コンピュータイメージフロンティア特別 編(全3回)
千年紀末を越えて(その5)


郊外型テーマパークと
都市型エンターテインメント施設

O plus E, Vol.22, No.8, pp.1067-1078, 2000


1. 大型映像のテーマパークFuturoscope

 誰も知らないポワチエの地
 ようやく映画のSFX/VFXを離れて,同じエンターテインメントでも今月は郊外型と都市型のテーマパークの話である。本シリーズではこれまでにも,ディズニー・ワールド,ユニバーサル・スタジオ(LAとフロリダ),ラスベガスのホテル・アトラクション等を紹介してきた。まずは,そのいずれとも性格を異にする,フランスにある大型映像テーマパークFuturoscope(フチュロスコープ)の話から始めよう。
 日本人でその名を知っている人は極めて少ない。旅行ガイドにもまず載っていない。パリからは南西方向,ワインで有名なボルドーに向かう途中のポワチエ市にある。西暦8世紀,イスラム教徒に勝利したトゥール・ポワチエの戦いのあった地というが,それもよく知らない。むしろ,日本製ビデオデッキやファクシミリに関税をかけるべく,ここに輸入税関を設けて全数チェックした経済戦争の方で名を知られている。
 筆者が最初にその名を知ったのは,IMAX社のホームページ1)からだった。各国にどれだけIMAXシアターがあるのか調べていると,1つの施設で5種類ものIMAXをもっているところがある。5スクリーンではなく,5種類である。ありとあらゆるIMAXのバリエーションだ。このフチュロスコープというのは一体何だと調べたら,とてつもない大型映像のテーマパークで,IMAXだけで7基もあることがわかった2)。これは是非とも体験しに行かなくてはと機会を探していた。
 それから2年余,米国出張ばかり続いた後,ようやくその好機がやってきた。先のモナコでのImagina 2000の講演・展示の後,ここに駆けつけたのである。むしろ,フチュロスコープに行くチャンスがあるからこそ,モナコ行きを決めたといってもいいくらいだ。
 ニースから一旦パリに出て一泊した後,TGVでポワチエに向かった。パリ・モンパルナス駅からはわずか1時間半余の距離である。初めてのTGVには多少わくわくしたが,道中は格別どうということもなかった。車窓からの眺めも特筆することはない。
 ポワチエ駅前は全くの田舎町だった。高級リゾートのモナコやパリの雑踏とは随分趣きが違う。北海道帯広市出身のO主任は,何やら故郷の香りがするという。モナコでの展示に心身ともに疲れきっていた彼は,牧歌的雰囲気の中で,すっかり生気を取り戻したようだ。そういう土地にあるテーマパークなのである。 

 斬新なデザインのパビリオン
 駅からタクシーで15分の郊外に,目当てのテーマパークが現れた。隣接する地区に11軒の宿泊施設が建てられている。1日では回り切れないので,入場料と宿泊費をセットしたパック料金が設定されている。新幹線並みに「繁忙期」「中間期」「閑散期」で料金が違うが,2月第1週末は丁度閑散期から中間期に入ったばかりだった。
 パーク入場料は,大人1日175FF,2日で330 FFだから,東京ディズニーランドの半額以下である。12食付きパック料金はホテルのグレードで異なる。どうせならと最高級4つ星のパークプラザ・ホテルを選んだら,税・サービス・手数料全部込みで1,380FF(約23,000円)だった。ホテルの夕食はワイン付きで,料理も期待を裏切らなかった。勿論,ホテルのランクを下げ,1部屋2人以上泊まると半額程度になる。
 隣接のホテル群は,セミナーや研修施設も兼ねている。そもそも,こんな田舎に作ったのは,地域振興と科学技術教育を目的としていたからという。計画立案は1980年代の前半で,オープンは1987年だ。丁度その間に1985年のつくば科学万博があった。この大型映像展示は,かなりその影響を受けているように思える。
 当時はミッテラン政権だった。筆者がまだ筑波の国立研究所に在籍していた頃,ミッテラン首相の来訪があり,これに随伴してきた科学技術特命大臣(名前は忘れた)と話をした覚えがある。猛烈な勢いで情報化政策を推進していた。そうか,あの勢いでこのフチュロスコープを作ったのだ。
 土曜日の午後に入場した時,駐車場はガラガラで数十台しか埋まっていなかった。広大な駐車スペースを用意しているところを見ると,ピーク・シーズンにはこれが埋まるのだろう。キャンプを兼ねて来る家族連れも多いそうだ。2月上旬のこんな時期は誰もいないかと思ったら,翌日の日曜にはそこそこの人出が見られた。ただし,他の日本人と出会うことはなかった。  ディズニーランド風のテーマパークよりは,常設の万博会場といった雰囲気である。ユニークな形のパビリオンがいくつも見られる。いかにも建築家が楽しんで作ったと思われる斬新なデザインだ(写真1)。どれもセンスは悪くない。


