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O plus E誌 2012年9月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』:今月の当短評欄の一押し作品だ。ロクに仕事がないサエない弁護士を演じるのは,個性派俳優ポール・ジアマッティ。彼が生活費を稼ぐためについた小さな嘘から,身寄りのない少年カイル(アレックス・シェイファー)が舞い込んできて,家族同様の心の触れ合いをする様を描く。変形の擬似父子ものだが,エイミー・ライアン演じる主婦が魅力的で,暖かい家庭を描き出す。彼らが熱中するスポーツがレスリングという設定がいい。音楽もいい。結末もしっかり「WIN WIN」で収めている。素晴らしい脚本だなと感じたが,それもそのはず,既に数々の映画祭の脚本賞にノミネートされていた。
 ■『籠の中の乙女』:様々な映画の見方があるが,本作は「厳格なルールの下,3人の子供達を家から一歩も外に出さず,純真無垢に育てる異様な家族の物語」だと知ってから観た方が良いだろう。さもなくば,冒頭からの,余りに奇妙な会話と行動に戸惑ってしまう。ギリシャ映画で,新人監督(ヨルゴス・ランティモス)の2作目にして各国映画祭での数々の受賞という事実,「健全な家庭に,狂気は宿る」「過誤で不条理なホームドラマ美学」という描写を聞いた上でもなお,この映画の奇抜な着想には戸惑いを感じる。ここまでの虚構閉鎖社会を設定したなら,どのような物語展開も可能だから,監督は批評家の評価を楽しんでいるだけではないか。そう思いつつも,終盤の少女のダンスの振付け,衝撃のラストシーンに,この監督の才能を感じた。
 ■『るろうに剣心』:原作は週刊少年ジャンプに連載された和月伸宏作のコミックで,「るろ剣」と略す。既にTVアニメ,劇場版アニメもあり,コミック世代に絶大な人気を博している。初の実写映画化だが,若手人気俳優を配した安易な企画かと思っていた。痩身の佐藤健演じる流浪人の着物姿は貧弱で,「ござる」言葉も全く似合わない。それが第一印象だったが,物語が進むにつれ,目が離せなくなった。アクション・シーンが素晴らしい。二段三段構えで,その迫力を堪能させてくれる。最近の邦画では出色だ。監督・脚本は,『ハゲタカ』(09)の大友啓史。というより,NHK大河ドラマ『龍馬伝』(10)の演出担当と言った方が分かりやすいか。NHKを退局し,監督業に転じたのは正解だ。老若男女に通用するこの新タイプの時代劇を皮切りに,日本映画界を立て直してくれることを期待したい。
 ■『あなたへ』:心に残る数々の名作を生み出した降旗康男監督,高倉健主演のコンビによる19作目だそうだ。本作で健さんが演じるのは,妻に先立たれた,誠実だが不器用な刑務官。警官,鉄道員と役柄は違えど毎度同じパターンじゃないかと思うが,この人の場合はこれでいい。強いて違いを探せば,1つの町に留まらず,故郷の海への散骨を願う妻の遺言に従い,富山から長崎県平戸市に至る1,200kmのロードムービー仕立てになっていることだろうか。途中,飛騨高山,京都,大阪,瀬戸内,北九州とたどるが,とりわけ雲海にそびえる兵庫県和田山の竹田城址が息を飲むほど美しかった。御歳82歳の健さんは,口元や歩様に少し老いを感じさせるが,まだまだ背筋はシャンとしている。妻役は『夜叉』(85)『ホタル』(01)でも共演した田中裕子。その清らかな歌声も印象的だった。激しい感動を呼ぶ物語でなく,余韻を残す淡々とした結末は計算の上でのことだろう。ただし,佐藤浩市を中心としたサイドストーリーは必要であったのか,少し疑問に感じた。
 ■『映画 ひみつのアッコちゃん』:こちらの原作は,人気絶頂の赤塚不二夫が1960年代に月刊少女誌「りぼん」に連載したコミックで,TVアニメでも人気を博した。年配者の大半が知っているキャラだが,実写映画化は初めてである。きっとお気楽でノーテンキな癒し系映画だと思いつつも,主演が「綾瀬はるか」という理由だけで観に行ったが,やっぱりお気楽映画だった。小学5年生の「アッコちゃん」が魔法で大人に変身するというだけのアイディアだが,綾瀬はるかの天然ぶりがピッタリだった。とはいえ,この映画は,彼女のファンと子供以外の誰に見せるつもりなのだろう?
