvisの持ち歌を他の歌手に現代風カバーさせている曲(例えば,“Hound Dog” “If I Can Dream”)は好きになれなかった。主演のAustin Butlerが歌う “Blue Suede Shoes” “Are You Lonesome Tonight?”は下手糞過ぎて,聴くに堪えなかった。
 それに比べて,本OSTはほぼ丸ごとElvisの声である。しかも,1970年前後のライヴステージでの躍動感溢れる歌唱の音源を,ラーマン流のアレンジで味付けしている。当時の決定版のはずの「That's The Way It Is」の声は若々しいが,本OSTと比べると楽曲全体は少し安っぽく感じる。ましてや,後年の衛星中継ライヴ「Aloha From Hawaii Via Satellite」やNY公演の「Elvis - As Recorded At Madison Square Garden」「An Afternoon In The Garden」では,少し緩めて軽く歌っている曲も散見される。それに比べて,本OSTの各曲はいずれも全力投球の熱唱なのである。多数のステージから選りすぐった歌唱だけを抽出し,かつコラージュやマッシュアップを加えたゆえに,出来映えがいいのは当然とも言える。とにかく,過去の聴いたことがないアルバムだと感じたのである。

【本OSTの特長とコラージュの効用】
 全27曲収録であるが,2.“Also Sprach Zarathustra/An American Trilogy”から24.“Can't Help Falling In Love”までで,Elvisの標準的なライヴ公演のスタイルを模していることは明らかだ。実際の公演はもう少し長いだろうが,CD1枚に収めるためにはこれが限界だ。
 23.“Bring The Curtain Down (EPiC Outro)”は曲名ではない。「Qutro」からも分かるように,そろそろ公演も終わりだという予告である。“An American Trilogy”を歌いながら,Elvisが観客に向けて「そろそろ幕が降りますよ」と語りかけ,そして定番の“Can't Help…”で締めるのは,まるで会場にいる気分にしてくれる。
 この(EPiC Outro)と冒頭の(EPiC Intro)の他に(EPiC Version)と書かれている曲が20曲あり,これは「この曲の短い一部分を映画中でも使用しました」という公式宣言である。劇中使用曲(本来のSoundtrack)と販売されるOST-CDの収録曲が全く別録/別テイクであることも珍しくないが,本OSTの場合は,きちんと利用の有無を断っている。逐一(EPiC Version)を題名中に付しているのは,この映画のために,いかに長時間をかけてRemixしたかをアピールしたいのだろう。
 では,(EPiC)記載のない5曲は本編中で登場しなかったかと言えば,そうでもない。“In The Ghetto”は間違いなく,映画中で流れていた。20.“In The Ghetto (Jamieson Shaw Remix)”は,音楽総監督のJamieson Shawが,選び抜いたライヴ公演音源から,腕によりをかけて編集したRemix版であり,Elvisの詩的で心を打つ語りが入る。これはとても映画の制限時間内には収められないと判断して,映画にはスタジオ録音の短い歌唱を使い,本命のこちらを本OST用に残したのだと思われる。
 前OSTでも(Film Edit)(Film Mix)と付された曲がいくかあった。既存の音源からElvisの歌唱のトラックだけを抜き出し,別の楽器やコーラス,観客の声を加えるというマッシュアップを施したものであった。本作の「コラージュ」は本編解説でも書いたように,同じ曲で録音時期が異なる素材を繋ぎ合わせて1曲にしているという再構成である。その加工の程度は曲によって異なるが,以下の3つに大別できる。

(A) 再構成型(コラージュ中心の強目の編集)
 年代の異なる素材,スタジオ録音とライブ録音等を繋いだもの。代表曲は以下の通り。
  2. “Also Sprach Zarathustra/An American Trilogy (EPiC Version)”
  5. “Wearin' That Night Life Look”
  7. “Polk Salad Annie (EPiC Version)”
 17. “Oh Happy Day (EPiC Version)”
 22. “Suspicious Minds (EPiC Version)”

(B) 単一素材ベースで強めの加工を加えたもの
 映画としては,映像も切り替わる(A)がかなりあったが,聴き応え重視の本OSTとしては,単一音源をかなりマッシュアップしたものを中心に収録していると感じた。フルコーラスの収録曲にこのタイプが多い。代表曲は以下の通り。
  8. “You've Lost That Loving Feeling (EPiC Version)”
 12. “Love Me (Jamieson Shaw Remix)”
 16. “How Great Thou Art (EPiC Version)”
 18. “A Big Hunk O' Love (EPiC Version)”
 19. “Bridge Over Troubled Water (EPiC Version)”

(C) ほぼオリジナル通りで,簡単な加工程度
 歴史的素材の場合で,簡単なミックスや音圧調整程度。下記の他,本OSTには収録されていない“Blue Suede Shoes” “Heartbreak Hotel” “Love Me Tender” “Viva Las Vegas”等々も,これに該当すると思われる。
  6. “Hound Dog (EPiC Version)”
 14. “Are You Lonesome Tonight? (EPiC Version)”

