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■『遠くの空に消えた』 :空港建設反対運動下の村に転校して来た少年の夏の想い出を描く。行定勲監督が適役を求めて7年間暖めてきた題材だけあって,コクのある青春物語だ。確かに主演の少年(神木隆之介)少女(大後寿々花)の演技は見事だが,他にも個性ある妙な人物達が多数登場する。オヤジの視点から観るか子供の視点から観るかで,少し印象が異なる。CGシーンは300超だというが,これは児戯に等しい。
■『シッコ』  :アポなし突撃取材でお馴染のマイケル・ムーアの最新作で,今回は米国の医療保険制度をやり玉に上げる。相変わらず茶目っ気たっぷりで,政治家・医療保険会社・製薬会社を痛烈にこき下ろす。この映画が描くほど,英・仏・加やキューバの保険制度がバラ色であるはずはないが,着眼点は的を射ている。取材態度には問題はあっても,1つの映画が次期大統領候補たちの政策に影響を与え,病んだ社会が良くなるならすごいことではないか。銃社会・イラク派兵・医療保険と,彼の映画のテーマは極めてシンプルであり,賛否両論あることの方がおかしい。世界の常識に反して,アメリカ社会だけが幼稚で,狂っているだけなのだから。
■『ラッシュアワー3』 :『スパイダーマン3』に触発された訳でもあるまいが,本作品もこの夏流行りのシリーズ3作目だ。『F4:銀河の危機』と同様,批評家が何と言おうと,興行的には成功する。この種の軽いバディ・ムービーが好きな固定ファンを喜ばせるコツを知っているからだ。1作目LA,2作目は香港&ラスベガスが中心だったが,予想通り3作目で欧州へと舞台を移す。ジャッキー・チェン,クリス・タッカーの爆笑コンビは健在で,我らが真田広之が存在感のある敵役だ。クライマックスのエッフェル塔のシーンは,VFXでパワーアップされている。それも,業界最大手のILM製だ。
■『ミス・ポター』 :世界中で愛されている「ピーターラビット」の原作者ビアトリクス・ポターの半生をレニー・ゼルウィガーが演じる。彼女の恋や成功譚はいかにもレディース・デイ向きだが,この映画は30歳を過ぎたキャリア志向の独身女性には見せたくない。映画は夢を与えるものであっても,世の中はこんなには甘くないからだ。英国の湖北地方の自然が美しいが,物語は淡泊で,もう少しひねりかコクが欲しかった。終了後,隣席のオバサン2人が「ものすごく,感激したわぁ」と大声で騒いでいたが,そこまで凄い映画ではない。
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