O plus E VFX映画時評 2024年9月号掲載
■「Beetlejuice Beetlejuice (Original Motion Picture Soundtrack)」
(WaterTower Music)
だいぶ時間が経ち,月が変わってしまったが,9月号扱いで書き留めておく。続編である今回の『ビートルジュース ビートルジュース』のサントラ(OST)アルバムは,国内外とも基本的にMP3でのデジタル配信だけで,CD盤はない。マニアのための紫と緑のアナログLP 2枚組が後日発売されるようだが,おそらく日本で入手するには輸入盤しかないだろう。
さて,今回のデジタル版を入手するにも少し注意を要する。Amazonで「Beetlejuice Beetlejuice (Original Motion Picture Soundtrack)」と入力しても,上記右の旧作のCDやLPのサントラ盤の案内が多数出て来てしまうからだ。これは「Beetlejuice」が1つ少ない「Beetlejuice (Original Motion Picture Soundtrack)」(20曲入り)であるから,注文を間違えないようにされたい。それでいて,そのCD盤のページの「MP3」ボタンを押すと,今回の12曲入りアルバムが出て来る。旧作のデジタル版もしっかり別にある。おそらくAmazonの担当者も混乱して,リンクをつけ損ねたのだろう。
この際,旧作のサントラも聴き比べてみたいというならそれでも良いが,製作方針がまるで違っている。今回のOSTアルバムは下記12曲で,内10曲は既発表の歌唱曲中心であるが,旧作OSTは20曲中の18曲がDanny Elfmanのオリジナルスコアであり,映画中で使われたHarry Belafonteの既存曲4曲の内2曲が収録されている。即ち,前回はほぼスコア盤であり,今回は歌唱曲中心のコンピレーション・アルバムであるから,性格付けが異なっている。
1. “MacArthur Park (Single Version)” Donna Summer
2. “Tragedy” Bee Gees
3. “Day-O” Alfie Davis & The Sylvia Young Theatre School Choir
4. “Somedays” Tess Parks
5. “Cry, Cry” Mazzy Star
6. “Where’s The Man (2023 Remaster)” Scott Weiland
7. “Right Here Waiting” Richard Marx
8. “Svefn-g-englar” Sigur Rós
9. “MacArthur Park” Richard Harris
10. “Main Title from Carrie” Pino Donaggio
11. “Main Title Theme” Danny Elfman
12. “End Titles” Danny Elfman
本作の音楽担当は,前作に引き続きDanny Elfmanだ。当然映画中には前作のイメージを踏襲したオリジナルスコアが流れるのだが,今回はスコア盤は発売されなかった。新規性が乏しく,話題性がないと考えて,今回は歌唱曲中心のアルバムに方針変更したと思われる。Danny Elfmanのスコアは,Main TitleとEnd Titlesの2曲だけが最後に収録されている。この2曲も旧作と似ていたので,同じ曲の使い回しかと思ったのだが,そうではなかった。似てはいるが一応別の曲で,収録時間も長く,音質は圧倒的に良い。この2曲を聴くだけで,すっかり「ビートルジュースの世界」に浸れる。
映画中では様々な曲が流れて楽しかったが,それをOSTアルバムとして収録してくれたのが嬉しい。1~10の10曲はいずれも映画中で流れた既発表曲だが,実際にはもう3曲が使われていた。クレジットもされているが,版権の都合で収録しなかったのだろう。収録した10曲の内,3.“Day-O”だけが別格だ。旧作にも登場した象徴的な曲だが,本作では歌手を変えて新録音している。これは,じっくり後述するとしよう。
残る9曲の発表年代は,1960年代から2010年代に及んでいる。実は,筆者は1曲も知らなかった。余りヒットしなかった名曲を集め,映画の中で使って,「誰の曲だろう?」と思わせるのが選曲者の腕であるから,知らなくても止むを得ない。一番実績があるのは,2度登場する“MacArthur Park”のようだ。グラミー賞受賞者のシンガーソングライターJimmy Webbが,アイルランド人俳優のRichard Harrisのために作った曲で,彼が1968年に録音したレコードがビルボードチャートの2位ランクされたのが9.である。その後,何人かカバーしたが,Donna Summerが歌ったディスコ版が1.で,こちらはビルボードチャートNo.1になっている。
