RESEARCH
Gr.3 研究紹介
本研究では、身体やデバイスに追従して仮想的に拡張されるARディスプレイ(AR Extended Displays: AREDs)が、物理的な質量を持たないにもかかわらず、使用者に「重さ」の感覚を与える可能性に着目しました。これまでAREDsは表示領域の拡張やインタラクションの効率化といった観点で研究されてきましたが、本研究ではその視覚情報がユーザの重量知覚に与える影響を明らかにすることを目的としています。特に、表示位置や反応の遅延といったパラメータが知覚に与える影響を体系的に検討することで、今後のAR設計における新たな感覚操作の可能性を探ります。
また、ExtickTouch の伸縮による VR 空間でのドローイングへの効果の研究やユーザが ExtickTouch に掛ける圧力に応じて伸縮制御を行うことにより、同一の伸縮機構を用いて仮 想物体ごとに異なる硬軟感を提示することを目的とした研究を行っています。

VR の分野では仮想物体に触れた手応えや材質、硬さといった触覚情報の提示が課題となっ ています。道具班では、仮想物体の形状に合わせて先端を前後に稼働させることで接触感の 提示を行う新手法を提案し、その手法を実現するデバイス ExtickTouch を開発しました。 また、接触感以外の触覚情報の提示も目指しており、デバイス先端の材質変更をはじめとし たシステムの拡張により硬軟感提示を実現しました。今後は、システム全体の改善によって 提示する接触感をより現実に近づけるとともに、接触感・硬軟感に続きさらなる触覚情報の提示を目指していきます。
現在は、ExtickTouchの特徴から力覚提示がスケッチング時のユーザ体験に影響を与えるのではないかと考え、スケッチングタスクを行う実験やExtickTouch本体の改修、システムの変更などを行っています。

VR空間での「操作」は、単なる入力手段にとどまらず、ユーザ体験の質そのものを左右する重要な要素です。私たちは、視線やまばたきといった眼球の動きに基づく「アイジェスチャ」を活用したインターフェースが、ユーザの操作感や没入感にどのような影響を与えるかを研究しています。視線を向ける、特定のタイミングでまばたきをする、あるいは視線を動かす――こうした自然な動作の中に操作を組み込むことで、手を使わずに情報へアクセスできる直感的で快適な体験を追求しています。最終的には、眼の動きに寄り添ったインタラクション設計を明らかにし、身体的制約のあるユーザを含む多様な人々にとっても優しいVR体験の実現を目指しています。

VR/MR空間操作として、足の動作を用いて入力するフットジェスチャに関する研究を行っています。既存研究では、様々なフットジェスチャがある中、各々がどのような操作に適しているのか議論されていませんでした。そこで、本研究では各フットジェスチャが適している操作方法を分析しました。既存研究には「足の回転」や「足の平行移動」、「踏み込み」などのフットジェスチャが検討されています。そしてVR/MR空間操作として、カーソル操作のような"ポインティング"やドラッグ&ドロップなどの"オブジェクト操作"に着目しました。それらの操作に適したフットジェスチャを調査し、その精度を明らかにするため、実験タスクを実施し、その結果から分析・考察を行いました。

VR空間での「移動」は、ただの手段ではなく体験そのものを左右する重要な要素です。私たちは、身体動作を取り入れたロコモーション手法がユーザ体験に与える影響を研究しています。足を使う動作、腕を振る動作、手を握る動作――それぞれが持つ操作感や疲労感、没入感の違いを分析し、それぞれの動作でのロコモーションが生み出す体験を追求しています。最終的には、身体の動きに寄り添ったVR移動体験を明らかにし、ユーザをより満足させる体験を作る支えになる仕組みを創り出すことを目指しています。

VR空間での操作および没入体験をより直感的に実現するために、表面筋電位 (EMG; Electromyography) を利用する入力方法があります。EMGは、筋肉が動く際に生じる筋繊維の活動電位の総和を測定するもので、筋肉の動きをリアルタイムに推定することが可能です。さらに、EMGは筋肉が存在する部位ならどこでも取得できるため、身体全身の筋肉を入力に活用することができます。 EMG信号を利用して筋肉の動きを認識し、入力操作に利用する革新的なインターフェースを創り出すことを目指しています。

振動刺激を用いて、VR体験中のユーザの注意誘導を行う研究を行っています。身体の様々な部位に振動モータを装着し、シチュエーションに合わせて適切なタイミングと組み合わせで複数の特異な振動を提示することで、ユーザにより正確で理解が容易な形で情報を提示することを目指しています。具体的なシチュエーションとしては、複数ある候補オブジェクトの中から目的のオブジェクトがどれかを示す、目標地点までの方向・道のりを示すなどを想定しています。

融合身体とは、VR空間で複数人が1つのアバタ(仮想身体)を操作することを指します。実世界での制約に縛られることなく、他人と協調して1つの身体を操作することで、無意識的な行為の意図伝達と動作同期が起こると考えられ、融合身体により、従来よりも高い効率での身体技能学習が可能になると予想されます。私たちは、特に融合身体における運動意図伝達と身体図式変容が起こる条件とメカニズムについて研究を行っており、相互作用のリアルタイム性が持つ影響や、身体共有、動作共有が持つ影響について調べてきました。今後も、他者理解および他者との関わりにおける身体の役割を明らかにするため、研究を続けます。