写真1ユニークな外観のパビリオン


 東京ディズニーランド(TDL)と同じくらいの広さかと思ったが,帰ってから調べてみるとTDL80haで,フチュロスコープは53haだから少し狭い。もうすぐできるユニバーサルスタジオ・ジャパンの54ha,東京ディズニーシーの48haといい勝負だ。フチュロスコープの入場者数は1998年度が270万人だから,表1に示す世界のベスト10とはだいぶ開きがある。日本だと,長島スパーランドの320万人と豊島園の252万人の間にランクされている。フランス人はディズニーランド嫌いと聞いたが,表1で見る限り,パリ郊外のディズニーランド・パリは結構混雑しているようだ。ドイツやイギリスからも来るからだろう。

 まるでIMAX社のショールーム
 園内案内図(図1)にも,The European Park of the Moving Imageとあるように,21(現在は22)あるアトラクションの大半は大型映像のパビリオンだった。本シリーズでは何度も紹介したが,IMAX映像についてもう一度おさらいしておこう。
 カナダ・トロント市郊外にあるIMAX社の独自技術であるIMAX映写システムは,70mmフィルムを横送りして使い,高さ20~30mの大型平面スクリーンに高精細映像を映写する。これがIMAXシアターである。同じフィルムに魚眼レンズを使って撮影した像を半球型のドーム状スクリーンに映写する方式は,オムニマックス(OMNIMAX)シアターと呼ばれ,各地の遊園地や科学博物館等に設置されている。IMAX社は「IMAX Dome」と改称したが,今でも「オムニマックス」の方が親しまれている。
 筑波の科学万博で数多くの企業パビリオンがIMAXシアターを採用して以来,IMAX方式は急速にシェアを伸ばし,大型映像で圧倒的な地位を確立して今日に至っている。立体映像表示については,初期は偏光メガネ方式がほとんどであったが,1990年の大坂・花博での富士通パビリオンで液晶シャッタメガネを採用して以来,新設のIMAX 3Dシアターのほとんどはこの方式である。
 IMAXとオムニマックスで,2D3Dの表示装置がある訳だが,ここフチュロスコープにはそのすべての組み合わせがあった。特に,オムニマックス3Dは,正式には「IMAX Solido」と呼ばれていて,上述の富士通パビリオンが千葉県幕張の富士通ドームシアターとして常設されている以外は,世界中でもここにあるだけである。その上,「IMAX+モーションライド」,前面と床下にスクリーンを配したダブルIMAX,上映後IMAXスクリーンが上方に持ち上がるKinemaxがある。さらに「IMAX 3D+モーションライド」も建設中であるというから,これではまるでIMAX社のショールームだ。
 IMAX以外にも,360°全周スクリーンやマルチディスプレイ型などのシアターもある。48フレーム/秒の高精細映像や,70mm,60フレーム/秒のショースキャン方式もあり,まさにここは大型映像の博物館だ。他のテーマパークに多いクルーズ形式はなく,ライブショーも「Imagic」の1つだけだった。「Cyver Avenue」と称するゲームセンター風の施設や,子供向きの水上自転車と遊戯施設もあったが影は薄い。夏の夜には中央の池の周りでレーザー・ショーがあるらしいが,この時期はやってなかった。1987年の開園以来,徐々にパビリオンを増やして1990年前半にはほぼ現在の形になったようだ。
 固定のアトラクションと比べて,大型映像シアターはコンテンツだけリニューアルできる魅力がある。しかし,IMAX映画の作品数が限られているように,そうそう魅力的な大型映像コンテンツは作れない。オープニング以来同じコンテンツを使っていて飽きられるのではと心配したが,まさに長年続いたコンテンツの入れ替え時期に差しかかってきたようだ。
  いくつか目ぼしいパビリオンとアトラクション内容を記しておこう。

