モナコでのImagina 2000にMR型ゲームを出展した折り,見物客の何人かから『eXistenZ』は観たかと問いかけられた。VRゲームを題材とした作品と聞き及んでいたが,なかなか日本で公開されなかった。米国での公開は1999年4月で,3月の
『マトリックス』,5月の
『13F』(3月号で紹介)と立て続けにサイバースペースもの3作が作られていたことになる。VR好きのフランスらしく,この作品は米国より1週間早く公開されていたらしい。
原作・脚本・監督は,鬼才と称せられるデビット・クローネンバーグ。機会がなくて作品は観たことがないが,異生物,超能力,幻想世界を特殊メイクで描くのが得意らしい。
「eXistenZ」とは,アンテナ・リサーチ社が5年の歳月 をかけて開発した体感ゲーム。背中に開けたバイオポートなる穴にコードを接続し,中枢神経に直接アクセスするバーチャルリアリティRPGである。数あるサイバースペースものの中でも,W・ギブスンの原典に近い設定だ。ただし,両生類の有精卵から作るゲームポッド(付写真)や生体ケーブルは,この監督らしい気味の悪い造形物で,ギブスンはここまで悪趣味ではない。
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写真 メタフレッシュ・ゲームポッド |
新作ゲームの発表会場で美貌の天才ゲーム・デザイナ(ジェニファー・ジェイソン・リー)が襲われ,警備員見習いの男性(ジュード・ロウ)が,彼女とゲームソフトの保護を託される。ダメージを受けたポッドを修復した2人は,このゲームの非現実世界と現実世界を行き来するが,そこで出会う裏切りや殺人,ゲーム界の覇権をめぐる陰謀……何が現実で何が非現実かわからなくなる,というストーリーである。
複数の仮想空間が入り乱れ,次第に区別がつかなくなる設定は『13F』に少し似ている。SFXもそこそこ登場する。特殊メイク得意のクローネンバーグ監督も始めてCGを使ったという。造形もストーリーも異様な中で観客もアタマが混乱すること間違いないが,これは混乱させること自体が目的なのだろう。その理由はラストで明かになる。