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plus E誌 2010年9月号掲載 |
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(注:本映画時評の評点は,上から  , , , の順で,その中間に をつけています。) |
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『アメリ』の監督が,全編遊び心で描き切った快作
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この映画が始まって最初に感じるのは,「やっぱりフランス語の映画はいいなぁ」だ。セリフの美しい響きだけでなく,欧州の街並みや人々の佇まいに見事にマッチしている。言葉は仏語であっても,リュック・ベッソンが製作・監督する一連の作品群はハリウッド・テンポで進行するが,この映画は冒頭からフランスの香りが充満している。監督・脚本は,『デリカテッセン』(91)『アメリ』(02年1月号)のジャン=ピエール・ジュネ。 ハリウッドに招かれ,『エイリアン4』(97)も撮っているのだが,フランスに戻って以来,より仏語らしい響きの映画を撮っているように感じる。本作は,「『アメリ』のイタズラ心で,『ロング・エンゲージメント』から続くテーマを描く最高傑作!」だそうだ。おっと,諧謔趣味溢れるこの監督のペースで進行する映画となれば,一瞬たりとも気を抜くことはできない。しっかり画面の隅々まで目配りし,セリフの1つ1つも疎かにできない。
ビデオ・レンタルショップに勤める主人公バジル(ダニー・ブーン)は,発砲事件の流れ弾に当たり,頭部に銃弾が残ったままの人生を強いられる。一命は取り留めたものの,全てを失いホームレスとなった彼に,温かい手を差し伸べたのは,廃品回収業のプラカール(ジャン=ピエール・マリエル)とその仲間たち。ここまでだけでも冗談でしょと言いたくなるような展開だが,この7人のチームが超の字のつく個性派揃いだ。自分の人生をブチ壊しにしたのが,銃弾を作る軍事会社と地雷を販売する兵器会社であったことを知ったバジルは,ユニークな仲間たちの力を借り,彼らに非・暴力主義での復讐を敢行しようとする……。
【ギロチン男】【料理番】【計算機】【発明家】【軟体女】…なるニックネームをもつ仲間たちもさることながら,「煙突からマイクで盗聴作戦」「犬も走れば麻薬に当たる作戦」「軟体女が潜む宅急便作戦」「目覚まし時計じかけのハチ爆弾作戦」というネーミングにもワクワクする。その作戦の1つ1つに創造力あふれる手作りのガジェット類が登場する。そもそも「micmac」がイタズラの意だというから,それが複数になった表題『Micmacs』のこの映画が楽しくないはずがない。
戦争場面を直截的に描くわけでなく,戦争反対を声高に叫ぶわけでもないが,死の商人をおちょくることでこの監督が表現せんとしているのは,「反戦」ならぬ「非戦」のスタンスである。いや,それだけではないだろう。例によって,赤と緑を基調としたこだわりの絵作りやセックス場面を多用する脚本にも,ジュネ・スタイルの美学というべき鋭い人間観察学が含まれている。それを笑いで包んでコメディに仕立てる腕はさすがだ。
この映画のCG/VFXの主担当はDuran Duboi社で,全体で約350シーンという。この監督の『アメリ』『ロング・エンゲージメント』(05年3月号) も担当していたから,気心は知れている。一見してVFXと分かるのは爆発シーン(写真1)や鼻の頭に停まる蜂(写真2)くらいのもので,あとはそれと分からないインビジブル・ショットが大半だ。軟体女は,CGモデル+MoCapで表現するには同程度のアクロバット演技を収録する必要があるなと思っていたら,これは顔だけヒロインのジュリー・フェリエに差替えていたようだ(写真3)。「目覚まし時計じかけのハチ爆弾作戦」の壺の中の蜂も一部だけ本物で,大半はCGのようだ(写真4)。ただし,蜂の群れが飛び交うシーンは当然全部CGだろう。
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写真1 こうした爆発は今やほとんどCGで描き加える |
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写真2 この蜂はどう考えてもCG |
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写真3 アクロバット演技者の実演を顔だけ入替(下が完成映像) |
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写真4 ガラス壺の中の蜂の大半はCG製(下が完成映像) |
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携帯電話やYouTubeが登場するからには,物語の設定は現代なのだろうが,印象としては時代不詳で古き良き時代を感じてしまう。その原因の1つはバジルと7人の仲間たちの衣装と隠れ家であり,もう1つは随所で背景の街をジュネ好みのパリに差し替えているからかと思われる(写真5)。高層ビル等は消し去っているに違いない。
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写真5 至るところで背景が差し替えられている(下が完成映像)
2009 (C) EPITHETE FILMS -TAPIOCA FILMS -WARNER BROS. PICTURES -FRANCE 2 CINEMA -FRANCE 3 CINEMA
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さて,ジュネ監督が5年の歳月をかけて織り上げた大人の寓話が見事な大団円を迎える。その評価は,限りなく☆☆☆に近い☆☆+だ。少し難解だった『ロング・エンゲージメント』よりは上だが,秀作『アメリ』と同じ評価にはできない。手の込んだつづれ織りは堪能できるが,その分「非戦」のメッセージが少し弱くなっている。主演のダニー・ブーンは好演だが,やはりアメリ役のオドレイ・トトゥのあの輝きには敵わない。
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(画像は,O plus E誌掲載分に追加しています) |
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