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○福田 裕美(ふくだ ゆみ)さん
 【現在,修士1回生.大阪府・関西大倉高校出身】

◆福田さんへの特別インタビュアは,RM2Cの相談役 田村秀行先生[元メディア情報学科教授.現,総合科学技術研究機構(客員)教授]です.

(田村)まずは,定番の質問で,なぜ立命館の情報理工学部に来て,実世界情報コースの木村研究室にやって来たのかから始めましょう.

 国公大には少し学力が足りなくて,私立では,最初から立命館が第1志望だったので…….

(田村)受験勉強から逃避して推薦入学で来る学生は,定期試験は適当に誤魔化せても,卒業研究以降で困難に直面した時,それを乗り越えられなくて,指導側も苦労しています.
 関西大倉高校のような受験校で国立受験組は歓迎ですよ.実際,卒業生が立命館には多数来ているんじゃないですか?

 高校からは立命館全体で数十人入学しているかと思います.学校の近くに大阪茨木キャンパス(OIC)ができたので,人気も上がっているようです.

 高校からは立命館全体で数十人入学しているかと思います.学校の近くに大阪茨木キャンパス(OIC)ができたので,人気も上がっているようです.
 初めから情報系志望でした.オープンキャンパスでBKCにやって来て,木村先生にXドームのデモを解説して頂き,こんな凄い装置があるのかと感激しました.
 その時に残っていたのは私一人だったのですが,ゆっくりお話できて,実世界情報コースの木村研に行きたいと考えるようになりました.

福田さん

 初めから情報系志望でした.オープンキャンパスでBKCにやって来て,木村先生にXドームのデモを解説して頂き,こんな凄い装置があるのかと感激しました.
 その時に残っていたのは私一人だったのですが,ゆっくりお話できて,実世界情報コースの木村研に行きたいと考えるようになりました.

(田村)なるほど,大学側,研究室側としては,オープンキャンパスにも手を抜いちゃいけないなという教訓ですね.今度は貴女たちが素晴らしいデモを作って,意欲ある高校生にアピールして下さい.ところで,その当のXドームは昨年の春で撤去してしまいました.もうビデオプロジェクタも寿命で,テクノコンプレックスの場所代も,装置を維持して行く経費もバカにならなかったので廃棄に決めたのです.

 それを聞いた時はとても残念でした.でも,HMDを使った重さ知覚の錯覚も面白かったし,ジュベナイルプロジェクトでもHMDを使う班に入りました.

(田村)大学院進学はいつ頃から決めていたのですか?

 大学入学当時から決めていました.理系なら,大学院まで行くのは普通だとも聞いていました.当初は他大学の大学院に進むつもりでしたが,総合的に考えて,立命館の内部進学に切り替えました.

(田村)阪大あたりへのリターンマッチをしたかったのかな? 国公立は内部進学率が高く,殆ど残り枠があいていないでしょう.空いているところは不人気研究科であり,ここでの研究を続けられる可能性はほぼありません.学部から大学院で継続して研究を続けることが基本の立命館の方式の方が,実績を上げやすく,院卒で就職する時にも有利だと思います.

 先輩たちからもそう言われて,内部進学にしました.

(田村)研究室配属までに熱中していた趣味やサークル活動はありますか?

 「立命館TRPG倶楽部」に在籍していました.本拠地は衣笠キャンパスですが,BKCにも支部があります.
 TRPGというのは,Tabletop Role-Playing Gameの略です.ビデオゲームのRPGはご存知ですよね?あれとは違って,複数人で道具を使って行うテーブルゲームの一種です.役割分担をして会話をしながら,ルールに従って一緒に作品を紡ぐ感じです.1回につき最低1時間はかかり,長い場合は日を跨ぐ場合もあります.
 基本的にはサークル内でプレイする趣味の会ですが,外部の人を入れてやる場合もあります.衣笠では週一でやっていますが,BKCでは月に1回程度の開催でした.高校時代から知っていたのですが,1人でやるのは小規模のものしかできませんでした.大学に入ってこのサークルの存在を知り,すぐに参加することにしました.

TRPG倶楽部活動の一コマ1
TRPG倶楽部活動の一コマ2

TRPG倶楽部活動の1コマ.紙と鉛筆,サイコロを使ってプレイする.

(田村)ビデオゲームよりも,何やら知的な感じがしますね.カードゲームだと「コントラクト・ブリッジ」がそうですが,顔を合わせて会話を楽しむことも目的なのでしょう.でも,コロナ禍でも実際に集まっていたのですかね?

 昨年までは,オンラインでボイスチャットを利用してやっていました.もう私は参加していないのですが,今は対面とWeb上で公開されているTRPGサイトを利用することの両方だそうです.

(田村)話をジュベナイルプロジェクトに戻しましょう.「ピタゴラMR」チームのシナリオライタだったようですが,TRPGの経験から,ストーリーを作り上げることに興味があったのですか?