 ■『最強のふたり』:事故に遭遇し,車椅子生活を送ることになった白人の富豪と,介護者として雇われたスラム出身の黒人青年が織りなすハートフル・コメディーだ。この組合せだと,アメリカ映画を想像するが,これがれっきとしたフランス映画で,昨年最大のヒット作だという。当初反目しながらも,やがては互いを認め合い,かけがえのない存在となるというテーマは,時代,国,性別は違っているが,『ドライビングMissデイジー』(89)を思い出す。国籍を問わない普遍のテーマだからだろう。とはいうものの,フランス語での軽妙なやりとりに嬉しくなる。やっぱりフランス語は美しい。強いて欠点を挙げれば,この面白みに欠ける邦題で,もう少し気の利いた題をつけて欲しかった。
 ■『デンジャラス・ラン』:主人公(デンゼル・ワシントン)は元CIA諜報部員の世界的な犯罪者で,若手CIA局員(ライアン・レイノルズ)を伴っての32時間の危険な逃避行を縦糸に,CIA内部に渦巻く裏切りと陰謀を横糸にした物語である。誰が敵か味方か分からない緊迫感溢れるサスペンス・アクションを想像したが,ほぼその予想通りの映画だった。カーアクションも水準以上だ。余りに典型的過ぎて,どう評価しようかと迷うくらいだ。舞台が南アフリカで,そんな場所にも米国CIAの隠れ家(セーフ・ハウス)があるというのにリアリティを感じたが,元特別工作員の指導を得ての脚本とのことだ。D・ワシントンの悪役ぶりも似合っていた。
 ■『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』:わずか83分ながら,全編抱腹絶倒の大爆笑風刺映画である。脚本・監督・主演は,お騒がせ喜劇俳優のサシャ・バロン・コーエン。北アフリカの小国ワディヤの独裁者アラジーン将軍が,ニューヨークにやって来て,恋と大笑劇を巻き起こす。徹底して国際政治やアメリカ社会をこき下ろしている。『星の王子 ニューヨークへ行く』(88)の楽しさと,マイケル・ムーア流の権力者をこき下ろす姿勢をミックスしたような映画と言えようか。独裁者を茶化した名作『チャップリンの独裁者 (The Great Dictator)』(40)を意識していることも間違いないが,その何倍も笑えることは保証できる。
 ■『夢売るふたり』:名前だけで作品を観たくなる映画人の1人,西川美和監督の最新作である。主演の小料理屋を営む夫婦が,阿部サダヲと松たか子という組合せも意外であれば,テーマが結婚詐欺というのも驚きだ。『夢あるふたり』ではなく,『夢売る……』である。女房が描いた筋書き通りに,阿部サダヲ演じるダメ男の与える「夢」に,田中麗奈,鈴木砂羽,安藤玉恵,江原由夏,木村多江らの女性たちが見事に騙される。おいおい本当かよと思いつつも,女性監督が描く女性心理だからと納得してしまう。それにしても,女は冷徹で強い。男なら,こういう女性たちを騙そうとして騙し切れないだろうし,そういう脚本すら書けない。
 ■『莫逆家族 バクギャクファミーリア』:現実に起こっては困るような話でも,映画中で敵を薙ぎ倒す活劇シーンは痛快だ。映画に非日常の爽快感を求めるゆえの心理を満足させてくれる。止むを得ず暴力に走る人間心理やその葛藤を描きたがる作家や演出家の意図も理解できなくはない。それが意味を持つのは,題材に説得力があり,表現力・演出力が優れている場合に限る。その水準に達していない暴力映画は,ただただ不愉快なだけだ。元暴走族の中年男達を描くこの映画の原作は,田中宏作のバイオレンス・コミックで,監督は異才の熊切和嘉だ。筆者には,この映画の存在価値が理解できない。唯一の救いは,吉本芸人・徳井義実に主演を務めるだけの演技力があることを示したことか。
 ■『ウェイバック -脱出6500km-』:脱獄,脱走ものは,緊迫感が漂うためか,見応えのある秀作が多い。時代は第二次世界大戦下,スパイ容疑で逮捕されたポーランド人が,シベリアの矯正労働収容所から数名の仲間と脱走を試みる。焦点はこの脱走そのものでなく,脱出後の壮絶な逃避行にある。極寒の地シベリアから,モンゴル,灼熱のゴビ砂漠,チベット,ヒマラヤ越えを経てインドまでの,何と6,500kmに及ぶ大陸縦断の旅だ。これは実話で,原作は生還者の脱出記だというから,少し安心して観ていられるものの,その過酷な状況には息を飲む。製作・脚本・監督は,名匠ピーター・ウィアー。激しい諍いや過度の緊迫感を避けた描写が,この決死の脱出のリアリティを高めている。
 ■『白雪姫と鏡の女王』:本作もまごうことなくVFX多用作なのだが,今月はメイン欄の格別な3本のため,この短評欄に回さざるを得なかった。極彩色で奇抜な衣装や,コメディ・タッチのアクションとセリフで名作童話を存分にデフォルメしたのは,『ザ・セル』(00)『インモータルズ -神々の戦い-』(11)のターセム・シン監督だ。 この監督なら,ジュリア・ロバーツに辛辣で高慢な魔女(女王)役を演じさせたのも理解できる。ただし,誰もが知っているお伽話をここまで崩してしまうのはやりすぎだ。同工異曲で競作となった『スノーホワイト』(12年7月号)に比べても,外連の度合いが強過ぎる。意欲が空回りしているのが残念だ。
 ■『コッホ先生と僕らの革命』:進歩的で情熱家の教師が,一癖も二癖もある生徒たちと交わり,やがて彼らの心を掴んでいくという,お馴染みの学園ものだ。ユニークなのは,その教育の題材がサッカーであり,舞台は,まだサッカーが社会的に認知されていない1874年のドイツであることだ。英国留学経験があり,英語教師として採用されたコッホ先生は,実在の「ドイツ・サッカーの父」と呼ばれる人物らしい。展開も結末も読める物語ながら,やはりこの種の話は気持ちがいい。時代描写も興味深い。もっと興味深いのは,帝政ドイツの時代とはいえ,ドイツ人がドイツ人のことを,規律を重視し,融通が利かない石頭民族と描いていることだ。
 
  (上記のうち,『あなたへ』はO plus E誌に非掲載です)  
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