図1 Futuroscopeの案内マップ


 (1) SolidoOmnimax
 何しろ世界中に2基しかないオムニマックス3D (IMAX Solido)だが,これに適したコンテンツはほとんどない。筑波博での『ザ・ユニバース』はアナグリフ方式だったので,フルカラー版は前述の花博での『太陽の響』1作しか作られていない。10年近くずっとこれを上映し続けていた。日本でこの作品を見ていない同伴者2人は,ここフチュロスコープで見られると思ったのだが,この期待(?)は裏切られた。ほんの数ヶ月前に入れ替わったようだ。
 「Solido」での上映作品は,劇場公開のIMAX 3D映画『T-REX』3)で,無理やりオムニマックス形式に焼き直してあった。プロジェクタに近い中央の最良の位置で見たが,正面はともかく,予想通り周辺部の歪みが著しかった。周辺視がカバーされ没入感があるのが特長のはずなのに,これでは台無しだ。垂直であるべき柱が大きく腕曲して見える。CGの恐竜の出来は悪くなく,上質の作品なのだが,こんなに歪んだオムニマックス・ドームで見たのでは魅力は半減以下である。
 もうオムニマックス3D用作品は作られないのだろうか? 劇場数の少なさと作品の少なさが悪循環となっている。本家本元の富士通ドームシアターでも,常時上映はなくなり,団体客があるときのみの上映になってしまったようだ。これ以上の没入感はないだけに残念だ。
 2Dのオムニマックス専用作品も新作がなく,IMAX 2D映画を変形させている例は少なくない。ここフチュロスコープの「Omnimax」も,劇場公開版の『エベレスト』4)を上映していた。歪みの程度は同じであるが,立体視しない分だけ2Dの方が気にはならなかった。IMAX作品で劇場数は限られているのに一般映画並みにヒットした作品だけあって,内容は素晴らしかった。よくぞIMAXカメラを世界最高峰の頂上まで担いで登ったものだ。
 このオムニマックス・シアターは,今まで体験したものの中でも最大の大きさだった。上映終了後,スクリーン裏を通って帰れるのが面白い。ドームの鉄骨がどう組まれているのかがよく分かる。科学教育のテーマパークらしい配慮だ。

  (2) KinemaxTapis Magique
 「Kinemax」はフチュロスコープのオリジナルである。上映後,大スクリーンが上方に移動し,水底をイメージしたその下をくぐって帰るという大仕掛けだ。これもオープン以来のコンテンツをずっと使っていたのだが,入れ替わったばかりだった。ここも普通のIMAX映画『グランド・キャニオン』5)で,スクリーンの移動はなかった。内容は悪くないのだが,肝心の大仕掛けを体験できずに残念だ。もう少し早く来るのだった。折角の器を作っても,それに見合う映像コンテンツがないのは淋しい。
 もう1つの呼び物「Tapis Magique」(Magic Carpet)は健在だった。前方だけでなく,床下にもIMAXスクリーンが配されていて,両スクリーンが連続しているように見える。強化ガラスとフレーム越しに見る足下の映像(写真2)は,まさに空を飛んでいる感覚を与えてくれ,座席が動いているような錯覚を受ける。


写真2 客席の足下からもう1つのスクリーンが見える


 映像作品は,花博の三和グループ「みどり館」のために製作された「Flowers in the Sky」。蝶が空を舞い,北米大陸の山岳部からメキシコに至る長い旅を描いた美しい作品である。花博での設備をそのままここに移設したのだろうか? ずっとこの作品を使っているようだが,これはそう簡単に入れ替えることはできないだろう。

 (3) IMAX 3DCinema en Relief
 「IMAX 3D」でも劇場公開作品の『愛と勇気の翼』6)をやっていた。筆者のようにIMAX作品を何本も見ている者には,何もここでまた見なくてもと思うが,あまり見る機会のない人にはまとめてIMAX代表作品を見られるのも悪くない。東京アイマックス・シアターは1,300円/本だが,ここフチュロスコープはその倍の値段で何本も楽しめるのだから。
 「Cinema en Relief」は偏光メガネをかける方式の3Dシアターで,エイリアンが主役のSFコメディ『エイリアン・アドベンチャー』7)が上映されていた。CGで描くジェットコースター・ライド4本からなるオムニバス作品である。椅子が揺れるモーション・ライドではないが,4本もやられると気分は悪くなる。作品中のエイリアンもゲーゲーやっていた。当のフチュロスコープが舞台になっているので,てっきりここのオリジナル作品かと思ったが,今年の7月からと東京アイマックス・シアターでも公開されているIMAX 3D作品だった。ただし,この「Cinema en Relief」はIMAXスクリーンではない。
 どのアトラクションもフランス語だが,無料で英語,独語等のレシーバーを貸してくれる。勿論,英語で聞いたのだが,フランス語圏にいると自分の英語ヒアリング力が向上した気になるから不思議なものだ。音声を気にして意味を理解しようとすると,しばらく3Dであることを忘れてしまう。逆に,3Dの飛び出し感を味わっていると,どうも音が耳に入ってこない。立体視覚は右脳で聴覚は左脳で処理していると思っていたが,それほど独立事象でなく,なかなか並行処理できないようだ。
 余談だが,通訳レシーバーを借りるのに,窓口のお姉さんが全く英語ができないのには参った。フランス語が分からないから借りに来るのに,これは困ったものだ。