【気になった曲】
 いずれも見事な編集/加工を施されて生まれ変わった曲ばかりだが,個人的に特に気になった曲を列挙しておく。
 ■ 本編解説では,「映画中で使用の70曲以上の内,自分が知らなかったのは1曲だけ」と書いてしまった。本OSTの27曲の中には,もう2曲あった。Jamieson Shawの名前が入った4曲の内の2曲で,いずれも上記の(A)に分類した曲である。
 1つは,5.“Wearin' That Night Life Look”で,Elvisのレパートリーの中にこんな曲はない。題名が似ているのは,“Wearin' That Loved On Look”で,1969年のアルバム「From Elvis In Memphis」の収録曲である。聴き比べてみると,なるほど似ている。どうやら,この“…Loved On Look”の軽快なメロディがベースのようだ。そこに“Night Life”(映画『ラスベガス万才』(64)の挿入曲)から歌詞「Night Life」の連呼,“Let Yourself Go”(映画『スピードウェイ』(68)の挿入曲)のイントロや間奏,挙げ句の果てのゴスペルの名曲 “I, John”(Elvisの複数のゴスペルアルバムに収録)のピアノパートまでを動員して,見事なコラージュを完成させている。(EPiC Version)の表記はないが,映画中ではElvisがバンドに演奏の指示をし,観客の中に飛び込むシーンで約80秒使われたが,本OSTには3分13秒の完成版が収録され,CDアルバムが出る前にシングルカットされている。音楽監督J. Shawご自慢のコラージュのようだ。
 もう1曲は,17.“Oh Happy Day (EPiC Version)”である。Elvisのどのアルバムを探してもこの曲はない。18世紀の賛美歌を基に1967年にEdwin Hawkinsがゴスペル音楽として書いた曲で,1969年にEdwin Hawkins Singers名義で世界的にヒットし,後の映画『天使にラブ・ソングを2』(93)でも使われたという。映画はElvisの死後15年も経っているので,69年のヒット時に気に入ったようだ。今回約1分半のリハーサル映像が見つかったので,全く新たにドラムスやギター演奏,女声コーラスを加えている。Elvisの歌唱部はループさせて,本OSTでは3分11秒の見事なコラージュ曲に仕上げている。これもラーマン監督とJ. Shawのお気に入りの1つなのだろう。
 ■ 本OSTで,The Royal Philharmonic Orch. (RPO)の名前があるのに驚いた。2曲目と10曲目である。WB の保管庫から見つかった未公開フィルムと録音素材を使っただけでなく,ちゃっかり,前述のアルバム「If I Can Dream: ... RPO」も利用していたのである。
 オープニングの“Also Sprach Zarathustra/An American Trilogy”なる組合せは,前OSTにも収録されているが,本OSTでは前半の“Also Sprach…”の音圧が増している。それに続く後半の“An American Trilogy”でのElvisの熱唱も,フルオーケストラのRPOの演奏が加わることにより格段に迫力が増している。IMAX上映には,まさにその音量で圧倒された。
 もう1曲の10.“Burning Love (EPiC Version)”は,元のRPOアルバムでも1曲目に収録された目玉曲であり,アルバム随一の斬新なリメイクが施されていた。RPO版は弦楽器が入るだけで,Elvis晩年の最もリズミカルな名曲が,かくも格調高くなるかと驚いた。RPO版と本OST版のこの曲との違いは余り分からなかったが,ドラムの音が効果的に加わっている(それとも強調されただけか?)。映画内では観客の喚声もミックスされていたと記憶している。前OSTの収録曲でもあり,(Film Mix)と記されていたが,改めて聴くと,甲高いギターの音が煩わしく,安っぽいRemixだと感じた。両OSTに収録されている“Polk Salad Annie”も,(EPiC Version)の方が断然素晴らしい。
 ■ 最後に言及しておきたいのは,唯一Elvisの名前がない25.“American David (EPiC Version)”である。これは映画中ではエンドロールの冒頭に流れるU2のBonoの追悼詞で,Elvisへの敬意と賞賛の言葉が連なっている。元々はBonoがあちこちで発表していた詞である。Elvis死後25周年記念コンサートを記録したTVスペシャル『Elvis Lives』(03)のために,BonoがElvisの様々な映像を前に自ら詞を朗読するビデオクリップを制作した。その部分だけは,「ELVIS: AMERICAN DAVID - a poem by Bono (U2) | from "Elvis Lives" (2003)」と題した映像がYouTubeに投稿されている。記念コンサートでは,Jordanaires, Imperials, Sweet Inspirations, Stamps Quartet等のお馴染みのバックコーラスグループが集い,旧交を温め,Elvisを偲んだという。
 本OSTでは,そのBonoの1分48秒の朗読を大幅に圧縮・再編集し,BGMを加えた49秒のバージョンを収録している。バズ・ラーマン監督とBonoは親しいらしく,自らのElvis愛の代弁者として,このBonoの追悼詞を映画の最後に入れたのだろう。

()


Page Top