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plus E誌 2011年3月号掲載 |
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(注:本映画時評の評点は,上から  , , , の順で,その中間に をつけています。) |
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欧州の知性と美意識が生み出した気品ある史劇
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| この映画の試写は2度観た。勿論,予想した以上の掘り出し物で,再見して熟視するに値する力作だったからだが,初回は予習もせず,漫然と眺めてしまったせいでもある。短評だけ書くつもりだったのが,史劇としての風格,美術セットの素晴らしさ,CG/VFXの使い方の巧みさに感じ入った。女性天文学者にして,凛とした美しさと威厳のあるヒロイン,ヒュパティアの存在も印象的だった。そこで,メイン欄で取り上げるには,再度じっくり眺めることにした次第だ。
『英国王のスピーチ』『ザ・ファイター』等,オスカー・ノミネート作が相次ぐギャガ配給作品の中ではやや地味な存在で,あまり派手な広報宣伝がなされていなかったこともある。調べてみると,2009年のスペイン映画で,欧州最大級の製作費を投じた大作というではないか。それだけのことがある重厚な歴史スペクタクルであり,現代に繋がる視点から掘り下げた作品でもある。若者しか眼中にないチープな邦画や,ハリウッド系の派手なブロックバスターの陰に隠れがちな欧州製の良作を,もっと多くの人々に観て欲しいと思う。
アレクサンドリアという地名は世界中にあるが,その中では最も著名なエジプト第2の都市が舞台である。最近,TVのクイズ番組等でしばしば取り上げられるそうだが,あまりTVを観ない筆者は,その正確な位置を知らなかった。マケドニア王アレキサンダー大王のオリエント遠征時に建設されたギリシャ風の都市で,地中海に面した港町であり,東西を結ぶ交通の要所らしい。てっきりギリシャ史劇かと思ったが,時代はもう少し後で,ローマ帝国末期の4世紀の物語だった。キリスト教徒の台頭による動乱で崩壊するこの町の様子と,魔女として処断される主人公ヒュパティアの悲劇がテーマだ。
アレクサンドリア図書館というのを聞いたことがあったが,膨大な蔵書を誇り,学問の中心として栄えたこの建物が主役の1つである。その館長の娘であり,世界初の女性天文学者を演じるのは,『ナイロビの蜂』(06)のレイチェル・ワイズ。知性と美貌を併せもつヒロインにはぴったりだ。彼女の魅力を引き出し,文化都市の格式を見事に描いているのは,『アザーズ』(02年5月号) 『海を飛ぶ夢』(05年4月号) のアレハンドロ・アメナーバル監督だ。久々の監督作品だが,この知性派監督ならではの描き方だと感じる場面が随所にある。
いきなり宇宙から見た地球の姿から映画は始まる。まるでSF映画風であり,歴史ドラマにしては珍しい入り方だ。当時地球上で最も学術文化が進んでいた都市であるという意味と,天文学者である主人公の視点を象徴しているのだろう。エンディングでは逆に,この町からどんどんカメラを引いて再び地球を眺める視点に戻る。特に珍しくない手法だが,その途中過程が絶妙だ。CG,航空写真,衛星写真を繋ぎ合わせているが,その繋ぎ目の処理や速度の調節が巧みなのだろう。上空から図書館や街の様子を鳥瞰するアングルも多用されているが,その場合も,セットの実写とCGの混ぜ方が上手いと感じた。一部は模型かも知れない。
相当大掛かりなオープンセットが組まれている(写真1)。図書館の内外装は,さすが欧州文化の伝統を感じる装飾だ。例えば,写真2の父娘が歩く背景セットは実写だが,返しの視点で,坂の下に臨むアレクサンドリアの町はCGだ。原題の『Agora』は「広場」を意味しているが,広場を中心とした街の様子にも気品がある(写真3)。美術班の仕事はさぞかし楽しかったことだろう。この広場で信徒が燃え盛る火の上を歩くシーンがあるが,この炎は勿論CG製だろう。世界七不思議の1つであるファロス島の大灯台やその周りの光景もCGの活躍の場だ(写真4)。
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写真1 大掛かりなセットだが,遠景はCGか? |
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写真2 壮大な図書館のセット。返しのカットはCGの町。 |
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写真3 広場を中心とした街の装飾も見どころ十分 |
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写真4 左奥に見えるのが,ファロス島の大灯台 (C) 2009 MOD Producciones, S. L. ALL Rights Reserved.
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数学者にして天文学者であるヒュパティアは,実在の人物であっても,不屈の精神と自立心をもった女性科学者としての描かれ方は,現代風の解釈だと思われた。ところが,どうやらかなりの部分は史実であり,類い稀なる学識と美貌を有し,論理的思考の持ち主だったらしい。さすがに惑星の楕円軌道の発見は脚色だろうが,それは除いても,描くに足る女性である。 |
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(画像は,O plus E誌掲載分に追加しています) |
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