 (4) Pavillon de la Vienne
 このパビリオンも見もので,期待以上に面白く,少し待ち行列ができているアトラクションだった。前半,後半の2シアター方式になっていて,前半は34×25で計850個ものCRTが並んだシアターである(写真3)。上映作品は,フチュロスコープの歴史を描いたドキュメンタリーだが,作り方も演出も見事だった。850個のモニターを自在に点滅させたり,部分的に別の映像を出せるので,楽しい演出ができる。映写方式よりもCRTが随分明るいことを再確認した。


写真3 CRTアレイが850個並ぶマルチ画面は圧巻


 後半はIMAXスクリーン+シミュレーション・ライド。空の浮遊,サーキットでのカーレース,市街地での高速走行を楽しませてくれる。これは,これまでで最も楽いライド・シミュレーションだ。揺れがややマイルドな設定のためもあるが,実写のライド・シミュレーションの方がCGよりも酔わない。有り得ない無理な視点移動をしないためだろう。カーレースだと,ジェットコースター的な上下の揺れがないのもいいのかも知れない。
 その一方で,3D映像はフルCGの方が,実写の3Dよりも疲れないことを再確認した。これだけの種類の映像体験は,まるで視覚疲労,体性感覚の人体実験場である。

 (5) Gyrotour
 リング状の展望室がゆっくり回転しながら45mの高さまで上昇するパノラマ眺望ツアーである。フチュロスコープ園内と隣接地の一望は素晴らしい(写真4)。観覧車や高層ビルの展望台にはない眺めが体験できる。大型映像で空を飛ぶ気分も悪くないが,外へ出て本物の眺望を体験する方がずっと楽しいし,息抜きにもなる。
 その他では,「Pavillon du Futuroscope」のホログラム展示も圧巻だった。200点以上はあっただろうか。両眼立体視方式の映像の後でホログラムを見ると,目に優しく疲れないことが改めて実感できる。

写真4 Gyrotourからの眺め

 地元フランス製はイマイチ
 持ち時間は土曜日の午後1時過ぎから6時までと,翌朝9時から午後2時過ぎまでだった。予め各アトラクションを回る時間割を決め,急ぎ足で移動し,ほとんどのパビリオンも待つことなく入場したが,それでも全部回りきれなかった。ハイシーズンに向けて休館中のパビリオンも5つあったから,丸2日間は充分楽しめる内容である。
 筆者のような(自称)映像評論家,テーママーク探検家が楽しんだことは言うまでもないが,本シリーズの読者なら,一度は行ってみる価値はある。パリからそう遠くないのだから,旅行代理店がもっと宣伝すれば,日本人ももう少し来るだろう。ここには,ディズニーランド風の華やかさ,洗練された感じはないが,健康なファミリーを演出し過ぎる臭みもない。もっと科学教育的かと思ったが,そうでもなかった。コンテンツの多くが一般のIMAX映画になってしまった影響もあるのだろう。
 フチュロスコープには,IMAX社が建物からコンテンツまで企画したものと,地元フランスの企画会社が製作したものとの両方がある。実は,この後パリへ戻り,その企画会社のプロデューサと話したのだが,彼らが企画したと聞いたものが断然お粗末だった。上記で紹介しなかったアトラクションばかりである。
 建物のユニークさ,設備の立派さを考えると,ますますコンテンツの充実度,ストーリーの面白さが気になってくる。日本の筑波博,花博の影響・恩恵を受けていることは明らかだが,これだけの設備を活かす映像コンテンツはもう出てこないのだろうか?       (」Dr. SPIDER

 2. 都市型娯楽施設MetreonとMediage

 
3代目襲名披露
 3代目役三橋えりなです。昨年6月に2代目の若月裕子先輩が引退された後,10月に入団したのですが,9ヶ月間の2軍での練習生活の後,ようやく1軍登録されました。今回がデビューですので,よろしくお願いします。
 では,その間にSFX映画時評にしばしば登場していたは幽霊かというと…,そうではありません。長い間秘書をしてこられた河野茂子先輩なのです。映画に関しては断然造詣が深く,2.5代目としてこれからもSFX映画評にだけ登場されます。私は,テーマパークや展示会の取材準備や同行など,その他の役回りでお目にかかることになるでしょう。
 という訳で,役は入れ替わり立ち替わりで,まるでタイガースの遠山と葛西ですね。私も登録抹消で2軍に逆戻りしないように頑張りたいと思います。

