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O plus E誌 2014年1月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『愛しのフリーダ』:素晴らしいドキュメンタリーで,まさにファン必見だ。ビートルズの(厳密には,マネージャーのB・エプスタインの)秘書だった女性が,50年間の沈黙を破って新事実を明かす。というだけで話題沸騰だが,伝説のキャヴァーン・クラブ時代や米国公演からの凱旋時のエピソードは,至近距離で同時代を過ごした人物にしか語れない貴重な記録だ。デビュー前から解散まで4人と素顔で接した彼女は,愛らしい清楚な女性で,メンバーにもその家族にも愛されていたことが分かる。何という賢く,自制心のある女性だろう。回顧録やグッズを切り売りすればいくらでも稼げたのに,そうしなかった彼女の誇りと矜持に感嘆する。そして今,禁を解いて語ろうとする理由が,これまた素晴らしい。この映画で聴けるビートルズの歌は初期の4曲のみで,他に彼らのカバーした歌の原曲が10数曲流れる。彼女が最も充実していた時代を象徴している。
 『少女は自転車にのって』:うるさ型の批評家たちが推す単館系の映画,ましてや岩波ホールを皮切りに全国順次公開となると,一癖も二癖もある難解な作品と思いがちだが,この映画は全く違う。各紙誌で絶賛されている通り,シンプルで素晴らしい感動作だった。Rotten TomatoesでTomatometer 99%という数字にも納得できる。ちょっと珍しいサウジアラビア映画で,全編同国内で撮影し,すべての役を同国の俳優が演じた初めての映画だそうだ。何と,この国では映画館の設置が法律で禁じられているというから,さぞかしキャスティングやスタッフ集めにも苦労したことだろう。ましてや,アラブの古い因習や戒律に縛られた女性たちの不自由な日常生活を描いているとあっては尚更だ。この勇気ある挑戦を成し遂げた監督ハイファ・アル=マンスールは,サウジ生まれで,シドニーで映画制作を学んだ女性で,これが長編デビュー作である。主人公は10歳のお転婆娘ワシダで,自転車が欲しいという素直な願望から,賞金目当てにコーラン暗証コンテストに挑む……。何という素晴らしい母子の物語だろう。誰もが感情移入できる見事な語り口であり,涙を誘わず,爽やかな感動で締めくくる。100冊の本を読むよりも,この映像1編の方が,イスラム社会の現状を直観的に把握できる。映画生誕後約120年になるが,改めて映像作品の威力を感じさせる記念碑的傑作だと思う。
 『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』:またヴァンパイアものである。『トワイライト』シリーズを含め,当欄で取り上げた作品だけでも,この3年間で2桁に達している。欧米人の吸血鬼好きには畏れ入るが,本作は子供だましの青春ものでも,陳腐なB級ホラーでもない。インディペンデント系の鬼才ジム・ジャームッシュ監督が描くだけあって,一味も二味も違う逸品に仕上がっている。何世紀も生きてきた天才ミュージシャンのアダム(トム・ヒドルストン)と恋人のイヴ(ティルダ・スウィントン)は,何とエレガントな吸血鬼カップルなのだろう。無闇に人間を襲ったりはしない。彼らが人間達の愚かな行為をこき下ろすシニカルな会話が,上質の笑いを誘う。そんな高潔な吸血鬼にも,21世紀の世の中は住みにくいようだ。当然,挿入曲の趣味も良く,ラストシーンも秀逸だ。
 『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』:ベストセラー絵本をフルCGアニメ化した前作はなかなかの意欲作で,スマッシュヒットとなった。カラフルで,食べ物の描写にも凝ってあり,当欄では3D上映での立体感演出も優れていると絶賛した。この続編は,暴走して壊したはずの食べ物製造マシンが実は作動していたところから始まる。本作では,食べ物が様々な動物と合体したフード・アニマルが引き起こす騒動を描いているが,このアニマルのキャラ設定が楽しい。カラフルさも立体感も引続き上々だ。中盤までは,少し手抜きでコストダウンを図っているなと感じる箇所もあるが,終盤の盛り上げは流石だ。確実にファミリー映画市場で稼げる域に達しているが,それを意識し過ぎたのか,大人が観る映画からは遠ざかってしまった。
