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○内村 裕也(うちむら ゆうや)さん
 【現在,学部4回生.大学院進学予定.大阪府立四條畷高校出身】

◆内村君への特別インタビュアは,RM2Cの相談役 田村秀行先生[元メディア情報学科教授,現,総合科学技術研究機構(客員)教授]で,下記は昨年行われたものです.

(田村)内村という名前は,どうしても体操の内村航平選手を思い浮かべてしまいますね.顔立ちも体形も全く違うので最初は覚えにくかったけれど,逆に全く似ていないと意識すると,すぐ覚えてしまいました(笑).それはともかく,なぜ木村研を希望し,いまのGr.3に入ったのかから聞かせて下さい.

 元々Webページで見て,木村研の研究テーマの中でテーブルトップ操作のWATARIシステムに一番興味を持っていました.3回生配属時のMR体験会や交流会に来て,ますますその思いを強くしました.それで,ジュベナイル・プロジェクトでもWATARIシステムを使う班を希望し,ディレクター役を務めました.そして,グループ配属でも迷わず第1希望にし,先輩たちからの「ドラフト指名」も受けてGr.3に入った訳です.

内村さん

(田村)おう,それは順調過ぎるくらい順調で,順風満帆だね.言わば,HIグループのエリートだ.かくなる上は,現有のWATARIに満足せず,貴君は,思いっ切り斬新で発展性のあるシステムに作り直してくれる宿命を背負っているね.当然,大学院進学するのだろうが,院進はいつ頃に決めたの?

 責任重大で,プレッシャーがかかりますね.院進は入学前から決めていました.父親から,大学院まで行くべきだと言われていたので.

(田村)ずっと院進者には同じことを聴いているが,お父さんの意向とは珍しいケースだね.滋賀県北部出身者だと,県内にあるから大学に行かせたが,後は家業を継げば十分というご両親が多いが,やっぱり大阪だと違うのかな.お父さんは大学院まで行かれなかったので,仕事で苦労され,息子には行かせたいとか…….

 その逆で,国立大学の電気工学科の出身で,大学院修士課程を出ているのです.もう定年になりましたが,ずっと電機メーカーにいたので,大学院卒は当たり前だったのかと思います.

(田村)何だ,それじゃ当然だ.もう定年退職されたということは,私とそう年齢は変わらないので,当時の大学進学率,大学院進学率からすると,高学歴ですよ.それじゃ,親父超えの「内村跳び」をするには,修士で終わらず,博士後期課程まで行って,博士号を目指すべきですね.ところで,ジュベナイルのディレクター役はどうだったのでしょう? 少し苦労話やそこから得たものを話して下さい.

 最初からディレクター志望だったのではなく,私のアイディアだった訳でもないのです.最終的には「Get Fallen」と名付けた「落葉アート」でしたが,当初は留学生の馬さんのアイディアで「砂絵アート」が候補に選ばれていました.コミュニケーション能力の問題もあり,全体を管理するのは,日本人の院進予定者の方がいいということで,私が手を挙げる形になりました.
 まず早速,砂絵をWATARI上のCG表現で実現することは難しいとなり,では代わりに何をやるかという議論に随分時間がかかりました.皆であらゆる種類のアートを眺めて,どれがインタラクティブ・アートに向いているか検討しました.随分,勉強になったし,アートには詳しくなったと思います.
 結局「落葉アート」に決まり,実際にBKCの敷地にある色々な落葉を拾ってきて,自分たちでも作品が作れないかと試してみました.都会の大学でなく,敷地の広いBKCだったこともプラスでした(笑).「落葉アート」はなかなか良いアイディアだと思ったのですが,技術的に難しく,残念ながら最終的な完成度は高くなりませんでした.

(田村)技術的には何が難しかったのかな? 技術課題が解決できていたとしても,落葉の模様で絵を描くのは,初めてシステムをつかうユーザには難しかったと感じましたね.

 特に.落葉を指で「つまむ」操作がなかなか実現できませんでした.手や指の動作は,モーションキャプチャ装置のViconでセンシングしていたのですが,十分な精度が出ませんでした.別の姑息な方法で,つまんだという動作に解釈するようにしました.どんどん日程が迫ってくるので,スケジュール管理の難しさも実感しました.