 ウォーター・フロントの都市型エンターテインメント  
 本誌での初仕事は,郊外型テーマパークに対する都市型エンターテインメント施設のルポです。2000421日,まさにこの目的にぴったりの施設「メディアージュ」が東京のお台場にオープンしました。
 首都圏以外の読者のために少し解説しますと,青島幸男前東京都知事の反対で中止になった都市博の開催予定地だった,臨海副都心にあります。その中で,北側の海,都心に向かい合った地区が「台場」,南側の外海に面した地区が「青海」「有明」です。大きな展示会が開かれる東京ビッグサイトや,伊達公子がシュティフィ・グラフに勝ったあの有明コロシアムもここにあるのです。
 都市博中止の後,開発のスピードは鈍りましたが,ようやく次々と豪華なホテルや都会的なショッピングモール等ができ上がり,とてもお洒落な街になりつつあります。私たちに会社の近くの横浜みなとみらい地区にも,クイーンズ・スクエア,ワールド・ポーターズ等ができ,週末のデートコースとしても張り合っています。
 臨海副都心へのメインのアクセスは,新橋駅から無人運転の新交通システム「ゆりかもめ」でレインボー・ブリッジを渡って来るルートです。関西地区の方には,神戸のポートアイランドとポートライナーの関係といえば分かりやすいでしょう。臨海副都心は,ポートアイランドよりも一回りも二回りも大きいのですが,最も賑わうお台場地区は,神戸でいえば,むしろ陸側にあるハーバーランドに近い雰囲気でしょうか。「メディアージュ」は,そういう場所にできた大型娯楽施設なのです。
 オーナーは,その名もぴったりの(株)ソニー・アーバンエンタテインメントです。ソニーさんは「エンタテインメント」という言葉がお好きなようで,かつての「CBSソニー」は「Sony Music Entertainment」,買収した「コロンビア映画」は「Sony Pictures Entertainment」,話題のプレステ2を作っているのは「Sony Computer Entertainment」という訳ですね。エンターテインメント分野を総合的に色々な方向からアプローチしようという意気込みが感じられます。
 さて,「メディアージュ」は日本では新登場ですが,原形は海外にあり,私たちはもうそれを体験済なのです。では,時間を昨年の10月まで戻してみましょう。

 元祖はサンフランシスコのMetreon
 199810月号の「2度目のSIGGRAPH」の中で,パネル「Location-Based Entertainment: The Next Generation」の記事は覚えておられるでしょうか? この 中で「ディズニー・クウェスト」に対比して計画が語られているのが,ソニーがサン フランシスコに建設中の「Metreon」でした。996月にオープンしたこの Metreon8)に,10月に入団したばかりの私も連れていってもらったのです。
 本来の出張目的は,サンフランシスコでのIWAR'999)参加のあと,東海岸に向かい MITメディアラボとコロンビア大学の訪問にあったのですが,西海岸到着の午後,早 速Metreonを覗きに街に出かけました。アメリカ大陸が初めての私は,少し興奮気味 でした。高級ブランド店が並ぶショッピング街ユニオン・スクエアの少し南に Metreonの4階建てのビルがありました。モスコーン・コンベンション・センターの北 のブロック,ヤーバブエナ・ガーデンの西端に位置しています。マーケット・ストリ ートより南のこの地区は,かつて治安が悪かったそうですが,いまではすっかり賑わ っています。
 セガのジョイポリスをもっと都会的にしたものを想像していたのですが, Metreonの中心は,15のスクリーン,合計約3,900席からなる複合型映画施設(シネコ ン)でした。24m×30mのスクリーンを持つIMAXシアターもその1つです。アメリカ流 シネコンの常か,ポップコーンの臭いがたちこめていました。壁に貼ってある映画の 宣伝ポスターの中には,ポケモン・ムービーもありました。小さな金髪の女の子がピ カチュウを指さして,「ママー,ポッキモン!」と喜んでいました。アメリカでも知 られていることと感心しましたが,その映画が公開されるや大ヒットしたのは,約 1ヶ月後のことでした。
 ソjーのAV製品やVAIOを販売している「Sony Style」,マイクロソフト関連の商品 を販売している「microsoft SF」,ここMetreonのオリジナルグッズ(Tシャツ,バッ グなど)を売っているショップなどもありました。いずれもお洒落なディスプレイで センスの良さが感じられます。
 大型娯楽施設というのにお目当てのアトラクションは,たった3つしかありません でした。簡単に振り返ってみましょう。