 『インシディアス 第2章』:前作は未見だったが,「最も続きが観たい最凶ホラー 完結」との宣伝文句に乗せられて,DVDで前作を予習した。『ソウ』シリーズのジェームズ・ワン監督作のオカルト・ホラーで,主演はパトリック・ウィルソン,悪霊に取り憑かれた家族の絆を描く……と言えば,11月号で紹介した『死霊館』とそっくりだ。デキは,後で作った『死霊館』の方が上なのは当然としても,この前作は,なるほど思わせ振りなエンディングだった。本作の冒頭で,主人公の子供時代の出来事をより深く掘り下げているが,絶対に前作で主要登場人物の関係を頭に入れてから,この映画を観た方が良い。後半ダブル進行する物語の展開は,上映時間106分とは思えぬボリュームで,観客の大半は大いに満腹感を味わうことだろう。ただし,「完結」と言いながら,さらなる続編に繋がる後日譚を入れ,シリーズ化を目指していることはミエミエだ。
 『危険な関係』:チャン・ツィイー主演の大人のラブ・ストーリーというので,東京まで出向いて観に行った。彼女が演じるのは貞淑な未亡人だが,勝気な女性実業家役のセシリア・チャン,純潔無垢な少女役のキャンディ・ワン,3人とも美人で嬉しくなる。チャン・ドンゴンが演じるキザなプレイボーイも,いかにもそれらしい。ところが,いくら舞台設定が1930年代の上海であっても,どこかで聞いたような男女間の会話も恋の鞘当ても,余りに古過ぎ,平凡過ぎる。この結末も,全く感動しない。表題も陳腐だと思ったら,原作は18世紀のフランス人作家コデルロス・ド・ラクロ作の古典小説で,過去何度も映画化されているようだ。その使い古したネタを,こんな形で再映画化する必要があったかと言えば,否定的な答えしか出てこない。
 『大脱出』:主演は,シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガー。『エクスペンダブルズ』『RED』両シリーズのヒットで,老アクション・スターの名前だけで集客力があることが証明され,類似企画が続出してきた。本作のテーマは,意図的に収監された監獄からの脱獄。それも航行中の巨大タンカー内の要塞監獄からという設定だ。物語は二転三転するが基本構造は極めてシンプルで,結末も見えている。「年齢を感じさせない怒濤のアクション」という触れ込みだが,さすがにS・スタローンの動きは鈍重で,少し痛々しい。それでも,高齢者世代にまだまだ頑張らなくてはと思わせる役目は果たしている。適度の緊張もあり,スペクタクル・アクションとしては十分楽しめる。
 『キリングゲーム』:こちらもロバート・デ・ニーロとジョン・トラヴォルタの二大スターの対決だが,これが初共演とは意外だった。山の中で隠遁生活を送る元米軍戦士が,何やら訳ありで,セルビア人の元兵士の標的にされ,まさに表題どおりのゲーム感覚のバトルへと突入する。ストーリー自体は単純だが,2人の饒舌な会話と駆け引き,とりわけデ・ニーロ演じる老戦士が軍隊で得た知識を駆使して対抗する様が楽しい。アパラチア山脈の雄大な大自然も楽しむことができる。さて,どちらが勝って,どういう決着にするのかと思っていたら,想定した内の1つの予定調和に落ち着いた。きっと数通りの結末が用意されていて,これが覆面試写会(sneak preview)で一番受けが良かったのだろう。
 『黒執事』:原作は世界中で1,600万部の売上げを誇るコミックで,TVアニメも若者達に絶大な人気をもつ作品の実写映画化とのことだ。これが東宝,東映配給作品なら即パスしたのだが,ワーナー作品というので,食指が動いた。『デスノート(前後編)』(06)の世界にすっかり魅せられた記憶があるからだ。なるほど,伯爵家の万能の執事(実は,悪魔)セバスチャンのキャラ設定が抜群に面白い。コミック・ファンの若者に人気があるのも理解できる。原作の主人公は全く知らないが,主演の水嶋ヒロが見事にハマっているなと感じた。ところが,彼が仕える幻蜂家の当主を演じる剛力彩芽の演技の拙さにも驚く。これだけ下手な俳優がいるのか!? ここまで酷いと,チープなCG/VFXとも相俟って,却ってマンガ的な味付けで,乙なものだと感心してしまう。
 『バイロケーション』:最後も邦画だが,こちらは日本ホラー小説大賞長編賞受賞作品の映画化で,「『シックス・センス』を超える衝撃の結末」だそうだ。アクション大作,ファンタジー,コメディ等,日本映画はいずれも全く駄目で,世界の映画産業から孤立している感があるが,お涙頂戴作やホラーとなると,断然上手い。ホラーと言っても,吸血鬼,ゾンビ,悪霊等々は全く出て来ないが,「バイロケーション(バイロケ)」なる自分の分身が登場する。その存在の不気味さとテンポの良さが,怖さを倍加している。CG/VFXも適度に登場し,使い方も巧みだ。『シックス…』を引き合いに出さなくても,ユニークなジャンルの怖さを生み出していると言える。ただし,結末はさほど衝撃でもなかった。少し残念だなと思ったら,別の結末のバージョンも少し遅れて公開されるのだという。絶対にそれも観たくなるから,なかなか巧みな商法である。
 
  (上記のうち,『少女は自転車にのって』はO plus E誌に非掲載です)  
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