■三浦文夫:『デジタルコンテンツ革命』(日本経済新聞社,1680円,1997年)()
「メディア」だ「メディア」だと騒いだ後は,「コンテンツ」である。容れ物・媒体の次に中身の話に転じて興味を惹こうとする魂胆がミエミエである。いかにもそういった題のつけ方だ。
猫も杓子もコンテンツ制作者を志すか,コンテンツビジネスに参入しろというのか。製造業やその関連流通業に関わる者にはそうそうアタマが切り換わらない。そもそも「コンテンツ」や「タイトル」制作といった水商売とは肌合いが違うのだから,妙な煽り方をくれるなよ。
と,かねがね思っていたが,表題ほどは軽薄な本ではなかった。副題は「映像・音楽ビジネス最前線」である。その業界の模様と,デジタル化の影響を時間を追って,素直に述べてくれている。業界通ぶった嫌味もない。文章も平易で読みやすい。ビジネス書の体裁をとらずに,新書版として出しても良い内容だ。
「音楽のデジタル化」,「映像制作への衝撃」から入って,収益構造や著作権保護にも話が及ぶ。業界内でどう受け取られるかは知らないが,少なくともこれまで「マルチメディア革命」を吹き込まれ,「コンテンツ」が気になり出した層にはよく分かる良書である。
「第ヲ章 融合するメディア」からは,やはりよくあるメディア論で,インターネット,CATV等の話題になる。著者は,経済学部卒の電通マンであって技術者でもクリエータでもない。技術的な話題は,記述はそう多くないが,よく勉強されていて表現も正確である。少なくとも書かれていることには,大きな欠点はない。
あらを探すとすれば,この表題ならばマルチメディアタイトル制作やビデオゲーム業界にも話題を移して,その実情と収益構造を述べてもらいたかった。そこまで求めるのは,欲張りすぎだろうか?