■岡田斗司夫『ぼくたちの洗脳社会』(朝日新聞社,本体1,942円,1995年)(

 何しろ面白い。表題でドキっとさせられ,読んでみるとまっとうな情報社会論で,読了してみてやっぱりユニークだなと感じさせる。新刊ではないが,新鮮に感じたのでお薦めの書としてをつけた。
 著者は,1958年生まれの作家,プロデューサ。1985年にアニメ,ゲームの制作会社GAINAXを設立し,94年から東大教養学部でマルチメディア・ゼミの講師を担当しているとある。ブームの当初,「マルチメディア」とつく本はすべて買って読んだという。私もそうである。新刊時にはこの本の存在は知らなくて,電通総研の広報誌「Human Studies」に彼の講演とディスカッションが載っているのを見て知った。
 「洗脳社会」という恐ろしげな命名であるが,「脱工業社会」「マルチメディア社会」を著者流に解釈した結果である。アルビン・トフラーの『第三の波』や堺屋太一の『知価革命』は,「画期的な着眼点」をもっていながらも,「イージーで現実離れした予測」しか提供しなかったと断じている。現在の価値観や社会システムのままで未来を予測するから,何となく不自然で魅力に乏しい情報化社会しか描けていないのだという。そーだ,その通りだ。私もそう感じていた。  じゃ,次世代は何なのだというと,「自由経済競争社会」から「自由洗脳競争社会」にシフトする。科学至上主義,物質的豊かさを求めた時代から,「自分の気持ち」至上主義,精神的豊かさの時代になるという。「マルチメディア中世」「モノ不足・情報余り」の社会ともいっている。他人の価値観に影響を与える行動をすべて「洗脳」と呼び,マルチメディアはそのための強力な手段となる。ふーむ,この辺りの分析はなかなか鋭く,説得力もある。ネットワークによる情報発進力のもつ意味を鋭く捉えている。
 「自由の気持ち」を大切にする時代の表れとして具体的にあがっている事例は,パソコン通信やコミックマーケット,「オタク文化」である。どうもここらになると,私にはイマイチよく分からない。そういう若者の価値観が次なる社会の主流であるような,やっぱり何か違うような…。この著者の主張を是とするなら,旧世代の私の価値観では理解できないことになるから仕方ない。
 中島氏のインタビュー直前の週末にこの本を一気に読んだので,その影響がインタビューにも出てしまった。オプティミストの中島氏であれ,幾分ペシミストの私であれ,団魂の世代の論じる情報化社会は,まだ「自由経済競争社会」の枠の中にあるなと感じながら議論していたのである。(


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