Yukoのインターネット・ビジネス・ルポ

 今回の訪問先は,ストリーミング・システム業界で有力なVDOLiveとRealSystemの日本法人です。
 親会社VDOnet社は,イスラエルに開発拠点があり,アメリカはマーケティングの中心地です。その日本法人ブイ・ディー・オーネットジャパン(株)は,恵比寿と代官山の中間あたりの閑静な住宅街のビルにありました。そう大きなオフィスではありませんが,絶えず人が出入りしているようで活気がありました。お相手して下さったのは,加藤充社長と足立明穂プロジェクトマネージャーです。
 VDOLiveは,Ver.3.0βが発表されたばかりで,ファイアウォールを通過できるHTTP対応機能などが備わりました。オン・デマンド型をVDOLive OnDemand,ライブ型をVDOLive Broadcastと呼んでいますが,同じサーバーでどちらにも使い分けられます。全世界では約1,000サイト,日本では70サイトが立ち上がり,ビューアのダウンロードはのべ1,000万近いそうです。
 VDOLiveを使っている代表的なウェブ・サイトとしては,「日経サテライトニュース」や「ベッコーアメテレビ(BTV)」「ステーションガイア」などがあります。ユニークなところでは,NTTの「映像128」というISDNによるダイヤルアップ・サービスです。クローズドなネットワークながら,128kbpsをフルに使えると結構高画質なビデオ・オン・デマンドが楽しめるようです。TA(ターミナル・アダプタ)さえあれば無料だそうですが,これは知りませんでした(無料といっても,ISDNの通信料金はしっかり取られます)。
 これから期待する用途としては,「観光地のプロモーション」や「ビデオ年賀状」という答が返ってきました。電子メールでURLを案内しておいて,自分のサイトに見に来てもらうという「年賀状」だそうです。加藤社長もこれで新年のメッセージを送られるようです。
 ストリーミング・メディアを用いたビジネスは,
 (1)情報の発信者からお金をとる
 (貸しサーバー,イベント運営等)
 (2)見る人からお金をとる
 (会員制,ペイ・パー・ビュー等)
 (3)第3者から広告料収入を得る
 (4)上記の組み合わせ
が考えられます。Dr.SPIDERの「こんなに小さく,汚い絵でお金が取れるのか? 見たくなるようなコンテンツなど見当たらない」という厳しいツッコミには,
「おっしゃるとおりです。我々はサーバーを売ればいいけど,お客さんが何に使えばいいか分かっていない」(足立氏)
「いまのインターネット,特に日本では苦しい。サーバー技術としては基盤はできているので,イントラネットに期待している」(加藤社長)
と,正直な答が返ってきました。確かに,LAN環境で見せてもらったデモは,映像のクオリティは申し分なく,マルチメディア・コンテンツとしても魅力的でした。
 加藤社長は,コンテンツ・サービスのマーケットをいかに育てるかが鍵だと力説されました。
「アプリケーション,ネットワーク,コンテンツ,端末の4つが揃わないと成功しない。ところが,皆持ってる会社はない。いいコンテンツを持っているところはインターネットを知らないし,知識があるところにはコンテンツがない」(加藤社長)
とエネルギッシュな口調でしたが,外資系特有の独善的な自己宣伝ではなく,本音で業界の実情を語って下さいました。
 もう一方のプログレッシブ・ネットワークス社(現,リアルネットワークス社)は,地下鉄・中野坂上駅前の高層ビルの中にありました。オフィスも広くてモダンで,とてもクールでした。親会社の米国法人は既にRealNetworksと名を変えましたが,日本法人はまだ昔の名前のままです(98年1月からこちらも名を変えました)。お相手して下さったのは,櫻井智明技術部長と,進藤公彦マーケティング部長です。
 まず,一通りの製品紹介を受けました。この業界は半年くらいで次々と新しいバージョンが出てくるので,フォローするのも大変です。この時は,Ver.5.0β版がリリースされたばかりでした。Javaによるconfigの制御や,リレーショナルDBと接続できるテンプレートなど,色々な機能が付加されたようです。大きな変更点としては,RealFlashが加わったことです。いま,あちこちのウェブ・サイトでShockwave Flashの利用が急速に進んでいます。RealFlashは,マクロメディア社のFlashで作成したアニメーションにRealAudioの音を同期させることができるのです。
 インターネット放送局のリンク集を見ると,「Real」のロゴが目立ちます。音だけの放送局が多いので,RealAudioは寡占状態です。ストリーミング技術の要であるバッファリングのノウハウには,他の追随を許さないものがあるようです。音と映像の同期では,人間は300msecの遅れで不快に感じるので,100〜200msecに収めることが行われています。
 櫻井部長から,バッファリング,スプリッティング技術についてのレクチャーを受けました。ここの中継サーバーは,かなりのプロバイダが導入しています。「これは将来マルチキャスト方式に置き換わるのでは?」との質問には,
「マルチキャスト技術は随分こなれてきた。でも,クローズドなネットワークならともかく,インターネットで一般化することは絶対ありえない。QoSを確保するRSVPの方が魅力的」(櫻井部長)
との答が返ってきました。RealServerには,TCP,UDP,HTTPの他にRTP,RTSP,IPマルチキャストも備わっていて,環境に応じて色々なトレードオフを試すことはできるようです。
 オン・デマンドかライブかについては,ライブはほとんどあてにせず,圧倒的にオン・デマンド市場を重視しておられました。
「ライブが注目されるのは技術的に難しいから。旬だから,話題になるだけです」(櫻井部長)
「オン・デマンド+イントラネット,オン・デマンド+コマースがこれから伸びる。どこをとってもニュービジネスで,インターネットはダイナミックに変わって行く」(進藤部長)
コンテンツ業界に対する期待はV社と同じで,
「日本のインターネットを支えるのはあなたたちだよ,と言いたい」(櫻井部長)
との言葉が聞かれました。大きな障害となっているのは,ネット上の著作権の問題で,ここがアメリカから一番遅れている点のようです。
 櫻井部長のお席で見せていただいたデモも迫力がありました。アメリカのウェブ・サイトを実際にリアルタイム・アクセスしてもらいましたが,その音は素晴らしく,インターネットでこんな音が出るのかと驚きました(スピーカーが良かったこともあります)。これだけの技術が揃っていながら,まだまだ大きな市場が形成されないことについて,
「インターネットは一瞬見間違えた美女だった。実情について,まともな記事を書ける記者がいない」(櫻井部長)
という言葉が,とても印象に残った訪問でした。
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