2.“Tragedy”は予告編でも流れる曲で,声を聴いただけでBee Geesの曲だと分かった。聴き覚えはあったが,曲名は分からなかった。15枚目のアルバム「Spirits Having Flown」の収録曲で,シングルカットされ,1979年に英国と米国で1位になったそうだ。映画『Saturday Night Fever』(77)の大ヒットで,Bee Geesが劇的カムバックを果たした直後のアルバムである。45年も前の出来事であり,それを思い出させてくれるのも映画の挿入曲の効用かも知れない。この調子で1曲ずつ語っていては切りがないが,7.“Right Here Waiting”などは,ほぼ無名だが,見事に美しい曲である。
さて,別格の“Day-O”である。旧作では“Day-O (The Banana Boat Song)”なる題名でクレジットされていたが, Harry Belafonte (1927-2023) の1956年の世界的大ヒット曲である。旧作(88)ではそのBelafonte版を使っていたが,1988年時点で30年以上前のこの曲を印象的な場面で流していたことが話題を呼んだ。36年後の続編では,この映画のために斬新なアレンジで新録音版を作り,それを使用している。イメージソングの扱いであり,映画として繋がっていることを印象づけている。ただし,Alfie Davis & The Sylvia Young Theatre School Choirはどんな歌手とバックコーラスであるのか,全く情報がない。
原曲は,ジャマイカ民謡で,バナナを船から荷揚げする港湾荷役夫の労働歌である。音楽ジャンルとしては「カリプソ」に分類される。最近あまり聞かないが「カリブ海の音楽」の意味である。H. Belafonteは米国NYのハーレム生まれだが,黒人の父,ジャマイカ人の母をもつ混血児で,アルバム「Calypso」(56)とシングルカットされたこの曲で一躍世界的な人気歌手の仲間入りした。生涯最大のヒット曲がこの曲で,2番目が“Danny Boy”(アイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」の替え歌)と言われている。
日本では,1957年に何人もの歌手が“バナナ・ボート”の題名で競作したが,最もヒットしたのは浜村美智子のレコードだった。当時30万枚を売り上げたという。まだTVは普及せず,ラジオ中心の時代だった。当時の流行歌は,日本中の老若男女の誰もが知っていたから,現在日本の後期高齢者であれば,“バナナ・ボート”のメロディも「浜村美智子」の名前も覚えているはずだ(筆者は小学4年生だった)。江利チエミ,旗照夫らの名のある歌手を差し置き,断トツにヒットしたのは,(当時としては)長身長髪で,まだ10代のエキゾチックな顔立ちの美人であったことが,この曲のイメージとマッチしたためだろう。それを見抜いて彼女を抜擢したレコード会社のプロデューサーの眼力にも感心する。歌謡曲は三橋美智也,春日八郎,美空ひばりの全盛時代だったが,洋楽はハワイアンやウエスタンが中心でこれといった大スターはいなかった。そんな中で,「カリプソ音楽」は斬新に聴こえた。浜村美智子は「カリプソ娘」と呼ばれ,まさに一世を風靡したが,この曲のイメージが強過ぎて一発屋で終わったようだ。
メロディも歌詞も印象的だった。今回ネットで歌詞を調べたら,このパートには,
①…me say day, me say day, me say day, me say day, me say day-ay-ay-o
②…he say day, he say day, he say day, he say day, he say day-ay-ay-o
③…is a day, is a day, is a day, is a day, is a day-ay-ay-o
の3種類の歌詞があった。元が民謡であるから,正確な歌詞は伝わっていなかったのかも知れない。
Belafonte版が「ミセデ ミセデ ミセデ…」と聞こえるのに対して,浜村美智子は「イデデ イデデ イデデ…」と歌っているとしか思えなかった。それぞれ①と③で歌っていたのであろう。ともあれ「イデデ イデデ」の歌,それがナマって「痛てて 痛てて」の歌として誰もが覚えた。そんな昔話を思い出せてくれるのが,この『ビートルジュース』シリーズなのである。
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