VR/MR視覚提示による触錯覚現象

人間の温度知覚に関する錯覚現象の研究

触覚に関する研究の1つとして温冷感覚を扱っています.その中でもHot-Cold Confusionと覚現象に関する研究を行っています.Hot-Cold Confusionとは,温冷覚刺激を前腕の複数箇所に提示した場合に,温覚刺激を冷覚,冷覚刺激を温覚として知覚するという現象です.例えば,前腕の手首から肘にかけて3箇所に,数十ミリの間隔を空けて温度を提示したとします.その温度設定の並びを,高温,低温,高温と交互に並べた場合,手首や肘で高い温度を提示しているにもかかわらず冷たいと,中央で低い温度を提示しているにもかかわらず温かいと知覚することが確認されています.この現象のメカニズムを解明するために,提示の並びのパターンや温度差などの様々な条件を変更して分析を行っています.
 これらの知見は将来的にVR環境やテレイグジスタンス技術における触覚フィードバックへの応用が可能であると考えています.

ベクション:視覚刺激誘導型自己運動感覚

MR環境下におけるベクションに関する分析

ベクションに関する研究を行っています.ベクションとは,実際には自分が動いていないにもかかわらず動いているかのように錯覚する運動感覚のことです.様々な研究で,提示された映像に対する没入感やインタラクション,認知的要因がベクション効果に影響を与えることが示唆されています.
 これまでは主にVR環境下におけるベクションの研究を行ってきました.しかし,今後のMRデバイスの発展を踏まえ,現在はMR環境下におけるベクションに関する研究を行っています.具体的には,仮想物体とのインタラクションがベクションに与える影響の分析やMR空間の環境自体がどのようにベクションに影響を与えるかの確認を行っています.現在は触覚提示を行う際の姿勢や触覚の提示位置,視覚刺激との関係性などが本現象に与える影響やその変化などについて研究を発展させています.

ライトタッチに関する研究

“ライトタッチ”と呼ばれる1種の触錯覚現象に着目した実験を実施しています.ライトタッチとは力学的な支えにならない程度の触覚を指先に提示したときに,重心動揺が小さくなるという現象です.
 これまで,開眼および閉眼時における本現象が確認されており,本研究室ではVR環境下における本現象の活用を目的として様々な形で実験を行っています.そして,本現象は視覚刺激と触覚提示を行う位置によってその効果が変化する可能性を明らかにしました.特に,視覚刺激の誘導と反対方向の位置に触覚提示を行うことによって本現象の効果が顕著にみられる可能性を確認することができました.

身体感覚の分析・解明

他者アバタの存在が自己意識に与える影響に関する研究

VR環境下での自己意識に関する研究を行っています.人は自分自身とそれ以外を区別することが可能であり,自分に向けた意識を自己意識といいます.近年,VRは様々な場面でコミュニケーションツールとして活用が進んでおり,自己アバタを操作しながら,他者アバタとVR空間を共有する機会が増加しています.
 現実においては,他者の存在によって自己意識が影響を受けることがわかっています.しかし,これまでVRにおいて他者アバタが自己にどのような影響を与えるのか検討されてきませんでした.そこで現実において他者の存在を知覚する要因が,VRにおいても他者アバタの存在から,自己アバタの自己意識に影響を与えるのかを確かめる研究を行っています.

身体表象に関する研究

身体表象に関する研究を行っています。身体表象とは自分自身の身体がどのようなものかというイメージや知識のことです。身体表象は視覚や体性感覚などの情報を統合することにより形成されており、日常生活での行動を決定する際に使用されています。これまで、特定の身体部位の表示位置を変更した状態において,動かし方や動かす部位による身体表象の変化に与える影響を確認しました。
  現在は一部の身体部位の表示位置を変更することで、全体の身体表象に与える影響が異なるかを確認し、身体表象形成のメカニズム解明に向けて研究を発展させています。

その他の研究プロジェクト

電気刺激による線運動錯視の発生傾向の分析

触覚における線運動錯視の発生傾向を分析するため,電気刺激に着目し研究を行っています.本研究では,電気刺激の提示に電気通信大学の梶本らが提案した触覚提示装置である電気触覚ディスプレイを利用しています(Electro-TactileDisplay). 電気触覚ディスプレイはデバイス上に配置された電極から電流を流し,皮膚下の触覚受容器の神経を活動させることで触覚の提示ができます.この装置には合計61箇所の電極が正六角形に配置してあり(Electrodearrangement),それぞれ独立に電気刺激を提示することが可能です. 現在では,電気触覚ディスプレイによる触覚だけでなく,視覚を加えた際の錯覚現象に対しても研究を行っています.

視覚が触知覚に与える影響に関する研究

触覚に関する研究では,視覚・触覚を併用したMRに関する研究を行っています.MRでは,実物体にCGを重畳描画することで実物体の外観を変更することができます.私たちはこのことを利用し,物体の見た目を変更することで,同じ実物体でも異なる触知覚を得ることが可能ではないかと考えました.そこで,形状の異なるCGを実物体に重畳描画し,重心知覚がどのように変化するかを調査しました.現在は重心知覚だけでなく,重さ知覚などに対しても研究を行っています.

ベクションを利用した応用例

ベクションを利用して,足が不自由な児童生徒向けのゲームを開発し,児童生徒に身体の制約上体験できないような移動や運動を体験させることを目指しています.
 また,電動車椅子の操作練習にベクションを利用する事例を開発しています.一人で安全に練習することができることを目指し,実際の電動車椅子の操作を体験したり,利用者にインタビューをしたりすることにより,必要な機能の検討を行っています.


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