・「当初は耳慣れなかった『サイバースペース』という言葉も,マルチメディア技術がインターネットを軸に開発した世界として,急速に認知されつつある。」
・「連載当初は奇異な響きさえあった『サイバースペース』という言葉も,日常会話に登場するようになった。」と記されている。そして,「サイバースペースの未来」の最終回(1997年3月17日)では,
・「連載当初,SF映画まがいのタイトルに戸惑いの声も上がったが,『サイバー』という言葉はほぼ日常語として定着した。」とまで書いている。微妙な表現の違いの中に,取材班の果たした仕事への自信のほどが窺える。
出典 | 記載内容 |
現代用語の基礎知識 1997 [自由国民社] |
全世界がコンピュータネットワークによって形成されるSFの三次元空間。 |
imidas '97 [集英社] |
(1)電脳空間。コンピューターグラフィックスなどで表現され,擬似体験できる空想上の空間。(2)コンピューターネットワーク上に作り出される仮想的な世界。 |
知恵蔵 1997 [朝日新聞社] |
コンピュータで生み出す仮想空間。 |
読売新聞のホームページ 「ミニ時典」(96年4月30日) |
CYBERSPACE。電脳空間と訳す。コンピューターの中に広がる実際の物理的な空間ではない,仮想の空間のこと。 |
コンサイス・カタカナ語辞典 [三省堂,1994年] |
電脳空間。コンピューターグラフィックスなどで擬似的に体験できる想像上の空間。 |
ランダムハウス英和大辞典第二版 [小学館,1994年] |
コンピュータ・ネットワークが張り巡らされた未来空間。 |
英和中辞典 [旺文社,1997年] |
コンピュータが作り出す情報[通信]空間。 |
大辞林 第二版 [三省堂,1995年] |
コンピューター-ネットワークなどの電子メディアの中に成立する仮想空間,情報宇宙。特に人間の身体知覚と電子メディアが接合して生まれるメディア環境。アメリカのSF作家ギブスン(William Gibson 1948)が小説の中で描いた。 |
国際化時代のためのカタカナ語・略語辞典 [旺文社,1990年] |
電脳空間。世界全体に広がるコンピューターのネットワークの端末と脳を直結することによって作り出される拡張された意識空間。人間と機械が直接的に融合した近未来社会を扱うSF小説・映画で描写されている。 |
Webster's New World College Dictionary 3rd Edition [Webster,1995年] |
The electronic system of interlinked networks of computers, bulletin boards, etc. that is thought as being a boundless environment providing access to information, interactive communication, and, in science fiction, a form of VIRTUAL REALITY. |
・「電脳空間(サイバースペース)。日々様々な国の,何十億という正規の技師や数学概念を学ぶ子ども達が経験している共感覚幻想─人間のコンピュータ・システムの全バンクから引き出したデータの視覚的再現。考えられない複雑さ。」(『ニューロマンサー』,p.90)
・「その空間とは,考えられないほど複雑な人類の共感覚幻想,マトリックス,電脳空間(サイバースペース)。そこでは巨大な企業の熱中核がネオンの新星のように燃え,データが稠密なあまり,ほんの輪郭以上のものを察知しようとすると感覚過負荷をきたす。」(『カウント・ゼロ』,p.76)
・「男の額に電極(トロード)ネットが貼り付けてあり,左耳の後ろのソケットから出た黒いケーブルただ1本が,担架台の縁沿いに固定してある。スリックがそれをたどっていくと,全体の上部構造をなす装備(ギア)の中心を占めそうな,どっしり灰色の装置(パッケージ)に行き着く。擬験(シムステイム)だろうか。そうは見えない。なにかの電脳空間装置(サイバースペース・リグ)だろうか。」(『モナリザ・オーヴァドライヴ』,p.35)
・「電極(トロード)を着ければ,そっちに出て行け,世界じゅうの全データが積み重なったひとつの巨大なネオン都市。人はそこでぶらついたり,いわば把握したり。視覚的に,だ。というのも,視覚的にできないと,あまりに複雑で必要とする特定のデータに行き着けないからだ。」(同上)
といった風である。この他には,ほとんど説明的な記述はない。よく読んでみると,「視覚的再現」とか「世界じゅうの全データ」とかの表現はあるが,コンピュータグラフィックスやコンピュータネットワークという直截的な用語は出てこない。日本語の解説に出てくるだけだ。あるいは,キブスンやその他のサイバーパンク作家がそう語ったことがあるのかも知れない。皆が実現方法を想像しているうちに,表1のような表現になってしまったのだろう。
電極を貼り付けてあるとは書いてあるが,脳とコンピュータ端末を結ぶという表現は出てこない。しかし,小説の冒頭の章から,人工臓器移植や生体改造を受けた登場人物が現れる。ここから,表1のカタカナ語辞典のような「ネットワーク端末と脳を直結」もありそうだと感じさせてしまうのだろう。
・「パイロットたちが巨大なヘルメットとぎこちなく思える手袋を着け…(中略)…テクノロジーが進化するにつれて,ヘルメットは小さくなり,…」(『モナリザ・オーヴァドライブ』,p.84)という記述まである。これは1988年の作品だから,VRという言葉の出現より以前のことである。W.キブスンは,SF作家だけあって米空軍のスペースコクピット計画のことを知っていたのだろう。
・「地球全体のマトリックスとはリンクがないから,そのデータは電脳空間(サイバースペース)を経由したいかなる攻撃も免(まぬが)れる。」(同書,p.241)から,これはファイアーウォールとイントラネットのことを予見していたのだという声もある。経典を色々と解釈して,それぞれに理由づけするのは楽しくはあるが,我々は工学的意義の方を考えたい。
Dr. SPIDER(田村秀行)& Yuko(若月裕子)
[(株)MRシステム研究所]