O plus E VFX映画時評 2024年5月号掲載
■「ボブ・マーリー:ONE LOVE -オリジナル・サウンドトラック-」
(ユニバーサル・ミュージック)
音楽映画だから,当然,サントラ盤がある。いや,サントラ・アルバムはあるだろうが,洋画の場合,最近はネット配信が主流で,CDが発売される方が珍しい。でも,ボブ・マーリーなる伝説上の人物の伝記映画でメジャー配給作品であるなら,CDもあるだろうと思ったら,あった,あった。ただし,輸入盤はなく,「日本のみのフィジカル発売」だそうだ。海外はすべてデジタルリリースなのに,日本国内だけCD盤とアナログLP盤を発売するということである。まだまだ日本の音楽ファンは,大切に残したいアルバムは物理的に保存することを好むからだろう(かくいう筆者もそうだが)。勿論,デジタル配信でも入手できる。
今回の場合,発売元のユニバーサル・ミュージック・ジャパンが殊更熱心で,同社のWebサイトの「Bob Marleyのページ」は,映画の公式サイト以上に充実している。用語解説,映画で描かれた人物相関図,彼の人生を要約した漫画まで入っている。この数年,過去のアルバムの再発やLP盤発売が相次いだようだが,今回の伝記映画の公開を機に,これまで彼の名を知らなかった音楽ファンにもいかに偉大なシンガーであったかを知らしめ,せめてCDかLPを1枚買う気にさせようとする営業戦略のようだ。当欄もその片棒を担ぐことにした。
各種フォーマットがあるが,いずれも収録曲は下記の17曲である。「デラックス・エディション」というのは,紙ジャケット仕様で,ポスター,ステッカー,ブックレット等の付属品が充実しているだけで,ボーナストラックがある訳ではないので注意されたい。
1. “Get Up, Stand Up”*
2. “Roots, Rock, Reggae”
3. “I Shot The Sheriff”*
4. “No More Trouble”
5. “War / No More Trouble (Film Version)”
6. “So Jah S'eh (Film Version)”
7. “Natural Mystic”**
8. “Turn Your Lights Down Low”**
9. “Exodus”**
10. “Jamming”**
11. “Concrete Jungle”
12. “No Woman, No Cry (Live At The Rainbow Theatre)”
13. “Three Little Birds”**
14. “Redemption Song”
15. “One Love / People Get Ready”**
16. “Is This Love”
17. “Rastaman Chant”
*: The Wailersだけの名義。他はすべてBob Marley & The Wailers名義。
**: 名盤「エクソダス」(全10曲)に含まれている曲。
映画本編のエンドロールには,36曲がクレジットされていたが,演奏だけの曲や,他の歌手やバンド(例えば,Bee Gees)の曲,リハーサルシーンで主演のKingsley Ben-Adirが歌った曲等は収録せず,このサントラ盤にはBob Marleyが歌った曲だけが収録されている。基本的には,大半は過去のアルバムと同じ音源の再収録のはずだが,筆者の手持ちのアルバムと聴く比べたところ,(気のせいか)本アルバムの方が高音がクリアに感じた。ドルビーアトモス上映用のリミックスした音源をこのサントラ盤に使ったのかもしれない。5.“War / No More Trouble”と6.“So Jah S'eh”は,今回初出の音源である。代表曲の1つの12. “No Woman, No Cry”はライブ演奏を使用する等,アルバムとしての個性ももたせている。
3.“I Shot The Sheriff”は1973年の発表曲だが,翌年Eric Claptonがカバーして全米チャート1位になったことから,Bob Marleyの名前も知られるようになったヒット曲である。映画中では,ジャマイカから逃げ出し,ロンドンでの亡命生活中にアルバム「Exodus」を生み出す過程が描かれていた。1977年発表の同アルバムは56週間英国のヒットチャートインし,タイム誌が「20世紀最高の音楽アルバム」に選んだ名盤として知られている。オリジナル盤は全10曲だが,**を付したその内の6曲がこのサントラ盤に収録されている。過去にも何度かベスト盤が発売されているが,このサントラ盤もその1つと言える。最初からそうなるように選曲して,映画中で流れるように配したと思われる。
映画とは直接関係ないのだが,「Bob Marley: One Love - Music Inspired By The Film」なる表題のEPアルバム(7曲入り)が発売されている。こちらにはCDやLPはなく,デジタル配信だけだ。Bob Marleyに縁があったり,彼を尊敬するアーティスト達によるトリビュート・アルバムである。その後発売されたこちらのDeluxe版は,しっかり3曲追加されていて,下記の全10曲となっている。
1. “Natural Mystic”** Bloody Civilian
2. “Exodus”** Skip Marley
3. “Waiting In Vain”** Daniel Caesar
4. “Three Little Birds”** Kacey Musgraves
5. “One Love”** Wizkid
6. “Is This Love” Jessie Reyez
7. “Redemption Song” Leon Bridges
8. “Rasta Reggae (Jamming)”** Farruko
9. “Misty Morning” Mystic Marley
10. “No Woman No Cry” Shenseea
**: 名盤「エクソダス」(全10曲)に含まれている曲。
このアルバムも,トリビュート版としてなかなか出来がいい。原曲が優れているからだが,ボブ・マーリー音楽の入門用としても適している。必ずしもレゲエ・サウンドでない曲もあり,音楽的にはもっと広い。筆者のお気に入りは,Kacey Musgravesが歌う4.“Three Little Birds”とShenseea が歌う10.“No Woman No Cry”である。
映画には,リタ夫人と長男ジギー,次女セデラが監修・製作で参加しているが,2.のSkip Marleyは長男の息子,9.のMystic Marleyは次男の娘で,孫世代のようだ。ボブの子供は公表されているだけで11人もいて,リタ夫人の子供は4人で,他に7人の女性との間に1人ずつ設けたという(非公式には,もう2, 3人)。36歳で他界したというのに,この数は凄い。孫は一体何人いることやら……(笑)。音楽関係に従事しているだけで5〜6名,モデル業界でも数名活躍しているそうだから,さすが国民的英雄の偉い爺さんだ。
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