 (1) Where The Wild Things Are
 モーリス・センダックの絵本『かいじゅうたちのいるところ』を実現したアドベン チャーランドというので期待していたのですが,これはどう見ても小さな子供が遊ぶ プレイランドです。森の中でトンネルをくぐったり,ロープにつかまったり,丸太橋 を渡ったりと,公園に有るアスレチックを童話風に飾っただけのように見えます。家 族連れどころか,子供すら見かけない平日の午後に,いい歳をした大人2人で入る気 になれずに,これはパスしました。
 (2) The Way Things Work (In Mammoth 3D)  建築家でイラストレータのデビット・マッコーレイの書いた「The Way Things Work」は,物が動く仕組みを分かりやすく説明したイラスト本です。この本をもと に,梃子や歯車など科学博物館風の展示と,200インチ級のスクリーン3面を使った映 像シアターがありました。中央のスクリーンのみが3D映像という珍しいシアターです が,マンモスが主役のアニメーションは,立体感も悪くなく,よく出来た作品でし た。
 このアトラクションもガラガラで,私たちの他にはもう1組老夫婦だけの計4人の観 客でした。最後のシアター前には広い待ちスペースがあったところを見ると,週末に はそこそこ混むのかもしれません。
 (3)Airtight Garage
 ここは,中世のお城を思わせる薄暗いゲームセンターで,フランス・イラスト界の カリスマ,ジャン・ジロー・メビウスのデザインとのことです。ゲームマシン約 40台,Badlandsと称する2人乗りの体感ゲーム30台,そしてHyper Bowlと称するバー チャルボウリングが9基置いてありました。実物のボウルを操作すると,それに伴っ てボウルが都市を駆け巡り,ピンを倒すというゲームです。省スペースでボウリング 気分を味わえ,アメリカ人はキャーキャー騒いでこれを楽しんでいました。

 という風に,駆け足で一回りしたのですが,何か物足りなくワクワクするものがあ りません。妙に教育的で楽しさの演出が足りないと感じます。Dr. SPIDERもがっかり しています。ディズニー・クウェストと張りあうだけの多彩なアトラクションを期待 していたのに,見事に外れでした。それぞれ有名な作家やデザイナーを起用したから には,相当経費もかかっていることでしょう。残念ながら,その企画が充分活かされ ていない感じです。
 Metreonは年間500万人の入場者を見込んでいるとのことですが,閑散としていてと てもそうは見えません。平日とはいえ,ユニオン・スクエア近辺のCDショップや GAPのお店は随分混雑していたので,都市型娯楽施設というからには,もう少し頑張 って欲しいところです。
 そんな退屈なMetreonでしたが,ガラス張りの外壁の外のヤーバブエナ・ガーデン はとてもキレイでした(写真5)。園内にはスターバックス・コーヒーのお店があ り,そろそろ空腹を感じた私たちは,本場のカフェ・モカとマフィンで一息つきまし た。このテラス席から見上げたビル群の眺めは最高でした(写真6)。本物の風景と 思えないほど鮮やかで,まるでCGで描いたか,模型の建物のようです。日本人用の観 光ガイドではほとんど紹介されないスポットですが,市内を歩き疲れた時の一休みに オススメです。

   
写真5 窓の外には憩いの庭
写真6 ヤーバブエナ・ガーデンから見た高層ビル群

 仏作って魂入れず
 話をお台場のメディアージュ10)に戻しましょう。Metreonmetropolis pavilionやギリシャ神殿Pantheonなどの合成語であるのに対して,Mediagemediaimagemessageからの造語だそうです。スペルからすると,1つ余分な気もします ね。
 お台場のウォーター・フロント地区でも,東京ジョイポリスのあるデックス東京ビ ーチとホテル日航東京に挟まれた一画で,フジテレビの海側,レインボー・ブリッジ や都心が見える最高の場所にあります。「アクアシティお台場」というショッピング ・ビルができたというので,てっきりその中にあるのかと思ったら,少し違っていま した。
 同じビルの東側の約27,000m2がソニーの「メディアージュ」で,中央と西側 のレストランやショッピング・ゾーンが「アクアシティ」だそうです。さらにメディ アージュの中で,13スクリーン,3,034席のシネコン部分は,「シネマメディアージ ュ」11)と呼ばれ,ここは東宝が運営を担当しているとのことです。どうも経営と運 営の権利関係が入り組んでいてよく分かりません。結局は,大型のゲーセンとホテル の間に,映画が見られて食事もショッピングもできるビルができたということです (写真7)。


