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O plus E誌 2005年8月号掲載
 
 
『亡国のイージス』
(日本へラルド映画&松竹配給)
      (C)2005 「亡国のイージス」associates  
 
  オフィシャルサイト[日本語]   2005年6月9日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
  [7月30日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  本物の魅力満載で,本年度日本映画ベスト1の佳作  
 

 今年は福井晴敏の当たり年で, 3月号の『ローレライ』,6月号の『戦国自衛隊1549』に続く映画化作品の3本目だが,この作品が一番面白い。娯楽作品としてはロングラン中の『交渉人 真下正義』も面白かったが,サスペンス・アクションとしての出来映えはこちらの方がスケールも緊迫感も上で,本年度日本映画のベスト1だろう。
 大阪・梅田ピカデリーでの完成披露試写会では,予告なしに監督(阪本順治),原作者(福井晴敏),主演陣の中井貴一の舞台挨拶があった。ジーンズ姿の中井貴一が実にカッコイイ。やっぱり映画スターは生身で見ると一般人とは数段違うなと感じる。映画の中では悪役だが,結構それも似合っていた。監督の「日本映画の底力を見せたかった」という言葉が印象的な会見だった。
 物語は海上自衛隊のイージス艦「いそかぜ」を舞台に展開する。副艦長の宮津2等海佐(寺尾聰)が,某国工作員ヨンファ(中井貴一)と共謀して艦長を殺害し,このイージス艦を乗っ取った。彼らは核弾頭ミサイルを首都・東京向け要求を出す。その事態収拾に当たる防衛庁情報局の渥美・内事本部長(佐藤浩市),「いそかぜ」の艦の構造を誰よりもよく知り,艦に戻って叛乱者たちと戦う仙石・先任伍長(真田広之)の4人が主演陣である。いずれも日本アカデミー賞の主演男優賞受賞者だというのが,この映画のセールスポイントだ。
 なるほど 4人とも好演で,それぞれの持ち味がよく出ている。脇役の岸部一徳の飄々とした味はもっといい。それもこれも,人間描写が巧みなこの監督の腕だろう。
 『顔』 (00)の世評が高いが,こうした娯楽大作を撮らせても腕は一級だ。中盤以降物語をぐいぐい引っ張る力は,ハリウッド級の娯楽作品だ。脚本も悪くない。脚本と監督が良ければ俳優の演技は締まり,いい映画になる。この当然至極なことを改めて証明したのが,今年の福井晴敏3作品の出来不出来の差だ。ただし,若手俳優・勝地涼の大根ぶりには呆れるし,およそ自衛隊員とは思えぬ雰囲気のシーンも目立った。これが日本映画界の底の浅さだ。ロクに役作りにかける時間がないし,監督もそこまで要求できない風潮が蔓延しているのだろう。
 陸上自衛隊が『戦国自衛隊 1549』の撮影に全面協力したように,こちらは海上自衛隊,航空自衛隊がサポートしている。静岡県・相良町に作られた実物の3分の2スケールのオープンセット(写真1)も効果的に使われているが,やはり本物が登場するシーンはぐっと引き締まる(写真2)。緊急発進するF-2戦闘機や救援用のヘリもしかりだ。艦内の司令室(写真3)も,当初はてっきり本物を借用しての撮影かと思ったが,登場場面が多々あるから,これはセットなのだろう。よく出来ている。

 
     
 
写真1 これが静岡県に作られたオープンセット
 
写真2 さすがミニチュアにはない本物の質感だ
 
 
(C)2005 「亡国のイージス」associates
 
 
 
 
 
写真3 艦内の司令室はセットだろうが,上出来だ
(C)2005 「亡国のイージス」associates
 
 

 「今まで張りぼてだったが.今回は本物だ。スタッフの気合いも違う」という監督の弁に実感がこもっていた。
 CG/VFXの登場シーンはそう多くない。ハープーン・ミサイル,爆発シーンとあと少々というところだろうか。爆発シーンはかなりの迫力だが,沈没は実にちゃちだ。また,「うらかぜ」の爆発シーンも見せて欲しかったところだ。そんなところで予算をケチってはいけない。
 そうした小さな欠点はあるものの,この映画はハリウッドと渡り合える作品に仕上がっている。かつて真保裕一原作,織田裕二主演の『ホワイトアウト』 (00)は日本版『ダイハード』というのがウリだったが,となるとこちらは日本版『ザ・ロック』だ。叛乱軍の意図も間一髪の爆破回避もその伝達方法も実によく似ている。最近ビデオレンタル屋では,公開中/近日公開作品の関連ビデオを並べていることが多いが,原作も主演も監督も関係ないのに,上記3本が本映画の関連作品として上がっていた。皆よく分かっているなという感じだ。
 先月号で一級作品には優れた音楽が付いていると指摘し,ジョン・ウィリアムズやハンス・ジマーの実力のほどを称賛した。この映画の音楽も秀逸で,そう引けをとらない。担当は誰かと資料を眺めたら,トレヴァー・ジョーンズ.ハリウッドで約 100本の実績をもつベテランだった。なるほど『クリフ・ハンガー』『13デイズ』『リーグ・オブ・レジェンド』等の経験は伊達じゃない。ミキサーも,サウンド・デザイナも全部外人で,演奏はロンドン・シンフォニー・オーケストラだという。加えて,編集もウィリアム・アンダーソンなる人物で,『トゥルーマン・ショー』(98)などでピーター・ウィアー監督作品を多数手がけてきたベテランだった。ちと悔しいが,「日本映画の枠を超えて」というコピーは当たっていて,一流スタッフが作った映画はものが違っていた。 

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