 シナリオライタ兼モデラでした.シナリオライタは,ディレクタに継ぐNo.2的な役目ですよね.私は梶山さんのように人を引っ張って行くタイプではなく,縁の下の力持ち役割の方が向いていると感じています.卒研1の作品制作で江波戸君の補佐役でしたが,その江波戸君がピタゴラ班のディレクタ役に立候補したので,卒研1の延長でシナリオライタに手を挙げてしまいました.

(田村)満足の行く作品に仕上がったのでしょうか?

 かなり凝った作品になり,チーム全体としては満足できるレベルに達したと思いますが,自分の担当した箇所のクオリティはもっと高めることができたと感じています.ジュベナイル期間では現実空間のピタゴラ部分に力を入れ過ぎたので,このバージョンアップを図るなら,仮想空間側を強化したいと考えていました.

MRピタゴラの制作風景1
MRピタゴラの制作風景2

CC1階の展示室での「MRピタゴラIII」の制作風景.
 現実世界に多数の部品があるが,大型モニタの左半分には仮想部分が表示されている.

(田村)このテーマの原点は,現実空間と仮想空間での物体の動きを違和感なく伝達するRV-Transitionという概念です.他大学でも取り組んでいない当研究室のオリジナルです.対象をEdutainmentに絞り,LEGOブロックの世界とリンクさせて,創造性を発揮できる作品制作の基幹技術に育てるのは,TRPG経験のある福田さんには,ぴったりの発展性のあるテーマだと思います.改良した作品は,VR学会のオンラインデモで発表していて,高い評価を得たと記憶していますが.

 口頭発表と展示発表の両方をしました.昨年9月のVR学会の年次大会は,当初OIC開催の予定だったので,OICにシステム一式を持ち込んでデモ展示するという計画でした.野間先生と木村先生が実行委員長で,地元の立命館で恥ずかしいデモ展示はできないということで,石田先輩(当時M2),敷島先輩(当時M1)と,相当気合いを入れて「三代目MR ピタゴラ兄妹 with RV-XoverKit」* なるMR作品に仕上げました.

* この作品名は,NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』に登場する「ピタゴラ3兄弟」と「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」をもじったもの.RM2C内での「MRピタゴラ」開発のVer.3であったことにちなんでいる.

 ところが,たまたまコロナ禍で,対面発表,対面展示はなくなり,すべてオンライン開催となってしまいました.夏休みもかなりの時間を使ったのに,とても残念でした.

(田村)口頭発表は慣れたZoomの利用でしたが,デモ展示はよく知らないソフトを使ってオンライン中継するので,参加する観客側も戸惑っていましたね.

 Biaural Meetというオンラインコミュニケーションツールで,東工大で開発されたソフトだそうです.大きなホールのような仮想空間があり,複数のデモ展示やポスタ展示が行われていて,参加者は近づくと発表者の声が聞こえ,発表内容が見えるという仮想体験を模したものです.展示発表側も慣れないので,使いこなすのが一苦労でした.
 参加者の人だかりがどこにあるかも分かるシステムで,嬉しいことに参加者の大半が私たちのデモに集中していたようです.もっとも,メインキャスタ役の私はカメラに向かって説明するだけで,人だかりがあったことは全く分かりませんでした(笑).
 質問に答えるのにも精一杯でしたが,レベルの高い質問が多く,参加者の理解度,満足度は高かったと,先生方から褒めて頂きました.

ピタゴラ発表の準備

完成した作品を入念に点検

ピタゴラ発表

リハ中はまだマスク着用

ピタゴラ発表

Biaural Meet利用での実行画面
(いつも人だかりができていたことが分かる)

(田村)プレゼン側に臨場感がないのは,まだそのVRソフトが未熟だからですね.ともあれ,学会発表にそれだけ精力を使ったのなら,卒論提出や卒論発表は楽勝だったんじゃないですか?

 ぎりぎりまで実験結果が得られず悪戦苦闘していた同級生に比べると,かなり楽だったと思います.発表できる題材もかなりあったのですが,たった7分の持ち時間では,学会発表時の参加者の反応を話す時間もなく,あっけなく終わってしまいました.

(田村)昨年の経験は,今年のジュベナイルプロジェクトで「MRピタゴラIV」を作っていた後輩たちの指導にも役立ったのでしょうか?

 作業している展示室に積極的に顔を出して,色々アドバイスをしました.Unity,Blenderや石田先輩が開発された最新ツールの使い方を教えるだけでなく,私自身が学会発表時に詰まった質問にも答えられるように指導しました.
 後輩への指導を通して,石田先輩のツールや私の開発したツールの使いにくさ,未実装だった機能が明らかになり,指導側にも大いにプラスになりました.

(田村)社会に出てからどうなりたいという将来展望はありますか?

 できれば,VRやDRを応用できる会社に就職して,大学で学んだことを活かしたいです.まだ,どんな会社でそれができるのかは探し切れていませんが,先生方や先輩たちのご意見も聴いて,じっくり考えたいと思います.