(田村)それは良い経験をしたね.研究室での卒論や修論でも,社会に出てからの製品開発でも,構想や仮説通りに実現できないし,仕様を決めてからでも動いてくれないものです.原因を分析し,代替案を考える過程を学ぶことも,このプロジェクトの目的です.自分たちの構想で,一見楽しいことやらせながら,実は問題解決のチームプレイを学ばせているというのが,当研究室の指導の巧みなところです(笑).

 チームプレイに関しては上手く行っていたと思います.ほぼ全員,毎日やって来て,熱心に討論し,作業分担も円滑に進みました.
 私は,プロジェクト団体で「鳥人間コンテスト」を経験していたので,分業でチームプレイすることに慣れていたのですが,それでも今回の「落葉アート」チームはメンバーも協力的で,仲も良く,素晴らしいチームだったと思います.

(田村)その「鳥人間コンテスト」のことを聞かせてよ.皆さん,名前を聞いたことはあるし,TVで映像も見たことはあると思うけれど,どこでいつやっているのか,どんな部門があって,ルールがどうなっているのかも詳しくは知らないでしょう.そもそも,立命館大学のチームが参加していたことも知らないかと…….

 そうですね.アメフトや駅伝のように強くないこともあるのでしょうね.
 「鳥人間コンテスト」は,毎年7月下旬に開催され,彦根市の湖岸から琵琶湖に向かって飛び出します.読売テレビが録画し,ある種のバラエティ番組のノリで放映されています.グライダーで飛ぶだけの「滑空機部門」,人力プロペラ機部門は,同じ距離で速さを競う「タイムトライアル部門」,飛距離を争う「ディスタンス部門」に分かれています.我々の「立命館大学飛行機研究会RAPT」は,例年一番メインとなる「ディスタンス部門」にエントリーしています.1回生の時は選に漏れて出場できなかったので,私は2回生と3回生で,2年連続参加しました.
 学内ではプロジェクト団体の扱いで,クリコアの裏のアクトα内にサークル室があって,ここで機体を製作し,保管しています.1回生から3回生が所属していて,パイロットも設計責任者も3回生の中から選ばれます.私の時は,全体で約40人が所属していました.
 パイロット班は別格で,機体は,フレーム,操舵,電装,翼,プロペラ,駆動,フェアリング等の班に分かれて,先輩に教わりながら力をつけ,3回生での設計・製作に備えます.
 私は,翼を担当していました.元々物作りが好きだったので,大学だけの体験として,このサークルに入りました.やっぱり,理工学部の機械系の学生が多く,情報理工からは1人でした.
 7月の大会後,次年度の設計にかかり,春頃に機体ができます.それから後は,調整と試験飛行で,一発勝負のコンテストに臨むわけです.

RAPTでの内村君制作の翼
RAPTでの内村君制作の翼

これがRAPTでの内村君制作の翼

(田村)で,集大成となる昨3回生の時の結果はどうだったの? 学内で騒いでいなかったところを見ると,大した結果ではなかったのかな?

 いや,それが,無惨な結果で……(汗).ちょっとしたミスで,すぐ失速して,10mそこそこで落下してしまいました.全員ショックで,しばらくそれがトラウマになってしまいました(笑).前年の方が,まだ成績は良かったのです.
 元々そう強いチームではなく,最高でも300mくらいしか飛んだことがないのです.チーム間の実力差が大きく,伝統ある東北大,日大,東工大などは,数十キロも飛びます. 誰か凄い設計者が1人いて,ノウハウが蓄積できるとどんどん強くなるのでしょうが,残念ながら,RAPTはまだ全くそのレベルに達していない弱小チームなのです.

無惨な結果で終わった2016年の夏
無惨な結果で終わった2016年の夏

無惨な結果で終わった2016年の夏

(田村)専任コーチを置いて,航空機設計の専門家の指導を受けるくらい大学が力を入れれば,ぐっと飛距離は伸びるのだろうね.ともあれ,物作りが好きというなら,今後はその情熱とパワーを研究でのシステム作りに向けて,今度は学会で受賞できるよう,成果を出して下さい.研究室に入ってから,何か考えが変わったことがありますか?