写真7 お台場にオープンのMediage


 メディアージュの構成はMetreonとほぼ同じでした。この間にベルリンにできたソ ニー・センターのMusic Boxという施設とも共通点があります。アトラクションは, 「ワイルドシングス」と「エアタイトガレージ」の2つが同じで,ベルリンにある 「イエローサブマリン」が加わっていました。これは,ビートルズの音楽アニメーシ ョンをテーマにしたシミュレーション・ライドなのですが,あいにくこの日は壊れて いて体験できませんでした。がっかりです。
 中身まで同じかチェックしようと「エアタイトガレージ」に入ろうとしましたが, Metreonと違って,ここは入場料が必要でした。メディアージュのアトラクション施 設への入場料が800円,何か1つでも体験するのにトリップビザ500円がかかり,その 上アトラクション毎に料金がかかるのです。何という高額,ちょっと驚きです。
 「エアタイトガレージ」は,無料のゲーム機(といってもここまでで1,300円払っ ているのですが)40台ありました。これとは別に,セガやナムコのアーケードゲーム 機30台は有料で,1ゲーム300円取られます。「Hyper Bowl」は「サイバーボウル」と 名を変えていましたが,「バッドランズ」も全体の雰囲気もMetreonと同じでした。
 Metreonで体験しなかった「バッドランズ」をトライしました。これは,2人用のバト ルポッドに乗り込み敵を倒す,宇宙を舞台としたライドシミュレーション・ゲームで す。ポッド内の画面も小さいし,CGもイマイチでした。1回500円,ポッドは35台もあ りましたが,ほとんどお客はいませんでした。これも見事に期待外れでした。いや予 想通りだったというべきでしょうか。
 シネコンの「シネマメディアージュ」は,映画料金だけで入れました。ここは最新 の設備をウリにしています。ホームページには「フィルムをいっさい使用しない,最 新デジタルプロジェクターを常設で装備しています。近い将来,衛星による映画の直 接配信やワールドカップなどの生中継が映画館で実現されるという考えのもと,ソニ ーが考える最新のエレクトロニックシネマ(E-Cinema)システムを導入します。これに より,35mmの通常映画を上映できるだけでなく,ハイディフィニションビデオ(High Definition Video)映像も映写できるコンパチブル方式となります」と載っていま した。
 ではそのデジタル上映を体験しようと思って,どれがそうかと尋ねたら,1つもあ りませんでした。設備は整っていても,まだ映画の方がそれに追いついていないよう です。ここでも都市型娯楽施設に相応しいシネコンとしての意欲は感じられますが, まだ内容が伴っていないという結果に終わりました。

 個人情報が管理されている?
 Dr. SPIDER  フチュロスコープは見応えありましたが,こちらは全くの期待外れ でした。こんなことでO plus E誌の紙数を使うのももったいないけど,現状をそのまま伝えるのも本シリーズの役目ですから,やむなく評価しておきましょうか。
 えりな アトラクションはもう少しレベルが高いと思ったのですが,意外でし た。これなら,まだお隣りの東京ジョイポリスの方が充実しています。
  勝手に期待したほうが悪いのかな?
  でもSIGGRAPHの舞台上で紹介されたなら,もっと最新のCG技術を使ったアトラ クションを期待しますよね。設備やデザインにはお金がかかっているのに,もったい ない気がします。
  デザイン重視の割には,エンターテインメントとしての完成度がイマイチなん ですよ。これじゃ,リピータは少ないでしょう。
  もういいですね。Metreonでも感心しなかったのに,アメリカで設計したもの をそのまま持ってきていて,ますます日本人の好みに合っていないと感じました。
  そもそも,ゲームをしに入場するのに,いちいち個人情報を記入して登録させ られるのが気に入りませんね。
  ファンカードを発行してもらうのに,住所・氏名・電話・FAX番号か ら,生年月日,eメールアドレスまで書かされました。
  私は,名前以外書きませんでしたよ。中で顔写真まで取られるし,ゲーム機に はこのカードを入れなきゃ動かない。これじゃ,誰がいつ何のゲームをしたかまで,全部電子的に記録できてしまいます。
  あー,そうですね。気がつきませんでした。
  スコアまで記録されているかも知れません(笑)。ここでゲームをすると,新 しいビデオゲームの案内が電子メールで来るんじゃないかな。経営側にとっては顧客 管理に好都合でしょうが,それを望まないお客にはいい迷惑です。

