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O
plus E誌 2011年5月号掲載 |
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(注:本映画時評の評点は,上から  , , , の順で,その中間に をつけています。) |
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気だるいチープな展開の中に,上質の笑いと人間味
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| 事前予想以上の面白さ,掘り出しものと言えば,この映画がその最たるものだ。 3月下旬のある日のことだった。東京出張時の午後,早めに所用を済ませた後,夜の試写会前にもう1本観る予定だったが,自粛ムードの真っ只中で,掲載予定の作品はことごとく試写会が中止になっていた。美術館も16時閉館というので,他にすることがなく,止むを得ず足を運んだのが本作である。
最近,良作が目白押しのギャガ配給作品だが,アカデミー賞受賞作やノミネート作が目白押しの中,地味なタイトルと出演者で,さしたる前評判も聞かなかったゆえに,およそ食指が動かなかった。全くの時間潰しのつもりが,このスローテンポの気だるい邦画は,何とも言えない味わいの良質コメディだった。これぞ,思いがけず見つけた想定外の面白さだ。おまけに,レベルは低いながらも,途中からエンディングまでしっかりとCG/VFXの登場場面がある。いや,あるどころか,不可欠の役割を担っている。急ぎカラー画像を取り寄せ,メイン欄の一作に加えた次第である。
原作は,岸田國士戯曲賞・三島由紀夫賞などを受賞した人気劇作家・前田司郎の小説だというが,監督の本田隆一共々,名前すら知らなかった。主演の竹野内豊は知ってはいたが,コメディの主演男優とは意外だった。相手役の水川あさみは何本かの映画で見かけたが,主演級の印象はなかった。いまNHK大河ドラマで浅井三姉妹の目立たない次女役で登場していることは,この映画を見終わってから気がついた。
新婚であるのに既に倦怠期というカップルが,ひょんなことから1泊2日の地獄旅行に出かけ,そこで奇想天外な体験をするという筋立てである。温泉付きというから,別府の「地獄巡り」のようなものかと思ったら,本物の異次元世界の地獄らしい。炊飯ジャーをめぐる痴話喧嘩に始まり,五反田駅前のスーパーの屋上から出発する地獄旅行は,いかがわしさを通り越して,B級どころか学生製作のC級映画かと思う趣きだった。ところが,気だるさ,チープさの中に鏤められた笑いが絶妙だった。抱腹絶倒型でなく,思わず笑ってしまう上質の笑いである。さすが,舞台劇で鍛えた劇作家自らの脚本だ。
CG/VFXの安っぽさも,この映画のタッチと見事に呼応していた。地獄世界にワープして以降,CG製らしき蝶や奇妙な小動物が登場する。専門学校生でも作れそうなレベルだ。ところが,宿泊先のホテルいいじま屋(写真1)が数百階建ての高層ビルで,これはCGでしか描けないと分かる頃から,様相は一変する。40数階にあるという大浴場の広大な景観(写真2)も,エンディングで「奈落の底」の深い谷の傍らにある多層の曲がりくねった道も,CGならではの描写だ。クオリティが徹底してチープなのは,これは低予算映画の言い訳に過ぎない(写真3)。ほのぼのとした味の映画ゆえに,CG/VFXだけ驚くほど豪華であれば,その対比でぐっと引き締まった佳作になったと思う。この点が惜しい。
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写真1 めざすは数百階建てのホテルいいじま屋 |
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写真2 これが,ビーフシチューの大浴場 |
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写真3 入浴シーンの撮影風景もいたってチープ (C) 映画「大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇」製作委員会
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物語が進むにつれ,水川あさみはこんなに可愛かったのかと再認識した。地獄で出会った人々との会話に,人生への素晴らしいメッセージが込められていて,見終って幸せな気分になる。脚本・演出が良いせいか,助演陣の個性も見事に引き出していた。胡散臭い女占い師役の樹木希林は,『ゴースト もう一度抱きしめたい』(10年12月号)の霊媒師を思い出させる彼女ならではの怪演であり,相棒のガイド役の片桐はいりも見事にマッチしている。正体不明の「濡れた男」を演じる柄本明の奇妙さも絶品だ。この東京出張の往復の新幹線車中で,妻夫木聡主演の『悪人』をDVDで観た。柄本明と樹木希林がシリアスな役を演じ,日本アカデミー賞の助演男優賞・助演女優賞を得た作品である。その受賞作より,この映画のとぼけた役の方がずっと上だと感じた。 |
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(画像は,O plus E誌掲載分に追加しています) |
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