 国際学会での発表と映画のDVDの存在ですね.
 研究成果を挙げれば,どんどん海外でも発表に行かせてもらえると知り,俄然意欲が湧いてきました.実は,最近海外旅行でイタリアに行き,すっかりその魅力に取り憑かれてしまったのです.国際学会で海外に行けるなら,これは頑張るしかないなと……(笑).
 また,研究室にDVDが一杯有り,無料で借りられると知って,嬉しくなりました.在学中に全部観ようかと思いましたが,DVDとブルーレイ合わせて900本もあるそうで,とてもそれは無理ですね.毎週2本借りて帰り,週末に観ています.
 映画が好きで,特に洋画のSF映画が好きです.過去の有名作品も一杯揃っていて,壮観です.海外のCGアニメも充実しています.その反面,邦画のアニメや恋愛ものは多くないですね.

すっかりイタリア通に
すっかりイタリア通に

ローマ,フィレンツェ,ピサ,ベニスと回り,すっかりイタリア通に

(田村)当たり前だよ.映画でのハイレベルな実写とCGの合成をMR研究に役立てるため,研究費で買っているのだから,ハリウッド大作のSF映画,ファンタジー,歴史スペクタクルが多くなってしまう訳です.日本の下手クソな若手俳優の恋愛ゴッコじゃ,何の参考にもならないよ.以前,映画制作支援のMR-PreVizプロジェクトをやっていたのも,最近の学生は知らないのかな? 私の映画評ページは読んでいる?

 そうだったのですか.先生の映画評ページは,何度か読んだことがあります.

(田村) Gr.3に入ったのなら,時々でなく,もっと目的をもってしっかり読んで下さいよ.WATARIシステムは,SF映画から生まれたようなものです.「良質のSF映画には,未来のヒューマンインタフェースのヒントが詰まっている」という考えから,皆で「SF映画に学ぶインタフェースデザイン」という勉強会をやり,『マイノリティ・リポート』(02)や『アイアンマン』(08)を観て,Gr.3の研究テーマの目標にしたのです.最近は斬新なデザインが登場する映画は少ないけれど,そうしたシーンの有無まで評論の中に書いているから,しっかり見つけて下さいよ.

 じゃあ,遠慮なくどんどん借りて行って構わないし,自宅でなく,研究室で観ていても良い訳ですね.

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(田村)勿論です.普通のPCだと3D映画は観られませんが,7FのMC研究室なら3Dプロジェクターと3Dメガネも用意されているはずですよ.

 という風に,先生方の巧みな研究室運営方法に乗せられて,ゲーム好きや映画好きが一生懸命研究に向かってしまうのですね(笑).
 そういう研究室なので,どうせやるなら楽しんでやらなきゃ損,損と思う意欲ある3回生が来てくれることを楽しみにしています.

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――というのが,昨年度のインタビューでしたが,その後の状況を教えて下さい.

 昨年(2017年)の「鳥人間コンテスト」には,RAPTからの提案は採用されず,出場できませんでした.今年は採択され,出場できるので,後輩たちは気合いが入っています.勿論,応援に行きます.
 去年のインタビューで映画DVDの話題になりましたが,それで気に入られたのか,田村先生の映画評のWebページ欄担当を仰せつかりました.2年先輩で今春院卒で就職された石橋さんの後継者です.この作業の分,他の研究室の役務は軽減されますが,前任者の先輩達は,毎月Webページ作成と公開を担当していたことを,就活時のアピールに使っておられたようなので,その意味では役得なのかも知れません.

――大学院生になってから生活がどのように変わりましたか?

 奥川君もLab. Lifeのページで書いていますが,学部生のころは自分の研究にのみ集中して,卒論だけを気にしていれば良かったのが,大学院生になってからは研究の他に授業と後輩の指導が加わってくるため,とても忙しいです.そのため,学部生のころよりもスケジュール管理を意識して行動するようになりました.授業の課題をいつまでに提出すればいいのか,後輩の発表資料の添削をいつまでにやらなければいけないのか,論文の締め切りはいつなのか,などを頻繁に確認するようになりました.