 まだまだコンセプトが不明確
  こういう施設は立体条件が最大のポイント,お洒落感覚がその次で,アトラク ションの質はあまり影響しないのでしょう。
  映画やショッピングのついでであって,eーマパークそのものが目当てではあ りませんね。女性にとってはファッション性も大きなファクターです。
  ここにも近くにスターバックス・コーヒーがありましたね。いまや都会の象徴 ですか。
  そうですね。前橋にいる私の姉は,久々に東京に出てきた時,まずスターバッ クスに連れて行ってくれと言いました。群馬県には1軒もないんです(笑)。
  そ フ立地条件やムード作りには成功しているけれど,それならシネコンとショッピング で十分で,メディアージュのアトラクションは要らないということになります。
  相乗効果を狙ったのでしょうが,その役割は果たしてませんね。
  いくら都会でテナント代が高いといっても,この入場料は高すぎます。あの 2人乗りポッドだって,結構製作費がかかっているのは分かるけど,ちっとも面白くな い(笑)。こんなことやってちゃ,自分で自分の首をしめるだけですね。同じものを 地方都市に持って行っても,さらに受け入れられないし,客は来ないでしょう。
  質もそうですが,アトラクションの選択肢も少なすぎます。
  あなたは,ディズニーランドは何回くらい行きましたか?
  10回以上行ってます(笑)。
  なぜそんなに何度も行きたくなるんですかね? 結構高いのに。
  やっぱり,全体の雰囲気ですね。何度でも体験したいものも多いし,常に新し くしています。
  スケールメリットというか,ディズニーランド・クラスのテーマパークと中規 模の施設との差があり過ぎますね。かなりの入場料収入がないとコンテンツのクオリ ティは上げられないし,面白くないとリピータは来ない。悪循環です。
  お台場に行くにも半日か1日がかりですから,アトラクションをウリにするな らそれだけの魅力が欲しいです。
  大テーマパークは質感が圧倒的だし,家庭用ゲームもコストパフォーマンスは 実にいい。その中間は,スケール的にもクオリティ的にも見劣りがします。
  最近ゲーセンは不振です。
  家庭用ゲームが進歩したからでしょう。私は,アーバンエンターテインメント というコンセプトには期待してるんですが…。
  まだ中途半端な感じですね。
  その点,エンターテインメントしてのハリウッド映画の地位は確立しているの で,不満足感が少ない。経営側も評判の映画だけかけてれば当たり外れは少ないし, 集客力はあるから,当分はシネコン中心の運営になるのも無理はありません。
  いまシネコンの建設ラッシュで,お客の取り合いをしています。北海道や池袋 にも大型シネコンができるみたいですね。設備でも張りあっています。シネマメディ アージュで私たちの見た『エリン・ブロコビッチ』はシネマ2でしたが,シネマ1には カップル向きのスーパープレミアシートがあるそうです。
  何ですかそれは?
  ソファ感覚のペアシートだそうです。7月8日に東京ディズニーランドの近くに オープンした舞浜の「AMCイクスピアリ16」は,16のスクリーンをもつシネコンで, こちらは座席のひじ掛けが上がって席がくっつくそうです。
  私と行っても仕方ないから,それは彼氏と行きなさい(笑)。私は,せっせと 試写室で映画を見ることにします。

 
 用語解説とURL

1) http://www.imax.com/index.shtml
2) http://www.futuroscope.com/english/default.htm
3) 『T-REX』:1998年作品。16歳の少女アリーが,博物館に父を訪ねた際,6500万年前にタイムスリップして恐竜たちの生態を見るという物語。CG恐竜の出来栄えは『ジュラシック・パーク』よりも数段迫力がある。
4) 『エベレスト』:1998公開のドキュメンタリー作品。ヒラリー卿とエベレスト初登頂に成功したシェルパ,テンジンの息子が語り手となっている。ナレーターは『スター・ウォーズ エピソード1』でクワイ=ゴン・ジン役を演じたリーアム・ニーソン。
5) 『グランド・キャニオン』:1984年作品。秘境グランド・キャニオンの歴史を描く。峡谷や濁流の撮影はIMAXの迫力を十二分に出している。
6) 『愛と勇気の翼』:1995年公開の3D劇映画。郵便飛行中にアンデス山脈に不時着し,徒歩で奇跡的に生還したパイロットの実話物語。日本公開は1997年。
7) 『エイリアン・アドベンチャー』:1999年WAVEピクチャーズ製作。『エンカウンター3D』(1999年12月号参照)のベン・スタッセン監督と同スタッフの作品。
8) http://www.metreon.com/
9) IWAR'992nd Int. Workshop on Augmented Reality(第2回拡張現実感ワークショップ)。参加者が増えたためシンポジウムに昇格し,第3回は今年の10月5, 6日にISAR 2000としてミュンヘンで開催される。
10) http://www.mediage.co.jp/opening.html
11) http://www.cinema-mediage.com/